『没後50年 藤田嗣治展』レポート 
日本初公開含む100点以上の作品が、
東京都美術館に集結!

「エコール・ド・パリ」と呼ばれる、20世紀はじめにパリを中心に活躍した外国人画家たち。その中で、シャガールやモディリアーニと並ぶ唯一の日本人が藤田嗣治だった。東京都美術館では、藤田の画業をたどる本格的な大回顧展『没後50年 藤田嗣治展』(2018年7月31日〜10月8日)が開催中だ。

展覧会メインビジュアルとしりあがり寿さんの「フジタ画伯とねこ」のパネル

明治半ばに東京で生まれた藤田は、80年を超える生涯の半分をフランスで過ごし、晩年にはフランス国籍を取得、カトリックの洗礼も受けている。生前は2度の世界大戦に遭遇し、5度の結婚を経験するという、波乱万丈の人生を送った藤田。本展を監修した美術史家の林洋子氏は、没後50年という節目の展覧会を、以下のように意味付ける。
「藤田を直接知る関係者が徐々に減り、藤田の存在感、肉体というものが歴史的存在になっていく中で、作品本位の展覧会をしようと思った。藤田は油絵描きとして生きたかった人なので、なるべく油絵を中心に展覧会を組んでいます」

《礼拝》 1962-63年 パリ市立近代美術館蔵 (c) Foundation Foujita / ADAGP , Paris & JASPAR , Tokyo , 2017 E2833

本展には、藤田独自の表現である「乳白色の下地」を使った裸婦像、戦時中の作戦記録画、晩年の宗教画など、国内外から100点以上の名品が集う貴重な機会となっている。一般公開に先立ち開催された内覧会より、見どころを紹介しよう。
藤田嗣治の無名時代の作品や、日本初来日作品も
会場には、オーソドックスな藤田の代表作に限らず、これまであまり紹介される機会のなかった作品も多く出品されている。特に注目したいのは、第2章「はじまりのパリ」における、1913年に渡仏した直後の作品群だ。まだ無名だった頃に描いた風景画や、当時パリで流行していたキュビズムの表現を試みた作品、友人のイタリア人画家・モディリアーニの影響をうかがわせる作品など、30歳前後の藤田作品が揃う。
《二人の少女》 1918年 プティ・パレ美術館(スイス・ジュネーヴ)蔵 (c) Foundation Foujita / ADAGP , Paris & JASPAR , Tokyo , 2017 E2833
1910年代後半の初期作品について、林氏は、「モチーフとしてはパリを描いたり、静物や人物を描いたりして色々と揺れながらも、20年代に生まれる『乳白色の下地』を確立していくまでの、習学期の様子を見ていただけるのではないか」 と語る。
続く第3章「1920年代の自画像と肖像」では、藤田の自画像や、パリのセレブリティから依頼された肖像画を中心に紹介。なかでも目玉となるのが、日本初公開となる《エミリー・クレイン=シャドボーンの肖像》だ。
《エミリー・クレイン=シャドボーンの肖像》 1922年 シカゴ美術館蔵 (c) Foundation Foujita / ADAGP , Paris & JASPAR , Tokyo , 2017 E2833
1920年代のパリに滞在していた裕福なアメリカ人女性を描いた作品には、「知的な彼女のテイストに合わせて、背景に銀箔が使われている」と林氏。この前後にも、藤田は金箔を使用した作品を制作しているが、銀箔が使われたのは本作のみではないかとのこと。オリエンタルなドレスやソファの模様など、質感まで伝わるような緻密な描写にも驚かされる。
藤田嗣治の代名詞、「乳白色の裸婦」が勢ぞろい!
第3章では、おかっぱ頭に丸メガネがトレードマークの、藤田の自画像が展示室に並ぶ。1929年の《自画像》には、藤田のモチーフに頻繁に登場する猫と女、さらに、画家が独自に生み出した乳白色の下地に、墨の細い線で描くスタイルを象徴するような面相筆(日本画用の絵筆の一種)が盛り込まれている。
《自画像》 1929年 東京国立近代美術館蔵 (c) Foundation Foujita / ADAGP , Paris & JASPAR , Tokyo , 2017 E2833
林氏は本作について、「20年代の藤田の様々なコンテンツというか、おかずがきれいにおさまった、幕の内弁当のような作品」と評する。加えて、自画像がもたらす効果について「自らが広告塔となって身体加工をしつつ、自分を描くことで世の中にイメージを振りまいていくという、自己宣伝のツールになっている」と解説した。
第4章「『乳白色の裸婦』の時代」では、藤田の代名詞ともいえる「乳白色の裸婦」作品が10点以上集まっている。近年修復を終え、良好な状態で公開された《舞踏会の前》と、《五人の裸婦》が並んでいる様子は圧巻だ。
《タピスリーの裸婦》 1923年 京都国立近代美術館蔵 (c) Foundation Foujita / ADAGP , Paris & JASPAR , Tokyo , 2017 E2833
真珠のような滑らかな肌の質感だけでなく、裸婦の背景を飾る布にも注目したい。「ジェイ布」と呼ばれるフランス更紗の細かい装飾描写は、乳白色の肌をより際立たせている。さらに本章では、藤田の手がけたポスター(リトグラフ)も出品されている。路上を彩っていた夜会のポスターからは、20年代のパリの雰囲気が伝わってくるようだ。
藤田嗣治の4つの「当たり年」 
林氏は、藤田の画業の中に4つの当たり年を見出し、それらの年を意識しながら作品集めを行なったという。まずは、第一次世界大戦末期の頃に描いたパリ近郊の風景や、モディリアーニ風の人物表現が目立つ“1918年”。この年に描かれた初期の宗教画は、藤田が早い段階からキリスト教に関心を持っていたことを示す重要な作例だ。続く“1923年”は、乳白色の裸婦などの代表作が集う年。
3つ目は“1940年”で、第二次世界大戦の広がりを受けて、藤田がパリから東京に戻った年にあたる。この年の作品には、闘う多数の猫の様子を描いた《争闘(猫)》がある。まるで画面から鳴き声が聞こえてくるような、凄まじい表情の猫たちが印象的だ。
右から《サーカスの人気者》 1939年 島根県立美術館蔵、《争闘(猫)》 1940年 東京国立近代美術館蔵、《人魚》 1940年 個人蔵 (c) Foundation Foujita / A DAGP , Paris & JASPAR , Tokyo , 2017 E2833
《争闘(猫)》(部分) 1940年 東京国立近代美術館蔵 (c) Foundation Foujita / ADAGP , Paris & JASPAR , Tokyo , 2017 E2833

最後の当たり年となるのが“1949年”。作戦記録画の制作を経て、戦後に国策協力の責任を問われる中、藤田は日本を脱出し、NYに1年ほど滞在する。そこで描かれたのが、本展のメインビジュアルにもなっている《カフェ》だ。
右から《美しいスペイン女》 1949年 豊田市美術館蔵、《カフェ》 1949年 ポンピドゥー・センター蔵、《カフェ》 1949年 熊本県立美術館蔵 (c) Foun dation Foujita / ADAGP , Paris & JASPAR , Tokyo , 2017 E2833
本作については、長年、パリや古い時代のノスタルジーを表現してきたと言われてきたが、林氏の見解は以下の通り。
「《カフェ》は、日本でもなくパリでもなく、藤田が1949年に日本を出てから約1年NYにいた時に描いた、『NY製のパリイメージである』ということを強調したい。また、藤田はこの年まで戦争で命を落とさず、筆を折らず、よく描き続けられたと思う。彼の人生には色々なことがあったが、これが描けたという奇跡を伝えたい」
実際にNYに滞在していた期間はごく僅かだが、1949年は集中してものを作った時代だと林氏は言う。《カフェ》や《美しいスペイン女》は、モチーフに合わせて藤田が手がけたフレームも見どころだ。

《フルール河岸 ノートル=ダム大聖堂》 1950年 ポンピドゥー・センター蔵 (c) Foundation Foujita / ADAGP , Paris & JASPAR , Tokyo , 2017 E2833
本展覧会には、ほかにも1930年代に北米や中南米、アジアを旅した時期の油彩や水彩画、晩年の手しごと、子供を描いた作品などが、余すことなく紹介されている。さらに、最新の研究成果を反映した藤田の日記帳や、スクラップブックも特別に展示されている。

『没後50年 藤田嗣治展』は2018年10月8日まで。藤田の作品を、質と量ともに史上最大級で見られる貴重な機会に、ぜひ足を運んではいかがだろうか。

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