【インタビュー】『柴公園』渋川清彦
「主演に興味ない」淡白な言葉の裏
に垣間見える役者のプライド
作品の脇を締め、時には主役を食うほどの演技力を見せつける“バイプレーヤー”。その一人として、多くの監督から起用を望まれる俳優・渋川清彦。昨年は映画14本、今年も5本の作品に名を連ねている。その渋川が、ついにドラマ「柴公園」で初主演を果たしたが、その心境は…? 意外にも淡白な胸中や、撮影時の衝撃エピソード、役者業に対する思いなどを語ってくれた。
本作は、ある街の公園で、柴犬を連れた3人のおっさん(渋川、大西信満、ドロンズ石本)が無駄話を繰り広げるという会話劇。6月14日にはドラマ版の流れをくんだ劇場版も公開される。
これまでに映画での主演経験はあり、第37回ヨコハマ映画祭で主演男優賞を受賞した経歴もあるが、ドラマの主演は単発・連続ものを合わせて初めてだ。喜びもひとしおかと思いきや、オファーを受けたときの気持ちを聞くと、「いや、あまり変わらず…」と苦笑い。さらに、「あまり主演に興味ないです。忙しいのはあまり好きじゃないので」と淡白な言葉が返ってきた。
そもそも俳優を始めたきっかけは、「雑誌のモデルを何回かやって、その流れでドラマや映画に出るようになった」そうで、自らの意志ではなく、「いわゆる商品ですからね。その売り込みの一つとして“芝居をする”仕事があった」と振り返る。
ところが、そうして流れに身を任せてたどりついた現在のポジションには十分に満足しているようで、「役者を始めた頃は全くビジョンがなかったから、これが仕事になって、大きな挫折もなく、細く長くやり続けられているのはありがたいです」としみじみと語った。
「スケジュールが合わなければ仕方ないですが、面白くないからという理由で断ることはないです。作品に向けた熱量を感じるとか、この監督が好きだからとか、ギャラがいいからとか、何かしらのポイントを見つけて引き受けます」とオファーを受ける際の姿勢も明かした。最初は淡白な印象を受けた渋川だが、そこに映るのは、どの作品も自分につなげたいというエネルギーだ。
そして、憧れの俳優として、今は亡き名優の原田芳雄と渥美清の名を挙げる。映画『ナイン・ソウルズ』(03)で共演した原田については、「芝居はもちろん、人柄に引かれました。オープンで、何でも受け入れてくれるから芳雄さんの周りには人が集まるんですよ。今でも12月28日に芳雄さんの家で開かれる餅つき大会には役者仲間が大勢来ます」と羨望(せんぼう)のまなざしを向ける。
渥美については、「映画『男はつらいよ』シリーズの寅さんがすごく好きです。あの人のメロディーのように流れるような芝居がいいんですよね」と述懐。名優への憧憬の念は、やがて目標に変わるのだろう。
そんな渋川が本作で演じるのは、柴犬・あたるの飼い主で、研究職に就くインテリ男“あたるパパ”。「駄目な男役はしっくりくるけど、検事とか堅い役はせりふも難しくてやりにくいですね」と笑っていた渋川にとって、専門用語を早口でまくしたてる同役は、かなりの難役だ。
実際、“壮大な無駄話”が繰り広げられる会話劇で、映画版とドラマ版を短期間で同時に撮影したこともあり、「せりふ量が多過ぎて、覚えられないまま現場に入りました。本番にはなんとか間に合いましたが、すごい不安でした(笑)」と危機的状況に陥ったことを告白。このような体験は長い役者人生の中で初めてだという。
動物の飼い主役も初挑戦で、毎日、あたる役の柴犬きぃを散歩させてコミュニケーションをはかるところから撮影ははじまった。そのおかげで、インタビュー時のきぃは渋川によく懐いており、渋川も目じりが下がりっぱなしだ。また、会話劇故にシリーズ化もできそうなことから、「続編やシリーズものをやったことがないので、やりたいですね」と意欲を見せた。
淡々と、だが確実に芝居に取り組み、名バイプレーヤーとしての確固たる地位を築いた渋川は、「しゃべるのが苦手」と話す通り、言葉数は少なく、俳優論を語ることもなかった。しかし、もともと「現場に台本は持って行かないタイプ」であり、その理由として「役者としてのプライドみたいなところはあるかもしれない。役者はこうあるべきみたいな感じでよく言われるじゃないですか」と少し照れ臭そうに笑った。やはり、その胸には役者としての自負があった。
(取材・文・写真/錦怜那)
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