Analogfish 自分にとって音楽を作る
ということは、レベルミュージックを
作るということ

Analogfishの10作目となるニューアルバム『Still Life』がこの夏リリースされた。今回インタビューに応えてくれた下岡晃(Vo/Gt)と、佐々木健太郎(Vo/Ba)という異なるタイプのヴォーカル兼ソングライターを擁し、硬派なメッセージを柔らかな語り口で聴かせる彼らは、来年で結成から20年。今作に客演しているラッパーの呂布カルマをはじめ、一見交わらないように見えるジャンルのミュージシャンや小説家、マンガ家など幅広いクリエイターからも熱烈に支持され続けている。今作の7曲目に『Uiyo』という曲があって、どれだけ調べてもタイトルの意味が分からなかった。インタビューで下岡に尋ねたところそれは彼の造語で、「意味は、聴く人にお任せします」と笑う。ふわりと吹く風に舞うような下岡の歌声が紡ぐ、永遠と終わりが並んでそこにある物語はUiyo=浮(憂き)世か、それとも歌詞の一端からは90年代を代表するバンド、ジェリーフィッシュも連想される。そうやって、どこまでも広がる想像を追っていく楽しさこそがAnalogfishを聴く醍醐味なのだと思う。アルバム『Still Life』を携えたツアーは9月9日(日)の名古屋CLUB UPSETを皮切りにスタート。充実の新作について、来る20周年について下岡晃に話を聞いた。
下岡晃(アナログフィッシュ) 撮影=森好弘
――昨年10月に大阪でも開催されたライブ『Get it On』のオープニングで、今作の1曲目『Copy & Paste』を歌われていましたね。3人の声が静かに重なって広がってゆくのを聴いた時、とてもワクワクしました。サポートギターにRyo Hamamotoさんを迎えた4人編成のステージで新曲もふんだんに聴けて、バンドの新しい一面をダイレクトに受け取ることができました。
それはよかったです。あのライブは、自分たちとしてもすごく良かったんですよね。
――その時のMCで「新しい作品を作っている」と言われていましたね。
そうですね。事務所的には、前作『Almost A Rainbow』(2015年)から1年半ぐらいの間隔でリリースできるようなペースでセッティングしてくれていたんですけど、なかなか捗らなくて。スタジオをばらしてもらうようなことを何回か繰り返して『もういよいよ作んないといけない』みたいになって(笑)。無理やり頑張ったんじゃなく、ようやくアルバムの形になりそうな予感というか、部品やイメージがそろってきて、去年のはじめぐらいから作業が始まりました。
――タイトルの『Still Life』には静物画という意味があるんですね。最初にこのタイトルを知った時は、「Still Life=生活が続いている」という意味にとらえていました。ただその感じは、今作からほんのり喚起される今の時代のムードや、アルバム全体に流れる生活感に通じていて。それとともに、ジャケットの印象や楽曲の持つ空気に2作前のアルバム『最近のぼくら』(2014年)を思い出すところもありました。
自分でも、今作は『最近のぼくら』の延長線上にあると思っていて。あのアルバムを作った時のプラン的には、多分その次に今回のようなアルバムを作るはずだったのが、いろんなひらめきがあって『Almost A Rainbow』の方向へ行って。あれはあれでとても好きなアルバムだけど、今回音楽の方向的には戻った気がしていますね。僕も単純に、「Still Life」という言葉を「まだ生きてる」みたいな意味にずっととらえていて。でも静物画という意味があるのを知った時に、すごく跳躍力があるなと思ったんですね。その違和感みたいなのが自分の中ですごく気持ちよくて、それがこのアルバムをまとめる原動力になったというか。言葉の強さや、Still Life=静物画という意味性は大きかったですね。
――ジャケットもそのタイトルがモチーフになっているんですよね。最初にパッと見た時、花瓶や果物などの静物が描かれているのかと思いきや、よくよく見るとどれも日頃からなじみのあるものばかりで。
そうなんですよ。このジャケットが上がってきた時にすごく興奮しました。これまでもずっとやってもらっているデザイナーさんが作ってくれて、モランディの絵画展を見たことを話したぐらいで特に何もオーダーはしていなかったんですけどね。いかしてますよね。
――CDの盤面と歌詞ブックレットに「Analogfish」「Still Life」と太字でザッと描かれてあるのも素敵でした。力強く書かれている文字を見た時に、静かな印象の楽曲たちの中にある衝動とか、熱いものが秘められているのが感じられて。
あぁ、それはいいですね。
――『With You(Get It On)』、『Sophisticated Love』あたりは、ざっくりとジャンルで言うならAORになるのかもしれませんが、ストリートっぽさやソウルやメロウなものが融合してメッセージも心地よさもある、今の時代のポップという印象です。バンコクのシンガー・ソングライター、プム・ヴィプリットを思い出しました。距離が近い気がします。
僕も好きですよ。彼、カッコ良いですよね。たしかにそうかもしれないですね。
――曲を作る上でそういった音楽を意識することはない?
そうですね。意識するとかはなくて、もちろん聴いたものにはどういう意味でも影響は受けるんですけど、曲を作る時にジャンルをイメージするみたいなことは基本的にないです。『With You(Get It On)』は(佐々木)健太郎さんがトラックを作ってきて、それがすごく良かったから、俺にもちょっとひと口噛ませろよって感じで歌詞を書きました。
――その歌詞の1行目、《わかり合えなくてもやっていける すれ違ってても暮らしは続く》には、思わずうーんと唸ってしまいました。感じ入るところがあったというか、さっきの下岡さんの言葉をお借りするならとても興奮しました。
あはは!そうでしたか。
――はい。一緒に暮らす家族でもお互いを全部わかり合えることはないでしょうし、かといってそれが悪いことではない。この歌詞の一行一行どれもが言い得て妙で、気づかせてくれるという感覚でもなく上からの目線でもなく、なにげなく話をするようにスッと入ってくる。ヘッドフォンで聴いていると特にそう感じるんですが、至近距離で話しているような声や音の気配もそうさせるのかなと。
この曲のボーカルの温度というか、声のキーに関してはかなりシビアにやりました。あのキーのあの温度を見つけるまで相当苦労して、でもあの感じじゃないとダメだというのがあって。レコーディングの時にそれを見つけるまでが結構難しかったですね。自分の部屋でデモを録った時は、近所迷惑になるから大きな声を出せないのもあるし、慣れている親密な空間だからというのもあってすぐにできたんですけど、スタジオの中であの温度感で歌うのは結構難しかったです。
――あの音の感じでなければいけなかった?
そうですね。あれじゃなければ、あの曲で言っていることが生きない気がして。
下岡晃(アナログフィッシュ) 撮影=森好弘
――『Dig Me?』は健太郎さんが作られた曲で、意図されてないんだろうなとは思いつつ、《誰が僕に気づかなくても 君に見えてんならいいや》という歌詞の一節にさっきの下岡さんの歌詞とシンクロするものを感じました。
そういう気分を彼も持っているんですね。今作の歌詞のすり合わせ方に関しては、俺がというよりは健太郎さんのほうが全体的な世界観とかに気を遣っていたみたいで。自分でもだんだんここ何作かで気にしていたつもりではあったけど、今回はその辺がすごくピタッときていて、ただ健太郎さんがそういうことを考えていたというのは、作り終えてから聞いたんですよ。最初は「本当かなぁ?」と思ったけど本当なんでしょうね(笑)。彼は繊細だから。
――『Ring』も健太郎さんが歌詞を書かれた曲ですね。柔らかな声で諦めにも似た思いを歌っているようでもありながら、それが時に、歌うことに対する目覚めと覚悟のようにも聴こえる。《僕らはいつの間にか心にもない 思いについてずっとありったけの声で 歌を歌い続けた》のあたりです。
すごく健太郎さんらしいなと思いますね。あの人、本当に歌うことが好きなんですよね。この歌詞については僕もすごく好きで、アルバム単位でいえばこれがいちばん最初にできた曲です。僕らはこれを推し曲にしたらいいんじゃないかなってずっと言ってたんですね。すごく健太郎さんらしいし歌詞も良いし。
――健太郎さんらしくもあるし、Analogfishらしくもある?
そうですね。まさに。
――ラッパーの呂布カルマさんが参加されているラストの『Pinfu』は、アルバムの最後でこの曲だけ急に色が変わりますね。タイトルのPinfu(=ピンフ、平和)は麻雀の役のことであると初めて知りました。
僕も父親が麻雀が好きだったからたまたま知ってるだけで、触れてなければ知らないですよね。この曲は最初に一聴した時点でカッコよかったから絶対にアルバムに入れようって。ただ、どこにもこの曲を入れるところがなくて(笑)、最後に入れたら締まりましたね。呂布君が持っているエネルギーや彼らしさがすごく出ていると思います。
――劇的に色は変わるけど、違和感はないですね。
そうそう。
下岡晃(アナログフィッシュ) 撮影=森好弘
――印象的なのが、呂布さんの最後のフレーズ《それでも何か期待して街へ出る》。その後に続く《この街は平和に見える》というAnalogfishのコーラスが聴こえた時に、いったん上を向いた気持ちがスーッと平熱になる感覚があって。行きつ戻りつするような感じですが、それも現実感というか簡単に前向きになれない心情的なものとリンクするところがあります。
《この街は平和に見える》という言葉を歌うこと自体にどういう意味があるのかと言えば、まぁ「平和だね」という意味ではないわけですよね。最初に呂布君のデモが上がってきた時に、漠然と「カッコいいなぁ」って聴いていたんですけど、1番最後のそこのラインははっきり印象に残って。終わりがこれならいけるなって気がしましたね。僕も、そのフレーズはやっぱり残りました。
――9月9日より今作を携えたツアーが始まりましたが、作品全体のトーンは静かにふつふつと湧いているような聴こえ方ですが、Analogfishの場合ライブはライブで、作品とはまた違う熱量と爆発力がありますね。
しかも今どんどんライブがラウドになってるんですよ。Ryo君がそういう人でもあるから、スコーンと抜けた感じもあってめちゃくちゃ楽しいですね。今作の曲はもちろん曲自体の持っている感じでやりますけど、すごく良いものになっているし、僕らのライブはとても良いのでツアーもたくさんの人に見てもらいたい。僕はこの間40歳になったんですけど、一緒に年齢を重ねてきたファンの人たちも多くて、僕らのファンの人たちは本当に素敵な人が多いんですよ。ただみんな、ライブのチケットを買うのがびっくりするぐらい遅いので早く買ってくださいって最近よくお願いしてます(笑)。​。
――アハハハ!
売り切れない僕らが悪いんですけど(笑)。今回のアルバムは今まで僕らのリスナーじゃなかった人にも届いているみたいで、初めて聴いてくれた人たちもライブに来てくれるといいなと思うし、僕らはライブの回数もそんなにたくさんあるわけじゃないんで、「行こう!」と思った時にすぐチケットを買ってください(笑)。
下岡晃(アナログフィッシュ) 撮影=森好弘
――来年は結成20周年を迎えますが、何かおもしろそうなことは考えていますか?
これまでの軌跡がわかるようなライブをやろうと思っていて、今いろいろ考えています。長く続けていればいいというわけじゃないけど、僕達みたいなバンドが20年続くのはすごいことだと思っているんですね。作品を重ねるごとに音楽性が更新されていったり、自分の表現が変わっていったり、それが聴く人にとって大きく変わっているかどうかは自分には知る由はないけど、自分の手応えとしてそこをクリアできたことで、「僕達まだ続けられるな」と思う。そう思えるうちはやれるなって。
――バンドとしてこういうことをしたいとか、こうなりたいという目標はありますか?
「武道館でライブをやりたい」みたいなのはないんですね。僕らは自分らのことをロックバンドだと思っていて、ロックバンドっていかに自立しているかが大事になってきているなと思うんですね。ちゃんと自立した大人で、自立したバンドとしてやっていたい。それができれば大丈夫だろうと思っていて。たとえば、アルバムはお金にならないからライブをやっていくとか、CDはダメだからMP3にするとか、そういうことって時代によってどんどん動いていくものだし、誰かが考えなきゃいけないことだけど、ロックバンドはどこまで行ってもサービス業じゃないんですよね。自分の主張、自分が思っていることを自立して歌えるか。それがやれて、気に入った音楽が作っていられればそんな悪いことじゃないというか。
――前に下岡さんは「自分はレベルミュージックを作っている」と言われていました。その時代の空気や、YESやNOの主張、何かに対して抗う気持ちをそのまま言葉にして歌っているわけじゃないのに、聴いている人には確実にそれが伝わる。今作はそれがある種頂点を極めたというか、これまで以上に磨かれた鋭いものであるのを感じます。
いまだにそう思っているし、僕にとってレベルミュージックというのは音楽のジャンルじゃないんですね。今回のアルバムを聴いて、「優しい音楽をやっているんだな」と思う人もいるかもしれないけど、自分にとって音楽を作るということはレベルミュージックを作るということで、そこは相変わらずずっとそうですね。
――そういうスタンスでやってこられて、20年目を迎えますね。
一応60歳まではやる予定なんで、さらにあと20年はありますね。本当は50ぐらいまでかなって思ってたんですけど、うちのボスが「60までやんなきゃいけないから」って言ってたから、じゃあ60歳までって。まだまだ長いですね(笑)。
下岡晃(アナログフィッシュ) 撮影=森好弘
取材・文=梶原有紀子 撮影=森好弘

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