渡辺謙「止まっていた時計が動き出し
た」 わずか10回で閉幕した主演舞台
『ピサロ』が再び
初日前日の5月14日、同劇場でゲネプロ(総通し舞台稽古)と取材会が行われ、出演する渡辺謙と宮沢氷魚が出席した。その様子を写真と共にお伝えしたい。
渡辺謙:このような状況下にお集まりいただき、ありがとうございます。僕たちも先週ぐらいからどういう状況になるのか気を揉んでいたんですが、とにかく3日に1回ぐらいのPCR検査を稽古中から続けて、これからも続けていく予定です。とにかく僕たちの中からはコロナ感染者を出さないで、千穐楽までいきたい。そういう思いの中で、明日の初日を迎えることになりました。
去年10回しかできなかった。もうちょっとで手が届きそうだなと、掴みかけるものがあったときだったので。それを今回の公演できちんと、氷魚、他のキャストのメンバーと、掴んで、帰っていきたい。そういう旅にこの舞台をしたいと思っています。よろしくお願いします。
宮沢氷魚:1年の時を経て、この作品も、出ているキャストのみなさんもパワーアップして、お客様に去年よりもパワーアップしたエネルギーのある作品を届けようと、稽古に励んで、育んで、無事明日初日を迎えることができます。1年の間にいろいろありましたし、今も世の中の状況はまだ落ち着かないんですけれども、僕たちはやれることをやって、体調管理もしっかりして、みなさんに素敵な作品を届けられるように頑張っていきますので、どうぞよろしくお願いします。
渡辺謙:去年は、開幕も遅れたんですけども、緊急事態宣言が出るか出ないか微妙なところで幕が開きまして。観客数を半分にしましょうという御触れが出ました。劇場全体が「落ち着いて芝居をみましょう」「楽しみましょう」という空気じゃない中で、10回の公演をやっていました。
この劇場の下にあるPARCOが休館せざるをえなくなったりした時に、プロデューサーとも話をして。スタッフ・キャストも含めてですけど、お客様の安全を考えたら、今は演劇をできる状態ではないのかもしれないということで、公演中止をお互いに決めました。
なので、それに関してはほとんど、僕の中でバンっとシャッターを下ろして、止まっていた感じだったんです。けど、今年、この稽古がもう1回始まるという中で、懐かしいメンバーと会って、読み合わせをした時に、本当に時計が動き始めた感じがしたんですね。それぐらい僕の中で時計が止まっていた、ピサロというお芝居に関しての秒針が止まっていたことに気がつきました。
マスクをしながらの稽古だったので、苦しいことは苦しかったです。セリフも多かったので。ただ、それはこういう事情だからしょうがないと思っていたんですけど、劇場に入って、マスクをせずにやりましょうと言った時に、去年いなかったメンバーが4人ぐらい新しく入っているんですけど、初めてその時に顔を見ました。あ、こういう顔をしていたんだと(笑)。
舞台の稽古をしていて、そういう経験ってないので、なかなか不思議な体験をしているなぁと思いながら。でも、とにかくこういう事態の中でも、僕たちは演劇というものをお届けしたい。この舞台を通して、お客様に本当に謙虚にお届けしたい。とにかく3週間、しっかり、丁寧に走り抜けたいなと思っています。
1年経って、またこうやって皆さんの前でこの作品を披露できることをとても幸せに思っています。僕個人としても、再演というものが初めて。また自分が同じ役を演じることで、全然違う景色が見えてきたりとか、自分の成長を、まぁ少しですけども、感じられる瞬間が稽古場はじめ、ここ何日かですごくあって。だから作品としてもそうですし、僕個人として、少し成長できた姿を皆さんにお届けできることを、とても光栄に思っております。
渡辺謙:(氷魚は)かなり成長しています。
宮沢氷魚:プレッシャーですね(笑)。
渡辺謙:(氷魚の)この衣裳を見ていただいたら分かると思うんですけど、ある種、超越しているんですよね。神という存在なので。それを舞台の上でパフォーマンスするというのは、非常にハードルが高いことだと、僕も36年前にそれを思って、自覚はしている。相当大変だったと思います。
ただ、1回去年やっているので、今年はそれありきの状態で稽古を始められたはず。彼としては何かを足そう、何かを引こう、いろいろなことを考えるのに、いい稽古場だったと思っています。
僕は1年分老いぼれた。ピサロ役は、死を頭の片隅に感じているような、老いぼれの役なので、一層役に近づいたのかなと。ちょうどいいバランスなのかなと思っています。
宮沢氷魚:去年は先輩方についていくのでいっぱいいっぱいのときもあったし、自分としても、もっとできたのにという思いもありました。1年の間でいろいろな作品をやらせてもらって、特に今回若手がかなりパワーアップして、先輩方に負けない勢いというか、力を身につけて、この作品に挑んでいると思います。
その中でも僕と大鶴佐助くんは謙さんとのシーンがとても多いので、謙さんに負けないように。若手は勢いよく、自由に、力強くやっていけたらいいなと思える稽古場でした。
それで、去年こういう形で10回で中止になってしまって、こうしてまた、僕らはリベンジと言っているんですけども、リベンジ公演をさせていただけるなかで、本当に自分をもう1回奮い立たせてくれる劇場なんだなというのを改めて思いますね。
宮沢氷魚:当時のお話や写真がもちろん残ってはいるんですけども、僕はあえて参考にしないでおこうと思って。当時謙さんが演じられたアタウアルパと、今回僕が演じるアタウアルパとでは、全然キャラクターも違うと思うし、存在感も違うと思う。僕は僕にしか演じられないアタウアルパをつくりたいと当初から思っていました。
なので、自分が持っているもの、自分の引き出しみたいなものを存分に使うためにも、自分でいろいろ考えて、生み出すようにはしていたので、あえて当時のことはあまり調べないでいましたね。
謙さんからアドバイスはたくさんいただくんですけれども、「当時僕がそうだったから、こうした方がいいよ」と言うものではなくて、この作品においての、謙さんが演じるピサロという役を通して、アタウアルパがどう見えるかという部分でのアドバイスをいただいている。「こうしなさい」「ああしなさい」ではなくて、僕が考えるきっかけをいろいろ与えてくれるアドバイスをたくさんしていただいています。
宮沢氷魚:あれは何回やっても鳥肌が立ちますね。
渡辺謙:非常に身体的な表現が巧い演出だという漠然としたイメージで稽古が始まったんですけど、去年もそうなんですけど、今年に入ってより感じるのは、言葉のことまで全部理解しているんですね。ローマ字で日本語が書いてあって、それを追っかけてはいるんですけど、音を聞いて「それおかしいよね?」とか「ちょっと意味違うのでは?」と。そこから意訳しているところをもう一回翻訳し直したりもしました。
もちろん、身体的な表現、特にダンスのシーンなどは巧いんですけど、普通にお芝居のセリフのやりとりのところまで見ている。イギリス人でありながら、「ちょっと、スミマセン!」とか日本語で言って稽古を止めて。僕らとやりとりしながら、言葉の面で変化をしていこうという意欲を感じました。もしかすると、日本の演出家だったら、お互い日本語を分かり合えるので感じない部分なのかもしれないですね。それは非常に面白い発見でした。
宮沢氷魚:本当にウィルの演出は美しくて。特にインカまわりの場面は、先ほど謙さんがおっしゃったように、踊りや体で表現するシーンが多いんです。もちろんウィルの言葉の演出も素晴らしいんですけれども、そういった踊りやちょっとしたアクションシーンは、インカの見せ場ですし、ウィルだからこそできた演出でもあると思います。耳で言葉を聞いて楽しみながら、視覚の方でも楽しめる作品になっていると思います。その点、ウィルの演出の素晴らしさが際立っているなと思っております。
宮沢氷魚:僕たちは、稽古前から体調に気をつけてたし、皆さんに劇場に足を運んでいただいてパフォーマンスをするという覚悟と責任感みたいなものは各々持っております。劇場の感染対策は本当に素晴らしいですし、僕たちは本当に気をつけながらやっております。
劇場はとても安全なところなので、来るのは大変かもしれないですけども、僕たちの1年間の思いと努力をぜひ一人でも多くの人に見ていただきたいので、この劇場でぜひ『ピサロ』をご覧いただけたら嬉しいなと思っております。
渡辺謙:この作品をやっている間ほとんど緊急事態宣言というものが発令されている状態だと思うんですね。外出されるのも憚られるような、そういう時世の中で、僕たちは演劇をやる。演劇をご覧いただくために、観客の皆さんに劇場まで足を運んでいただくということに、ある意味非常に胸を痛めるわけですけれども、それでもやっぱり僕たちは届けたいものがある。その思いは、このカンパニー全員が強く持っています。
もちろん大変なことは存じ上げておりますので、くれぐれも養生しながら劇場に足を運んでいただきたいですし、また、劇場からお帰りいただくときも集団感染ということにならないように、ご用心していただければと思っています。とにかく僕らは毎日毎日きちんと届けられるものをしっかり届けていこうと思います。よろしくお願いします。
日本初演は1985年、PARCO劇場。山﨑努がピサロ、当時はまだ無名だった渡辺謙がインカの帝国王・アタウアルパを演じていた。本作を通じて「俳優を一生の仕事とする」覚悟を決めたという渡辺謙が、タイトルロールのピサロとして帰還し、成長著しい宮沢氷魚がアタウアルパを引き継ぐということで、大変な話題を呼んだ。
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