しりあがり寿×天野天街×流山児祥
異才のコラボレーション、流山児★事
務所『ヒme呼』観劇レポート

しりあがり寿の新作書き下ろしで、演出には天野天街(少年王者舘)を迎えた、流山児★事務所の公演『ヒ me 呼~ひみこ~』が下北沢のザ・スズナリで、2021年9月24日(金)に開幕した。
時代は古代。邪馬台国では、3部族が仲違いを繰り返していた。謎の感染症で卑弥呼が急死し、古墳では葬儀が行われている。しかし、とある事故で彼らは古墳の中に閉じ込められてしまい、外界から断絶された空間で、卑弥呼を死に至らしめた不可思議なウイルスに感染していく。部族間の抗争を描きながら、コロナ禍でさらに分断が進む閉塞的な現代をも映し出した本作は、そんな状況を打開するようなノンストップ・ナンセンスコメディになっている。本稿では初日公演に先立ち行われたゲネプロの様子をレポートする。
左から山像かおり、山丸莉菜 画像:流山児★事務所提供
開演のアナウンスが流れると、温泉旅館の女将(山像かおり)が若いカップルを連れて、秘湯「卑弥呼の湯」の説明をしている。湯に浸かれば永遠の愛が続くという。盛り上がる男女だったが、なんと台風の影響でお湯が枯れてしまったという。不機嫌になる彼女(山丸莉菜)は途端に口が悪くなって、彼氏(甲津拓平)への愚痴が止まらない! いまどきの女の子の悪いところをギュッと凝縮したような台詞が痛快だ。
他に彼女が喜ぶような施設がないか、女将に男が聞くと、女将が言うには、お湯の枯れた岩場にある木に触ると、卑弥呼の夢が見られると言う。この木に触れたカップルは古代へタイムワープしてしまうのだった。山像、山丸、甲津の軽妙なやり取りは疾風迅雷の勢いで会場中の笑いを誘い、舞台は卑弥呼の時代へ。
まず魅力的だったのは、パズルのピースのようにそれぞれが個性の違う輪郭を見せた、登場人物たちだ。キャラが濃い3部族の長(塩野谷正幸、伊藤弘子、佐野陽一)、トリックスターとして場を撹乱するデモクラシイタケ(甲津拓平)、不可解な動作を見せる卑弥呼(山像かおり)、たびたび狂言回しとして登場する流山児祥――。本作に主役はいないが、天野が「完全に当て書きした」という役者たちが演じるキャラクターたちは多層的に合わさり、舞台上で絶妙なシンフォニーを奏でていた。スズナリの床が抜けそうな力強いダンスと歌も圧巻だった。
左から佐野陽一(サスペンデッズ)、伊藤弘子 画像:流山児★事務所提供
次に期待してほしいのが、宴会のシーンだ。このシーンでは出演するほぼ全員のキャストが舞台の上で同時に喋っている。いくつかのグループに分かれていて、観客には会話のひとつだけが、鮮明にスポットで聞こえてくるのだ。そしてこのスポットは、点々と移動する。普通、人は自分が意識した音や視覚を限定してキャッチするように脳が情報処理しているというが、これを意図的な形で提示されて体験するのは刺激的だ。どういう仕掛けになっているのだろう。
そして天野演出であれば映像も見逃せない。中でもアーティスティックで幻想的な「木枠のダンス」は必見だ。
『ヒme呼』ゲネプロの様子 画像:流山児★事務所提供
さて、この物語の最大のポイントは、コロナと対比する形で恋の病が描かれていることだ。卑弥呼がかかった感染症の正体は「恋」。そもそも恋の概念さえなかった時代に、ひとりの心の中に生じた病が伝播し、相容れない性質の断絶した関係性を変えていく。
異なる部族の人間に触れれば相手にダメージを与えてしまう、火を司る「ヒ」族、水を司る「ミ」族、木を司る「コ」族。恋のウイルスは、思う相手を部族で選ばない。傷付けてしまっても、なお繋がろうとする。このウイルスは、結果的にこの三つ巴の抗争を融和へと導くが、恋の不合理な力は単純には部族間抗争を和解させてくれない。
火の部族・イヨ(山丸莉菜)と水の部族・イズミ(日下部そう)の舞は、無償の愛ではありえない、恋の矛盾をしなやかに表現していたので注目してほしい。
2人の恋の引力は時空間を歪ませてしまうのだろうか。冒頭にあった未来の設定をも変えてしまう。
全く性質の違う3部族がどのように融和へ向かい、その後、未来を変えるような化学反応を起こすのか。それは舞台を観て確認して欲しいのだが、この3つの才を描いた構図は、本作に集まったコラボレーションの図式にも当てはまる。異才が融合して核反応を起こし放った衝撃を、作品を通じ全身で浴びてみてほしい。(公演は10月3日まで。10月19日~11月2日、アーカイブ配信あり)
『ヒme呼』ゲネプロの様子 画像:流山児★事務所提供
取材・文:石水典子

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