おすすめ書籍:「日本列島蝦蟇蛙」ジョージ秋山(画像は1977年、単行本初出時のサンコミックス版/朝日ソノラマ 絶版)※現在はeBookJapan Plus発売で、電子書籍版(1)~(2)が各電子書籍スタンドで発売中

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ロマン優光のさよなら、くまさん
連載第162回 ジョージ秋山死去 ジョージ秋山先生が亡くなったという。こちらとしては死んだと言われても、狐につままれたような気分だ。あのジョージ先生が亡くなってしまうなんて。先生の数ある特異な作品の中でもとりわけ特異な作品・『告白』。『告白』中では主人公であるジョージ先生本人が「真実」を告白するたびに次の話では全てが覆されるということが繰り返されていたわけだが、今回の訃報もそういうジョージ先生の仕掛けなのかもしれないという思いが浮かんできてしまう。自伝的作品『WHO are YOU―中年ジョージ秋山物語』の中でも、嘘とも本当ともつかない先生の当時の日常や過去の回顧が語られていたわけだが、ジョージ秋山という漫画家は本人自体が虚実の皮膜の上で存在しているような人だった。
 自分が最初に読んだ先生の作品は父親が一冊だけ所有していた『ほらふきドンドン』。学年は覚えてないが小学校の低学年の時だ。普通に面白いギャグ漫画だと思ってたら、ドンドンの遺言状を読んでドンカンが泣く話がとても泣かせる話で、その最終コマだけ記憶にこびりついてる。
 第二ジョージ体験は、父の『ビッグコミックオリジナル』に載ってる『浮浪雲』になる。この時期に読んだのか、もっと年をとってから読んだのか今となっては定かでないが(といっても、少年期だったのはまちがいないと思う)、忘れられないエピソードがある。主人公・雲の息子の新之助(年齢的には小学校の高学年)は遊び人の父に似ず生真面目な優等生なのだが、その新之助が主人公の話だ。嫌われもの女の子に女性器を見せてあげると誘惑された新之助が、その子のことを普段うとましく思っているのに誘惑にのってしまう。女の子の家で全裸の女の子といるところに、女の子の父が帰ってくるのだが、女の子が「無理矢理やられた」と父に言ったため新之助は殴られてしまう。そんな話だ。性的誘惑で人の気を引こうとしたり、自分の身を守るために嘘をつく女の子の弱さからくる悲しさも、新之助の好きでないのに誘惑にのってしまう弱さも何だか怖く、その上にそこで描かれている性的なものの生々しさもあって、なんだかうなされてるような気分になり、あれがトラウマになっている。
 高学年になり『週刊少年ジャンプ』を読むようになっていた自分は『海人ゴンズイ』に出会うわけなのだが、大人の漫画を描いている先生が少年誌で連載を始めることにすごく衝撃を受けた。昔は子供漫画を描いていた人がベテランになると大人漫画を描くようになるみたいな思い込みがあり、大人漫画の人は子供の漫画を描かないと思い込んでたのだ。ゴンズイは面白かった。友達の間でも、ゴンズイの発する「アチョプ」という言葉を発するのが流行っていた。しかし、ゴンズイはすぐ終わってしまったので驚いた。当時の自分はジャンプで自分の好きな漫画がすぐ連載終了してしまうのを不思議に思っているバカな子供だった。人気投票システムの存在にすら気づいてなかったのだ。あと、ゴンズイの影響で創作物に出てくる狂女にやたら吸い寄せられる体質になってしまった。
 その後、復刻した『アシュラ』や人の持ってた『銭ゲバ』を読んだりしながら大人になり、二十歳の頃には「お前は『日本列島蝦蟇蛙』のような人間だな」と先輩(Fuckerという人)に言われるような人間に成長していた。成長というか全然褒められていないわけだが。まあ、そういう性的に不充足で陰湿でうだつのあがらない粘着質な若者だったということだ。その頃の自分はアシュラや蒲郡風太郎や毒薬のような暗い情念を身近なものとして感じていた。後年、『恋子の毎日』で脇役として知った毒薬が『オリは毒薬』で主役として現れた時、嬉しかったことを覚えている。
 ジョージ先生は人間の醜い心や暗い情念を描いてきた漫画家であるが、『浮浪雲』のような作品が嘘であったかというとそうでもない。ジョージ先生は愛と救済の作家だ。暗い情念や欲望に突き動かされる人間を描きながらも、彼らは常に救いを必要としている。人間には醜い欲望や情念、卑劣さが確かにあるのだが、それだけでは生きられない。それだけでは不幸になるだけだ。人には愛が必要だ。他人に愛されることだけをどんなに求めていても、なかなか報われはしない。それでも人には愛が必要であり、その先に救いがあるそういう作品をジョージ先生はたびたび描いていた。先生は愛の人であり、魂のふるさとである。
 あまり言われないことだけど、ジョージ先生の描くキャラは可愛い。普通に作品中で可愛いという設定になっているキャラだけの話ではない。デロリンマンもアシュラもゴンズイも毒薬も禍々しいと同時にマヌケな可愛さに溢れていて凄くポップだと思う。それで思い出したのが感覚ロヂックという地下アイドルグループの死灰スミレさんというメンバーのことで、世の中のアイドルの大半は「作画・吾妻ひでお」「作画・江口寿史」といった感じなのだが、彼女は見るたびに「作画・ジョージ秋山」という言葉が浮かんでくるような禍々しさとマヌケな可愛さで形成された珍しい地下アイドルだ。
 未だにジョージ先生がこの世界にいないということに不思議な感覚しかない。今いる世界が実は先生の新作の中の世界であり、次回には先生があらわれて、また新しい告白が始まるような気がしてならないのだ。
(隔週金曜連載)
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