濱津隆之・佐伯さち子・水谷圭一&見
届け人・天久聖一! ~ミズタニー『
米つぶサイズの地球』上演記念座談会

かつて、唯一無二の面白さをもつ「野鳩」という団体を率いていた水谷圭一が、劇団解散後の2017年に始めた演劇ユニット「ミズタニー」。その作品はこれまで、コント2組、演劇2組が30分ずつの持ち時間で作品を披露するイベント「テアトロコント」内でしか観ることができなかった。立ち上げから3年、満を持して本公演であるテアトロコントspecialミズタニーのベストセレクション『米つぶサイズの地球』が行われる。これまで作ってきた短編3作に新作を加えた構成になるという。この本公演を前に、水谷をはじめ、大学時代から水谷作品に出続けている女優・佐伯さち子、「野鳩」後期から出演し、大ヒット映画『カメラを止めるな!』で主役を演じ一世を風靡した濱津隆之を迎え座談会を行った。さらに、10年の長きにわたって水谷作品を見続け、今回公演チラシのイラストも手がけたマンガ家の天久聖一も〈見届け人〉として緊急参戦。この豪華な面々に、ミズタニーの作品の魅力について語ってもらった。
(左から)水谷圭一、天久聖一、濱津隆之、佐伯さち子
■唐組、NODA・MAP、そしてミズタニー?
—— 天久さんはいつ頃から水谷作品をご覧になっているんですか?
天久 いつだったかな。
水谷 僕は覚えてます。ガーディアンガーデン演劇フェスティバルに出た時、珍しいキノコ舞踊団の制作をやっていた大桶(真)さんが呼んでくれた、
天久 10年以上前だよね? 大桶くんに「面白そうな人たちがやってるから見に来れば?」と誘われて行ったんですよね。
水谷 本当はその前にもう1ステップあって。元WAHAHA本舗の村松(利史)さんが一時期うちを観に来てくれていたんです。「絶対天久くんが気に入るよ!」って言ってくれるのに、全然呼んでくれなくて。その話を大桶さんとしたら、ようやく天久さんに伝わったという。
天久 新しい劇団はだいたい村松さん経由で知ることが多いんですよね。
水谷 いまだにそうですよね?
天久 地蔵中毒もそうだった。
天久聖一
—— そのとき野鳩を観て、気に入られた?
天久 うん。すごく面白かったですね。何が面白かったのかいまだにわからないけど……。
水谷 最初に観てくれたのは『お花畑でつかまえて…』ですよね。
天久 そう。ラストが菜の花畑で、佐伯(さち子)さんが制服で出てた。
佐伯 はい。
水谷 男の子がある朝目覚めたら女の子の体になっていて、その男の子が片思い中の佐伯と同性として仲良くなって……という話でした。
天久 水谷くんの特徴である独特の間とか、書き割り的な世界観とかがもうそこにあったんですよね。二次元をそのまま立体にした感じのテイストがすごく珍しいなと思った。あと、僕本職がマンガ家なんですけど……。
水谷 もちろんみんな知ってますよ!
天久 そういうマンガ的な味わいがあったんですよ。あまりエモーショナルでもなく、汗くさくもない。藤子・F・不二雄っぽさがあって好感がもてた。面白いなと思いましたね。
—— そんな理解者を得つつも、一度の休止を挟んで野鳩は2016年に解散。そこからミズタニーとして再び演劇をやることになった経緯はどんなものだったんですか?
水谷 解散するときは先のことは一切考えてなくて。当然僕自身もしばらくは演劇をやらないんだろうなと思っていたんです。でも渋谷コントセンターさんから「テアトロコントに出てみませんか?」とお声がけいただいて。「テアトロコント」は持ち時間が30分なので、その長さならできるかなと思ったんです。自分だけでやるのと比べたら制作や広報も軽減されるし、芸人さんとも競演できるし……と。
水谷圭一
—— そこで、「ミズタニー」という名前をつけて再始動を。
水谷 この名前も、「ちゃんとやるぞ」とスタートするときつくなりそうだなと思ったので、いつでもやめられるくらいの感じで、気負った名前をつけないでおこうと思った結果なんですよね。
—— 再始動に関して、佐伯さんと濱津さんは連絡を受けたんですか?
佐伯 私はミズタニーの第1回に出ていないので、とくに連絡はなかったです。ただ、「またやる」ってことは聞いて、すごい変な団体名になったなあって思ってましたけど……。
天久 「自分の名前かよ~」って(笑)?
水谷 でもさ、演劇って、一回解散したあとのユニットには主宰者の名前をつける流れがあるじゃん。唐組とかNODA・MAPとかさ。
佐伯 でかいところと並べすぎじゃない?
天久 どこと並べてるんだよ!
濱津 そこと並べてたんだあ……。
濱津隆之
■「最初からうまかった」濱津隆之と水谷作品との出会い
—— 佐伯さんはかなり長い間、水谷作品に出ていますよね。
佐伯 そうですね。
水谷 大学の時からですから20年以上。
—— 一方、濱津さんは野鳩が一度休止したあと、再始動してから参加されるように。
濱津 はい。オーディションに行ったんです。
—— 野鳩を観て、面白かったからオーディションを受けたんですか?
濱津 「この劇団面白そうだな、オーディションを受けてみようかな」と思ったのが先です。そしたらオーディションの条件に「野鳩を観たことがある人」というのがあったので、すぐに観に行きました。
水谷 観に来たのは古民家を借りてやった『自然消滅物語』のときだよね。
天久 野鳩のどこが気に入ったんですか?
濱津 (ワタナベ)ミノリさんと加瀬澤(拓未)さんの二人が、「(チラシが)貼ってあった」「貼ってないです」って言いながら部屋のまわりの回廊をずーっと一周するシーンがあって。一周して終わるかなと思ったらまた一周して戻ってきたんですよ。たった二言を繰り返して歩くだけ、こんなことでこんなに時間を使うんだ! って。そんな芝居、観たことがなかった。
天久 濱津くんがオーディションを受けに来たときの印象ってどうだったの?
水谷 当時は劇団員と一緒にオーディションをやって、みんなで相談して決めていたんですよ。僕、実は濱津くんにあんまりピンときてなくて。でも周りが「あの人は絶対面白いよ」って、しまお(まほ)さんも含めて。
濱津 しまおさんいましたっけ?
佐伯 濱津くんがきたのってその前じゃなかった?
天久 しまおさんじゃないとしたら、俺じゃない? 濱津くんを推してたのは。
水谷 自分が見つけたことにしたいんですか(笑)。
天久 最初に観た時から面白かったからさあ。
水谷 とにかく、みんなが「あの人は絶対面白いよ」って言うから「あ、そう?」って。
佐伯 私は激推しだった。だってすごい、ほかの人に比べて上手だったもん。
水谷 上手(笑)。
—— 佐伯さんは特にどのあたりが濱津さんの激推しポイントでしたか?
佐伯 何よりも水谷くん演出を、言われた通り、そうしてほしいようにできていた。だから「この人はほかの人と違うな」と思いました。
佐伯さち子
水谷 僕の演出って振付みたいに、役者に毎回同じ動きを求めるんですよ。そういう演出って、とくに人によって合う合わないがあって。だからオーディションでもいつも合う人を探すのに苦労するんです。そう考えると、濱津くんは最初からハマっていたなと思います。
濱津 僕はぜんぜん手応えがなかったですけど……。
一同 (笑)
濱津 オーディションの内容からしてちょっと変わってて、「髭を剃りながら歩く動きをしてみてください」とか「タップを踏んでみてください」とか。
水谷 「途中でシェイバーを充電して!」とか、存在しないシェイバーの扱いを指示したりして。
濱津 僕はただただ言われるがままやっていたので、手応えなんてゼロでした。
天久 水谷くんの作品って、たぶん「面白くしよう」と狙っちゃだめなんだろうね。
水谷 そうですね。
天久 水谷くんは、じゃあ稽古とか本番で濱津くんのよさに納得した感じだったの?
水谷 やっぱり面白い人って筆がのるから、その人のシーンが自然と増えていくんですよ。結果的に濱津くんが引っ張るシーンが公演であったから、やってみて「やっぱりよかったんだな」って気づきました。
(左から)水谷圭一、天久聖一、濱津隆之、佐伯さち子
■今回やるのは「降りてきた」ほうの作品
—— ミズタニーの第1回作品は、野鳩時代の作品のリバイバル的なものでしたね。
水谷 本当は新作を作ろうと意気込んでいたんですけど、稽古場で試しても試しても新しい何かが立ち上がってこなくて、1回目は堅く置きに行こうと。自分にも自信をつけさせてあげたい。「演劇は楽しいんだよ!」と自分に魔法をかけたい。そんな思いで結果的に、前半は野鳩でやった演目を流用し、後半は口立てで稽古場で作った小品を並べて逃げ切ったという……。
一同 (笑)
—— でも野鳩のエッセンスを凝縮したような30分でしたよね。
天久 そのまんまだったからうれしい反面、新しいのも見たかったって気持ちもあったよね。
水谷 だから2回目はとにかく自由に作ろうと。そしたら客席の反応がとっても静かで……。そこから意識が変わりました。「テアトロコント」には自分たちのことを知らない人たちがいるし、笑いを求めて見に来ている人が圧倒的に多い。だから、それまで手段だった「笑わせること」が、3回目以降は目的に変わりました。今回『米つぶサイズの地球』で上演するのは3回目と4回目のものなので、非常にいい状態の時に作ったものだと自負しています。天久 3回目って「こんにちはオリバー」をやった時か。あれ面白かったよね!
天久聖一
—— 3回目には濱津さんと佐伯さんのお二人とも出演されていますが、この作品の感触はどんなものでしたか?
佐伯 いつも、すごく長い時間をかけて作品を作るんですよ。最後まで、「明日が本番」というその日まで、いいものが降りてくるのを待つんです。……で、結局降りてこなかったこともある。
水谷 なんでそんな話するの!?
佐伯 この時は最後の最後に降りてきた回でした。
天久 降りてくるっていうのは、オチのアイディアがってこと?
佐伯 そうです。
天久 え、あのアイディアがないまま突っ走ってたの!?
水谷 そう……ですね。
天久 すごいな!
水谷 今回再演するものは全部、オチを決めずに稽古場で口立てで、その瞬間瞬間で作ってるんです。
天久 オチもないのにあれやるの、恐怖だよねえ?
佐伯 そのまま最後まで行っちゃうときもあるので。
天久 不安じゃない? これ笑えるものになるのかな、とか。
濱津 まあ、でも……。
天久 「俺のせいじゃない」?
水谷 なんだろう、濱津くんなんて言ってくれるんだろう。
天久 「俺が笑わすから大丈夫」?
濱津 自分は不安とかはないんですよ。
佐伯 信頼があるなあ!
濱津 信頼しているから不安というわけではなくて。
水谷 違うのか!
濱津 別に、できあがらないまま行くということはまずないから。絶対、できあがることはできあがるので。
濱津隆之
—— この認識の違いは、お二人の水谷作品との関わりの差でしょうか?
水谷 同じ作品に出てるはずなのに!
佐伯 ハズレの演目に出てないのかもしれないね。
水谷 ハズレって言うな(笑)! でもまあまあ濱津くんもハズレはひいてるよ。
濱津 未完成のままってことはないじゃないですか。完成は、するじゃないですか。
佐伯 ああ、内容どうこうではなく、終わればいいんだ。
水谷 終わればいいって!
天久 でも確かに、オチがなくても成立する芸風ではあるよね。「何もなかったわー」って。
水谷 何もなく終わることってあるっけ?
佐伯 うん、けっこうな痛手を負ったことも……。
水谷 でもなんか、それなりにこしらえるじゃん!
天久 さんざんミニマルな同じことをぐるぐる繰り返しているときがあるじゃないですか。それで結果何もないからびっくりするときありますよね。
水谷 この話やめよっか(笑)。
水谷圭一
—— でも、水谷さんとしては、今回本公演で再演する作品はどれも「降りてきた」し、手応えのあるものなんですよね。
水谷 そう思うし、お客さんの反応もよかったですし。よかったよね?
佐伯 よかった。
天久 なんで新作をやらないの?
水谷 「テアトロコント」って金土の2ステしかないので、観ている人が少ないんですよね。だからこういう面白いことをやってるんですよっていうことを、まだ見てない人に見てもらいたい。
天久 最高に置きに行ったやつ(笑)。でも初めて観る人にとっては、間違いないからいいですよね。
■ミズタニーの作品=マンガ、ダンス、テクノ?
—— 天久さんが考えるミズタニーの魅力って、改めてどんなところですか?
天久 いわゆる「お笑い」の笑いはみんなで共有する、会場全体が一緒のタイミングでばっと笑えるもの。でも水谷くんの芝居は、一人ひとりが「これ、俺にしかわからないだろうな」という感じで笑えるんですよ。
水谷 マンガ読んでるときって自分のペースで個人的に笑うじゃないですか。それに近い。笑わそうと思っているものじゃなくて、本人はそのつもりがないものを見て笑うのが一番楽しいと思うから、演出をつけるときも「結果的に面白くなっちゃいましたっていうふうにしましょうね」って言う。
天久 そういうのは伝わるの?
佐伯 そうですね。すぐ言われるので。「(面白くしようとしているのが)見えてるよ」って。「あっ」と思って。
佐伯さち子
水谷 笑わせようとしている演技って印がついているみたいで。観るたび「印!」って思うんですよね。
天久 今やってる!って。
水谷 見つけたよ!って。現行犯で、今やったよね!って。面白がらせようとしていることをバレたくない。なんかそもそも演技していることすらバレたくないっていうか、本当なら。究極のことを言えば。
—— 濱津さんは、いろんなお仕事のなかで水谷さんの作品をどう捉えていますか?
濱津 全然違いますね。野鳩もそうですけど、ミズタニーは……。野鳩……ミズタニー……。
水谷 どうした、迷っちゃった?
濱津 他の映画やドラマには共通するものがありますけど、水谷作品にはここでしか使わない筋肉がある。そういう感覚です。
—— 他に応用できない。
濱津 そうですね。だから面白いんですけど。水谷さんと出会う前は、比較的オーソドックスな芝居にしか出ていなかったから。
天久 水谷くんの芝居で初めて濱津くんを見たから、すごい変な人だなって思ってた。でもこうして活躍してる姿を見たら、あの変な演技をやってるのは水谷くんの舞台だけなんだよね。
水谷 本当に、他ではちゃんといい作品に出ててよかったなあって思います。だけど、濱津くんの面白さを最大限引き出してるのは僕なんで!
濱津 はい(笑)。
—— 長年携わってきた佐伯さんが感じる水谷作品の魅力はなんですか?
佐伯 ずっと中にいたので、客観的なことが捉えられていないんじゃないかと自分では思っているので、見てくれた人の感想をかきあつめて、なんとなく野鳩像、ミズタニー像を作ってきたんですけど……。
水谷 答えを出すのにすごい苦しんでる?
佐伯 そう。たぶん捉えられてないんだよね。あ! ……わかんないです。
一同 (笑)
水谷 えー! なんか言ってよ。
佐伯 私は、濱津くんの言う「ふだん使わない筋肉」、そればっかり鍛えてきたんだなあってことは思います。
天久 水谷くんって愛知出身で、同じ地元に天野天街さんが主宰する少年王者舘がある。彼らはミニマムな、同じことを繰り返すダンスですよね? そこに共通点があるよなって思っていて。水谷くんの芝居を観ているとこれダンスだなって思うことがあって。あるいはテクノの曲みたいな、音楽的なところがあるなと。ハマると気持ちいいけど、ハズすと退屈なところも含めて(笑)。
水谷 たしかに。
天久 でも、稽古を積んで初めて生まれる間合いやニュアンスがある。長時間をかけないとああいう味は出ないのかなって思います。だから、元は取れないだろうな~って観るたび思う。こういうことをやっている人がいることを、大勢に知ってもらいたいですね。
(左から)水谷圭一、天久聖一、濱津隆之、佐伯さち子
この座談会は2月末に行われました。そして後日、水谷さんから以下のコメントをいただきました。

多くの演劇、お笑いライブの公演中止が発表されました。この記事が公開された今も、それは続いているかもしれません。そして自分たちも例外ではありません。
でも、世の中の状況が大きく変わらない限り、ミズタニーは公演をおこないます。
みなさんに楽しんでいただくため、稽古と準備を重ねています。
空席はまだまだあります。自身の体調と気持ちを確認し、ご来場いただければと思います。
話は変わりますが、ミズタニーでは稽古場の様子をtwitterでお伝えしています。
当初、仕事で濱津くんが参加できない日が続いたので「#濱津はいない」というハッシュタグを付けています。実はこの一連のツイート、普通の稽古場日誌に見えて「ある仕掛け」があります。1日目までさかのぼり、ツイートのすべての写真を拡大してすみずみまでご覧ください。
ハッシュタグ「#濱津はいない」で検索を。それでは、劇場でお待ちしています。

水谷圭一
取材・文=釣木文恵  撮影=敷地沙織

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