それぞれの愛と宿命を描いた、期待の
ミュージカル『フィスト・オブ・ノー
ススター〜北斗の拳〜』ゲネプロレポ
ート

累計発行部数1億部超えの伝説的コミック『北斗の拳』が日本発のオリジナルミュージカルとして、2021年12月8日(水)から日生劇場にていよいよ初上演を迎えた。タイトルは『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』。初日を前に行われたゲネプロ(総通し舞台稽古)の様子を写真と共にお伝えする。
漫画『北斗の拳』は1983年〜1988年まで、原作・武論尊、漫画・原哲夫により連載された作品。最終戦争により文明社会が失われ、暴力が支配する世界となった世紀末を舞台に、北斗神拳の伝承者・ケンシロウが愛と哀しみを背負い、救世主として成長していく姿が描かれており、連載開始から35年以上が経った今でも世界中で愛されている。原作漫画の発行累計部数は1億部を突破し、TVアニメや劇場版アニメ、脇役たちをフィーチャーした外伝が作られるなどしている。
ミュージカル化にあたっては、豪華クリエイター陣が顔をそろえた。
音楽は『ジキル&ハイド』『マタ・ハリ』など、世界中で大ヒットミュージカルを手がけるアメリカ人作曲家のフランク・ワイルドホーン。振付は、米津玄師など有名アーティストから指名を受けるコレグラファーの辻本知彦。さらに、数々の日中共同プロジェクトを成功に導いた中国人演出・振付家の顔安(ヤン・アン)も振付に加わる。そして、演出は新進気鋭の演出家・石丸さち子、脚本は話題のミュージカル脚本・作詞を手がける高橋亜子。この布陣を見れば、『デスノート THE MUSICAL』や『生きる』といった日本発のオリジナルミュージカル制作に懸けるホリプロの“本気度”が分かるだろう。

リン:山﨑玲奈、ユリア:平原綾香、ケンシロウ:大貫勇輔、バット:渡邉 蒼

初日を控えた7日夜に行われたゲネプロを見た(Wキャストの配役はユリア:平原綾香、トキ:小野田龍之介、シン:植原卓也、レイ:伊礼彼方、ジュウザ :上原理生、ラオウ:福井晶一)。以下、観劇の楽しみを損なわない程度に、多少のネタバレを含む。ご留意いただきたい。
まず、原作についてあまり知らない読者のためにも、あらすじを語っておきたい。
二千年の歴史を誇る北斗神拳の伝承者候補として修行に励んでいたケンシロウ、トキ、ラオウの三兄弟。彼らの師父リュウケンが、末弟のケンシロウを第64代伝承者に選ぶところから舞台は始まる。一子相伝の暗殺拳を守るべく、リュウケンは野心に満ちたラオウの拳を封じようと試みるが、逆にラオウに殺害されてしまう。
リュウケン他:川口竜也
ケンシロウ:大貫勇輔

トキ:小野田龍之介

ラオウ:福井晶一
折しも最終戦争が起こり、文明社会は崩壊。世界は暴力に支配される時代となる。ケンシロウは婚約者のユリアとともに生きようとしていたが、南斗孤鷲拳伝承者のシンにユリアを強奪され、胸に七つの傷を刻まれる。絶望の中、放浪の旅を続けるケンシロウ。一方で、世紀末覇者・拳王を名乗り、混沌とした世界を恐怖で支配しようとするラオウ。
ケンシロウは次兄トキや、南斗水鳥拳のレイと出会い、共に旅をする中、ユリアがシンの居城から身を投げたことを知らされる。ケンシロウは愛すべき仲間や強敵(とも)たちの哀しみを胸に、ラオウの恐怖に支配された世界に光を取り戻すべく、救世主として立ち上がるのだったーー。
技の名前や人物の関係性など、原作を知らない観客のためにも、最低限の説明はなされている印象だ。セリフをちゃんと聞いていれば、ストーリーは理解できるだろうし、置いてかれることはまずないと思う。ただ、ミュージカル版ではそれぞれのキャラクターのエピソードがギュッと凝縮されているので、原作を知っていた方がより本作を楽しめるかもしれない。
“ムキムキな男たちの格闘物語”というイメージがあるかもしれないが(私もかつてはそう思っている一人だった)、演出の石丸が「闘うこと。探すこと。成長すること。愛すること。光を見いだすこと。ミュージカルに大切な要素がぎっしり詰まっている」と言うように、登場人物たちそれぞれの宿命と愛を描いた人間ドラマがそこにはある。「『北斗の拳』がミュージカル化……?」と疑いの目で見るよりも、ぜひ想像力を働かせて、心は前のめりで観てほしい。
最後に、キャストについても触れておきたい。
ケンシロウ役の大貫勇輔。『ロミオ&ジュリエット』の死のダンサー、『メリー・ポピンズ』のバート役や『ビリーエリオット〜リトル・ダンサー〜』のオールダービリー役など、類まれな身体能力を生かして、確実に役幅を広げてきた大貫だが、今までの経験のすべてをこの役にぶつけたと言っても過言ではないだろう。もともと恵まれた身体を持つが、このケンシロウを演じ切るためにと、肉体をさらに鍛え上げたという。そのたたずまいだけで、ケンシロウとしての説得力があったし、闘いの場面やソロダンスでも魅せられた。そして実は芝居も繊細。強さも弱さも、苦しさも優しさも見えるケンシロウを作っていたと思う。
ユリア:平原綾香(撮影=田中亜紀)
ユリア役の平原綾香。ユリアの役自体、そこまで出番が多いわけではないのだが、劇場全体を包み込むような愛のある歌声が忘れられない。失意の中で歌う「死兆星の下で」や、製作発表でも披露された「氷と炎」などは必聴。ユリアとして舞台上で堂々と生ききった。初日を前に寄せた、「誰よりも人々の幸せを願い、人生を差し出すのがユリア。初日も、ただひたすらに歌いたいと思います」というコメントにも泣いた。

植原卓也(撮影=田中亜紀)

トキ役の小野田龍之介は、変わり果てた兄ラオウにかつての優しさを取り戻してほしいという思いを込めた「願いを託して」をはじめ、見どころが多い。シン役の植原卓也は、ユリアへの愛を最後の最後まで貫く芝居が印象的。伊礼彼方のレイは、とにかく芝居がよく、特に死に際に涙し、上原理生のジュウザは、2幕になって現れるのだが、ラテンナンバーの「ヴィーナスの森」で盛り上げた。ラオウ役の福井晶一は、やはりその歌声で魅せた。世紀末覇者・拳王としての力強さを体現しつつ、後半は特にラオウが感じる孤独も見えた。
レイ:伊礼彼方
ジュウザ:上原理生(中央)
上演時間は1幕85分、20分の休憩を挟んで、2幕75分の計3時間(予定)。ほとんどのキャストがWキャストなので、いろいろな組み合わせで観劇するのも楽しいと思う。ぜひ食わず嫌いをせず、一度この世界を体感して欲しい。

バット:渡邉 蒼

取材・文・撮影=五月女菜穂

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