【かねやん的アニラジの作り方】第2
4回 時代に寄り添う「声優」という
職業

 このコラムも隔月更新にさせていただき少し時間の余裕もできたので、なにか本でも読んで、その感想を書きながら、私の考えを述べさせていただこうと思います。

 職業柄声優の養成所などで声優を目指す若者と話をする機会があります。その際必ずする質問が「あなたはなぜ声優を目指したのか」です。そして実は女性声優を目指す若者のなかでかなり多いのが「少年を演じたい」というものです。たしかに野沢雅子さん、田中真弓さん、竹内順子さん、大声優といわれる人のなかに少年役を得意とする方が多いですね。でも、僕は以前から「なんで女性声優は少年を演じるようになったのか」という疑問をもっていました。「おそらく男性声優が声変わりするからかな」という程度に考えていました。
 昨年12月にその答えをズバリ書いている「アニメと声優のメディア史 なぜ女性が少年を演じるのか」(青弓社刊)という本を見つけ早速読んでみました。石田美紀さんという新潟大学の先生が書かれたこの本は体系的に声優史が書かれていて大変勉強になりました。
 なぜ女性が少年を演じるようになったのか? その問いの答えは終戦直後にさかのぼります。まだアニメをつくるような状況でもなかったこの時代ですが、女性声優――というかまだ声優という職業も確立していない頃なので――女性俳優がラジオドラマなどで少年役をやることが多かったというのです。戦災孤児の群像劇を描いたラジオドラマ「鐘の鳴る丘」(昨年の朝ドラでも紹介されていましたね)には当然のことながら多数の「子ども」の声が必要とされました。当初は東京・練馬の小学校の演劇部の子どもたちがこれを演じていたんですが、占領軍であるGHQが定めたひとつの法律がこれを阻みます。「労働基準法」です。これは今も18歳以下のタレントさんなど起用するときには「何時までに収録を終える」と気を遣いますが、この法律によって年少者の雇用規則が初めて定められました。戦前戦中と大人と同等、それ以上に働かされた子どもに目を向け、解放することを意図したラジオドラマ「鐘の鳴る丘」。それとまったく同じ趣旨で子どもを守ろうとした「労働基準法」という法律。このことが子どもの声の需要を高めながら、子どもがそれを演じられないという構造を生み出し、その需要の隙間を埋めるように若い女性俳優が「少年役」を演じていったというのです。
 この本では、占領期のラジオドラマに始まり、現在のBLドラマCDやシチュエーションCDまで新しいメディアとジャンルが誕生していく都度に変化していく「声優」の活動領域について多面的に書かれています。その通史を見るとき、「声優」という時代に寄り添う職業としての逞しさに思いをひかれます。むしろさまざまな制限が職人としての「声優」の強さを引き出しているように思います。
 昨今のコロナ禍にあっても、その逞しさは健在です。アニメのアフレコでも、どの映像産業よりも早く、コロナ対応ができたアニメは「新作」を供給できたことによって、映画館のスクリーンをアニメが占拠。昨年の「鬼滅の刃」の大ヒットのつながったことは言うまでもありません。
 我々もこの1年あまり、さまざまなトライをしてきました。それはもちろん生きるためです。これも昨年来よく言われていることですが我々の仕事は「不要不急」です。それにな
んの反論もありません。むしろ「不要不急」だからこそ、ちょっとした需要の隙間を見つけ出し、様々な制限をクリアしていこうという逞しさがあるのだと思います。
 10年後、20年後。声優の活動領域を振り返った時、あのコロナ禍によって生み出された技術がこう成長拡大したのだといわれるようになっているかもしれません。

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