あごうさとし(演出家)+能政夕介(
アナウンサー)が『フリー/アナウン
サー』を語る。「アナウンサーに焦点
を当てることで、言語やコミュニケー
ションについて考えてもらえたら」

出演者が一人もいない演劇や、バベルの塔が崩壊する以前に存在したと言われる全人類の共通語「純粋言語」とは何か? を追求する舞台など、実験的な作品を数多く発表している演出家・あごうさとしと、スカパー! のスポーツ実況などを担当する、京都在住のフリーアナウンサー・能政(のせ)夕介。この2人がタッグを組んで、アナウンサーの歴史と仕事を通して、言語と伝達について考察する一人芝居『フリー/アナウンサー』を上演する。
共演のきっかけとなったのは、あごうが芸術監督を務める京都の小劇場[THEATRE E9 KYOTO(以下E9)]の2Fにあるコワーキングスペースを、能政が利用していたこと。ここで2人が出会い、お互いの仕事について話を交わすうちに「“アナウンサーの言語”を生かした演劇ができないか?」というアイディアに至ったという。
あごうさとし×能政夕介『フリー/アナウンサー』 チラシ。
あごう アナウンサーは当然言葉を仕事にしていますが、演劇も基本的には台本の言葉から立脚するもの。能政さんを通して、アナウンサーが持つ言葉の問題意識、その歴史が抱える言葉の変遷、そして不特定多数に伝えるための言葉の特性などに触れることで、私がずっと関心を持っている「演劇の言葉の特性」や「純粋言語の可能性」を、違う角度から考えることができるのでは? と思いました。
能政 演劇は文化祭の出し物程度の経験しかなく(笑)、まったく未知の世界で。まずあごうさんに“アナウンサーとは何ですか?”という問いかけをいただき、それを元に僕が文章を作って、あごうさんに演出をいただく形になりました。
あごう 能政さんはアナウンサーという発信主体ですが、一方で周りの声が大変気になる超過敏な受信主体でもあるという、その両義性も面白いポイントです。どんな舞台になるのかずいぶん怪しまれていますが(笑)、一言で言うと普通に演劇。一人芝居とご紹介いただいても、なんら障りはないと思います。
Jリーグや天皇杯などの実況を務めるほか、イベントの司会やナレーションなども行っている能政夕介。
作品で語られるのは、大きく分けて3つ。一つはアナウンサーの歴史とその技術。100年分のニュースを、その当時のアナウンサーの口調を再現しながら伝えることで、アナウンスの歴史的変化を体感させる。また能政の本領発揮となる、スポーツ実況の時間も設けている。
能政 当時のアナウンサーのニュース読みは、今と比較すると特徴が強くて、現在基本として教えていただく技術とは、相反している部分がかなりありますね。読んでいる文章も、現代のニュースでは絶対使わない表現もあって、かなり変化を感じられます。
あごう 初期のラジオ放送の「JOAK、JOAK、こちらは東京放送局であります」という音声をYou Tubeで聞けるんですけど、何とも呪術的な音なんです。この時代のアナウンスって、平坦だけど微妙なアクセントを含んでいて、祝詞とかを思わせる雰囲気がある。その辺りは特に「これは何だろうな?」と思いながら作ってます。
もう一つは、能政自身のアナウンス論やコミュニケーション論。特に能政のアナウンスの哲学だという「和」について、あごうの疑問も交えながら展開していくという。
能政 アナウンサーの基本は、中立的な立場でニュースを正確に伝えること。MCをする時も、いろんなキャラクターの人をミックスしてバランスを取るように動くし、スポーツ実況もどちらかに肩入れせず、AもBも気持ちよくなれる「和」を作るよう心がけます。でもアナウンサーに限らず、言葉ってそういうものだと思うんです。コミュニケーションは「一方的な何か」ではなく、対話とかいろんなことをやっていきながら、みんなが和を保てる方法を探っていくことだと認識しているので。「言葉を生業とする」という部分では、そこが大事なポイントだと、個人的には思っています。
あごう そして僕は「それってどういう意味かな?」ということを考えながら、ずっと演出をしているんです。アナウンスとか放送って、とても力が強い立場でもあるので、そういう力を持つものが「和」を唱えることには、いろんな側面があるんじゃないかと。
あごうさとし演出『ペンテジレーア』(2020年)。  [撮影]金サジ
そして3つ目は「街の実況」だ。ちょうど1年前に「E9」のある京都・東九条に引っ越してきた能政の目線で、芸術系大学の移転などで大きく変化しつつある、このエリアの現状を実況していく。
あごう 極めてローカルな問題の、ある部分を切り取って表現しますが、このローカルな現象は、多分全世界で起こってることではないかと。最後には、ある種の祈りの言葉がアナウンスされるイメージです。
俳優の身体の使い方が独特なあごうの舞台だが、アナウンサーにも容赦なく(?)大きな課題を与えている。静止した状態で原稿を読むのがアナウンサーの基本なのに、あえて歩き回りながら……しかも言葉と身体のあり方が噛み合わないようなシチュエーションで、発語してもらうという。
あごう 能政さんには舞台上で、だいたいの時間歩いてもらいます。しかもゆっくり歩きながら早くしゃべるとか、声と身体が生理的につながらない状態が結構ある。俳優としても難しいテクニックを要求してるんですけど(笑)、その課題にきちんと向き合って、回答を出し続けてくださってるのがすごいです。
能政 話すスピードも言語も、いろんなものが融合されて混ざりあってるので、観ていて少し混乱する所があるかもしれませんね。メディアの中では通常使わない表現……普段は聞き取りやすいようにお伝えすることが大前提ですが、その逆の行為を行うので頭がついていかない。 俳優の方がやると納得感があるかもしれませんが、アナウンサーだと違和感しか持たれないんじゃないかと(笑)。でもそれをすることでいろんなことが見えてきたし、将来的にこういう伝え方になる可能性はゼロじゃないかもしれない。そんな感覚を楽しんでもらえると嬉しいなと感じています。
[THEATRE E9 KYOTO]2021年度ラインアップ発表会見の時の能政夕介(左)とあごうさとし(右)。
今回は新型コロナウイルス対策+作品の特性上の両方の観点から、音声のみの生配信も行う。しかしチケット料金は、劇場公演の倍以上となる1万円! この値段設定は「誤植ではないか?」という問い合わせまであったそうだが、実は複数人で購入することが可能。というより、それが奨励されている。
あごう 昔のラジオやテレビって、大勢の人が集まって見たり聞いたりするものでした。このコロナ禍ではありますけど、何人かで集まって、一つの情報を分かち合うという体験をしていただけませんか? という呼びかけでもあります。劇場に来ていただく方が、能政さん自身がパフォーマンスをしているので、当然情報量が多いんですけど、音声的にはラジオの(ように聞く)方が、情報量が多い部分があるかもしれません。
最後に能政は、観客に向けてこんなメッセージを寄せてくれた。
能政 アナウンサーの歴史や仕事に対して、ここまで深堀りしていくことは、ほとんどないと思うんです。アナウンサーって、あくまでも黒子。矢面には立つけど、目立たないというのが一つの役割だったりします。そのアナウンサーに焦点を当てることで「こんなことを考えながら、言葉を届けているんだ」という、その一端を感じていただけたら。それによって、自分の言語やコミュニケーションに、すごく意識を向けるきっかけになるかもしれないし、もしそうなったらすごく嬉しいなと思います。
あごうさとし×能政夕介『フリー/アナウンサー』作品紹介の動画。
最後に能政が述べたように、毎日のようにテレビやラジオでアナウンサーたちの言葉を耳にしていても、その背景にあるものについて深く考える機会は、あまりなかったと思う。単に情報を客観的に伝えるという役割から解放され、磨き抜かれた言語的技術をパフォーマンスの形で提示した時に、私たちは「アナウンサー」という仕事だけでなく、彼らの発語が持つ力とコミュニケーションの可能性を、これまでにない形で考察することになるかもしれない。

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