電話の声から、幻の街が浮かび上がる
~極東退屈道場『LG20/21クロニクル
』上演

箱物行政の建築群から駅のコインロッカーまで、主に「大阪の街」の姿と、そこで生きる人たちの暮らしぶりや心象風景を、ユニークな視点と手法で描き出していく「極東退屈道場」。代表で作・演出の林慎一郎は、壮大な野外劇を通じて独自の都市論を展開した「維新派」の故・松本雄吉から、都市の観察の仕方と描き方を直接学んだ、貴重な一人でもある。
「極東退屈道場」代表で作・演出の林慎一郎(2019年撮影)。 [撮影]吉永美和子
2年ぶりの新作『LG20/21クロニクル』は、コロナ禍によって計画段階で中止となった『LG21クロニクル』を発展させた作品。『LG21』は、前作『ジャンクション』(2019年)に登場した、水中に没した高層都市「ソコハカ」と、大阪市内に林立するタワーマンションの風景を重ね合わせた舞台になる予定だった。
しかし『LG20/21』では、そこに「電話ボックス」というモチーフを新たにプラス。ソコハカに住む人々が、公衆電話を通じて聞こえてくる“風の声”と会話を交わすことで、自分たちが暮らす街の風景と、その生活を浮かび上がらせていく──という狙いだ。
極東退屈道場#010『ジャンクション』より。 [撮影]清水俊洋
前作『ジャンクション』では、会場の[江之子島文化芸術創造センター]の全フロア+周辺エリアを、俳優たちの案内で回遊するという観劇スタイルに驚かされたが、『LG21……』もそのユニークさは健在。観客ははじめに、5台の公衆電話が設置された1階と4階のフロアに、ランダムに振り分けられる。俳優たちは両フロアを行き来しながら、電話ごしに会話を交わし、あるいは誰からかわからない声を聞く。内容としては1つの物語だが、そこに俳優の身体があるかないかで、各シーンの見方や解釈は、フロアによって異なった印象になるだろう。
林は本作に向けて、このような文章を寄せている。
この一年、我々を取り巻く風景は一変した。正確には風景ではなく、それを受容する我々の態度が一変した。語弊を恐れずに言えば、風景は何も変わらなかった。
天災、人災による破壊と創造は目を奪う風景の変化とともにあると勘違いしていたのかもしれない。しかし、今回、それは風の中に起こった。そして「口から出るものが人を汚す」となり我々は口を覆った。注意深く言葉を発する日々の中で、画面の向こうで口を覆わず発せられる言葉は、もはや別の世界の話となり信憑性に薄い。「立ち止まること」は死を予感させ、恐る恐る、もしくは開き直って歩を進めるよりない。
『LG21クロニクル』は2020年度に上演を予定していた作品だった。
前年度に上演した、水没したと仮定した「オオサカ」を観客とともに回遊する作品『ジャンクション』を元に、その延長線上にある都市の未来を描く作品となる予定だった。しかし、その線は大きく折れ曲がった。その「風」の中に観客を晒すこと、語る言葉に観客を晒すことが生命と隣り合わせる環境を整えることができず上演を断念した。
来年度、この「風」と「言葉」を取り巻く環境がどう変わっているかわからない。
ウイルスとの戦いは科学に任せるしかなく、我々の表現はその最前線に立つことは叶わない。
できることは記録することだ。そして、それを記憶するための言葉を探すことはできるのではないか。
ソコハカの街は明らかに大阪がモデルだが、『ジャンクション』ではそれがユートピアかディストピアか、単なるファンタジーなのか恐ろしい未来予想図なのか、非常に曖昧な場所として描かれた。しかし地震や水害、そして今回のような疫病によって、思った以上にあっさりと姿を変えてしまう「都市」の、はかなさと愛しさを具現化したような場所であることは間違いない。声と音を通じて、ソコハカの風景の空想を楽しむと同時に「私にとっての“街”とは?」など、自分なりの都市論を考える良い機会となるはずだ。
極東退屈道場#010『ジャンクション』より。 [撮影]清水俊洋
なお極東退屈道場は、2回目の観劇は無料という嬉しい料金システムが。「1階で観たけど、やっぱり4階の芝居が気になる」「昼に観たけど、夜はどんな雰囲気になるのだろう?」などと思案することになると思うので、時間が許すなら活用してみよう(要WEB予約/16・18日のマチネは完売)。

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