声優・櫻井孝宏インタビュー 『モネ
それからの100年』音声ガイドの魅力
と、“アート”との向き合い方を語る

2018年7月14日(土)~9月24日(月・休)にかけて、横浜美術館にて開催される展覧会『モネ それからの100年』。本展の音声ガイドナレーターを、人気声優・櫻井孝宏が担当することが決定した。今回、音声ガイド収録を終えたばかりの櫻井にインタビューを敢行。展覧会の見どころのほか、櫻井自身の美術体験についてもたっぷりと語ってもらった。
「アニメ声優」とも「ナレーション」とも違う、「音声ガイド」の魅力
——まずは、音声ガイドを収録されての感想を教えてください。
僕は普段、アニメーション声優の仕事が多いのですが、そうした仕事ともナレーションの仕事ともまた違う、音声ガイドのアプローチは楽しかったです。モネについてそれほど詳しいわけではないので知らない言葉もありましたが、こうやって展覧会に関わることで、知識が増えて興味も湧きました。
——今回の音声ガイドは、どのような内容になっていますか?
モネの取り組み方や絵の方向性を時代ごとに解説して、その生涯を追うような内容になっています。セリフとまではいきませんが、モネが遺した言葉もちりばめられています。
——収録時、特に心がけたことはありますか?
専門用語などを初めて聞く方でもわかりやすく、聞きやすいようにと心がけました。音声ガイドはナレーションの仕事に近いのかもしれないですが、ナレーションほどクールではないというか、聞き手に語りかけるようなニュアンスが入っているんです。なので、聞き手とちょっと距離が近いようなイメージも大事にしました。美術館では、周囲に人がいっぱいいる中で、ひとりで音声ガイドを聞くわけじゃないですか。その瞬間、その人たちはちょっとプライベートな感じになって、自分の空間ができあがるわけです。ガイドなしで見るのとありで見るのとでは、そこが大きな違いなのかなと思っています。
“アート”に囲まれていた幼少期 大切なのは「フィーリング」
——収録のなかで、初めて触れたモネの魅力はありましたか?
モネにも低迷期といいますか、評価されていない時期があったというのは意外でした。知名度もありますし、ずっとぶっちぎりの人かと思っていたので(笑)
あと、同じ場所にとどまって何枚も同じ絵を描くことは、自分には絶対できないなと思いました。僕は多分、すぐどっか行っちゃうんで(笑)。時間の流れや季節の移り変わりを表現するために、時間をかけてコツコツと繰り返し描いていたのはすごいですよね。モネは、絵を描くのが本当に好きなんだなって思いました。
——音声ガイドの収録で、特に印象に残った作品はありましたか?
やっぱり《睡蓮》ですね。以前、直島・地中美術館のモネ室で見たモネの絵がすごく印象的だったんです。モネの絵があることは知らず、現代アート目当てで行ったんですけど。真っ白な部屋に《睡蓮》の絵が何枚か飾ってあって、空間の雰囲気も含めてすごくインパクトがありました。僕は美術鑑賞に関してはズブの素人ですが、伝わるものがあって、しばらくボーっと見入ってしまいました。そのイメージが強く残っているので、今回も楽しみにしています。
あとは、後半の展示にある、モネに影響を受けた現代アーティストたちのオマージュ作品もオススメです。
——直島にも行かれたということは、日頃アートに触れる機会は多いのでしょうか?
子どもの頃、絵を描くのが好きだったんです。母はマリー・ローランサンが好きで、父の知り合いにも画家がいたので、家にリトグラフが飾ってあったり、幼い頃からなんとなく“アート”といえるようなものに囲まれていたんです。なので、今でも美術展や博物展には時々行っています。
——特に好きな画家はいますか?
ちょっと前に回顧展も開催されていましたが、アルチンボルドが好きです。ルーブル美術館で本物の《四季》を見て感動しました。やっぱり、ルーブルはすごいですね。仕事の関係で行ったんですけど、「一週間いられるな」って思いました。絵の前で絵を描いている人がいるのが衝撃的だったし、作品の写真を撮るのもオッケーなんです。欧米の美術との距離やスタンスは、フランクで面白いなと思いました。
僕は以前、モネの画集をジャケ買いしたことがあるんですけど、それぐらいでいいと思うんですよ。そこまで詳しくなくても、フィーリングでいいんじゃないのかなって思っちゃいます。ちょっとでも興味があったら美術館に足を運んでみて、一枚でも好きな絵があったらいいんじゃないのかな。
「僕のガイドが、絵を楽しむ“きっかけ”になったらいいな」
——モネという画家の生涯に触れてみて、声優として共感するような点はありましたか?
モネはやっぱり芸術家ですね。モネのように「0から1を作ること」と、声優の仕事のように「1を2にすること」には、大きな違いがあります。僕は、「0から1を作ること」は苦手なんですが、「1を2にすること」はなんとなくできるかなと思うんです。何もないところからアイディアは出せなくて、「台本ください」ってなっちゃう(笑)。共感というよりもむしろ、根本が「アーティスト」なのか「アルチザン」なのかは、結構大きな違いかもしれないなと思いました。
——モネにとっての「睡蓮」や「庭」のように、櫻井さんのなかで何か強く印象に残っている場所やモチーフはありますか?
「新宿」ですね。上京したのが25年前なんですけど、当時まだ新宿駅には連絡用の掲示板があったんです。それを見て、「本当に『シティーハンター』みたいだな」って思ったんですけど(笑)。あとは、上京したての頃から新宿でやっていた工事が、一昨年前くらいにやっと終わったりとか。そういう20年以上の時間の流れをずっと見続けていると、時々はたと「すごい変わったんだな」と感じさせられます。新宿っていう街には、上京してからの思い出も思い入れも、いまだに一番ありますね。
——櫻井さんが音声ガイドを担当するということで本展を訪れるファンも多いかと思います。あまりアートに馴染みのない方へ向けてのメッセージをお願いします。
アニメもひとつのアートですが、アニメばかり見ているという方にも、ぜひ来てほしいです。やっぱり、“きっかけ”ですよね。僕が今回音声ガイドに参加させていただくことが、誰かのきっかけになったらいいなと思います。もしかしたら見にきたことでモネにハマるかもしれないし、やっぱり、まずは“見ること”ですよね。「絵だけではあまりピンとこない」という人でも、ガイドを聞いてもらえれば、より作品やモネの人柄について知ることもできます。僕のガイドが、そういう方にとって絵を楽しむきっかけになったらいいなと思っています。
※音声ガイド貸出価格550円(税込)
※なお本展は4月25日(水)〜7月1日(日)まで名古屋市美術館に先行巡回する。

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