注目の3ピースバンド・黒子首、初の
全国流通盤『骨格』はどのように形成
されたのか 

黒子首という3ピースバンドをご存知だろうか。読みは「ほくろっくび」。2018年に結成され、これまでにEPを2枚リリースしているほか、2020年には「Champon」「チーム子ども」と2本のMVを公開しており、それらが複数のミュージシャンたちの目に止まり、ラジオやSNSで紹介されたことも手伝って、このバンドの存在を認知する層がグッと増えてきている──というタイミングで、初の全国流通盤となる1stアルバム『骨格』がリリースされた。SPICEとしても初のインタビューとなる本稿では、これまでの歩みなどプロフィール的な部分からおさらいしつつ、どのようにアルバム制作と向き合ったのかを訊いていく。
──黒子首というバンド名、すごくいいですね。どんなところから付けたんですか?
堀胃あげは:このバンドを始めるときに、海外も視野に入れて活動をしようということになって。海外の方達が興味のあることってなんだろうと考えたときに、日本の妖怪っておもしろいよなと思って、ろくろ首をモチーフにしようと。最初はドラムが女の子だったんですけど、(当時の)メンバー全員の首に黒子があったので、黒子首になりました。
田中そい光:なので、私の首には黒子がないです。
──なるほど(笑)。でも、なぜまた妖怪の中でもろくろ首をモチーフに?
堀胃:一番わかりやすいからですかね。メジャーな妖怪というか。あとは、待っていてほしいときとかに、「首を長くして待っていてね」というのが使えるな、とか。
田中:「使える」って(笑)。
──確かにうまく絡められますよね。集まったときに、「こういった音楽をやろう」というお話もいろいろされたんですか?
堀胃:本当のはじまりは、私が作っている弾き語りの音源達をバンドでやりたいな、というところからだったんです。そこから3人で活動していたんですけど、そい(田中)が入ってきたタイミングぐらいで、ポップス志向に変わっていきました。それが2年前ぐらいですね。ちゃんと伝えようというふうに切り替えたのは。
──1stEPの『夢を諦めたい』を作り出した頃?
堀胃:それがちょうど移行期間くらいです。
──じゃあ、2ndEPの『旋回』では、もうそういう気持ちになっていて。
堀胃:そうですね。で、今回の『骨格』で確実になりました。
──『骨格』のジャケット写真になっている蝶みたく、蛹が羽化した感じがありますね。なぜポップス志向になっていったんですか?
田中:黒子首は、堀胃あげはの作る音楽を最高の形で届ける集団であるべきだと思っていて。それを考えた結果、堀胃さんの音楽プラス、ポップスの形というのはすごくおもしろいというか、逆になんでやらないの?って思っていたんですよね。で、せっかく入れてもらったので、そういう方向でやってみませんか?って、説得しました。
──みとさんはそういった路線に進むことに関しては、特に抵抗もなく?
みと:特には……という感じですかね(笑)。私は楽しくベースが弾けたらいいので。
田中:無責任な(笑)。
──まあ、やるなら楽しいほうがいいですからね。堀胃さんは、その提案を受け入れられた?
堀胃:そうですね。それまでは主観でしか音楽を聴けないし、作れなくて。なんていうか、書いた本人にしかわからない比喩表現が多すぎる小説みたいな感じだったんですよ。それを客観的に見てくれる人が現れて、ポップスにしたらより伝わるんじゃない?って言われて、その通りっすね……って(笑)。
──いつも曲はどう作っていくんです?
堀胃:私が弾き語りで作ったワンコーラスを2人に聴いてもらって、感想をもらって。それをそいが大枠のアレンジだけして、ある程度打ち込んだものを作ってからスタジオで合わせる感じですね。
──それぞれの個性が反映されていく感じになると思うんですが、そもそもみなさんの好きな音楽やルーツを挙げるとすると?
堀胃:私は、映画『スワロウテイル』に出てくるYEN TOWN BANDですね。私のあげはという名前は本名なんですけど、それはあの映画から取っていて。幼い頃からあの映画と音楽に触れてきたので、ああいうスモーキーな雰囲気からは、細胞レベルで影響を受けていると思います。
みと:音楽を始めたキッカケになったのが吹奏楽なので、それがルーツといえばルーツですね。吹奏楽部ではコントラバスをやっていて、そこからベースを始めたんですけど、学校のベースを壊しちゃって、自分で買ったんです。そしたら愛着が湧いて楽しくなって、そのままベースをやってます。
──聴くのはどんな音楽が好きです? それこそポップスとか。
みと:ポップスというよりはR&Bのほうが好きですね。かっこいい感じの。ジャミロクワイとか、ブラン・ニュー・ヘヴィーズとか。
田中:私は小さい頃からAqua Timez椎名林檎さんが好きで、特に影響を受けたのはMr.Childrenですね。高校生ぐらいからバンドをやるようになって、銀杏BOYZとか、やんちゃな音楽も好きになって。巡り巡って、いまはタイのアーティストにすごくハマってます。
──どんなキッカケで?
田中:毎月、人が引くぐらい大量の曲を聴くんですけど、そしたら私のApple Musicがだいぶ育ってきたんですよ。これ知らんやろ?みたいなのを教えてくれるようになったんですけど、全然文字が読めないアーティストが出てきて、試しに聴いてみたらすごく良くて。調べてみたらタイのアーティストなんだ?って。そこからApple Musicがタイのアーティストをお勧めしてくれるようになりました。言語の響きがちょっと日本語に近いと思うんですよ。
堀胃:音楽性も似てるかもね。
田中:うん、似てるとは思う。ちょっとひょうきんなんですよ。あんまりかっこつけてないんだけど、でも結構かっこよくて。
──元々はアコースティックギター、ベース、ドラムという3人の音だけで楽曲を構成されていたところから、今回の『骨格』ではそれ以外の音がかなり増えましたよね。今回のアルバムはどういう作品にしようと思っていましたか?
堀胃:音楽性でいうと、やはりポップスにしたいというのはありました。ちょっと前までは、ポップスを意識して作ったからポップスになっている、という感じだったんですけど、今回は勝手にポップスを作っていたという感じかもしれないです。
──ポップの形って様々で、捉え方もいろいろだと思うんですが、みなさんの中でポップスとはどういうものなのか、共通認識みたいなものはあるんですか?
堀胃:共通しているのかはわからないけど、自分達にとってキャッチーなものをやっていれば、それを世間が気付いたときにポップスになるかなと思ってはいますね。
田中:なんていうか、音楽って芸術性と商業性のバランスだと思うんですよ。たとえば、オルタナっていうジャンルにしても、何をもってオルタナと定義したらいいのかわからなくなっていて。でも、オルタナのバンドが商業性を考えたときには、きっとそれってたぶんポップスになるんですよ。だから、他者に発信するものとして作られたものがポップスなんじゃないかなって、私は思っています。でも、ポップスの中にも芸術性はもちろんあって、だから好きでもあるんですけど……そういう感じかなぁ。うまく言えないけど。
──いや、おっしゃっていることはよくわかりますよ。みなさんの音楽ってまさにそういった形だと思います。そうして曲を作っていくにあたって、悩んだところも多かったですか?
堀胃:何回も練り直した曲はありますけど、0から1の作業は速かったと思います。そこから膨らませたり、練り直して行くのには時間がかかりました。
──時間がかかった曲というと?
堀胃:「あなうめ」のサビは、元々メロディがもっとキャッチーだったというか、もっと軽かったんです。だけど、歌詞を書いていくうちに、こんな簡単に終わらせてしまっていいのかな?と思って。そんな簡単に解決できる内容じゃないというか……コロナのことがあったりして、いろんな場面でいろんな人がどんな気持ちなのかを考えながら作った曲だったんです。そういう気持ちごと封じ込めたほうがいいんだろうなと思って、歌詞にもメロディにもそれを入れていった感じでしたね。
──おっしゃっていた通り、「あなうめ」の歌詞は、ここ昨今の世の中の雰囲気をしっかりと汲み取っていて。かつ、これまでは難しい比喩が多かったというお話をされていましたが、特にこの歌詞はものすごく伝わってくるものがありましたし、<いつの日にか埋め合わせは必ず>という強いメッセージで結ぶのも素敵でした。
堀胃:嬉しいです。伝えようとした結果、気づいたらこの言葉を選んでいました。こんなに世界全体が同じことに悩まされていることって今までなかったので、全員が同じ期間、穴を開けてしまっている状態になっているなと思って。でも、その穴ごと愛せるぐらい、この後にどう埋め合わせをしていくかだよね?と思って書きました。
──『骨格』には様々なタイプの楽曲を収録していますが、みとさんはアレンジをしていく上で大変だったりしましたか?
みと:私、スラップはあまりしないんですけど、「Driver」で、“かっこよくスラップやってよ”って言われて、結構悩みました。
田中:これはクレームだね(笑)。
──でも、R&Bが好きだとすると、曲によってはスラップって出てきたりしません?
みと:そういうときはコピーしたりするんですけど、自ら進んで作ることはほぼほぼないです。あまり「自分を見ろ!」っていう感じでもないので。
堀胃:そんな金髪なのに?
みと:確かに(笑)。あと、プレイ的に一歩下がることを覚えました。他の楽器を入れたりすることで、自分だけでどうこうするのはちょっと違うかなと思って。そこは勉強になりましたね。
──でも、たまにちょっと動きたいなと思ったり?
みと:ちょっとあります(笑)。
──田中さんはいかがです? アレンジするのが難しかった曲というと。
田中:かかった時間も込みで考えると、「熱帯夜」ですかね。熱帯夜感をどうすれば出せるのかが、本当にわからなかったんですよ。夏感とか、じめっとした感じは出せるんですけど、熱帯夜感というのが絶妙に難しくて。しかもそれを3人だけでやろうとしていたので、1年以上いろいろ試してました。堀胃さんに送っては「違う! もっとこうならないの!?」と言われながら。
堀胃:自分でアレンジしないくせにめっちゃ言う(笑)。
田中:(笑)。でも、考え方が「熱帯夜」のおかげで変わったんですよ。たとえば、じめっと感担当、夏感担当、情景担当みたいに、全員がそれぞれの役割をして、楽曲のイメージを作っていくという発想が出てくるようになって。そのキッカケになった曲でもありましたね。
──2Bメロのドラムが花火っぽいですよね。
田中:おっ!
堀胃:初めて気付いてもらえた(笑)。
田中:あそこは絶対に花火っぽくしたほうがいいなと思って、あのフレーズにしていたんですけど、レコーディングのときに花火っぽい音が出るものはないのかということになって。それで、友達に「持ってるシンバル全部貸してくれ!」って20枚ぐらい借りてきて、これですか!? これですか!? これですか!?って(笑)。
──よかったです、そのこだわりに気付けて(笑)。そういった情景が見えるものにしたいんですか?
田中:そうですね。結局、気持ちの部分って歌う人が一番出せるものだから、我々がどうこうちょっかい出してもしょうがないというか。もちろん手伝うこともあるんですけど、演奏はあくまでも背景であるべきで、結局それが歌を立たせることにも繋がるので、雰囲気重視ではありますね、全体的に。
──あと、「あなうめ」のお話の中で、歌詞を伝えようとした結果、この言葉を選んでいたというエピソードがありましたけど、堀胃さんとしては、伝わりやすい歌詞をすることに対して、恥ずかしさや怖さみたいなものはなかったですか?
堀胃:ありました。最初の頃は、伝わってたまるかぐらいに思ってたんですよね。
田中:尖ってんな~(笑)。
堀胃:(笑)。ダサいのがとにかく嫌だと思っていたので。でも、伝えたいことを伝えるときって、自然とこういう言葉になっていくんだなって思いましたね。
──そうやって変わっていった自分に対してどう思います?
堀胃:なんか、人間になっていったんだなぁ……って。
みと:(それまでは)何だったの?(笑)
田中:妖怪?(笑)
堀胃:なんか、気持ちがフルになることが多かったんです、最近。プラスの気持ちも、マイナスな気持ちも満タンになることが多くて。それを身体が持ちこたえるために出す、みたいな感じですかね。
──気持ちを整理するために書いていたと。なぜまた気持ちがフルになることが多かったんです?
堀胃:なんだろう……今の世の中的なことなのか、ずっと尊敬していた人とライブができたりする機会もあったし……それが大きかったですね。ライブが徐々にできるようになってきて、待ってくれているファンの方とかを目の前にしてライブをしていたら、勝手にこういう言葉が出てきました。そういう人たちに感謝とか想いを伝えようとしたら、言葉選びが勝手に変わった感じですかね。たぶん、感謝したい気持ちが溢れたんだと思います。
──めちゃくちゃ素敵なことですね。
堀胃:でも、ダサくならないようにっていうのは今も思ってますけどね(笑)。
──そこは今回のアルバムを聴いていて、おもしろいなと思ったところでもあったんですよね。噛み砕いた表現やキャッチーさは確実に増しているんだけど、これまでの作品で出してきた黒子首の空気感は変わらずにあるので。
田中:なんていうか、私風情がどんなアレンジをしたところで、やっぱり堀胃あげはなんですよ。この人が強すぎるから、我々が今までと違うことをしてみたところでどうせブレないし、そうなのであれば、その楽曲をよくするために今できる最大限のことをぶつけようっていう。結果、それが一番良くなるし、違っていたら違っていたで、そのときに変えればいいやっていう精神ではありました。
──これからのことについても伺いますが、活動を始めた時点から、海外を視野に入れていたと。
堀胃:そうですね。海外でライブできるようになりたいです。2年前ぐらいに、スペイン人のプロデューサーと数週間だけアメリカで楽曲制作をしたときがあって。そのときに、人と曲を作って違う国にアプローチするってすごくおもしろいなと思って。そういう活動をしていきたいなと思っています。
──海外でライブをするようになったその先って考えていたりするんです?
田中:グラミー賞を獲りたいんですよ。グラミー賞を、獲りたくてしょうがない!
堀胃:うん。獲りたいです。
田中:やっぱり音楽をやっている以上、逆にそこを目指さない意味がよくわからないというか。「2位じゃダメなんですか?」じゃないけど(笑)、やっぱりやるなら一番上を目指していって、その過程に小さい目標がいっぱいあるだけだと思うんですよね。だから武道館にも立ちたいですし。まあ、「最終的にグラミー賞」というわけでもないんですけど、わかりやすいところでいうとそこですかね。
──すごく素敵だと思います。みとさんとしては、そういう目標みたいなものってあります?
みと:あまり具体的な目標はないですね。達成しちゃうと、達成したぁーってなっちゃう気がして。ただ、月面ライブはいつかしてみたい。
田中:そこは「みとの目標」ってことでいいのね?
みと:えっ、みんなの目標でしょ?
堀胃:ちょっと何言ってるか分からない(笑)。
みと:月でライブをするのがみんなの目標です。
堀胃:やれるならやりたいけどね。
田中:楽しそうだな。銀河ツアー。
──それこそ楽しくやっていきたいってことなんでしょうね。
みと:そうですね。嫌いになったら終わっちゃうと思うので。趣味とかもないんです。ベースを弾くのが趣味みたいな。基礎練をやっているのすら楽しいし、嫌いになったら自分にはもう何も残らないので、楽しくやっていきたいなと思っています。
──8月にはアルバムのリリースツアー『新骨蝶』を東名阪で開催されます。アルバムには3人以外の音が入っていますけど、ライブは3人+αの編成でやるんですか?
堀胃:いま検討中なんですけど、そうなるかもしれないです。3人だとできる曲とできない曲がどうしても出てきてしまうので。
田中:こうやってツアーを廻ること自体が初めてなんですよ。タイミング的に、初MVを出してからライブができなくなっちゃったんですよね。再生回数は伸びているんだけど、どれだけの人が待っているのか分からない状態がずっと続いていて。でも、最近ライブをやっていると、待ってくれていた方とか、見つけてくれていた方がすごく多くて。だから、早く会いたいっていう気持ちが出てきましたね。今までは演奏するのが楽しいからライブをやりたかったけど、待ってくれている方がきっといてくれて、その方達に音楽を届けにいきたいっていう気持ちが強くなりました。ましてや今回のアルバムは全国流通で、本当に届けに行ける機会だと思うので、楽しくやりたいです。
──またいろんな思いがライブに乗っかってきそうですね。みとさんは、スラップはどうします? あの曲は絶対ライブでやりますよね。
みと:(2人を見ながら)やるの?
田中:いやいやいや。ライブ映えするでしょ、あそこは。
堀胃:みんな待ってるよ。私も待ってる。
田中:弾いてるところでスポットが当たるね。
みと:そのときだけ後ろに下がる。
堀胃:萎えるなー(笑)。
──(笑)。堀胃さんとしてはどんなライブにしたいですか?
堀胃:音源をどう再現するのかはまだちょっとどうなるかわからないですけど、せっかく溜めてきた歌詞やメロディを生で伝えられるので、伝えられるだけ伝えたいですね。やっぱり人を前にするってすごいことなので。心がまた満タンになると思います。

取材・文=山口哲生 撮影=高田梓

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