ちゃんみな、集大成となる日本武道館
単独公演を経て、次のステージへ

10月15日(金)、日本武道館にてちゃんみなの初単独公演「THE PRINCESS PROJECT – FINAL – 」が開催された。以下、その様子をレポートする。

ステージには城を思わせる巨大なセット。中央に赤い大階段、LEDスクリーンが2枚。さらにはステージの横にも275インチの大スクリーン。城の塔の先端は天井の日本国旗に届きそうなほどの高さだ。客殿が落ちると、ステージの城がピンクに浮かび上がり、フロアもピンクのペンライトに染まる。「Princess」のイントロが流れ、エレキギターが静寂を切り裂くと、大階段の頂上には玉座に座るちゃんみなが登場。フロアのペンライトが一斉に揺れ、大胆にバンドアレンジされた「Princess」でライブがスタートした。

その玉座に座るちゃんみなは、つばの広い華やかな帽子を被り、背中にはマント。そのマントは大階段の下にまで届くロングサイズだ。帽子を外したちゃんみなの髪はピンクに染められている。

重低音が鳴り響く「FXXKER」「未成年」「You can’t win me」と初期の楽曲をメドレーでつなぎ、彼女のライブではおなじみのダンサーたちが派手なダンスを繰り広げる。こうした勢いのある初期曲のあとに「ディスタンス」「I’m a Pop」「美人」という最近の楽曲を聴くと、この数年で彼女の楽曲の幅が大幅に広がり、テーマもより深堀りされて洗練されてきたことがよくわかる。
「日本武道館のステージに立つことができました。みなさまのおかげです。心からの感謝を伝えさせてください。みなさまのために、幼い頃の私のために、心を込めて歌わせていただきます」

ていねいなMCをしているあいだに、センターステージにはLEDの板でつくられた電話ボックスが登場。「Call」のイントロとともに電話ボックスには幻想的な映像が映し出される。ちゃんみなが中に入ると、ステージ横の大スクリーンには電話ボックス内に設置されたカメラを通したちゃんみなの姿が映される。電話ボックスの中と外の両方でパフォーマンスを楽しめるわけだ。この演出は、閉じられた空間で孤独な時間を過ごしながら彼女が書きつづった楽曲が、電話線を通して耳元に届くように多くの人々の心に届けられるさまを表現しているようだった。

続いて定番の「CHOCOLATE」では、ダンサーたちと踊りながらフロアにくまなく語りかけるように歌い、視線を送り、手を振る。多幸感溢れる前半のハイライトになった。
ちゃんみなの半生を振り返る内容である「想像力」や「She’s Gone」ではスクリーンに歌詞や歌詞を視覚化したアニメーション映像を表示させて言葉を意識させ、一転「As Hell」「You made me」「ダリア」ではステージで火柱が吹き上がる派手な演出に。特に「As Hell」における、火に囲まれながらの女性ダンサーとのセクシーな絡み合いは印象的で、さまざまなマイノリティに向けた力強いメッセージとしても受け取れそうだ。従来よりちゃんみなは、楽曲だけでなく映像やライブにおいても、性別や国籍といった線引きを吹き飛ばす作品をつくってきた。それぞれの違いを受け入れた上でその美しさを探求する姿勢は、メジャーデビュー作「FXXKER」MVの時点で明確だ。それがより洗練されて完成されたのが「As Hell」の演出だったと考えても、それほど的外れではない気がする。
新たな代表曲になりそうな「ハレンチ」「太陽」は、ちゃんみなのディスコグラフィーの中でもっともJ-POPに接近した曲だ。「ハレンチ」の終盤ではLAで出会ったという愛用ギター「ジュリー」を片手に、花道を通って中央にせり出したステージまで出向き、ギタリスト&ベーシストとともに激しくギターをかきならすちゃんみな。「太陽」では、ロックバンドとサーカス団がコラボしたような壮大な展開も見られた。そして「太陽」ではその背景で息を呑むようなエアリアルティシューが繰り広げられる。
このライブでは、現時点におけるちゃんみなのすべての要素を表現しようとしたのかもしれない。そう思えるのは、迫力のある圧倒的な演出が続いたあと、思いっきりキュートさに振り切ったパートが「ホワイトキック」で訪れたからだ。というのも、ちゃんみなが猫耳とキャットグローブをつけて登場したからだ(「ホワイトキック」は、愛猫・バレンタインの視点で歌われた曲)。そのキュートさと直前までの演出とのギャップに、声を出せないオーディエンスは大きな拍手で応え、同じく猫になったダンサーたちがじゃれ合い腰をくねらせ巨大な毛玉で遊ぶさまに悶絶しているようだった。
「心の中でみんな一緒に歌ってね」と語りかけた「ボイスメモ No.5 」では手拍子が起き、「BEST BOY FRIEND」とその続編的な「Never」では回転ベッドで恋人役の男性ダンサーと激しく絡み合う。「君からの贈り物」ではバブル時代を思わせるオーバーサイズの衣装にサングラスを合わせ、ダンサーたちと景気の良いダンスを踊る。ステージではミラーボールが輝き、スクリーンにはカラオケの本人映像風にアレンジされた映像が映される。さらには演奏後のスクリーンに「消費カロリー1015kcal」と表示されるなど、この一連のパートは、コロナ禍でなければフロアから笑いや黄色い悲鳴や歌声など、さまざまな反応が起きていたに違いない。そうして「Angel」「Never Grow Up」と人気曲を続け、ライブもいよいよ終盤に。

「物心ついた頃から歌手になりたくて、いろんな人に助けられ、傷つけられ、愛し愛されて今があります。こんな私でもここに立てるんだから、みなさんならもっとすごいことができると思います。 代官山での初ライブから始まって、THE PRINCESS PROJECTもこれで6回目で、今回がFINALです。FINALってどういうこと?と思ったかもしれないけど、私はどこにも行きません。ずっとみなさんのそばにいます。みなさんがそうしてくれたように。私はずっと”プリンセスになりたい”と思っていたけど、そこから先を目指したいなと思いました。だから、これは始まりであって終わりじゃないです。改めて、本当にありがとうございます。心から愛してます」

と感謝を述べて「FINAL」の意味を説明すると、本編ラストはアルバムに収録された新曲2曲。「東京女子」では東京の夜景を背景にエアリアルフープを披露し、「花火」ではステージで花火があがり、そうかと思えば天井からも花火がシャワーのように降り注ぎ、この夜につけられた火がステージとフロアの両方を照らした。
アンコールでは「LADY」と「OVER」をメドレーでつなぎ、ダンサーたちが写ルンですやGoProで撮影しながらハッピーなムードに。そうしてラストは「SAD SONG」。サビではオーディエンスも一斉にジャンプして武道館が大きく揺れた。最後は出演者全員で一列に並んで挨拶したあと、「こんな素敵な人たちと作り上げてきた今日を一生忘れません。私はまだ夢を追いかけ続けます。みんなもどんどん大きな夢を追いかけて、一緒に生きていこうね」という言葉を残して、ちゃんみなは大階段をあがっていく。

そうして玉座に戻ると、スクリーンに映像が流れる。「THE PRINCESS PROJECT – FINAL -」という文字の後に表示されるのは、世界各国の言葉による感謝の言葉。それらの最後に彼女の顔のアップとともに映されたのは、母語である韓国語。こうして「THE PRINCESS PROJECT – FINAL -」は幕を閉じた。

日本武道館単独公演が終わり、準備が整
った

さて、まとめると、本公演は、音楽と映像とあらゆる種類のダンスが織り交ぜられた総合的なエンターテインメントだったと言えるだろう。その見せ方にも様々な工夫が凝らされ、単なる音楽ライブの範疇を超えていたと言ってもいい。2017年の初ライブでダンサーたちとの物語を始め、2018年からの「THE PRINCESS PROJECT」では生バンドやエアリアルなど、回を追うごとに武器を増やしてきた。さらにはMV風ライブやストーリー仕立てのライブなど、見せ方にも毎回新しい要素を加えてきた。そうした蓄積がすべて集積され、なおかつアップデートされた、これまでの活動の集大成だったと言える。そして、それだけ披露すべき武器が多かったからこそ、武道館史上最大レベルのセットが必要だったのかもしれない。
「THE PRINCESS PROJECT」とは、ちゃんみなが「プリンセスになりたいと思っていた」と説明した通り、彼女がプリンセスになるためのストーリーだったのだろう。そのプロジェクトが今回で終わる。ということは、彼女はプリンセスになったのだろうか? 当初描いていたサクセスストーリーを堅実に歩んでいるという意味では、この問いに対してイエスと答えることができるだろう。18歳でデビューし、3枚のフルアルバムをリリースし、23歳になった翌日に日本武道館単独公演を成功させる。順調なストーリーだ。

だが同時に、本公演を見た人はこうも思うのではないだろうか。ちゃんみなの実力は、すでにここよりも上のところにあるのではないか、と。

初めての日本武道館公演で、彼女のライブはかつてないほどの充実を見せた。すでに何度もここでパフォーマンスしたことがあるのではないかと思わせるほどの堂々さ、息をつく暇もないほどのアリーナクラスの演出。

これまでのライブも常にそうだった。「THE PRINCESS PROJECT」の初回である渋谷O-EAST公演も、2回目のZepp Divercity公演も、それぞれ素晴らしいライブではあったが、彼女の才能を100%発揮させられる会場だったかと言えば疑問符がつく。筆者の印象に過ぎないかもしれないが、「前回より確実にパワーアップしているが、本人の頭の中では本当はもっと面白い仕掛けがいくつもあり、規模的な制約から、今回はそのうちの〇〇%が実現した、次はさらに大きいハコでやれるからもっと面白いライブになるだろう」という感想と期待を毎回抱かされてきた。現実は常に彼女の才能に少し遅れてやってきた。

今回もそうだ。ちゃんみな史上最大級の会場である日本武道館での公演は、たしかに彼女のアイデアをいくつも現実にさせたが、このパフォーマンスに本当にふさわしいのは、もうひとつ上の規模の会場だろう。

才能が多くの人々の目に触れるまでにはいくつかの段階がある。日本武道館単独公演を終えたことで、その段階もついに終わりを迎え、いよいよ彼女の才能が100%発揮される準備が整った、だから「THE PRINCESS PROJECT」は今回でFINALを迎えたのかもしれない。つまり、彼女は今プリンセスになったのではない。ずっとプリンセスだったのだ。「THE PRINCESS PROJECT」とは、少女がプリンセスになるための計画ではなく、プリンセスが年月をかけて計画した何かの総称なのだ。

では次はどこに向かうのかといえば、ひとつには、日本武道館よりも大きい規模の会場でのライブだろうし、もうひとつには、日本という枠組みを超えたより広範な活動だろう。そう考えれば、最新アルバムでJ-POPに接近した楽曲を多くつくったことも腑に落ちるし、日本武道館公演のラストに各国の言語で感謝を述べたこと、とりわけ最後に韓国語とともに彼女の顔がアップにされ、しかもその表情が笑顔ではなく、断固たる決意を思わせる力強い目つきだったことにも納得がいく。

「これは始まりであって終わりじゃない」とちゃんみなは言った。ここから何が始まるのか、期待を持って見守りたい。

『ハレンチ』

・初回限定盤
・通常盤

【収録曲】 01. 太陽 02. Angel 03. 君からの贈り物 04. ハレンチ 05. ボイスメモ No. 5 06. ホワイトキック 07. ピリオド 08. Picky 09. 想像力 10. 東京女子 11. ディスタンス 12. Morning mood 13. ^_^ 14. 美人 15. 花火 16. Never Grow Up (Acoustic Version)

◆DVD収録内容 (初回限定盤のみ) THE PRINCESS PROJECT 5 @ Nakano Sun Plaza Hall 2021.05.25 -Day01. Angel 02. LIGHT IT UP 03. Very Nice To Meet You 04. Needy 05. 美人 06. ダリア -Night07. Rainy Friday 08. Princess 09. Never Grow Up 10. ダリア

ちゃんみな

公式サイト
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ちゃんみな、集大成となる日本武道館単独公演を経て、次のステージへはミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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