金属恵比須・高木大地の<青少年のた
めのプログレ入門> 第8回 “西上作
戦”珍道中(ロバート・フリップ風で
神戸ツアーの舞台裏・前編)

我がプログレ・バンド「金属恵比須」。2018年4月29日に、初の関西公演として、HMV三宮VIVREでインストア・イベント、そして神戸チキンジョージでライヴを行なった。
招聘いただいたイベントは「078(ゼロ・ナナ・ハチ)」(名前の由来は神戸の市外局番らしい)。「音楽や映画、ITなどのプログラムが楽しめる複合イベント」(神戸新聞2018年4月29日号)であり、その一環としてプログレッシヴ・ロック・フェス「ExProg✕078」が開催されたのである。神戸は何とプログレに優しい街なんだ。
実はこのとき、金属恵比須は新作『武田家滅亡(仮)』の製作の真っ最中。レコーディングのスケジュールと重なってしまっており、お断りさせていただいていた。頭の中はすっかり戦国時代・東国の覇者「甲斐武田家」で頭がいっぱいなのだ。しかし、主催者の森田拓也氏(Quaser)に熱心に説得され、「078」の趣旨にも共感し、スケジュールを前倒ししてまで出演させていただくこととなった。『武田家滅亡(仮)』製作中ゆえ、一つの野望を抱いたからである。
“西上作戦”。1572~1573年、武田信玄が上洛を目指し西へ向かった軍事遠征である。しかし、道半ばで体を壊し、信玄の“西上”は泡沫に。続く後見の武田勝頼も、一度として畿内に足を踏み入れることなく、武田家は滅亡した。では、信玄・勝頼に代わり、440年以上を経て、“畿内”へ乗り込もうではないか。
機材車に、武田家の家紋(武田菱)をあしらった戦国のぼりを詰め込む。信玄・勝頼も成しえなかった武田菱の“畿内”への侵入。武者震いがする。いざ出陣!
なおライヴ自体の内容は、演劇ライター・吉永美和子さんによるレポート記事を参照していただきたい。 筆者はその舞台裏をロバート・フリップの日記風にしたためることとする。キング・クリムゾンのライヴ盤のツアー日記のごとく。
●4月27日 深夜23:00 東京都 自宅
神戸出発まであと7時間に迫る中、Studio MASSでは新作『武田家滅亡(仮)』のミックス・ダウン作業が粛々と進められている。私は自宅で髭剃り・パジャマを鞄に詰めながら、SNSでの結果報告をチェックしていく。
ドラムとベースとギターの音量をどうするかを議論。結局25:00まで繰り広げられ、後はエンジニアに託し、無理矢理就寝。しかし興奮して眠れない。2003年の青森ツアーの前日もたしか眠れなかったことと思いだす。
●4月28日 6:30 東京都中野
ギラギラな目で起床。機材車で中野のローディ宅に向かう。BGMは『角川映画メモリアル』。
ここでローディの紹介を。栗谷といい、ベースの栗谷の実兄。私と同い年である。ここでは「栗谷兄」と記すことにする。97年、高校の同級生(現・『SPICE』にて金属恵比須専属ライターとして活躍中の深見ススム )の紹介で知り合ったのが最初。直後より金属恵比須のファンとなり、以降スタッフとして毎回ライヴを手伝ってくれるようになる。いわば金属恵比須の“6人目のメンバー”である。
高校時代はお互いに人間椅子の大ファンになり、毎月のようにライヴに通っていた。もちろんドラムは後藤マスヒロ。
2人はJR中央線中野駅に向かう。後藤マスヒロと待ち合わせをしている。「人間椅子追いかけてたあの時から20年たって、まさかマスヒロさんと一緒にライヴをするために、一緒の車で神戸に向かうとはねェ」「感慨深いねェ」なんて話しながら中野駅に到着。オッカケ対象だったマスヒロと待ち合わせをするというなんとも不思議な感覚だ。
マスヒロ、登場。そして一言。「深酒しちゃったんで、運転できないけどいいっすか?」
たしかにちょっと酒臭い。もちろん運転しないでください!――こんな生活臭(否、酒臭?)のある会話ができるのは、ファンにとっては無上の喜び。こうして、マスヒロ、栗谷兄、筆者の3人で、いざ、神戸に。
深酒しちゃったんで……(後藤マスヒロ)
●4月28日 7:00 首都高4号線~中央道
“西上”するにあたり中央道を選択。『武田家滅亡(仮)』製作中の身として武田家の里・甲斐=山梨を通らなくてはね。新曲「武田家滅亡」の歌詞にも出てくる岩殿城(山梨県大月市)を眺めながら、前日まで行なわれたミックス・ダウンの音源を確認。車内でも議論が繰り広げられる。
●4月28日 9:30 長野県 諏訪湖サービスエリア
『武田家滅亡(仮)』の主人公であり、武田家最後の当主・武田勝頼は「諏訪四郎勝頼」といい、ここ諏訪の出身である。縁起を大切にするために諏訪湖に寄ったかと思いきや、実はマスヒロの「そろそろ腹減りませんか?」の一言による。そばを食べてご満悦。
筆者は気合を入れて武田菱のシャツを着ていたので、晴天の諏訪湖をバックに記念撮影。勝頼に敬意を表した、つもりである。
諏訪四郎勝頼に敬意を表し諏訪湖をバックに(後藤マスヒロ、高木大地)
小休止もほどほどで、岐阜方面へ。BGMは人間椅子『二十世紀葬送曲』。ファン2人が、演奏者本人と一緒の車で聞くという贅沢。様々な裏話を聞きながら栗谷兄と筆者は「へえ!」の連続。ファン冥利に尽きる。
実はこれ、翌日に控えているHMVインストア・イベント「後藤マスヒロ解体ショー」のネタ合わせでもあったのだ。しかし、どう考えても仕事0割、趣味10割。仕方ない、ファンなんだもの。
●4月28日 13:00 滋賀県 彦根城
唯一の観光スポットは国宝・彦根城。井伊家の居城。実は武田家と関係が深い。1582年、武田家滅亡後、徳川家康が井伊家に武田の旧臣を付与したことにより、「武田の赤備え」という朱色の甲冑軍団が「井伊の赤備え」となったのである。つい最近の高校野球で県立彦根東高校が応援で「赤鬼魂」という言葉を使っていたが、それはもとをただせば武田家にたどり着くのだ(写真の高校の垂れ幕参照)。
そのような理由から立ち寄ったのだが、マスヒロは「ブラタモリみたいだぁ~」とご満悦の様子。赤備えの前でも有料の記念撮影を。皆、満面の笑みである。ちなみに、ここで撮影をすると、天守閣前のお土産売店では5%オフとなるということで土産を爆買い。
急遽、お世話になっている彦根東高校出身のK書店・編集者T氏に連絡し、「なんかおいしい店ないっすか?」と無茶振り。しかし、即座に対応していただき、「高校時代によく食べていたソウルフードがあります! ちゃんぽん亭です!」と。そこに行こう。
K書店・編集者T氏の出身校前で
カーナビで「ちゃんぽん亭」を設定。しかし連れていかれた先は……山奥だった。カーナビが「到着しました」と虚しく伝える。え? どこ? よく見ると上の方には高速のサービスエリアがあるっぽい。どうやら、サービスエリア内のちゃんぽん亭に連れてこられたようだ。しかしこの車は下道に。入りようがない。どうやら多賀大社まで来てしまったようだ。仕方なく10km近くかけて彦根に戻り、ようやく発見。本店に。
「ちゃんぽん亭」本店
困難を乗り越えての一杯は骨に染み入るぐらいおいしかったのだった。「期間限定・豆乳仕立て・あさりちゃんぽん」850円(5月下旬まで)。ごちそうさまでした。
「期間限定・豆乳仕立て・あさりちゃんぽん」
彦根は、彦根城~彦根周辺ドライブ(カーナビに踊らされた時間含め)~ちゃんぽん亭と、3時間満喫。思った以上に道草をしてしまった。さて、マスヒロも昨日のお酒はとっくに抜けているので、やっとのことドライバーに就任。
後藤マスヒロ、ドライバーに就任
●4月28日18:00 兵庫県 神戸 三宮
神戸到着。やっと着いた。東京都中野から12時間をかけてとうとう“畿内”に。明治風の建物が多くあり、イメージとしては横浜みたいだという印象。ホテルにチェックインして、早速三宮の散策に。
●4月28日 19:00 HMV三宮VIVRE(兵庫県神戸市)
翌日にインストアイベントを行なうHMVに、ご挨拶と視察で訪問。入口周辺で目に止まったのが、ジャニーズJr.のポスターたち。店頭にはこう書いてある。「HMV三宮VIVREはジャニーズを応援しています!!」
「HMV三宮VIVREはジャニーズを応援しています!!」
金属恵比須、だ、大丈夫だろうか……。
金属恵比須に若い者は……
金属恵比須に容姿端麗な者は……
そんなことを気にしていたって仕方ない。とりあえず、前を見るしかないのだ。
すると、前方のレジの横に金属恵比須コーナーが! 前を見るものだ。
なんと、金属恵比須コーナーがあった!
品揃えはジャニーズJr.だけでなく、イエス、クリムゾンからスティーヴ・ハケット、アレアまで。プログレも充実している。杞憂だった。安心した一行は安心して記念写真。明日は成功するはず。
●4月28日 19:30 三宮駅周辺(兵庫県神戸市)
先ほど彦根でちゃんぽんを食べたばかりだが、極度の疲労のためかお腹が空く。三宮駅周辺を練り歩く。大食漢の栗谷兄が「牛肉食べたくない?」と。それは賛成だ。辺りを見渡せば賑やかで何の店だってある。
「マクドナルド多いね! ビーフ100%だよ!」筆者は唾を飛ばしながら一生懸命お店のありかを栗谷兄に教えた。「は?」栗谷兄は筆者を睨む。
ひるまず応戦だ。「吉野家も数軒見たね。ホラ、あっちにはガスト!」「ん?」「サイゼリヤだってある! そういやハンバーグ食べたくなってきたねェ」 そもそものチェーン店好きに加え、彦根での土産爆買いが祟り、懐事情が寂しかったため、アノ言葉だけは出してほしくなかったのだ。
「神戸牛食べましょうよ!」
あちゃー。やっぱり出てしまった。おいおいおい、ホテル代が出せなくなる。車中泊になっちゃうよ。
筆者の焦燥をよそに栗谷兄は「神戸牛 喜山」に入る。メニューを見る。「シャトーブリアン120g 23,500円」? メニューを見返す。もしかしたら「100gあたり235円」とスーパーで見慣れたことが書いてあったのを、色眼鏡をつけてしまい見間違えたのかもしれないではないか。「フィレ180g 22,000円」――否、色眼鏡ではない。見間違いではないらしい。
筆者の真っ青な顔を気遣い栗谷兄が払ってくれるという。ご馳走様です! 取り急ぎ車中泊のセンは消えホッと。
筆者は「神戸牛 赤身120g」、マスヒロは「神戸牛 極上赤身120g」、そして栗谷兄は「プレミアム神戸牛180g」を。プレミアムは15,800円! みんなで食べ回しをする。
「プレミアム神戸牛180g」
マスヒロの感想は、「これで死んでもいいわ」……せめて翌日のライヴ当日までは生きててください。せめて「後藤マスヒロ解体ショー」で死んでください。
帰り際、栗谷兄は店員に、「この人、チェーン店でハンバーグ食べたいっていってるんですよ! 神戸まで来たのに」と愚痴をこぼすと「当店もハンバーグございますよ!」と案内される。なんて優しい店員なんだ。すかさず、最後に一言付け加えていたが。
「……神戸牛のハンバーグですが」
――これはまた来なければならないではないか。一本取られました。
ここで、ひとつ謝らねばならない。ライヴのMC上で、「神戸牛、いくらのを食べたか?」という話題になり、筆者は「15,000円」と答えた。しかしそれは栗谷兄が注文したものであり、筆者はそれを一切れもらっただけだったのだ。景品表示法だったら「優良誤認」だ。
ということで、胸いっぱいの脂で元気満タン、猟奇爛漫。明日のライヴへの準備は万端である。そして、明日は神戸牛のハンバーグを食べることができるのだろうか!
「神戸牛 喜山」にて
……そういえば、「西上作戦」の大義名分を忘れていたが、もちろん、武田家ののぼりでライヴハウスを蹂躙するのが目的である。
(以下次号)

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