【大橋ちっぽけ インタビュー】
好きな音楽は悩まず
取り入れることがアイデンティティー
自分の愛おしいものを
ちゃんと詰め込めた
「23」は大橋さん自身が23歳になったばかりの、まさに!って内容ですね。
あははは。“まさに!”を詰め込みました。
Aメロはかなりやさぐれた歌い方をされていますね。
レコーディングの時も何回か歌ったんですけど、“もっとやさぐれていいんじゃない?”と言われて、それでどんどん盛り上がっちゃって(笑)。“これはきれいに歌うとかじゃないな”と思って素直に歌ってみました。自分の歌だと思ったので。
やはり自分の歌だという感覚が強いですか?
そうですね。今までも年齢をタイトルにした、“今の自分はこうだな”みたいな曲はちょくちょくあったんですけど、その中でも一番リアルに書けたと思います。
同世代にも向けていたりしますか?
《俺らどうなる?俺はどうなる?》ってフレーズがあるんですけど、会う機会がなかった地元の友達と、コロナ禍だからってことでオンラインゲームとかを始めて話す機会が増えたんですよ。それで“この先どうなるんだろうね”みたいな話を実際にしていて。でも、結果的に歌詞を読むと、みんなで頑張ろうというか、同い年とか同年代に向けた熱のこもった歌みたいに仕上がったんですけど、僕としては自分の背中を自分で押している曲を書ききった感じがあって。結果的に誰かの背中を押す曲になったらいいとは思いつつ、独りよがりな歌になったと自分では感じていますね。
他のオルタナR&Bっぽい曲や生音ヒップホップに比べると、この曲は珍しくインディギターロック調ですよね。このアレンジは内容が呼んだんでしょうか?
もともとアコギ主体な感じで宅録で作っていたんですけど、サビはギターを掻き鳴らして叫ぶ感じになるだろうとは思っていました。で、アレンジャーにデータを渡す時に、僕はヤング・ブラッドっていう海外のアーティストの雰囲気をリファレンスで出したんですけど、そういう若者の声を代弁する雰囲気というか、叫んで想いを伝える感じが出せたらいいなと、曲を書いたあとに思っていて。アレンジャーもそれに共感してくれました。
直接的に誰かにどうこう言ってるわけじゃないけど、圧倒的に今回のミニアルバムは開かれていますね。
そうですね。ラブソングが集まった印象がすごくあって…それはタイトルを“you”にしたのも、対象というか、人というか、本当は“me, you, my family”と連ねようと思ったんですけど、一個に絞って“you”にしたんです。家族に対する愛の歌とか、恋人とか好きな人に対する愛の歌、中には愛のベクトルが終わりに向かっていく悲しみ的な歌もあるんですけど、深い愛の曲が集まったと思っていて。そういうところが歌詞なのか、サウンドなのか分かんないですけど、開かれたものにつながったと思います。
平易な言葉で“まさにそれ!”っていうのは、「だれも知らない」もまさにで。伝えていないから人には分からないっていう感じもあるし。
今年の2月ぐらいに体調を崩しちゃったことがあって。今は全然元気なんですけど、いろいろ病院に行ったりとかを繰り返していたから、だいぶ精神的にも参っていたんです。そういう時に直感で思ったことをバーッと手書きして、それをそのまま曲にしたような感じですね。その時の自分の孤独感というか、どうやったって伝わらないことはひとりで抱えるしかないし、最後はひとりで頑張らないといけないことも分かってるんだけど、そのもどかしさもありつつ、思い込みすぎちゃってどんどん自分を自分でひとりにしていくみたいな。歌詞を読み返しても、そういうリアルなところがすごく出ていると思いますね。
同じような苦しみを抱えてる人も少なからずいると思いますが、世の中の問題として書いたりはしない?
そうですね。やっぱり自分のことばかり考えているというか、コロナ禍になって世界が大きく変わって…まぁ、言ったら悲劇が起きている中、ひとりの大人として思うことはたくさんあるんですけど、それを表現したいとか、そこで自分が何かを伝えたいと思うかと言うと、全然そんなことはなくて。自分の愛おしい人のことだったり、自分のこととだけを考える…”大橋ちっぽけ”って名前が皮肉みたいになってるんですけど(笑)、結局はひとりのちっぽけな人間だなと。自分の範囲に収まることしか大事にできないというか。あんまり社会とか、そういうものを原動力に曲を書きたいタイプではなかったんだなというのは思いますね。
でも、自分が許容できる人に向けてどう思っているのかを示すのはもっともなことだと思いますよ。
うんうん。それこそルーツとして過去に何回も挙げている清 竜人さんに「イザベラ」っていう曲があって、世界的なスーパースターが謎の死を遂げたり、事件でいろんな人が泣いても僕にはピンとこないけど、君のことなら一喜一憂しちゃうっていう歌なんですけど、すごいその考え方に共感しちゃうというか。結局は自分に近しい人のことしか本気で愛せていない、本気で考えられない。そう思うと今作はまさに自分の愛せる範囲を示しているアルバムなのかもしれないけど、自分的には自分の愛おしいものをちゃんと詰め込めたとは思っていて。言い切るのは難しいですけど、自分らしい一枚だと思います。
取材:石角友香
「23」Teaser
「常緑」MV
「By Your Side」MV
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