衝動と詩情を爆音に乗せ、tetoが巻き
起こすロックシーンの新風

teto <60分2,800円ツアー> 2018.5.18 新代田FEVER
全国9か所の対バンツアーのチケットは入手困難な会場が続出。そんなtetoが東京へ帰ってきた。結成から2年ちょっとでEP、スプリット、ミニアルバム、そしてシングルを1枚出しただけのバンドが、怖いもの知らずの勢いでロックシーンに新しい風を吹かせているのを見るのは痛快だ。今日の対バンはThe Mirraz。やむをえない事情で開演後に駆け付けたため、2曲しか聴けなかったが堪能した。相変わらず、ハードでミニマルでダンサブルな肝の据わったロックを叩きつけるバンドだ。ボーカル畠山承平が身にまとう、人を食ったようなトリックスター感と、その背後に潜む深い孤独感と内省が暴走する歌詞が好きだ。「CANのジャケットのモンスターみたいなのが現れて世界壊しちゃえばいい」が聴けて満足。
teto 撮影=作永裕範
魅了したいされたいされ続けていたい、し続けていたいよ。
1曲目「あのトワイライト」の歌詞をあいさつ代わりに引用して「teto始めます!」と叫ぶボーカル小池。パンクとしか言いようのないひしゃげた爆音をぶっ放すバンドを背に、マイクに噛みつくように吠えまくるボーカル小池貞利。超満員のフロアはあっと言う間に全員が振り上げる拳で向こう側が見えない。小池はギターをかきむしるのと、拳で空をぶん殴りながら暴れまわるので忙しい。「Pain Pain Pain」「暖かい都会から」と、曲調はある意味全部同じ明快なパンクロックだが、とんでもない熱量の歌声と耳に飛び込む歌詞のパンチ力が凄い。熱狂しているように見えてクールに澄み切った小池の目が凄い。
teto 撮影=作永裕範
「金曜日の平日にtetoを観に来る人は、世の中に恨みつらみがたまってる人だろうから(笑)。法律だけ守れば何してもいいんで、最後まで楽しんでください」
ラモーンズもクラッシュもバズコックスも大好きだ。アダルトビデオに出ていた同級生の歌です。クソゴミ女が忘れられない――。「My I My」「トリーバーチの靴」「36.4」と、劇的なひとことを曲間に散りばめながら曲は進み、ハイテンションは7曲目「ルサンチマン」で1つの頂点に達する。いうまでもなくルサンチマンとは、弱者の憎悪や復讐が内的に屈折した心理を指す。表現衝動の最下層にあるそれをいかにして音楽に昇華するか。tetoの目指す方向は明確だ。
teto 撮影=作永裕範
「ツアーを回って、思ったことがあります。それぞれに故郷があるというのは、凄いことだと思うんですよね」
とりとめのないようで、しっかりと「teen age」の曲紹介へとつなげるトークが冴えている。消えない切り傷のように痛み続ける美しい青春の1シーンを描くロックバラード「teen age」から、飼っていた柴犬のことを歌ったという「マーブルケイブの中へ」へ、小池の見ていた風景が脳内に再生されるほどに歌詞のイメージ喚起力が凄い。オーディエンスはtetoの歌詞を読み込んだ深いファンばかりで、「9月になること」は大合唱になった。「歌ってくれてどうもありがとう。まあまあ助かるわ」。小池の憎まれ口に愛がある。
teto 撮影=作永裕範
新曲「溶けた銃口」は「9月になること」の続編のようなもの、だそうだ。君を撃ち抜いた思いは変わらない。せつない勢いに満ちたパワーポップ風のサウンドに、メランコリックなメロディと歌詞が良く似合う。とてもいい曲だ。家でこそこそ聴くロックが最高だという曲です、と言って歌った「高層ビルと人工衛星」の猛烈なビートが風圧となってフロアを吹き抜ける。ドラムス福田裕介、ベース佐藤健一郎は動かざること山のごとし、ギター山崎陸は長髪を振り乱しながら実にエモいソロを弾く。バンドの一体感が素晴らしい。
teto 撮影=作永裕範
「tetoの「忘れた」聴いてみようかな、そう思う瞬間があるだけでありがたい。バンドやってよかったと思う」
チューニングしながら独り言のように、とりとめなくしゃべった結論はつまり、3月に出たファーストシングル「忘れた」が絶対の自信曲だということ。悲しくせつなく心に刻まれた幼い頃の傷をさすりながら、新しく出会えた“あなた”と今日を生きたいと歌う凄みのある愛の歌。衝動を物語に仕上げる筆力が素晴らしい。フロアの一人一人の目をじっと見つめながら歌う小池。スタイルはロックバンドだが、この人の素質は70年代のフォークシンガーやストリート詩人のそれに近いのではないか。本編ラスト、めちゃくちゃに速い2ビートのパンクチューン「拝啓」で沸騰するフロアを観ながら、そんなふうに考えていた。
teto 撮影=作永裕範
アンコール。一人でアコギを抱えて戻ってきた小池がまた長い話をしている。感覚的で、まわりくどく、それでいて結論があって、ユーモアもあり、リアルな信念がしっかり伝わる話し方がうまい。初めて買ったCDは「ポケモン言えるかな?」だそうだ。ポップなところから入って、徐々に音楽を掘っていった。次に歌う歌がみんなのそれになったらうれしい。そう言って歌った「手」は、武骨さと優しさ、荒々しさと繊細さが交錯する美しい1曲だった。
teto 撮影=作永裕範
teto 撮影=作永裕範
「新代田FEVERが俺のユートピアだぜ!」
再びバンドセットに戻り、「utopia」「新しい風」を猛スピードで。短距離を駆け抜ける走者のようにゴールテープを切り、手を振って去ったからこれで終わりかと思ったらとんでもない続きがあった。小池がアコギを抱えていきなりフロアのど真ん中に突入する。「もう声が出ないからみんな歌ってくれ!」と、メンバーもオーディエンスも巻き込みマイクなしに歌うシーンは、若いエネルギーと強いメッセージに溢れた壮観な光景だった。誰もが「光るまち」を完璧にそらんじていた。「間違いない。ここが光るまちだ」。小池が笑いながら、うまい言葉で締めくくる。
teto 撮影=作永裕範
そう、tetoの歌はもうすでに誰かの「ポケモン言えるかな?」になっていた。インディーとかメジャーとかポップとかロックとかは関係ない。誰かの人生を変えるかもしれない歌のかけらがここにある。ペース配分を無視した曲順や歌い方を含め、いろんな意味で今しかできない刹那の季節の真っただ中を彼らは走る。tetoを観るなら今しかない。

取材・文=宮本英夫 撮影=作永裕範
teto 撮影=作永裕範

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