“14年目のインディーズバンド”SUP
ER BEAVER、自らの音と信念を貫いて
到達した初の日本武道館

SUPER BEAVER 都会のラクダSP at 日本武道館 2018.4.30 日本武道館
第一声は、歌ではなく、渋谷龍太(Vo)の言葉だった。
「“山あり谷あり”で表せないほど、いろいろありましたけど、この日がひとつの答えだと思っています。どうもありがとうね。……最後の1曲みたいなMCになっちゃった(笑)。やりますか!日本武道館!」
そんなふうに幕を開けたSUPER BEAVER初の日本武道館ライブ『SUPER BEAVER 都会のラクダSP at 日本武道館』。それは、この場所に辿り着くまでに、多くの挫折と成功を積み重ねてきたSUPER BEAVERの生き様を全てぶつけるライブだった。
SUPER BEAVER 撮影=青木カズロー
アリーナ席から2階席まで総立ち、満員の客席に向かって、渋谷が「お手を拝借!」と手拍子を求めた「美しい日」からライブはスタートした。始めは手拍子と歌のみ。そこにパワフルなバンドの演奏が加わると、武道館の熱気と興奮は一気に加速していく。その勢いのまま「証明」、そして大きな合唱に包まれた「うるさい」へ。前のめりに身を乗り出して歌うボーカルの渋谷、開始早々「楽しんでいこうぜー!」と気合いを爆発させたギターの柳沢亮太、きつく目を閉じながら渾身のコーラスを聴かせた上杉研太(Ba)、始まった瞬間から感極まった表情でドラムを叩いていた藤原”29才”広明。ステージにいる全員がSUPER BEAVERというひとつの“意思”として繰り出す音楽は、決して一朝一夕で鳴らせるものではない。ここまで14年間、4人で刻んできた歴史があればこそ鳴らされる音だった。
SUPER BEAVER 撮影=鈴木公平
SUPER BEAVER 撮影=鈴木公平
「俺たちが14年間どんな戦い方をしてきたか見せてやるよ!」。そう言って届けたのは、ひときわアグレッシヴなロックナンバー「正攻法」。四分割にされた巨大なスクリーンにメンバーが演奏する姿が映し出されると、<まっすぐでいい まっすぐがいい>というバンドの揺るぎない信念を、ストレートな言葉で投げかけていく。楽器を持たず、ひたすら歌うことだけに専念するフロントマンの渋谷が、長い髪を振り乱しながら懸命に歌う姿は、本来的にビーバーの音楽が持っている言葉の力をいっそう強くする。“自分らしい生き方とは何か?”を問いかける「らしさ」では、渋谷はステージの横に伸びた花道を端から端まで移動しながら語りかけるように言葉を届けていたし、陽気で軽やかなサウンドが心地好い「赤を塗って」では、タンバリンを叩きながら、誰よりも楽しげに踊りながら歌っていた。お客さんの視線を一身に集めて言葉を紡ぐフロントマンは、開始から7曲の時点ですでにシャツが肌にべったりと張りつくほど汗ダクだった。
SUPER BEAVER 撮影=青木カズロー
SUPER BEAVER 撮影=日吉"JP"純平
「勝手に武道館は涼しいものだと思ってたけど……暑いね(笑)」「(武道館の客席の呼び方について)1階、2階、3階だと思ってたら、アリーナ、1階、2階なんだよ?」という“初武道館”らしい初々しいMCを挟んで、藤原の力強いドラムが口火を切ったインスト曲「→」から繋いだ「361°」は胸が熱くなる瞬間だった。2014年にメジャーレーベルを離れて、新しく立ち上げたインディーズレーベル[NOiD]から初めてリリースしたアルバム『361°』。そのリード曲でもある「361°」は、当時、全てを振り出しに戻したビーバーが新たな場所でバンドを続ける決意を託した再出発の歌だった。それが今、満員の武道館で鳴らされる意味はとても大きい。
SUPER BEAVER 撮影=日吉"JP"純平
SUPER BEAVER 撮影=日吉"JP"純平
そして、この日のライブで最も素晴らしい景色を描き出したのは、ストリングスと共に演奏したロックバラード「人として」だった。<人としてかっこよく生きていたいじゃないか>と、自分にも言い聞かせるように繰り返すその歌は、ビーバーの美学が詰まっている。凛としたメロディに美しいストリングスの音色が寄り添い、その歌に込めた情熱を何倍にも増幅させると、最後に渋谷は「たとえバカにされるようなやり方であっても、真っすぐに愚直に向き合うことでしか、あなたとは通じ合えないと思っています」と言った。息を呑むようなその演奏が終わったとき、ふと周りを見渡すと、そっと目頭を拭うお客さんが大勢いた。
SUPER BEAVER 撮影=日吉"JP"純平
「武道館を通過点にしなきゃいけないと思っていたけど、武道館は立派なひとつの到達点です。俺たちは片手間で人と向き合ってきたつもりはない。その場所、その場所を到達点にしてやってきた。そしたら14年間もかかってしまった。悪くないって思います。この到達点が終着点じゃないところに、俺たちの面白さがあると思っています」
SUPER BEAVER 撮影=鈴木公平
中盤のMCで武道館に立つ意味を改めて伝えたあと、最近まで、あまりライブで披露することのなかったメジャー時代の曲「シアワセ」を、「あの頃に唯一胸を張ってやっていた曲」と紹介して披露。そこから、いよいよライブはクライマックスへと向かっていった。ミラーボールが放つ無数の光が武道館の天井に美しい流星群を描いた「東京流星群」、渋谷がメンバーの名前をフルネームで呼び、会場に集まった“あなた”を含めてSUPER BEAVERだと叫んだ「秘密」へ。その場所にいる全員が大声で歌い、こぶしを突き上げながら作り上げた素晴らしい光景を前にして、かつて「武道館には興味がなくて、“あなた”がいる武道館に立ちたい」と言っていた渋谷は、「これぞまさしく本当に“あなた”がいてくれる武道館です!」と、万感の思いを込め叫んだ。
SUPER BEAVER 撮影=青木カズロー
最後のMCではお客さんの顔をひとりひとり確認するように客席を見渡しながら、渋谷が語りかけた。バンドを続けるなかで存続が危ぶまれる瞬間もあったこと、今のチームに出会って「インディーズのまま武道館を目指してみよう」と話したこと、目の前に“あなた”がいてくれることが決して当たり前だとは思っていないこと。ミュージシャンであれば、その感謝の気持ちは「音楽に全てを込めた」と言えば、かっこいいのかもしれない。それでも、ありったけの言葉を尽くして、感謝の言葉を伝えずにはいられないのがビーバーのやり方だ。誠実な感謝の言葉と共に届けた「ありがとう」のあと、本編のラストを飾ったのは「愛する」だった。<「あなただけが僕の全て」と言えない理由が嬉しいよ>。そんなフレーズから始まる歌は、3年前に、メンバーも、レーベルの仲間も、バンド仲間も、家族も、友だちも、お客さんも、全てが大切だと思える幸せを書いた曲だったが、まるで日本武道館という場所で鳴らされるのを待っていたかのように、この日の終わりにあまりにも相応しかった。
SUPER BEAVER 撮影=青木カズロー
アンコールでは、いつものライブでは滅多に話すことのないメンバーもマイクをとった。「楽しかった。それに尽きます」という柳沢は、ビーバーの全ての曲の作詞を手がけているとは思えないほど、言葉は少なかった。上杉も「言葉が出ないよね、どうもありがとう!」と一言。藤原も「嬉しいですね、こんなに人がいっぱい」と短い言葉で喜びを伝えたが、それで十分だった。そして、ポジティヴなサウンドにのせて、あなたの幸せを願う新曲「ラヴソング」を披露すると、最後に「これからも、あなたと1対1で、“あなたたち”じゃなくて、“あなた”と歌うバンドでいたいと思います」と、渋谷。その言葉に長い長い拍手が送られると、続く渋谷の声は震えていた。一瞬、顔を手で覆ってから、「今日をゴールにしないために絶対に泣かないって決めてる」と言って、こぼれ落ちそうな涙を堪えながら、「それでも世界が目を覚ますなら」と「素晴らしい世界」の2曲を届けた。会場に金の紙吹雪が舞うなかで、ビーバーが最後に伝えたのは、未来を素晴らしい世界に変えるのは、自分自身だということ、その世界は決してひとりきりではないということだ。そして、そのメッセージはSUPER BEAVERというバンドが14年間かけて証明した真実そのものだった。
SUPER BEAVER 撮影=鈴木公平
この日のライブで、ビーバーは6月に新しいアルバム『歓声前夜』をリリースすること、初のワンマンツアーを開催することを発表した。バンドにとって大きな到達点として、自分たちにしかできないやり方で初の武道館ライブを成功させた“14年目のインディーズバンド”の視線は、すでに次のフェーズへと向いていた。

取材・文=秦理絵 撮影=青木カズロー、鈴木公平、日吉“JP”純平
SUPER BEAVER 撮影=青木カズロー

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