尾上松也、中村歌昇、坂東巳之助が『
新春浅草歌舞伎』に向けて決意表明~
「今できる限りのことをやる」

次代の歌舞伎界を担う花形俳優が顔を揃える「新春浅草歌舞伎」は、過去には市川猿之助、片岡愛之助、中村獅童、中村勘九郎、中村七之助らが出演しており、“若手歌舞伎俳優の登竜門”の新春行事として40周年の歴史がある。
2015年より主要メンバーが一新され、最年長の尾上松也をリーダー的存在として2020年の公演で6年目となる。演目は、第1部(11時開演)が『花の蘭平』、『菅原伝授手習鑑 寺子屋』、『茶壺』、第2部(15時開演)が『絵本太功記 尼ヶ崎閑居の場』、『仮名手本忠臣蔵 祇園一力茶屋の場』の上演となっている。また、第1部・第2部ともに開幕に先立ち、出演俳優が交代制で登場して演目の解説や歌舞伎の見方などを語る、毎年恒例の「お年玉<年始ご挨拶>」が行われる。
先だって都内で開催された合同取材会で、出演者の尾上松也、中村歌昇、坂東巳之助がこの公演にかける思いを語った。
新春浅草歌舞伎 合同取材会 尾上松也
まず、今公演で出演する演目や演じる役への思いを聞かれると、松也は松王丸で出演する『寺子屋』について「これまで源蔵を2回勤めたことがあり、いつか松王丸をやらせていただきたいと思っていました。また、「新春浅草歌舞伎」の話し合いでは、毎回『寺子屋』をやりたいねという話が挙がっていたので、ようやく上演する機会を得ることができたなという思いです。現代ではなかなか理解しがたいことが起きる話ですが、なぜそうなったのかお客様が腑に落ちてくださるように、そして最終的には胸のつまるような思いになっていただけるよう、松王丸の気持ちをしっかりと出していきたいですね」。そして大星由良之助で出演する『仮名手本忠臣蔵』については、「30代前半のうちにこのお役を勤めることは想像もしていなかったです。由良之助は器の大きさが自然と出ていなければならないお役なので、本来は年齢と経験値が必要であると思いますが、仁左衛門のおにいさんにご指導いただいて、今の年齢の自分にできることを精いっぱい努めたい」と語った。
歌昇は武智光秀で出演する『絵本太功記』について「このお役はやはり年齢と経験値が必要だと思います。今回もご指導くださる吉右衛門のおじさんからは、役者としての大きさが必要なお役だというお言葉をいただきました。教えていただいたことがどれだけ出せるか、今の自分にできる限りのことを尽くしたいと思います」と語り、巳之助とコンビを組む『茶壺』について「巳之助くんとしっかりと組んで踊ることはこれまでにあまりなかったと思いますのでとても嬉しいです。叱られながら目一杯勤めたいと思います(笑)」と茶目っ気たっぷりに話すと、すかさず巳之助が「叱られるって誰に?」とツッコミを入れ、歌昇が「巳之助さんに叱られながら……(笑)」と答えると「なんでだよ!(笑)」と更にツッコミを入れるという息の合ったところを見せた。また歌昇は「『寺子屋』、『絵本太功記』、『仮名手本忠臣蔵』と、播磨屋にとって非常に縁のある演目が並んでいます。ずっと見てきた演目なので、その経験を舞台で出すことができれば」と思いを語った。
新春浅草歌舞伎 合同取材会 写真左から坂東巳之助、尾上松也、中村歌昇
巳之助は『茶壺』について「父も祖父も代々勤めてきた、坂東流として大切にしている演目ではありますが、一生懸命勤めているな、と思われないように演じることに意味があると思っています。ユーモアのある笑える作品ですので、お客様を笑顔にすることこそがこの作品を後世に残すことになると考えています。同い年の歌昇くんと一緒にできるのは僕も嬉しい気持ちです。自分たちも楽しみながら、お客様を楽しませることができたら」。そして寺岡平右衛門で出演する『仮名手本忠臣蔵』について「こうした古典の大きなお役は、先輩方から教えていただいたことを大切に演じることで、お客様に作品の魅力をお伝えすることができると思っています。一つ一つ自分の中に取り込んで表現できるように励みたいです。「新春浅草歌舞伎」は若いお客様や、普段あまり歌舞伎をご覧にならない方も多くいらっしゃる公演だと思いますので、そうした方にも代表的な古典歌舞伎の名作を楽しんでいただければ」と語った。
各演目の魅力を問われると、松也は『寺子屋』について「先人たちの持っていた魂や心構えを、この作品を通じて少しでも伝えることが出来ればと思います。親兄弟への愛情、主人への忠誠心というものが濃くにじみ出ている作品なので、その部分は現代においても共感し、感動していただけるのではないかと思います」。そして『仮名手本忠臣蔵』について「これも人気演目の一つで、今回のように七段目だけ単独上演されることも多い作品です。重厚感のあるお芝居ではありますが、華やかな場面ですので出演者全員で舞台を盛り上げたいと思います」と語った。
歌昇は『絵本太功記』について「光秀が〝本能寺の変″を起こした後の悲劇を描いた作品で、戦国の世に謀反を起こした光秀の家族それぞれにスポットが当たり、見せ所があります。一つの家族のドラマとしてお見せできれば」。そして巳之助は『茶壺』について「現代にも通じるところがある、日本古来のコントのような作品。第1部の最後の演目なので、お客様が笑顔で劇場を出て「年明けに歌舞伎を見てよかったな」と楽しい気持ちで浅草の街を歩いてもらえれば」とそれぞれ語った。
新春浅草歌舞伎 合同取材会 中村歌昇
令和初の「新春浅草歌舞伎」ということもあり、新しい時代に向けての思いを聞かれると、松也は「初年度(2015年)に比べれば、浅草歌舞伎以外でも出演者それぞれが活躍する場が増えてきていると感じています。だからこそ、浅草歌舞伎の舞台に立ったときに、今できる限りのことを舞台に出していきたいという思いは強くあるのではと思います」。歌昇は「時代は変わっても、歌舞伎は変わらないと思いますので、歌舞伎を継承するために勉強させていただいている身として、新しい時代に新しいことをというよりもまずは先輩方がされている歌舞伎を自分の体の中に早く落とし込んでいきたい、という思いです」と語った。
「新春浅草歌舞伎」ならではの特徴を聞かれると、松也は「地元の皆さんと協力して創っているので、浅草の街ごと楽しんでいただける公演だと思います」。巳之助は「ご観劇料も他の歌舞伎公演に比べると少しお手頃で、全体の上演時間も短いので、歌舞伎にあまり馴染みのない方でもご覧いただきやすいのかなと思います。また、「着物で歌舞伎」の日もあるので、よりお正月らしい雰囲気を楽しんでいただけるのではないかと思います」と答えた。
新春浅草歌舞伎 合同取材会 坂東巳之助
最後に、松也は「6年目ということで、少しずつ余裕が出てきている部分もありますが、各々が自分なりの課題を掲げて取り組んでいると思います。何年経っても芸事に対する「初心忘るべからず」という精神を持って、6年目ということと令和ということを意識しすぎずに、教えていただいたことを舞台でお見せできるように勤めたいと思います」。歌昇は「お兄さん(松也)や巳之助くん、そして共演の方たちの昨年との違いを感じると刺激になります。今回も自分のできることをしっかり出していきたいと思います」とそれぞれ抱負を語り、巳之助は「6年間の積み重ねということで、当たり障りのない挨拶というものを身に着けることができたのが一番の成長だと感じている(笑)」と会場の笑いを誘い、和やかな雰囲気で取材会は終了となった。
「新春浅草歌舞伎」は2020年1月2日に初日を迎える。新年を祝う賑やかな雰囲気を、若手花形俳優たちによる華やかな舞台と浅草の街でぜひ味わってほしい。
取材・文・撮影=久田絢子

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