マームとジプシーの藤田貴大が、彩の
国さいたま芸術劇場『めにみえない
みみにしたい』で4歳から大人まで楽
しめる芝居をやっちゃうぞ!

彩の国さいたま芸術劇場では、4月29日(日・祝)~5月6日(日)に、4歳から大人までが一緒に楽しめる『めにみえない みみにしたい』を上演する。作・演出はなんと! なんと! 日本の現代演劇をリードするマームとジプシーの藤田貴大。決して「子ども向け」と銘打っているわけではないけれど、ファンタジーの世界を自由に旅することができる子どもこそより楽しめる要素が満載。普段の作品での“とんがり”ぶりからは想像しにくいかもしれないが、ほのぼのとやさしい、藤田版“不思議の国のアリス”とも言うべき物語の稽古場を訪ねた。
藤田貴大
主人公は、ひろこちゃんという女の子。
彼女は夜も眠れないほど、悩んでいました。
いつも一緒に寝ている猫のにゃあにゃあちゃんだけは知っているその悩み。
それは、おねしょ。
(きゃー、そこの君は大丈夫〜? お父さんお母さんはいつまでだったか聞いてみよう)
おしっこの妖精たちに驚いて気絶したひろこちゃんは、
静かな夜の森の中へひとりで旅に出かけていきますーー。
ひろこちゃん役の長谷川洋子
出演者は女優さんが4人だけ。稽古場にはあふれんばかりのオモチャが並んでいる。CDも足の踏み場がないくらい床に敷き詰められている。うそ、ちょっと大げさ。でも印象はそんな感じ。きっと、女優さんたちと藤田がめいっぱい子どもに戻ったかのように無邪気に遊ぶなかから戯曲が紡ぎ出されてきたのだろうと妄想する。だって楽しそうなんだもん、稽古場。女優さんたちができ上がったばかりの台本を片手に、物語の後半を静かにさらっていた。かと思えば、いつの間にかごく自然に稽古が始まっていくーー。稽古場の日常と、物語世界がなんとなく地続きのように感じさせるのは、藤田作品のエッセンスや女優陣のキャラクターのせいだろうか。
彩の国さいまた芸術劇場では、2016年に『ドコカ遠クノ、ソレヨリ向コウ 或いは、泡ニナル、風景』、2017年に『ハロースクール、バイバイ』と、出演者を公募したワークショップ公演を行っている藤田。10代前半の若者たちを起用して多感な生を浮き彫りにしてきた。そんな劇場との取り組みがベースになっての新たな企画が『めにみえない みみにしたい』だそう。
お母さん役などを演じる成田亜佑美
森の中で目に見えない動物を探して歩き回るひろこちゃん役の長谷川洋子は、実はお芝居を観にきた子供たちを物語の世界へ連れていく案内人。にゃあにゃあちゃんに留まらず、森のさまざまな動物たちを次々と演じていく伊野香織がとても楽しい。存在自体がファンタジーをまとったような独特の雰囲気の川崎ゆり子は魅惑的だし、落ち着いた雰囲気の成田亜佑美は何か大事なことを教えてくれそうな予感。ダンスがとってもかわいい。けれど場面はちょっぴり悲しい。マームとジプシーではおなじみ、suzuki takayukiは彼女たちにどんな衣裳を用意しているのだろう、気になる。
藤田の作品ににじむ記憶、郷愁、感傷、青っぽさ、無鉄砲……そうやって書くと、この作品においては少し生々しいかもしれない。むしろ、その卵が割れたり、萌芽が始まるのは、物語のエンディングから少し先かもしれない。だけど確実にそれらは戯曲の底流に流れている。そして、ファンタジーの仮面をかぶってはいるけれど、やはり藤田の作品には欠かせない死や戦争、家族の関係もひょっこり顔を出す。
また藤田の代名詞とも言えるリフレインに、いつもだったら感情を揺さぶられ、過去のさまざまな記憶を呼び起こされてジーンと来てしまうところだが、『めにみえない みみにしたい』では、なんだかこれから起こる小さな冒険のワクワク、ドキドキに変換されている。
この日の夕方、音楽を担当するクラムボン原田郁子が稽古場にやってくる。無造作に置かれていた楽器を役者たちに持たせ、動きに合わせて音で味付けをしていった。するとどうだろう、稽古場全体を魔法にかけたかのように、また別の世界に運んでいってくれた。なんだか、トトロが出てきそう(出てこないけど)。トトロ、忘れて。さもないと間違えて所沢市や入間市に行っちゃうよ。同じ埼玉県でも全然違う方向だからお芝居に間に合わなくなっちゃう。『めにみえない みみにしたい』をやってる彩の国さいたま芸術劇場は、与野本町駅だからね。
開幕まで、あと少し。おねしょの悩みから始まる少女の冒険を通して、ひろこちゃん、そして客席の子どもたちは、お芝居を観終わったころにはちょっぴり大人になったかのように胸を張っているかもしれないね。
《藤田貴大ふじた・たかひろ》1985年北海道伊達市生まれ。マームとジプシー主宰。演劇作家。桜美林大学文学部総合文化学科にて演劇を専攻。2007年にマームとジプシーを旗揚げ。象徴するシーンのリフレインを別の角度から見せる映画的手法が特徴。『かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。』で第56回岸田國士戯曲賞、『cocoon』(再演)で第23回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞。
取材・文・写真:いまいこういち

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