【藤津亮太の「新・主人公の条件」】
第2回 「新幹線変形ロボシンカリオ
ン」速杉ハヤト

(c) プロジェクト シンカリオン・JR-HECWK/超進化研究所・TBS 「新幹線変形ロボシンカリオン」の主人公、速杉ハヤトは3クール後半あたりからぐっと魅力的になった。

 それまでもハヤトは十分おもしろい主人公ではあった。キャラクターを印象づける方法のひとつに「特定の行動を徹底させる」という手法があり、ハヤトの場合は、新幹線を中心とする鉄道関係の話題がそれに相当する。ハヤトは、普段から鉄道用語や新幹線うんちくを織り交ぜた会話を繰り広げるだけでなく、難しそうな問題も「新幹線(鉄道)に喩えること」で理解・解決していくという描かれ方をしていた。
 この一点集中の突破力がハヤトというキャラクターの愛嬌でもあり、同時に「シンカリオン」という作品の愛らしいポイントにもなっていた。それが3クール目後半から、その「新幹線(鉄道)好き」という部分がぐっと深められることになったのだ。
 きっかけは第36話「南へ!!桜島の敵アジトを探せ」。この話数では、作戦を前に、ハヤト、アキタ、ツラヌキ、シノブといった東日本側のメンバーが、西日本側のレイ、タカトラ、ギン、ジョウと手巻き寿司パーティーを行う姿が描かれる。この時、ハヤトたちはせっかくの手巻き寿司に違和感を抱いてしまう。
 この違和感の正体は、西日本と東日本の醤油の味の違いだった。それをハヤトは電源周波数が東日本と西日本で異なることに結びつけ、「50Hzでも60Hzでも走行可能なE7系になるべきだ」と結論を出す。
 鉄道という高速移動・大量輸送の交通機関ができたことで、地方各地の文化が出会い、その出会いが広がっていくことで「わたしたち」は形成されている。ハヤトの「異なる人や文化を受け入れ、繋ぐ存在にならなくては」という気付きは、つまり「新幹線に憧れる」のではなく「自らが新幹線になる(新幹線が体現した思想を生きる)」ということにほかならない。「夢を見るより、夢になろう」(「ロッキー・ホラー・ショー」)という言葉があるが、ハヤトはそういう形で「憧れ」が持つ要素を自ら体現しようとするキャラクターになったのだ。
 そして、当然ながらこの「異なるものをつないでいく」という対象は、敵であるキトラルザスにも向けられることになる。
 第36話でもハヤトは敵を刺激しないために単身乗り込み、第39話「対話!!ハヤトとリュウジの空手修行」では、戦うためでなく、(メカ同士ではあるが)拳と拳を交わすことによって“言葉のない対話”をしようと試みる。
 ハヤトのこの姿勢があるからこそ、そこに続いて繰り広げられる、キトラルザスのエージェントであるゲンブ、そしてセイリュウとの交流という展開も可能になったといえる。
 登場人物たちのハブとなる主人公は少なくない。だが、誰よりも飛び抜けて個性的なキャラクターが、そこでひとつ突き抜けたことでハブになっていくという展開は珍しいと思う。そこまで「好きを徹底していること」がハヤトを主人公たらしめている要素なのだ。

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