土岐祐奈(ヴァイオリン)&平山麻美
(ピアノ) 初秋を彩る爽やかなデュ

「サンデー・ブランチ・クラシック」2018.9.2ライブレポート
日曜のお昼のひと時を音楽に耳を傾けながら過ごすサンデー・ブランチ・クラシック。9月2日に登場したのは土岐祐奈(ヴァイオリン)と平山麻美(ピアノ)だ。2年前に出会い、すっかり意気投合したという2人が、爽やかな秋の気配が漂う9月の幕開けを、息の合ったデュオによる祝祭のような華やかな演奏で彩った。
土岐祐奈(Vn.)、平山麻美(ピアノ)
実りの秋の喜びをメロディに乗せて
9月の声を聞き、夏の猛暑がひと段落したような日曜の午後1時。この日の客席はほぼ満席という盛況ぶりだ。登場した2人の1曲目は、ヴィヴァルディ『四季』より「秋」の1楽章という、こうした日にはぴったりの演目だ。ヴァイオリンとピアノの軽快な旋律が収穫の秋、実りの秋を喜ぶ人々の情景を描き出す。土岐によると、楽譜にも「農民たちが収穫の秋に楽しく飲んだり歌ったり踊ったりという情景」を表現するよう記述があるという。黄金に実った畑のなかで、畠道をゆく荷馬車の上で、農民たちが笑顔で歌い踊る、素朴な幸せに満ちた光景が広がるようだ。
土岐祐奈(Vn.)、平山麻美(ピアノ)

土岐祐奈
演奏を終え、「私の自宅にようこそ。秋の風を感じていただけたでしょうか」と土岐。
今年の夏、土岐は南フランスで開かれたカザルス音楽祭で勉強をしてきたという。「非常に暑かったがウィーン・アルティス・カルテットの方と弾く機会や、様々な国の方々と交流する機会もあり非常にいい勉強になった」と、振り返った。

ヴァイオリン&ピアノによる幻のバレエ曲『ディベルティメント』
引き続き2曲目のストラヴィンスキー(ドゥシュキン編)『ディベルティメント』が演奏される。
この曲は1928年に初演されたバレエ『妖精の接吻』からストラヴィンスキー自身が抜粋した組曲で、今回演奏されるのはそれをさらにヴァイオリンとピアノの音楽として編曲したものだ。
土岐祐奈
平山麻美
『妖精の接吻』は当時パリで活躍していた舞踊家イダ・ルビンシュテインが音楽をストラヴィンスキーに委嘱、ブロニスラヴァ・ニジンスカ振り付けにより初演されたが、今ではほとんど観る機会のない、ある意味幻の作品といえるものだ。
土岐祐奈(Vn.)、平山麻美(ピアノ)
ストーリーはアンデルセンの『氷姫』をモチーフとした氷の妖精と彼女に魅入られ青年との悲恋で、舞台をスイスに移されている。第1楽章「シンフォニア」、第2楽章「スイス舞曲」、第3楽章「スケルツォ」、第4楽章「パドドゥ」からなる4曲で、物語自体は悲劇であるが、最後を飾る第4楽章の「パドドゥ」は華々しく明るい曲。これを土岐と平山は「最後は幸せになったのではないか」と解釈し、演奏した。
冷たい氷の妖精の登場から、成長した青年の婚約を祝うスイスの民族舞踊風の音楽。再び氷の妖精の登場で音楽は不協和音を醸しつつ緊張感を増し、最後は華々しい大団円といった風にも取れるし、タランテラのように踊り続け、最後は息耐えたのではないかとも思える味わい。滅多に聞くチャンスのない曲にふれられる、またとない機会であった。
土岐祐奈(Vn.)、平山麻美(ピアノ)
『中国の太鼓』からR.シュトラウスの『明日』
最後の曲は数々のヴァイオリン曲を残したクライスラー『中国の太鼓』だ。
クライスラーが実際に中国を訪れたときの路上の大同芸の様子を描いた曲で、雑踏のにぎやかな雰囲気や皿回しをしたり雑疑団のようにふしぎなポーズを決めたり飛んだりはねたりする様子が目に浮かぶ。
土岐祐奈(Vn.)、平山麻美(ピアノ)
土岐祐奈(Vn.)、平山麻美(ピアノ)
アンコールはR.シュトラウスの『明日』。「朝」という意味もある歌曲で、希望に満ちた美しい歌詞の曲を、今回はヴァイオリンとピアノが、しっとりと会話をするように奏でる。互いの個性が融合し、解け合った30分があっという間にすぎた。
土岐祐奈(Vn.)、平山麻美(ピアノ)
ストラヴィンスキー『ディベルティメント』を中心にプログラムを構成
終演後にミニインタビューを行った。
ーーすてきな演奏をありがとうございました。土岐さんは今年2月に続いて2回目の登場になりますね。
土岐:はい、半年ぶりで、今回お客様がたくさんでびっくりしました。皆さんすごく真剣に聞いてくださって、小さなお子様もたくさんいたのですが、次第に集中して聞いてくれて、楽しく、気持ちよく弾けました。
ーー今日のプログラムはどういうテーマで組んだのですか?
土岐:舞曲という共通点を考えてプログラムしました。 今回メインにしたかったのがストラヴィンスキーの『ディベルティメント』だったので(笑) 私、この曲がすごく好きなんです。あまりコンサートで取り上げられ機会がない曲で、このサンデー・ブランチ・クラシックでも初めてだろうという話でした。
今回この30分の演奏時間の中でどういう構成にしようかなと思った時に、ストラヴィンスキーのなかなか知られていない曲を、バレエの情景ともども知っていただけたらなと考えてこれをメインとし、その前後をどうしようかなと考えた時に、季節感で『秋』を、そして終わりに『中国の太鼓』を持ってきました。
土岐祐奈
カルチャーセンターの講座が出会い
ーーお二人は非常に波長が合うということおっしゃられていましたが、何度も共演されているのですか?
土岐:平山さんとは2年ぐらい、何度も一緒に演奏しています。私自身が弾きやすくて、お互いの音楽性がすごく合うので。新宿の朝日カルチャーセンターの中野雄先生の講座で引き合わせていただきました。
平山:音楽性の方向が似ているんですよね。一緒に弾く時の相性ってすごく大事で、同じ感覚で弾けるところや互いに足りないところを補ったり、ときには触発されたりと、そういったバランスが彼女とはすごく合うんです。一緒に演奏していてすごく面白いし。
土岐:演奏のリハーサル以外でもすごく話し込んでしまって。
平山:家族の仲の良さとか、話してみると似ているところが多いんです。
土岐:それで今回サンデー・ブランチ・クラシックのお話をいただいた時に、ぜひ平山さんにと。
いよいよ念願の留学が実現
ーー目指している音楽性、というお話でしたが、具体的には。
土岐:私は今大学院の2年なのですが、来年春に卒業予定です。前から留学したいと考えており、修士の終わる来年からと考え、先生探しや学校選びをしていたところで、公演中にお話したカザルス音楽祭がありまして。初めての先生のレッスンを受けたりして、確定ではないですがドイツの学校に行けたらなというのが見えてきました。
ただ私はソロのほか、室内楽で演奏をするのもすごく好きなので、そうした活動もやりながら留学先で学んでいければと思っています。
最初はソロのレッスンだけを受けようと思っていたのですが、現地で「室内楽もやってくれないか」と言われ、スペイン、香港、カナダなど国際色豊かな学生たちと共演したら、みんな個性が豊かで。音楽の作り方や、「こういう解釈の仕方をするんだ」というのがとても勉強になり、面白いなと思ったんです。
ーー今年の2月にインタビューをさせていただいた時、「留学したい」というお話をされていましたが、いよいよそれが実現するんですね。着々と自分の目指すところに向かって歩いていらっしゃるのに感動しています。ソロのほかに室内楽をということですが、やはりそれぞれに違った楽しさがあるのでしょうか。
土岐:もちろんヴァイオリン一本での無伴奏作品も魅力がありますが、それに加えてアンサンブルでほかのパートや楽器の音色の織り交ぜあいや和声の移り変わりなど、一緒に音楽をつくっていくのが楽しくて、それが室内楽の醍醐味だなと。ある程度リハーサルはしますが、本番でその時それぞれが感じた色合いなどがその場で作られていくのがすごく楽しいんです。
ーー平山さんもそういったアンサンブルをやることはあるわけですか。
平山:ピアノはまた他の楽器と役割が違うんですよね。弦楽四重奏にピアノが入るとクインテットになり、言い方も変わってくるし、ピアノが入ることで音楽の方向性決まりやすくなるんですよね。半分コンチェルトのようになってしまう。
私はトリオぐらいが一番好きです。役割がみんなにきちんとあてがわれているので。トリオだとそれぞれ3人のソリスティックな部分も現れてくるし、みんなでひとつになるという両面が一番出る編成なんじゃないかなと思います。
平山麻美
同級生との弦楽四重奏を
ーー土岐さんはこのあといくつもいくつもコンサート続きますね。11月2日にシャネルの室内楽シリーズ、11月13日は朝日カルチャーセンターで平山さんとの講座、そして12月20日にアイリス弦楽四重奏団
土岐:アイリス弦楽四重奏は高校時代から一緒に組んでいたカルテットで、同級生や1つ違いの先輩後輩から成る仲良いメンバーです。でもみんな留学していたり、忙しかったりでなかなか集まれる機会がなく、今回年末にたまたま時間が取れたので、ぜひということでやることになりました。すごく楽しみにしているコンサートです。
ーー土岐さんも留学が決まりそうですし、またなかなか会うのが大変になるかもしれませんね。
土岐:ますます貴重な機会かもしれません。ぜひ聞きにいらしていただければと思います。
ーーありがとうございました。
(左から)土岐祐奈、平山麻美
取材・文=西原朋未 撮影=荒川潤

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