嵐とAKB48、音楽的アプローチの違い
は? チャート上位2曲を洋楽の視点
で読み解く
週間ランキングの1位は嵐の『誰も知らない』。初週売り上げは46.2万枚を記録し、シングル40作目の首位を記録した。2位はAKB48の『ラブラドール・レトリバー』。このチャート分析の連載はシングルとアルバムのチャートを交互に掲載しているので先週には掲載されなかったのだが、選抜総選挙を控え5月21日に発売された同作は初週166.2万枚という売り上げを果たしている。おそらく今年の年間シングルランキングも1位になることが確実だろう。3位はアニメ『ラブライブ!』発のμ's、4位には7月に解散を発表しているBiSのラストシングルがチャートイン。トップ10までほぼアイドルとアニメ関係が占めるというチャート状況となった。
というわけで、今回では嵐『GUTS!』に込められた「音楽的仕掛け」を分析した前回に続き(参考:嵐『GUTS!』50万枚超えチャート1位に 楽曲に込められた「音楽的仕掛け」とは?)、『誰も知らない』と『ラブラドール・レトリバー』の2曲の楽曲を分析していこう。
まずは嵐『誰も知らない』について。『GUTS!』も独特な音階と転調のテクニックを駆使した曲だったが、これもかなり一筋縄ではいかない曲になっている。イントロからピアノやストリングスが壮大に鳴り響き、場面場面でアレンジがガラリと変わるミュージカル仕立ての曲調。ダンスビートとオーケストラが融合したサウンドに、チェンバロの音色がゴシック調のアクセントを加えている。メロディはキャッチーだが、コード進行はかなりクセのあるもの。不安をかき立てる和音をあえて盛り込んだ展開が刺激的だ。
この曲の作曲にクレジットされているのは「Takuya Harada・Joakim Bjornberg・Christofer Erixon・BJ Khan」の4人。Joakim BjornbergとChristofer Erixonは、ストックホルム在住のスウェーデンの若手作曲家/プロデューサーコンビだ。2012年にヨーロッパ最大の音楽コンテスト「ユーロビジョンコンテスト」のスウェーデン予選で好成績を収めたあと作家事務所に入ったキャリアの持ち主。嵐では「Breathless」もこのコンビが手掛けており、こういった類のヨーロッパ的なクールネスを持つダンスポップはグループの大きな武器になっている。ジャニーズ事務所がスウェーデンの音楽出版社に投資しているのはよく知られた話だが、日本のトップアイドルである嵐を支えているのも「音楽大国」スウェーデンの作曲家が持つヨーロッパ的な感性である、というわけだ。
そしてAKB48『ラブラドール・レトリバー』について。メンバー襲撃事件から選抜総選挙まで話題に事欠かないAKB48だが、過熱するメディア報道に比べてあまり語られていないのが、楽曲そのものについて。この曲、かなり良質なポップソングに仕上がっているのである。曲調は60’sモータウン、サウンドはかなり確信的にフィル・スペクターのウォール・オブ・サウンドを狙っている。ストリングスの音色の選び方も、頭打ちのビートも、あえてのレトロ感。サウンドメイキングもかなり面白い。ヘッドフォンで聴くとよくわかるのだが、ドラム全体が明らかに左に寄っているのである。おそらくモノラル録音の時代を意識したのだろう。昨年の『恋するフォーチュンクッキー』がフィリー・ソウル〜筒美京平の「ディスコ歌謡曲」だとすると、この『ラブラドール・レトリバー』はフィル・スペクター〜大滝詠一の「ナイアガラ歌謡曲」。どちらも「指原期」のAKB48を代表する曲になるはずだ。
最先端のヨーロピアン・ポップをJ-POP化する嵐に、古き良きアメリカン・ポップへのオマージュを捧げるAKB48。今の日本を代表する2組のアイドルから欧米へのそれぞれ異なった視線を読み解くことができるのが、なかなか面白い。(柴 那典)
というわけで、今回では嵐『GUTS!』に込められた「音楽的仕掛け」を分析した前回に続き(参考:嵐『GUTS!』50万枚超えチャート1位に 楽曲に込められた「音楽的仕掛け」とは?)、『誰も知らない』と『ラブラドール・レトリバー』の2曲の楽曲を分析していこう。
まずは嵐『誰も知らない』について。『GUTS!』も独特な音階と転調のテクニックを駆使した曲だったが、これもかなり一筋縄ではいかない曲になっている。イントロからピアノやストリングスが壮大に鳴り響き、場面場面でアレンジがガラリと変わるミュージカル仕立ての曲調。ダンスビートとオーケストラが融合したサウンドに、チェンバロの音色がゴシック調のアクセントを加えている。メロディはキャッチーだが、コード進行はかなりクセのあるもの。不安をかき立てる和音をあえて盛り込んだ展開が刺激的だ。
この曲の作曲にクレジットされているのは「Takuya Harada・Joakim Bjornberg・Christofer Erixon・BJ Khan」の4人。Joakim BjornbergとChristofer Erixonは、ストックホルム在住のスウェーデンの若手作曲家/プロデューサーコンビだ。2012年にヨーロッパ最大の音楽コンテスト「ユーロビジョンコンテスト」のスウェーデン予選で好成績を収めたあと作家事務所に入ったキャリアの持ち主。嵐では「Breathless」もこのコンビが手掛けており、こういった類のヨーロッパ的なクールネスを持つダンスポップはグループの大きな武器になっている。ジャニーズ事務所がスウェーデンの音楽出版社に投資しているのはよく知られた話だが、日本のトップアイドルである嵐を支えているのも「音楽大国」スウェーデンの作曲家が持つヨーロッパ的な感性である、というわけだ。
そしてAKB48『ラブラドール・レトリバー』について。メンバー襲撃事件から選抜総選挙まで話題に事欠かないAKB48だが、過熱するメディア報道に比べてあまり語られていないのが、楽曲そのものについて。この曲、かなり良質なポップソングに仕上がっているのである。曲調は60’sモータウン、サウンドはかなり確信的にフィル・スペクターのウォール・オブ・サウンドを狙っている。ストリングスの音色の選び方も、頭打ちのビートも、あえてのレトロ感。サウンドメイキングもかなり面白い。ヘッドフォンで聴くとよくわかるのだが、ドラム全体が明らかに左に寄っているのである。おそらくモノラル録音の時代を意識したのだろう。昨年の『恋するフォーチュンクッキー』がフィリー・ソウル〜筒美京平の「ディスコ歌謡曲」だとすると、この『ラブラドール・レトリバー』はフィル・スペクター〜大滝詠一の「ナイアガラ歌謡曲」。どちらも「指原期」のAKB48を代表する曲になるはずだ。
最先端のヨーロピアン・ポップをJ-POP化する嵐に、古き良きアメリカン・ポップへのオマージュを捧げるAKB48。今の日本を代表する2組のアイドルから欧米へのそれぞれ異なった視線を読み解くことができるのが、なかなか面白い。(柴 那典)
リアルサウンド