糸井幸之介×土屋神葉×上西星来に聞
く~1組の男女が時も性別も超え、何
役も演じる音楽劇『春母夏毋秋母冬母
』待望の再演

2018年5月にFUKAIPRODUCE羽衣の第23回公演として初演され好評を博した『春母夏毋秋母冬母』が、2020年2月にCBGKシブゲキ!! にて再演される。作・演出・音楽の糸井幸之介による二人芝居の音楽劇で、2人の男女の俳優が、母と子や恋人同士など、時や性別を超え様々な役を演じながら、愛と闇を演じていく物語だ。初演は深井順子(FUKAIPRODUCE羽衣)と森下亮(クロムモリブデン)が出演し、今回は初演のオリジナルキャスト2人に加え、土屋神葉(劇団ひまわり)、上西星来(東京パフォーマンスドール)が新たにWキャストで出演する。また、今回は新たな試みとして、深井✕森下のオリジナルキャスト、土屋✕上西の新キャスト、森下✕上西、深井✕土屋の新バージョンと、全部で4パターンのキャストで上演される。

この公演に向けて、作・演出・音楽の糸井と、新キャストの2人、土屋と上西に今の思いを聞いた。
「糸井さん100%の舞台に出たいと憧れていた」(土屋)
ーー『春母夏毋秋母冬母』は、2018年の初演時に非常に好評を博した公演ですが、糸井さんご自身は周囲の反応や評判など、どのように受け取られていましたか。
糸井:周りの評判もよさそうだなということは感じました。私自身も非常にしっくりと楽しく作れた作品で気に入っていましたし、大切な作品だと思っています。
ーー2年以内という、比較的短いスパンでの再演となります。
糸井:そうなんですよ、すごい立派な舞台美術を作ったんですけど、再演があるとは決まっていなかったからそれも壊しちゃって、また作り直さなきゃいけないんです。金井勇一郎さんという舞台美術家の大御所が手掛けてくださったんですけど、まるで子供のようにのびのびと作ってくれて、子供心そのままみたいな感じで素敵な舞台美術なんですが、先日お会いしたら「パーッと思いつくまま作ったから、再現できるかな?」って言ってました(笑)。
ーー土屋さんと上西さんは、今回新しいキャストとして演じることが決まった時はどんなお気持ちでしたか。
上西:二人芝居には初挑戦なので、どんなふうになるのか想像がつかないです。初演のDVDを拝見しましたが、私は結構恥ずかしがり屋なところがあって、でも恥を捨てなきゃできない役だなと思いました。正直、今の上西星来のままだとできないので、いろんなことに挑戦して殻をどんどん破っていかなきゃダメだ、と決心しました。だから自分への挑戦にもなるし、その姿をいろんな方に見ていただきたいなと思います。
土屋:糸井さんとは昨年の11月にご一緒しました。その時は脚本がシェイクスピアの『恋の骨折り損』でした。糸井さんの演出が初めてだったこともあってすごく新鮮で、とにかく面白かったです。それからFUKAIPRODUCE羽衣の舞台を観に行って、糸井さんの作・演出・音楽という“糸井さん100%”の舞台ってすごいな、と思いました。糸井さん濃度100%じゃないですか。その100%の濃度の中にもし自分が入るとしたら……って憧れていろいろ想像していたんですけど、そうしたら本当に出演の話が来て「まじか!」ってなりました(笑)。今の段階だと自分がどこまでできるのか見通しがつきませんが、初演で先輩方が土壌を作ってくださっているので、その中からヒントも得つつ自分たちなりに面白い作品にできたらな、とワクワクしています。
土屋神葉
ーー糸井さんから見て、お二方の印象はいかがですか?
糸井:神葉くんはさっき話にあったように一緒にお芝居をやったことがあって、この甘いマスクと、身体能力も含めてとにかく能力が高くて、変なこととかも平気でやる、どこか変態的な面白みが常にある方で、とても好きな俳優さんなんです。上西さんは今日初めてお会いしましたが、美しさにびっくりしまして、神葉くんと2人で並んでいるのを見たら本当に美しい絵で素敵でした。先ほどいろいろ心配だとか、恥ずかしがり屋だとか話されていましたが、もう絶対に恥ずかしい思いなんてさせません(笑)!
シャッフルキャストは、「ジャズセッションのような感じで」(糸井)
ーー今回は土屋さんと上西さんの回、深井さんと森下さんの回、さらにキャストをシャッフルした回もあります。
糸井:初演のとき、深井さんと森下さんと僕と、当時40歳で同い年だったんです。上西さんと土屋さんも23歳で同い年なんですよね。深井さんと森下さんというオリジナルの2人は素晴らしいんですけど、そろそろお互いのこと飽きてると思うので(笑)、僕の半分くらいの年齢であるフレッシュなお2人と掛け合わせてみたら面白いかな、と思いました。4バージョンやりますが、ものすごく大きく何かを変える、ということは全然考えていなくて、ジャズセッションのような、曲は同じだけど演奏家によってお互い違った作用の仕方になる、みたいな感じで、俳優さんの元々持っている素質や能力でそれぞれのバージョンが成立すればいいな、と思っています。
ーー上西さんと土屋さんは、同い年で今回初共演のお互いの印象と、オリジナルキャストとも共演するにあたってのお気持ちなどを教えてください。
土屋:今までは自分と同性の役を演じてきて、自分の感覚と役の感覚を擦り合わせたり、違いを感じたりしながら役作りをしてきたんですけど、今回は母親役を兼ねたりもするので、自分の想像力を頑張って叩き起こしてやらなければ絶対できないと思います。自分にやれるのか、大丈夫なんだろうか、という緊張感も今は持っていて、だからこそ本番で胸を張って演じることができて、千秋楽まで終えることができたら、それだけでもすごく成長できると思うので頑張りたいです。上西さんの印象は、美しい! 上西さんを見て、それから自分を見て「この格好ダメだな」って反省しました(笑)。第一印象は大事じゃないですか。それなのに「ちょっと裾からインナー出てるな」みたいな……。
上西:いや、全然「インナー出てるな」とは思わなかったですよ(笑)。お会いする前は「怖い方だったらどうしよう」なんて思ってたんですけど、笑顔が素敵な方でとても優しくて、これからよろしくお願いします(と土屋に向かって頭を下げる)。キャストのシャッフルに関しては、土屋さんと演じているときと、森下さんと演じている時の心情って多分全く違うだろうな、と想像しているので、そこを楽しみながら感じて、勉強していきたいと思います。

上西星来

「母のことはこれからもずっと求め続けるんだろうな」(上西)
ーーこの作品は母親のことを扱った作品ということで、母性について考える機会にもなると思いますが、ご自身が考える母性とはどういうものなのか、あるいはどういう時に母を求める気持ちになるのかなど、教えていただけますか。
土屋:小さい頃は、母親は絶対的な存在でした。母が一番上の姉を産んだ年齢に僕もそろそろなるな、と思ったとき、「あれ? ちょっと待てよ?」と。自分がいざその年齢に近づいてみると、僕が幼い頃に見ていた母親像と明らかに違うんですよね。子供だった僕からの目線だとめちゃくちゃ頼れる親だったんですけど、その側面とはまた別の、僕が見ていたのとは違う一人の人間としての母親もいて、きっとすごくいろいろ悩んだりしていたんじゃないかと思うんです。今回、母親役もありますから、そのあたりを考えながらやりたいと思っています。
上西:私は昔から母には何でも話すタイプだったんです。だから今でも、何か悩みごとがあれば母に逐一相談するし、誰かに意見を求めたいときは絶対に母にすぐに聞いてしまいます。もちろん、母の言っていることが間違っていると思えば「そういう意見もあるんだ」と参考に留めて従いませんが、とりあえず聞いておけば安心できるというか。母のことは今も常に求めているし、これからもずっと求め続けるんだろうなと思いますね。
糸井:母親の存在とか母性って、「深い愛」と表裏一体で「寂しさ」とか「孤独感」とかがくっついているようなイメージですね。浅い愛ならば寂しさとかの裏の感情はあまりくっついてこなくて、愛情が深いからこそそうした裏の感情と結びついているような感じがしていて、そういう感覚が伝わるといいな、と思いながら作ったのがこの作品です。
(左から)土屋神葉、糸井幸之介、上西星来
キャッチーでシンプルな、音楽が耳に残る「妙ージカル」
ーー「妙ージカル」という独自の作風で、音楽が非常に印象的です。
糸井:元々音楽が好きで、でも運命なのか演劇を作ることが多くなって、どうせなら好きなことをねじ込んでいこう、ということでやっているんです。あと、俳優さんの歌ってる姿を見たいというか、僕自身が歌っている人を見ているのが好き、というのもあるかもしれません。歌っている人からノリが伝わってきて、見ているこっちもノレる、という感じがあるからでしょうか。
ーー上西さんと土屋さんは今回、歌もあって二人芝居ということですが、そのあたりどうですか。
土屋:あのとき聞いたあのメロディ、とかあるじゃないですか。その曲を思い出すだけでその時の感情になる、みたいな。だからこそ演劇における歌というのは、ある意味すごく有効だと思っていて、演劇のセリフにプラスアルファされて音としても耳に残ると、より深いところでお客さんの心と僕らのやっているパフォーマンスが繋がれるんじゃないかな、と思っています。
上西:初演の映像を拝見して、歌によってこの作品の世界観がぐっと広がっているな、という印象でした。セリフを言っている時も、普通にしゃべっているだけじゃなくて、突然セリフにすごい抑揚がついたりして、そこから音楽になっていくみたいな繋がりが面白いなと思いましたし、それに挑戦できるのが楽しみです。
土屋:糸井さんの創る歌には、実生活では決して出せない側面が出ていると思うんです。お客さんはそれを聞くことで普段は出せない何かが昇華されるのかなと思うので、僕は舞台上でそれを出したいですし、そうできる職業を選んでよかったなと思っています。
ーーメロディも歌詞も結構シンプルな印象を受けましたが、どのように作られたのでしょうか。
糸井:歌詞はなるべく簡単な言葉にしたい、という思いはいつもありますね。この作品に関して言えば、設定も具体的だったので言葉のチョイスもよりシンプルにして行けたのかもしれません。キャッチーさとシンプルさがうまく交わった曲が多いのかなと思っていて、例えば子供がおっぱいを欲しがって、お母さんがあげます、っていう歌が出てくるんですが、ただそれだけの内容なんですよ。劇中歌だから、お客さんは基本的に1回しか聞かないし、あまり込み入ったことを歌ってもな、というのもありますね。
糸井幸之介
「優しい気持ちに包まれながら見て欲しい」(糸井)
ーーそれでは、最後に公演に向けてのメッセージをお願いします。
土屋:年齢問わずに観ていただける舞台だと思うんですよね。とにかく心温まる作品で、自分たちが生まれたということは母親あってのことだから、誰にでも親しめる作品ではと思っています。舞台を観たことがない人でも、ぜひ気軽に足を運んで楽しんで見てもらえればと思います。
上西:母親をテーマにしているので、お母さんから生まれた方には観に来て欲しいので、つまり全ての方に観に来て欲しいと思います。あと、私はこの作品を見て、ものすごく笑えたんですね。だから、「笑いたいな」とか「ちょっと気持ちが落ち込んでいるな」という方には、何も考えずに劇場に足を運んでいただいて笑って帰っていただけたらなと思います。
糸井:再演するにあたり、改めて初演のDVDを見たりしていると、自分で言うのもおかしいですけど、なんて優しい作品なんだろうと思いました。優しい気持ちに包まれながらお母さんのことを思い出したり、お子さんがいらっしゃる方は子供のことを思ったりできる作品だと思います。いろんな世代の方に観てもらいたくて、特に僕の世代よりも上の方にも観てもらえたら嬉しいな、という気持ちもありますので、皆さんぜひ観に来てください。
(左から)土屋神葉、糸井幸之介、上西星来
取材・文=久田絢子 撮影=福岡諒祠

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