佐野玲於(GENERATIONS from EXILE
TRIBE)×飯塚健監督インタビュー 
“遠慮”から“座長感”へ……映画『
虹色デイズ』での吸収と変化

『HiGH&LOW』シリーズのタケシ役をはじめ、変幻自在に肉体を操り、観る者を魅了してきた佐野玲於(GENERATIONS from EXILE TRIBE)。そんな彼が己の武器を封印し、演技一本で魅せるべく勝負した『虹色デイズ』は、男子高校生4人組が主人公の青春映画だ。佐野を筆頭に、中川大志、高杉真宙、横浜流星ら同世代の20代前半、ルックスも実力も申し分ない、未来の映画界を担うフレッシュなキャストが“カルテット主演”を果たしている。
『虹色デイズ』では、撮影中もその後も、仲睦まじい様子がSNSなどを通して報告されている4人の――まさに演じたなっちゃん、まっつん、つよぽん、恵ちゃんのような距離感の――愛らしく瑞々しい表情を、『荒川アンダー ザ ブリッジ』、『笑う招き猫』などで知られる飯塚健監督が丹念に捉えている。2度目のタッグとなった佐野と飯塚監督は「日頃も飲みに行ったりする」という気心の知れた仲。佐野の演技の可能性を高めるような新たな魅力を開拓した本作について振り返ってもらいつつ、3度目のタッグのことまで、心ゆくまで語り合ってもらった。
“俳優部的な運動神経”が高い4人のキャストたち
佐野玲於 撮影=岩間辰徳
――佐野さんの新鮮な魅力が溢れている映画でした。今回なっちゃん/羽柴夏樹役に臨むにあたり、どういった準備をされたんですか?
佐野:今回はカルテット主演ということで、自分が4人の中のひとり、中心人物を演じさせてもらうことになったときに、なっちゃんの4人でいるときの立ち位置だったり、ほかの3人にどう密接に関わっていくのかなども、現場に入る前からリハーサルに参加させてもらって、関係性を作るところからまず始めました。例えば、僕とつよぽん(高杉)のふたりだけだったらどういう会話になるか、とか。4人でいるときと、ふたりずつでいるときは、また違う会話の流れになると思うので。そういった部分も細かく、監督と一緒に準備を重ねていきました。
――現場に入る前までのリハーサルの段階で、空気感を作り上げていかれていたんですね。
佐野:そうですね。やっぱりこの4人の空気感が、この映画の一番大切なところだと思うんです。男の子4人が起こす青春というのは、友情だったり、苦悩、葛藤、恋、進路……本当にさまざまだと思うので。いろいろなシーンの深みを出すためには、まず4人でいるときのシーンの空気感作りが大事でした。だから、その時間を濃くするために、リハーサルの時間を何回か設けていただいたのは、ありがたかったです。現場が始まっちゃうと、本当に余裕のないスケジュールが切られるので。リハーサルは、毎回4~5時間くらいやっていましたよね?
飯塚:そうですね。
佐野:皆で集まって、「ここ、こういうふうにできるよね」とか、「今の高校生って、こういうふうに言うよね」とか、監督が「ふたりになったら、こういうやり取りをしたらいいんじゃないかな」とか、いろいろディスカッションをしながら、やっていた感じがありました。僕は楽しかったんです。いろいろ探りながら、皆で集まって、変化を加えながらやっていたので。
左から、佐野玲於、飯塚健監督 撮影=岩間辰徳
――そうやって作られたということは、元の脚本が仕上がりの映像になるまでに、かなり変更されたところもあるのでしょうか?
飯塚:そうですね。脚本どおりというよりは、いろいろとリハーサルなり現場なりのセッションで生まれたものがすごくあると思います。玲於が話していたように、ディスカッションの中から生まれて取り入れたものも全然ありますし。『虹色デイズ』撮影時、僕は38歳だったんですけど、今の高校生の男の子が感じていることとかって、当時の僕らとそんなに変わんないんだな、と話していて思いました。
――普遍的なところがあるんですね。
飯塚:はい。結局のところ似たようなことをやっているな、っていう。そんなノリでしたけどね。
佐野:そうですね。監督と話していて、「男ってこういうとき、こうするよね」とか、男同士で会話していると、どうでもいい会話にちょっとした深さがあるのか、ないのか、みたいなこととかも話していましたよね(笑)。
佐野玲於 撮影=岩間辰徳
――カルテット主演の本作で、4人それぞれにきちんとスポットライトが当たっていたのが印象的でした。バランスはどうやって取られたんですか?
飯塚:ストーリーはラストシーンに向かって加速していかなければいけないのですが、それまでに、男4人、女の子は千葉ちゃん(坂東希)を含めて4人で、8人。そのバランスが、足し算じゃなくて、かけ算になっていかないといけない、ということだけは思っていました。だから、「台本にない台詞も言ったほうがいいかな」と思ったら、現場で足したりもしました。リハでもそうでしたし、足したり引いたりすることは、現場でもずっとやり続けていたんです。それは必ずしも本編に使う・使わない、じゃないんですよね。空気を作るという意味で、「プラスアルファをやったほうが、明日の撮影からもっと走っていけるな」ということで、足したりもしますし。スタッフ側にも、こう撮っていけばいいんだとわかることが、1ヶ月の旅に出るときに大事なことだとは思っていました。
――飯塚監督がそうやって指示を出されて、すぐに反応できる俳優でないと現場が成立しにくいと思うのですが。佐野さんや皆さんのリアクションの良さみたいなものは感じられましたか?
飯塚:とても感じました。まだこの世代なのに、きちんとその場で対応できる人たちがこんなに揃うこと自体、なかなかないと思います。俳優部的な運動神経が、すごく高い人たちだと思います。
「こうやって進めていくんだな」と、率直に思って勉強していました
佐野玲於 撮影=岩間辰徳
――特に、佐野さんの演技や佇まいで気づいたことがあれば、ぜひ教えてほしいです。
飯塚:玲於はお芝居自体が結構久しぶりだったと思うので、最初の頃はリハーサルをやっていても遠慮している感じがすごくあったんです。けど、やっていく間に、どんどん“座長感”を出してきたというか。きっと、やるにつれて「ああ、お芝居って楽しいんだな」っていうことを、たぶん感じてくれたんだと思うんです。そうなったことで、現場での振る舞いとかも俳優部然としていたように思います。
――作品を通して、佐野さんの印象も変わっていったんですね。
飯塚:僕が一番印象に残っているのは、ラストシーンです。詳しくは言えませんけど……ああいうラストシーンだから、そうそう簡単にオッケーは出るわけもなくて、大変なシーンになるのは撮る前からみんながわかっていました。だから、玲於を連れて校舎を一緒に歩きに行ったんです。これまでのこと、ここで撮ったこと、1ヶ月間の思い出があるから、みんなと過ごした日々を追想するじゃないですか。それから本番になって、NGが出るたびに、玲於はひとりでもう一度その道を辿り直していたりして。その感じが、すごく印象に残っていますね。
佐野:最後の、クランクアップのシーンがそこだったんです。自分は前日に軽くリハーサルをやったんですけど、そのときにすごくスタッフさんの力量を感じて。より緊張はしたんですけど、最後にそういう空気を作ってもらったことが、本当にありがたかったですし、すごくいろいろなサポートを感じました。だから、自然に、あの瞬間は自分も無我夢中だったというか。表現する場所でそういうふうにできるお仕事ってなかなかないなって、改めて今でも思います。監督や自分、いろいろな部のスタッフさんの思いがすごく集約されていたので、あの時間、あの場所はすごく思いが集中していました。だから、終わったときに一気に力が抜けて、「ハアー」みたいになって。
飯塚:(笑)
左から、佐野玲於、飯塚健監督 撮影=岩間辰徳
――達成感や安心感、いろいろなものが心にあったんでしょうか?
佐野:はい。いろいろ、ありましたね。
――先ほど飯塚監督が、インしたばかりのころの佐野さんから、ある種の遠慮のようなものを感じたというお話がありました。それについては、いかがですか?
佐野:あったと言えばあります(笑)。最初はめちゃめちゃ緊張していたんです。もちろんカルテット主演としてやらせていただくからには、全力でやろうと思っていたんですが。ほかのキャストが同じぐらいの世代で、なおかつすでに活躍している方もすごく多かったので、また緊張して(笑)。自分としても収穫のある、吸収できる場所にしていきたかったんです。みんな自分より年下だけど、リハーサルの空間になると、上に見えるというか。
――俳優としてのキャリアが上、ということでしょうか?
佐野:そうですね。自然とみんながたくましく見えて。だから、リハーサルをしていく中で、毎回「本当にすげえな」って思っていました。皆がいろいろ試している姿を見て、「こういう考え方をするんだ」「こうやって進めていくんだな」と、率直に思って勉強していました。
飯塚健監督 撮影=岩間辰徳
――飯塚監督は、これからの佐野さんに、「こういう俳優として活躍していってもらったらうれしい」という思いはありますか?
飯塚:もっとエッジの効いた作品に出るのもいいんじゃないかと思います。「とんがったやつ、やりたいね」という話を実はしているんですけど、ね?
佐野:はい。僕、本当に飯塚監督の作品が大好きなんです。本当に楽しいですし。普段から時間があれば、一緒に飲みに行かせていただいたりもしていて、そういう中でざっくばらんに話しているんです。
――飲みの場でも、作品や今後の話で盛り上がるものなんですか?
飯塚:わりと、後半は盛り上がります(笑)
佐野:前半は、しっぽりな感じでいかせてもらっているので(笑)。
――『虹色デイズ』は音楽も素晴らしく、特にエンディングテーマの「ワンダーラスト」がより煌めきを与えている気がしました。どのような形で降谷建志さんにオーダーされたのですか?
飯塚:降谷さんのスタジオでお会いして、「いわゆる少女漫画原作の実写映画化ですが、変に歩み寄らなくて大丈夫ですよ」という話をさせていただきました。ですが、意外にもすごく歩み寄ってくださった(笑)。
佐野:(笑)
佐野玲於 撮影=岩間辰徳
――降谷さんの楽曲の中でも、すごく新しい感じを受けました。しかも、素敵で。
飯塚:そうですね。僕と降谷さんは、歳も全く同じなんです。「陽はまたのぼりくりかえす」(Dragon Ash)のミュージックビデオを見たときの衝撃はすごかったです。この(『虹色デイズ』)どんぴしゃの世代は、(当時の)Dragon Ashをそんなに知らないと思うんですね。だから、降谷さんにも「『Under Age's Song』とか、Dragon Ashの初期を見た人たちが受けたような衝撃があったらうれしいです」というようなお話はさせていただきました。
佐野:もう本当に、『ワンダーラスト』はもちろん、どの曲もすごくこの作品にぴったりハマっていて、どれもシングルカットしていいぐらいです。「めちゃくちゃいい曲が集まっている!」と、僕も感動しました。流れるタイミングも、観ている側をすごく揺さぶる感じがあって。やっぱり、音楽ひとつでこんなに映画の印象も変わったりするんだな、と感じました。予告編では「ワンダーラスト」も流れていますけど、それがすごくスパイスになっていて……例えば、(EXILE)HIROさんも、「俺も観られるじゃん!」と言ってくれるぐらいなんですよ! HIROさんが青春映画を観るイメージって、なかなかないじゃないですか?
――ないですね(笑)。
佐野:例えば、“壁ドン”みたいなものをHIROさんが観ているイメージは、ないですよね(笑)。でも、『虹色デイズ』を観てくださっているHIROさんなら、想像できるんです。それほど、大人の方でも観られるというか……大人が自分の青春をトリビュートできるような、思い出せるような映画に仕上がっていると思います。
左から、飯塚健監督、佐野玲於 撮影=岩間辰徳
映画『虹色デイズ』は7月6日(金)より全国公開。
インタビュー・文=赤山恭子 撮影=岩間辰徳

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