京都のコメディ系作家とコラボした、
THE GO AND MO'S『大塚の術』黒川猛
×丸井重樹にインタビュー~「三者三
様の、本当に違った3つの“笑い”が
楽しめます」(黒川)

京都の伝説のコント集団「ベトナムからの笑い声」無期限休止後、作・演出の黒川猛、構成の中川剛、制作の丸井重樹が2012年に立ち上げた、黒川の一人コントユニット「THE GO AND MO'S(以下GOMO)」。もっぱら小空間で、シュールかつ実験的なコントをコツコツ作り続けてきたGOMOが、なんと京都トップクラスの規模を誇る公立ホール[ロームシアター京都]で公演を打つことに! しかも二人の京都在住の作家とともに、対バンのようにコメディ系の一人芝居を上演し合うという、一粒で三度美味しい企画だ。黒川と丸井に『大塚の術』の内容や、狙いについて聞いてきた。

異例の公演が実現したのは、京都府が実施した「京都府文化団体等活動継続支援事業」に採択されたため。コロナ禍で活動がままならない文化団体のために、府が劇場費だけでなく、設備利用料や人件費まで負担するということで、ダメ元で[ロームシアター京都]に申請した所「厳選なる抽選で」(丸井)見事に採択されたという。
「コロナ禍でも地道に活動を続けていたのが、報われたのかなあと思いました。普通に借りたら100万円以上はかかる所なので、多分二度とここでは上演できません(笑)。ただ、うちだけが恩恵を受けるんじゃなくて、複数の団体でシェアする方が、多分この事業の趣旨に合うし、何よりもGOMOだけでは客席を埋められないだろうと」(丸井)
「それで『妄想コント』(注:2020年に行った仮想空間公演。40人以上の関西の俳優・スタッフが参加)に出た人全員に声をかけたら、合田(団地/努力クラブ)さんが“やる”と言ってくれました」(黒川)
「合田さんが『一人芝居を書きます』と言うので、だったらもう一個、一人芝居が呼べないかな? と思った時に、中野(守/中野劇団)さんの芝居が面白かったなあ、と。それで同じ劇団の延命(聡子)さんに相談したら“以前、こんな一人芝居を書いてましたよ”と『もしもし』を教えてくれました」(丸井)
THE GO AND MO'S Trailer 2021.10
ということで、合田団地が劇団員・西マサトのために書き下ろす新作『憧れられたジュリー』、中野守が「劇団レトルト内閣」の福田恵と組んで2016年に初演した『もしもし』、GOMOが2012年に初演した『注文の多い風俗店』という、3本の一人芝居をオムニバスで上演。「統一テーマは“笑い”。単にゲラゲラ笑えるというのではなく、広い意味で笑いのタッチを感じる作品ばかりです」と黒川は言う。
「中野さんの作品は、閉じ込められて動けない人が電話で話しているだけなのに、すごい展開を見せるという、見事なシチュエーション・コメディ。合田君の作品は、彼女にフラれた男がジュリー(沢田研二)になろうとする、狂った話です(笑)。GOMOも割と“狂気”を唱ってますけど、違う種類の狂い方ですね」(丸井)
「『注文の……』はタイトルはアレやけど(笑)、意外と元ネタの童話に忠実だし、脚本をイジる必要がほとんどなかったほど、完成されたコントです。狙ったわけではなかったけど、まったくかぶった所のない、本当に三者三様という内容になりました」(黒川)。
「さらに偶然だったのは、合田さんも中野さんも福田さんも、みんな『ベトナムからの笑い声』を観ていたこと。だから“ベトナムの人たちから声がかかったのは、すごくありがたい”みたいなことを言ってくれました。それは本当に、長いことやってきた甲斐があって良かったなあ、と思います」(丸井)。
THE GO AND MO'Sコント『注文の多い風俗店』(2013年、壱坪シアター スワン)。 [撮影]仲川あい
そんな中野と合田からは、以下のような意気込みの言葉が届いた。
中野劇団の中野と申します。今回、はじめてTHE GO AND MO'Sさんの公演に参加させていただきます。
僕の中では、黒川さんと言えば、「ベトナムからの笑い声」時代に何度か公演を観に行き、毎回ブッ飛んだ笑いを産み出されていて、何度も衝撃を受けました。うちとは、「同年代」「京都」「笑い」と共通項も多く、今回オファーのご連絡をいただき、凄く嬉しかったです。
今回上演するのは、劇団レトルト内閣の看板女優、福田恵さんに誘われてタッグを組み、2016年に最強の一人芝居フェスティバル!『INDEPENDENT』で上演した作品です。当時、脚本作りでかなり苦しみました(いつものことなのですが)。難産だった分、思い入れの深い作品です。
この作品は、話の中にいくつかの「出会い」があり、また自分自身、この作品をきっかけに沢山の出会いをいただいています。今回のTHE GO AND MO'Sさんもそうですし、今回、努力クラブさんともはじめてご一緒させていただきます。この作品は、そういうところが、「親孝行な子」だなと思っています。
新型コロナウイルス感染症発生以降、「人と会う」ことがなかなか難しくなりました。こんな時代が来るなんて全く予想してなかったのですが、それでも、こんな時代でも、新しい「出会い」はあるものだと、今実感しています。THE GO AND MO'Sさん、努力クラブさん、そして我々の作品を通じて、「こんな時代でも、面白い作品と出会えるんだな」と、ひとりでも多くの方に思っていただければ嬉しいです。
中野守(中野劇団)
中野守×福田恵『もしもし』(2021年、「INDEPENDENT:4ss」)に出演する福田恵(劇団レトルト内閣)。 [撮影]INDEPENDENT
胸を借りるつもりで、といったらつまらないかもしれないけれど、本当にそんなつもりで頑張りたい。努力クラブはもともともっとコメディに、いや、笑いに特化した劇団にしたかったし、僕個人も笑いに特化した人間になりたかった。そして、今回出演する西国王は人間味とかじゃなくて完全純粋笑い人間になってほしかった。完全純粋人間笑いになってほしかった。思えば遠くへ来たもんだ。努力クラブや僕は満遍なく憂いところどころ笑いみたいな芝居ばかりをしているし、西国王も完全純粋笑い人間ではなくて人間味の濃いおじさんである。劇団旗揚げ当初はそんな方向性で頑張っていたのだけれど、続けていくうちに違う方向になっていってしまった。なっていってしまったみたいな言い方したら、現状が嫌だと思われてしまうかもしれないけれど決してそんなことはなくて。だって、現状想った形ではないけれど楽しいから。うふふ。でも、そんな僕らも今回ばかりは笑いに特化したいという気持ちが熱くたぎっている。笑いに特化したいという情熱はもはやなくなってしまったと思っていたというのに。胸を借りるつもりで頑張りたい。
大学生の頃、「ベトナムからの笑い声」という一風変わった、でも最高センスの団体名の芝居を先輩におすすめされて見に行ったのだった。際どいけれど馬鹿馬鹿しい設定、テンポのよいやりとり、激しいツッコミ、とぼけたフレーズ。すごく面白かったコント集だった。よく知らなかったけれど、パンフレットを読めば笑いに特化した劇団だという。こんな格好いいことがあるだろうか。こういうことがやりたいのだ、と僕は彼らに憧れたのだった。
努力クラブだって初めのうちは笑いに特化した劇団だったんすよ。コント公演だってやってたし。それなりにイケていたんじゃないかしら。でも、笑い以外にも興味を持ち始めて、もともとの性分もあって、今では笑いの要素は隠し味程度にまぶしてあるだけ。今回は憧れていた人たちとやれるということもあって、久々にあの情熱が蘇っている。胸を借りるつもりで、笑いに特化したものを作る。これが僕が思う笑いに特化したものだ! どうだ!! 青春やぞ。
合田団地(努力クラブ)
努力クラブ『憧れられたジュリー』に出演する西マサト(ボンク☆ランド/努力クラブ)。
そして黒川と丸井も、負けじと以下のような抱負を語る。
「大きいホールで、芝居的なコントを演じるのは久しぶり。今は完全に演芸側にシフトしていたのもあって、声も体力も十分じゃなくてどうなるか? と思っていますが、ロームでできるチャンスは今後絶対ないと思うんで(笑)、楽しみたいと思います」(黒川)。
「2018年から、本公演は福岡や東京などの他の都市でやって、京都は本当に小さい会場で番外的にしか公演してなかったんです。そうなると、かなりのマニアしか来られなくて“ちょっと気になってる”ぐらいの方が、なかなか足を運べなかった。そういう意味では“久しぶりに帰ってきましたんで、ぜひ”という公演。お互いの劇団の客層も広がると思うので、ぜひたくさんの人に観てほしいです」(丸井)。
公演特設サイトでは、参加作家・俳優5人による往復書簡や、応援動画の企画が日々アップされている。これがGOMOにふさわしく、なかなかトチ狂った内容なので、公演前にぜひ目を通してほしい。特に西マサトが記した「往復書簡 大塚の術とは04」(10/31更新)は、黒川も丸井も、そして取材に同席していた中川も、全員が口をそろえて「ヤバ過ぎる。これはいつか一人コントにしてほしい!」と言ったほど、クレイジーな内容で必読だ。
THE GO AND MO'S『大塚の術』公演チラシ。
取材・文=吉永美和子

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