pollyの追加ワンマンにみた、密室的
で親密なライブとほのかな自信

polly 1st Full Album Release Tour「Clean Clean Clean」追加公演ワンマン 2018.7.7 渋谷club乙-kinoto-
pollyのファースト・フルアルバム『Clean Clean Clean』のリリース・ツアーの最終日、東京・渋谷のclub乙-kinoto-でのライブを見た。彼らにとって2年ぶりのワンマンはソールドアウト。ツアーの東京公演は先月10日に青山の月見ル君想フで、She, in the haze、17歳とベルリンの壁という2バンドを迎えて行われたライブで既に行われており、この日は追加公演だった。
polly 撮影=宮下太輔
月見ル君想フ公演はメンバーがかなり緊張気味にも映ったが、この日はもう少しリラックスしたムードだった。今回はワンマン・ライブで、自分たちの客しかいないという安心感もあったろうし、東名阪のライブを無事にやり終えた安心感と、手応えも感じていたに違いない。それと共に、青山という場所柄と、渋谷、それも山手線の線路沿いの小さなライブハウスという場所がもたらした影響も無視できない。月見ル君想フに比べれば小さく、天井が低く、しかも再開発で今年中の移転が決まっているという薄暗いライブハウスは、演る側と聴く側の共犯者めいた感覚を呼び起こし、それはpollyのライブの現場に相応しいようにも思えたのである。
polly 撮影=宮下太輔
もちろんリラックスしているとは言っても、そこはpollyである。ゆらめくような美しくメランコリックなメロディ、エモーショナルなヴォーカル、分厚く官能的なシューゲーザー・ノイズの轟音が狭いライブハウスを揺らす。メロディ、サウンド、歌詞も含め、並外れたセンスを感じる。重低音の体感は、月見ル君想フ以上に感じた。予想以上に音がいい。その中でヴォーカル・越雲龍馬の繊細でか細い声は、聞こえるか聞こえないかの絶妙なバランスで、ノイズに埋もれることなくしっかりと存在を主張している。その声が想像力を刺激し、聴く者の内面を深耕する。
polly 撮影=宮下太輔
polly 撮影=宮下太輔
聴きながら、いろんなことを考えた。失ってしまったもの、壊れてしまったもの、汚れてしまったもの、大事だとわかっていながらあえて置き去りにしてきたもの……pollyの音には、そういう、聴き手に内省を促すようなところがある。曲間は拍手も歓声もなくひっそり静まりかえっていたのは前回同様で、昔のdipのライブを思い起こさせたりもしたが、たぶんpollyの音楽はその場にいる皆で共有して盛り上がるのではなく、アーティストと客1人1人が直接密やかな関係を結ぶような、そういう密室的で内面的なものなのだと思う。「ずっと昔から一緒だった犬が亡くなった時に書いた」という「hello goodbye」の「君ノ名ヲ呼ブ僕ハナク 僕ノ名ヲ呼ブ君モナイ」という歌詞は、同じような経験をした私を泣かせる。
polly 撮影=宮下太輔
polly 撮影=宮下太輔
月見ル君想フでのライブは、越雲のステージ上でのあまりに繊細で神経質な振る舞いやMCが、彼自身の不安定な内面を図らずも吐露してしまうような危ういものにも映った。自信を持ったり、なくしたり、自暴自棄になったり、傲岸不遜になったり。それがアーティストというものだし、そうした危うさこそがpollyの魅力でもあるのだが、今回はほのかな自信が彼を支えているようだった。それは『Clean Clean Clean』で初めて自分の納得のいく作品が作れたこと、そしてライブを重ね、ますます充実してきたバンドサウンドに手応えを感じているということだろう。越雲自身は「今日は感情的になりすぎてしまった」と終演後に語っていたが、この人たちはそれぐらいの方がいい。最後に「次はもっと大きな会場でやりたい。みんなを必ずそこに連れていくから」と語っていたのは彼らの自信の表れだ。この若者たちにはもっと広く大きな世界を見て欲しい。
polly 撮影=宮下太輔
polly 撮影=宮下太輔
とはいえ、この日のような親密でひっそりとしたライブも、アーティストと客の共犯関係、一対一の濃密なコミュニケーションのありようも、もっと大きな会場でやるようになり、不特定多数の新しい観客が加わることで、彼らの意思とは別に、少し変わっていくかもしれない。そういう意味で、pollyというバンドの豊かな将来性を強く感じるとともに、今この時にこそ見ておくべきバンド、という思いも持った。

取材・文=小野島大 撮影=宮下太輔
polly 撮影=宮下太輔

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