小宮有紗インタビュー 俳優として恐
れているのは「わたしが演じることで
“言わされてる感”が出ちゃう」こと

18歳で『特命戦隊ゴーバスターズ』のイエローバスター役に抜擢されて以来、小宮有紗はさまざまなジャンルで貪欲に学び続けてきた。2018年は『ラブライブ!サンシャイン!!』の黒澤ダイヤ役で声優としての経験を積み、ユニットAqoursとしてのライブツアーに大忙し。さらには、グラビア撮影や写真集のリリース、JRAの“うまびPEOPLE”としての競馬挑戦など、文字通り八面六臂の活躍である。
そんな小宮が、『夢二~愛のとばしり』以来約2年ぶりとなる実写映画のヒロインを演じたのが、8月25日(土)公開のクライム・アクション『ダブルドライブ ~龍の絆』だ。同作では、ヤクザを殺して追われる主人公・我妻アベル(藤田玲)が、愚連隊の青年・五十嵐純也(佐藤流司)との出会いや、かつての少年院仲間・村上大児(駒木根隆介)との再会の中で、トラブルに巻き込まれていく姿を描く。小宮が演じたのは、地方都市の人間関係に縛られる元ヤンキーの中村かなで。今回のインタビューでは、同作が描く独特の“男の絆”や、守られるヒロイン像といった、初めて経験したもの、そして、異なるジャンルの活動が“演じること”に与える影響など、じっくりと語ってもらった。
“男の絆”が持つ二つの側面と、初めてのヒロイン像
小宮有紗 撮影=岩間辰徳
――レースものかと思いきや、“男の絆”が中心の作品ですよね。最初に脚本を読まれた際には、どんな印象を持たれましたか?
あまり“男の子たちの友情”みたいなものを描いた作品に参加したことがなかったですし、今回のような元ヤン的な女の子を演じたこともなかったので、最初はどういう感じなのか想像がつかなかったです。でも、「だからこそ、やってみたい」と思いました。
――地方都市を舞台にした、閉鎖的でドロドロとした人間関係も興味深かったです。舞台になっている場所について、監督から説明はあったのでしょうか?
「サガミ連合」というチームが出てくるんですけど、その部分については特に詳しくお話を聞いてはいないです。ただ、わたしが現場に参加したのは10日間の撮影の中の最後の3日間だったので、現場の空気がすでに出来上がっていて。そこにポンって入れてもらったようなかたちでした。
小宮有紗 撮影=岩間辰徳
――“男の絆”について、女性の立場からどうご覧になったのでしょう?
女性同士だとなかなかない関係だと思うので、純粋に素敵だと思いました。女の子同士の仲の良さはまたちょっと違って、距離感が近いですよね。男性同士の仲の良さは、女性にはないものなのかな、と思ったので、「楽しそうだな~いいな」みたいな感覚ですね。
――「ホモソーシャル」と呼ばれる、男性だけの関係性ですよね。この映画では、ホモソーシャルな世界のいいところだけではなく、ネガティブな同調圧力も描かれています。
そうかもしれないですね。そういうところが、バイオレンス描写に繋がっていると思います。実はそういう関係を描いた作品にも参加したことがなかったので、映像として完成したものを観たときに、面白かったですね。自分が出演していないシーンに、カーアクションだったり、暴力的なものが多いので、台本で読んだものと比べて「なるほど。こういう風になるんだ」と。
左から、村上大児役・駒木根隆介、我妻アベル役・藤田玲 (c)2018「ダブルドライブ ~狼の掟&龍の絆~」製作委員会
――初めてづくしの作品だったわけですね。小宮さんの演じられたかなでは、男性の犠牲になる不憫なヒロインのようにも思えました。
たぶん、かなで本人は「犠牲になっている」とは感じていないと思います。負けん気が強い女性なんですけど、大児(駒木根隆介)に守られて生きてきたので。犠牲というよりは、その環境のおかげで安全に過ごせている部分も大きかったんだと思います。結果としてアベル(藤田玲)と出会って、恋心を抱いてしまった……そのあとは確かに切ないですけど。かなでなりに、与えられた環境の中で一生懸命に生きてきた結果なのかな、と思います。
――小宮さんはこれまで、戦うヒロインを演じることが多かったですよね。一方のかなでは、性格はアグレッシブですが“守られる”女性です。演じてみて、いかがでした?
すごく新鮮でした。これまでわたしが演じてきた役は、特殊能力を持っていたりしたので(笑)。自身がアクションするような役が多かったので、傍観する、見守る側になるのは初めてで。だから、バイオレンスシーンはハラハラ、ドキドキしながら観ていました。これまでの役よりも、もっと人間味があるというか……もし、わたし自身がかなでと同じ状況にいても、黙って見守るしかないのかな、とお思いました。
小宮有紗 撮影=岩間辰徳
――かなでの心情を理解できる、と。
そうですね。普通の女性だったら、男の人には腕力では勝てないですし。かなでは心は強いんです。じゃないと、大児にぶつかっていけないし、自分の意見も言えないと思います。その強さは素敵だし、自分も共感できると思いました。
――かなでは、可愛らしい仕草で登場しますが、話し始めるときっぷのイイねえさんだとわかりました。あの口調は脚本どおりなのでしょうか?
わりと脚本どおりです。最初に台本をいただいて、「どういう感じかな?」と思っていて……いつものわたしだったら、可愛らしくしちゃうところだったんですが、「ちょっと違うな」と思ったんです。可愛くしてもよかったんですけど、そうしちゃうと、後で出てくる可愛い部分が効かなくなってきちゃう。そこは、アベルに「はあ……しょうがないな」と思われる、断れないような、勢いのある感じでいこうと思いました。
(c)2018「ダブルドライブ ~狼の掟&龍の絆~」製作委員会
――「〇〇よね」「〇〇だわ」とは言わない女性ですよね。
それもほぼ脚本どおりだったんですけど、(脚本では)逆に言葉遣いが荒すぎるところもありました。どうしてもしっくりこないところは、監督とお話しして、言いやすくしていただいたりはしました。「ラーメン、早く食わないと伸びちまうぞ」と書いてあったんですけど、さすがに「伸びちまうぞ」は違和感があったので(笑)。
――(笑)
「伸びちゃうよ」みたいなほうが、たぶん自然で今的じゃないですか。わたしが「伸びちまうぞ」って言うと、“坊”みたいな感じになっちゃうので……結構、家で真剣に悩んだんですよ(笑)。現場によっては、台本を一文字でも変えると怒られることもあるので、ちゃんと覚えようとはしたんですけど、どうしても違和感があって。お母さんを相手に何回も練習しましたよ。「お母さんちょっと聞いてて。どう?」って聞いたら、「ちょっと変だよね、やっぱり」って(笑)。怖くないというか、ヤンキー感が感じられなくて。
――台詞の微調整は、他の現場でも提案されるのでしょうか?
語尾とかは「変えてもいいよ」と言っていただけることもあるので、どうしても疑問に思えば、(変えてもいいかを)聞いてみたりはします。結果として変えられなかったとしても。
――それは、脚本から読み取ったキャラクターのイメージと台詞が違う場合ですか?
例えば、かなでとしてはもしかして合っているかもしれない台詞でも、わたしが演じることで“言わされてる感”が出ちゃうと、(観客が)冷めちゃうと思うんです。そうなってしまうのが怖くて。だから、かなでとして上手くストーリーの中で生きられるような、役と自分の中間みたいな感覚……かなでよりのいいところを、自分で探すようにしました。
小宮有紗 撮影=岩間辰徳
お芝居するときは、「小宮有紗だ」と気づかれなくてもいい
小宮有紗 撮影=岩間辰徳
――『ダブルドライブ』シリーズは、車に情熱を燃やす男性の気持ちも描いています。車のカッコよさは理解できましたか?
わたしはちょっと特殊なタイプなので、理解できました(笑)。最初の走っているシーンからカッコよくないですか? わたしの撮影には、車の走るシーンがなかったんです。でも、わたしが現場に入った日に藤田さんと佐藤くんがGT-Rに乗っていたので、超うらやましかったですよ。マジで乗りたかったんです! というか、佐藤くんが羨ましかったです。
――もともと、車に興味があったんですか?
父親が昔GT-Rに乗っていて、『頭文字D』とか、『湾岸ミッドナイト』とかが好きなんです。F-1もたぶん一回くらいは観に行ったことがあると思います。子どもの頃はGTシリーズは基本的に観に行っていました。
左から、我妻アベル役・藤田玲、五十嵐純也役。佐藤流司 (c)2018「ダブルドライブ ~狼の掟&龍の絆~」製作委員会
――『ダブルドライブ』の登場人物の価値観はわかるんですね。
わかります。昔、日曜日の夕方に『激走!GT』(編註:2003年から2010年まで放送されたSUPER GTの情報番組。2011年からは『SUPER GT+』)っていう番組が、テレ東で放送されていたじゃないですか。その後、名前が変わって深夜に移ったのかな。わたしが観ていた頃は、脇坂寿一さんがよく走っていらっしゃいました。だから、テレビでもガッツリ(レースを)観ていたんです。
――2016年の『夢二~愛のとばしり』のインタビュー時には、「いろんなことを経験したい」とおっしゃっていましたが、現在もそのお気持ちは変わらず?
変わらず、ですね。やっと、ちょっとずつ実現してきたような気がしています。一番の大きな転機が、声のお仕事を始めたことだと思います。これをやったから、映像のお芝居により楽しさを感じることが出来るようになったというか。声のお芝居でも新しい発見がたくさんあるんですけど、やっぱり身体を動かしたくなることもあって。そいうときに、今回のような映画に挑戦できると、まあ楽しいですね。で、映画をやっていると、声のお仕事をまたやりたくなります。今は両方をやらせていただいている環境がすごく幸せだと感じるし、ありがたいことだと思います。
小宮有紗 撮影=岩間辰徳
――声優としての声の出し方は、俳優としての演技にどう活かせるのでしょう?
これまでは、表情だけでなんとかしようと思っていたところがあったんですけど、声のお芝居をするようになってからは、抑揚だったり、しゃべり方の速さもすごく大事なことなんだな、ということをより感じるようになりました。例えば主婦層の方とかって、家事をしながら観るようなことも多いじゃないですか。そういうことを考えると、声で伝えることはすごく重要なんじゃないかな、と思い始めて。逆に、ドラマや映画のときは、動きもつけることが出来るから、もっとできること、自分だけの表現方法があるとも思うんですけど。
――逆に、俳優としての経験が声優の活動に役立ったことはありますか?
ベテランの方だったり、上手な声優さんは普通にやっていることだと思うんですけど、新人がアニメの“距離感”を掴むのは、難しいんじゃないかと思うんです。アニメだと(人物同士が)どのくらいの距離にいるか、ということを声で表現しないといけないから、わかりづらい時があるんです。例えば、机を挟んで話す場合と、壁の向こうにいる相手に話す場合だと、違うお芝居になるじゃないですか。俳優の仕事をしているので、その理解がわりと早いんじゃいかな、と思います。
小宮有紗 撮影=岩間辰徳
――俳優と声優の仕事が、相互補完しているのは素晴らしいですね。『夢二~愛のとばしり』で演じられた竹久夢二の愛人・彦乃、今回のかなでと、ちょっと特殊な境遇のヒロインを演じられている印象が強いのですが……意識してそういう役に志願していらっしゃるのですか?
そういうことはまったくないです。たまたま、タイミングがあってオーディションに呼んでいただけたり、決まったり。本当に、たまたまそういう役に巡り合っているだけで、わたしから「こういう役をやりたい」ということはありますが、「こういう役はやりたくない」と言うことは一切ないです。
――若い役も、成熟した役も挑戦できる年齢にさしかかっていると思うのですが。実感はありますか?
童顔と言われることが多いので……正直、高校生を演じるのはもう難しいかもしれないですけど、大学生くらいなら大丈夫なのかな、という気持ちもありつつ、この歳になったから出来ることも多いと思うので、何も制限を設けず、やれることをどんどんやっていきたいとは思っています。
――最後に、ヒロインを演じるときに、「こうありたい」という理想像があれば教えてください。
いつもお芝居するときは、「小宮有紗だ」と気づかれなくてもいいな、と思っています。ちゃんと、その子が存在していると思って欲しいです。役としてその空間の中にいて、「違和感なく溶け込めている」と感じてもらえるように頑張っていきたいです。そのうえで、「そういえば、これあの子だったよね」「これもやってたよね。全然違う!」って言われると、嬉しいですね。
小宮有紗 撮影=岩間辰徳
『ダブルドライブ ~狼の掟~』は2018年8月25日(土)、『ダブルドライブ ~龍の絆~』同年9月22日(土)よりシネマート新宿ほかにて公開。
インタビュー・文=藤本洋輔 撮影=岩間辰徳 
スタイリスト:鬼塚美代子(アンジュ) ヘアメイク:唐澤知子(THE FACE MAKE OFFICE
<衣装協力>
アシンメトリーオーバーレイトップ(SHIROMA)55,000円/スリットワイドサテンパンツ(SHIROMA)43,000円/サンダル(FLAG-J)7,900円/イヤリング(GOLDY)2,000円 
SHIROMA GUSUCUMA(03-6804-5865)/FLAG-J 渋谷109店(03-3477-5052)/GOLDY プレス担当(03-6447-4180)

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