「図夢歌舞伎『忠臣蔵』」脚本・戸部
和久に聞く、オンライン歌舞伎の見ど
ころと歌舞伎への思い

2020年7月11日(土)午前11時より、松本幸四郎が構成・演出・出演する史上初のオンライン歌舞伎「図夢歌舞伎(ずぅむかぶき)『忠臣蔵』」の第三回が、イープラス「Streaming+」で配信される。チケットは同日23時まで購入可能、アーカイブは翌日12日(日)23時までの視聴となる。
「図夢歌舞伎『忠臣蔵』」とは、史上初のオンライン生配信による歌舞伎のコンテンツだ。『仮名手本忠臣蔵』全十一段を配信用に再構成し、6月27日(土)より全5回にわけて毎週配信している。第三回目は「五・六段目」にあたるエピソードを、市川猿之助の早野勘平で、中村壱太郎の女房おかる、上村吉弥の母おかや、松本高麗五郎の百姓与市兵衛、市川猿弥の口上人形の配役で上演。幸四郎は斧定九郎を演じる。
5週連続で新たなコンテンツを生配信するという試みに至った経緯、歌舞伎への思い、今後の見どころを、今回の脚本を担当した戸部和久(松竹株式会社 演劇部芸文室)に聞いた。
図夢歌舞伎第一回配信時の稽古場
■テーマは由良之助と本蔵の運命の交錯
ーー第一回「三段目」では、視聴者が塩冶判官と目線を重ねる演出が話題となりました。第二回「四段目」では判官切腹の場(通さん場)で衣擦れの音、畳を歩く音、刀を包む音が、劇場で見る時以上の静けさと生々しさを演出しました。毎回違うアプローチに驚かされます。
通さん場の演出は、幸四郎さんから「あえて歩く音や衣擦れの音を拾い、緊迫感を出したい」とご提案いただきました。「四段目の、劇場のシーンとした空気感が大切だから」と。「城明け渡しの場」の映像もお客様に喜んでいただけたようですね。第二回からは、映像作品としての演出に振り切ったんです。急きょ藤森圭太郎監督(『東海道中膝栗毛』DVD特典映像の監督)にも参加してもらい、カット割りなどに力をいれました。
ーー各回とも、ばっさり割愛するシーンとじっくり描くシーンがあります。構成の意図をお聞かせください。
テーマは、大星由良之助と加古川本蔵の運命の交錯です。由良之助の主・判官と、本蔵の主・桃井若狭之介は、それぞれに高師直を斬ろうとしますが、若狭之介は本蔵による賄賂で難を逃れ、判官は斬りかかりお家お取り潰しになり、周りの人も運命を狂わされます。せめて師直を殺せていれば、判官の恨みは完結できていたかもしれないのに、本蔵がそれを止めてしまいます。由良之助と本蔵のどちらがどちらの運命を辿っていても、おかしくはありませんでした。そんな二人が繋がる「九段目」に向けて、構成しています。二役を幸四郎さんが一人で演じられる点も楽しんでいただけたらいいですね。
クレジットは脚本だが、実質、キャスティング、演出、現場の仕切りもやっているという。
■歌舞伎の見せ場の重さとは?
ーー今日は書割やセットに囲まれてお話を伺っています。これだけ本格的なセットがあると「せっかくだし30~40分と言わず、もっと長い作品に」といった欲は出てきませんか?
劇場の客席と自宅のパソコンやスマホの前とでは、時間の感覚は違いますからね。1回30~40分を目安に凝縮し、各回の見せ場を際立たせることにしています。個人的には30分でも長く感じるくらいなので、間に猿弥さんのチャットコーナーを入れて。
ーー凝縮しても成立するものなのですね。
それができるのは、歌舞伎には特有の見せ場の作り方があり、たとえば『伽羅先代萩』で政岡の飯炊き(約1時間)がある「御殿」と、仁木弾正の幕外の引っ込み(約5分)がある「床下」は長さが違うけれども、両方とも大きな見せ場であり、見せ場としての重さは同じですよね。大事なのは時間ではないと思いますし、そう感じていただける『図夢歌舞伎』にしていきたいです。……と言いながら、「三段目」の師直は幸四郎さんが歌舞伎座の台本通りのお芝居でやられましたし、「四段目」の判官の切腹は、舞台では見られない視点を収録し、ボリュームは増えました。必要なところには時間をかけます。第三回「五・六段目」は、芝居のやり取りが見どころですので、40分には収まらず50分くらいになるのでは?​
一同が「おおー!」と盛り上がる中、「やっぱりなぁ、予想はしていたけど!」と言いながら何か事務対応を始める広報担当者。それをみて「いま初めて言いました!」と笑う戸部。スタッフ同士の信頼関係も垣間見える雰囲気でした。
■ナウシカがいたらどう思うか!
ーーオンラインで歌舞伎をやろうと考えた経緯をお聞かせください。
東京で緊急事態宣言が出る直前、僕は岡山県の港町に滞在していました。東京が大変なことに、そして欧米がさらに過激な事態になっていくニュースを、岡山のラーメン屋さんのテレビで見たんです。西洋的な文明のもとで自分たちが生んだ自由とか人権といった価値観を、自分たちの手で壊していくのを見て、滑稽味さえ感じると同時に、このままでは国がおかしくなると思いました。​
一方、目の前には瀬戸内海の豊かな自然が広がり、この海を義経や熊谷陣屋の熊谷次郎直実も船で通ったんだなと、歌舞伎の舞台に描かれた風景を思い起こすわけです。歌舞伎はこの変わらない自然、日本の風土から生まれ積みあがってきたものだから、歌舞伎が滅びる時は、日本も滅びる時だ。何かしないとけない。直前に新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』の脚本をやっていたこともあり、「ナウシカがいたらどう思うか! ウイルスだって生きてるのに! ウイルスの声が聞こえないのか!」って(笑)。​
ーー400年の伝統を思えば、少しの間「何もしない」という選択肢もあったのではないでしょうか。
そこで、初めて脚本としてお仕事をさせていただいていた幸四郎さんにお電話したら「何かやりましょう」となりました。
歌舞伎は興行を行い、税金を納める経済活動、民間の企業活動として成り立っています。ヨーロッパのオペラのように、国や企業の援助を受けているわけではありません。であれば、いかなる時代もその時々で成立する興行の可能性を探るのが当然です。それ以上に、歌舞伎こそが世の中に先がけて新しいものを発信していく舞台芸術でありたいし、今しかできないことを今やることが歌舞伎の本来あるべき姿。その精神こそ、400年の歌舞伎が継承してきた伝統だと思っています。​
稽古場(兼スタジオ)には第三回のセットが組まれていた。「次回、猿之助さんがここを駆け回ります!」(戸部)
■いつもの歌舞伎を、最高の客席で
ーー歌舞伎にはゆったりどっしりしたイメージがありましたが、図夢歌舞伎は、スピード感と柔軟性が求められる現場ですね。
発見の連続で、それを次回に生かしての積み重ねでギリギリまで作っていますね。現場で初めて気づくことも多いですし、お客様の声や反応から可能性が見えた演出もある。たとえば第一回で、判官目線のカメラが映した師直の、普段は客席から見られない表情が好評でした。そこで第二回は、切腹前の判官の前で座る力弥の表情を映しました。通常の舞台では、客席に背中を向けて首を横にふる力弥が、その時一体どんな表情をしていたのか。僕自身見てみたかった。そこで役者さんはいつも通りに演じてもらい、それをいつもの客席からは見られない角度で撮る。先日の『紀尾井町家話』で松緑さんが話されていた言葉ですが「最高の客席は、隣にいる共演者の場所」ですから。​
第二回「四段目」は、染五郎さんの力弥の美しさも話題に。
ーー今週の声が、来週の演出を変えていくのですね。それが間に合うことに驚きもあります。
先ほど猿之助さんとの打ち合わせでは来週の美術に変更が出ました。大道具さんに慌てて連絡したら「大丈夫です。明日つくるんで!」と(笑)。今回の『図夢歌舞伎』では、通常の興行と同じ歌舞伎座舞台(大道具)、歌舞伎座照明部、松竹ショービズスタジオ(音響)がいて、衣裳、床山、小道具に至るまで、歌舞伎を作ることにおいてはプロの集団です。役者も我々もギリギリの進行にも臨機応変な対応にも慣れている。そこはある意味いつも通りだけれど、結局みんな演劇が好きだから、直前まで「こうすればもっと良くなる」の試行錯誤を重ね、準備をしています。​
ーー「生配信」(正確には、収録した映像と生を組み合わせる「半生配信」)にこだわるのはなぜでしょうか。
やはり緊張感です。幸四郎さんのお芝居も緊張感も生だから違いますし、全スタッフがその緊張感の中でやる。「すみません、かえしお願いしまーす」「テイク2でーす」とやるのとはまるで違います。120点もあれば0点もありうる。リスクを伴ってでも生の緊張感をとるのは、結局、我々が生のお芝居が好きだからでしょう。図夢歌舞伎を楽しんでくださっているお客様もその現場の緊張感を想像し、楽しんでくださっていたらいいですね。
(ここで広報担当者より「チャットで参加という意味合いで『双方向』『お客様参加型』と思っていたけど、配信を見たお客様の声がすぐ翌週の作品に反映されていくという意味では、まさに江戸時代の芝居づくりさながらの参加型だね! 伝統に倣ってるのね!」と感想の言葉。)
それを感じていただけたら嬉しいですよね。歌舞伎は、初日が開いてからお客様の反応をみて演出を変更することがある。「三日御定法」などと言われることもありますが、今から40年ほど前は、初日が開けたら時間が収まらず、終演時間が23時を過ぎてしまい、やむをえず途中で打ち切り。翌日に場面を大幅にカットしたら、前半の場面が大幅に早まって出番に間に合わなかった役者さんがいたとか。昔はお客様も我々も大らかだったのかもしれませんね。
今しかできないものに幸四郎さんが、猿之助さんが、これだけ本気で向き合ってくれています。我々もなんとかお客様に、価値を感じていただけるものを届けたいと取り組んでいます。今こそ、今しかできないことでもありますから、お客様にも「こうしたらもっとおもしろいんじゃないか」というご意見は、どんどんお寄せいただきたいです。
第一回「三段目」の稽古風景。高師直を勤める幸四郎と、現場を回す戸部(手前)。
■やっぱり歌舞伎が好きだよね
ーー今後の見どころをお聞かせください。
「四段目」では判官の様式的な切腹がありました。「五・六段目」(7月11日配信)は同じ切腹でもまるで雰囲気の異なる、早野勘平の、庶民の切腹があります。猿之助さんは関西の型で勘平を演じるところも見どころです。「七段目」は、映像ならではのサプライズを計画中です。「九・十一段目」(第五回 配信)まで見たら「また最初から見たい!」と思っていただけるものを目指します。通して、アーカイブをご覧いただける機会を作れたらいいですね。​
ーーありがとうございました。最後に一言お願いします。
視聴を楽しんでくださっている方々も、根底には「歌舞伎座で生の歌舞伎が見たい」という思いがあるはずです。我々も、できるなら歌舞伎座で生の歌舞伎をやりたいしお見せしたい。それが叶うまでは、お客様、役者さん、我々の「やっぱり歌舞伎が好きだよね。お芝居が好きだよね」という思いをつなぐツールとして、図夢歌舞伎、歌舞伎家話、紀尾井町家話をお楽しみいただければ幸いです。
「最終的にはコロナの影響を受けた世相を内容にも当て込んだ、新作の弥次喜多をやってみたいですね」(戸部)
取材・文・写真撮影=塚田史香

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