コーヒーゾンビにWiFiゾンビ ジャー
ムッシュ風味で原点回帰する『デッド
・ドント・ダイ』#野水映画“俺た
ちスーパーウォッチメン”第七十七回

TVアニメ『デート・ア・ライブ DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス 怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。
(c)2019 Image Eleven Productions, Inc. All Rights Reserved.
コロナ禍の影響もあり、以前に比べれば少なくはなったもののの、東京はまだまだ人が多い。こと最近は歩きスマホで、人にぶつかっても全く意に介さない人もいるもんだから驚いてしまう。謝ることもなく、こちらの姿が見えていないのかと思うほど、何事もなかったかのようにまたフラフラ歩いてゆく……そんな人々を揶揄する“スマホゾンビ”なる現代語も生まれてしまう昨今、我々はもしかしたら、意識の死へ向かっているのかもしれない。
そんな人間社会に対するピリリと風刺を効かせた、ジム・ジャームッシュ監督によるゾンビ映画『デッド・ドント・ダイ』が絶賛公開中だ。
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アメリカの田舎町・センターヴィルで、突如動物たちが異常行動を取り始め、ダイナーでは内臓を食いちぎられた変死体が発見される。墓地から蘇った死者たちが、住民を襲い始めたのだ。ロバートソン署長、ピーターソン、モリソンら町の警察官は武器を手に、たった3人でゾンビと戦うことを余儀なくされる。
ジャームッシュ風味でロメロゾンビへ回帰 
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“ゾンビ映画”を一つのジャンルとして確立した作品といえば、ジョージ・A・ロメロ監督の『ゾンビ』(78)だろう。ロメロ監督は、消費社会やそれに疑問を持たない人間への風刺を込めて、ショッピングモールに群がるゾンビを描いていた。
本作『デッド・ドント・ダイ』は、そんな風刺の効いたロメロ監督作品へのオマージュが込められているという。たとえば生前の習慣を繰り返し続けるゾンビたちのシーンだ。しかしロメロ監督のゾンビと違い、彼らは人肉よりもコーヒーやWi-Fiなど、自分にとっての必需品を探してさまよう。のろのろと徘徊するその様は滑稽で、なんだか可愛くも見える。ピーターソンもそんなゾンビをすぐに受け入れ、怖がりもせずぶち殺してゆく。どこかゆるふわ〜なゾンビとゆっくり目のテンポ感は、これまでのゾンビ映画とは一線を画している。
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ゾンビ映画といえばコメディであっても、ゾンビの登場にパニックが起きてんやわんやするものだが、本作では、ゾンビも人間を襲う野犬くらいの扱いで進んでゆく。これまでも淡々とした日常を描き、感情をあまり強く出さないオフビートなお芝居の作品を撮ってきたジャームッシュ監督らしい作品なのではないかと思う。
シュールすぎるキャラクターたち
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豪華キャスト陣が演じるキャラクターも、不思議な存在ばかりだ。主役のロバートソンとピーターソンは終始真顔で、二人の会話も噛み合っているのかわからないシュールさがある。
極めつきは、ティルダ・スウィントン演じる謎の葬儀屋ゼルダ・ウィンストン。本人をもじった名前からしてふざけたゼルダは、死体に派手な死化粧を施し、日本刀を帯びるぶっ飛んだキャラクターだ。これまでにも浮世離れしたキャラクターを数々演じているティルダ様ではあるが、ゼルダは独自の道を行き過ぎていて、主人公たちにどう絡んでくるのか最後まで読めなかった。それなのにクライマックスで彼女が引き起こす展開は斜め上を行きすぎていて、思わず笑ってしまったよ!
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ともすればコメディに思える本作だが、観終わってみると、「ただのゆるふわゾンビ映画ではなかった!」と感じるポイントが多々あるのだ。白人至上主義なおじいちゃんに、ラジオから流れるゾンビの発生原因についての論議など、ジャームッシュ監督流の社会風刺なのではないかと推察できる描写が細かく散りばめられていた。冒頭でも書いた“スマホゾンビ”や、差別、無関心な人々…そういう視点で振り返ると、本作はまた違った表情を見せてくれる。

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もちろんそんな細かいことを気にせずゆるふわゾンビ作品としても楽しむも良し。しかし私は、観終わった後にあれこれ考察しながら帰路に就くのが楽しかったので、良ければ皆さんも反芻してみてほしいと思う。
追伸:現実にゾンビはまだいないが、劇場に足を運ぶ際はどうかウイルス感染予防の自衛に努めて向かってほしい。
『デッド・ドント・ダイ』は、公開中。

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