【亜無亜危異 インタビュー】
反体制じゃなかったら
ロックじゃねぇだろ
表現は自由じゃなきゃつまんねぇし、
やっぱりポップなものだと思う
(笑)。いや、今も十分に二枚目だと思います。で、先ほど、藤沼さんが“分かりやすい”と言われましたけど、メロディーは本当に分かりやすくて。この辺は意識せずとも出てくる感じでしょうか?
藤沼
いや、実はメロディーってそんなに染み付いてないんですよ。いわゆるロック的ではないというか、こういうメジャー感の強いメロディーってあんまり俺の中にはないから、『パンクロックの奴隷』の辺りから意識して取り入れようとしてて。ラジオで聴いても一発で分かるようなファーストインパクトがあればいいなというところがあったんで。
ポップなものを…という意識があったということでしょうか?
仲野さんはそういう分かりやすいメロディー、ポップなメロディーを歌ってみてどうですか?
仲野
そういう意味で言うと、俺も意外にメロディーのヴォーカリストじゃないから、なかなか…ね。だから、今回のレコーディングは大変だった。伸一も寺岡も俺のケツを引っ叩いて、“ちょっとここ上がってねぇか?”とか言ってくるしさ(苦笑)。
藤沼
とはいえ、茂はメロディーのある曲は好きみたいで、俺のところにこっそり“こういう曲をやりたいんだけど”ってメールしてくることもあるから(笑)、そういう意見を聞きつつ、茂の一番良さそうなキーを選んでコードを付けたりして、いろいろ気を使ってやってます。
初期パンクにもメロディーがポップでキャッチーなところはあったと思うんですけど、ここに来てみなさんがその辺をやるというのはちょっと面白いですね。
藤沼
あとね、だいたいそこに普通の歌詞が乗るじゃないですか。そうではなくて、そこにキツい歌詞を乗せるのが俺は楽しくて。忌野清志郎さんたちがTHE TIMERSでやっていたことって、見ていて小気味良かったんで。
これを“反体制”と言っていいかどうか分かりませんが、歌詞には徹頭徹尾そういう方向が貫かれてますよね?
藤沼
歌詞も俺が一応書いてるんだけど、それをメンバーに見せて進めましたね。
仲野さんは藤沼さんから最初に歌詞を受け取った時はどう感じましたか?
仲野
俺の中でポップスとロックには差があってさ。やっぱりロックというのは…それはもちろんパンクも含めて、“反体制じゃなかったらロックじゃねぇだろ”という想いはずっとあるから。
今回の歌詞もロックらしく、パンクらしいものだと解釈したということですか?
仲野
もちろん、ボブ・マーリーやジョン・レノンみたいに“LOVE&PEACE”な人がいてもいいけど、俺たちはやっぱり反体制というか。名前も亜無亜危異(=ANARCHY:無政府状態)だからね。何かそれに沿って、また全うしていく感じ。バンドのイメージも含めて、そういう分かりやすさというかね。
これは私の解釈かもしれませんが、反体制であっても反現政権でもないし、その逆の反アンチ現政権でもない。その立ち位置がどちらに寄っているわけではないところは抑えていないといけないポイントだと思いました。
藤沼
これは俺の個人的な考えなんですけど、政権っていつの時代にもあるじゃないですか? 今回、「総理大臣」でも書いたんですけど、政権っていうのはサンドバックなだけで、いつの時代も叩かれるものなんですよ。その後ろ側に政治を動かしているものがあって…例えば、企業や団体があって、俺は“そこに目を向けてね”っていうメッセージを入れたんで、結局は反権力ではあって。政権って“ほら、みんなでここを叩きましょう”ってものだと、前から俺は思ってるんですよ。だから、“安倍ちゃん叩き”じゃなくて、“安倍ちゃん叩き”プラス“その後ろで動いてる奴にも目を向けたほうがいいんじゃないの?”というのが俺の考え。
「洗脳ごっこ」には《左も右も〜》や《上から下から〜》という歌詞もありましたけど、どちらかの立場にいるんじゃなく、それを俯瞰して見ているような感じですよね。加えて言うと、そこでシリアスに迫るのではなく、ユーモアセンスを効かせているところが非常に大きなポイントだと思います。
仲野
ずいぶん昔からさ、伸一とはそういうところでいつも意見が合うんだよね。“天邪鬼”という言葉があるけど、世の中が左を向いた時には右にいて、右を向いた時には左にいるっていうね。俺のイメージではさ、ロックが左で右だと右翼とかいうことじゃなくて、ロックってもっと自由というか。天邪鬼ってめっちゃ楽しくて、結構孤高というかさ。それがこの歳になって確信的に作れているのってめっちゃくちゃ楽しいよね。
藤沼
今、茂が言ったことにプラスすると、だからこそコミカルというか、ちょっとふざけた感じの要素があるほうが俺は好きで。真面目に反政権を語っている奴ってつまんねぇんだよ(笑)。
藤沼
話を聞いていてもつまんない。“だから?”って言いたくなる(笑)。俺はユーモアがねぇ奴には全然聴く耳を持てないんで。ロックバンドってすげぇ自由で…これは泉谷しげるが言っていたんだけど、“歌の中なら人を殺せるんだから”って。その“歌の中は何でも自由だ”って言われたことは、やっぱり俺の中にあるから、もし自分の作った歌が誰かに怒られたら“だって、歌ですもーん”とか言って誤魔化せばいいし、歌ってるのは茂だから“文句はこいつにどうぞ”って言うよ、俺は(笑)。
仲野
ははは。でもさ、表現って自由じゃなきゃつまんねぇし、伸一が言ったみたく、やっぱりポップなものだと思う。面白くねぇものはさ、面白くねぇわけで、大事なことはみんなが聴いてくれたり、観てくれたりすることだから。俺たちもミュージシャンになりたくて、自分たちがやりたいことにハマっていった時期もあったけど、そうじゃなくて、みんなが聴いてくれて観てくれる…ベタな言い方をすると、“売れる”ということも大事。そう思うよ。
みんなが聴いてくれて、観てくれるということは、ポップさもユーモアも含めて楽曲をみんなで共有したいという意識があるからなんでしょうか?
藤沼
どんなふうにとらえてもらってもいいんですけど、入口としてポップやユーモアがあれば入りやすいじゃないですか。そこが狙い。あとはそれぞれが解釈したり、遊んだりしてくれればいいと思ってます。
アルバムタイトルが“パンク修理”で「ノー天気の子」なんて曲もありますから、もう入口はばっちりだと思います。