謎解きと駆け引きと浪漫に満ちた舞台
『大正浪漫探偵譚─六つのマリア像─
』が開幕

大正浪漫に生きた和製シャーロックホームズ東堂解を主人公に、探偵事務所の助手たち、東堂の手足となって働く「少年探偵団」、彼の推理力を頼りにする警察関係者等々、個性豊かな人々が織りなす、謎解きと駆け引きと浪漫に満ちた舞台『大正浪漫探偵譚』シリーズの最新作、舞台『大正浪漫探偵譚─六つのマリア像─』が、4月18日北千住のシアター1010で開幕した。
舞台『大正浪漫探偵譚』は2013年7月『大正浪漫探偵譚』というタイトルで初演され、評判が評判を呼び全公演満席となった和製シャーロックホームズ東堂解の事件簿。その後、熱烈な要望に応えてシリーズ化され、エンターティメント作品の脚本・演出で高い評価を得ている鈴木茉美の代表作のひとつとして、快進撃を続けている。
その3作目となる今回の舞台『大正浪漫探偵譚─六つのマリア像─』では、抜群の洞察力と推理力を誇る私立探偵東堂解役に、オールメール劇団として斬新な作品を世に送り出し続けている劇団「Studio Life」の看板俳優、山本芳樹が初登場。思いこみの激しい猪突猛進型だが、一目見た文字情報を脳に完璧に記録できる特殊な才能を持つ、東堂の助手・南澤譲に木津つばさ。誰にでも優しく笑顔をたやさない温和な人柄でありつつ、武闘派でもある同じく東堂の助手・北早翔太に横田龍儀、というフレッシュな顔合わせをはじめとした、魅力的で強力な布陣が実現。熱量の高い舞台が展開されている。
そんな最新作のゲネプロ(最終通し稽古)が、初日を夜に控えた4月18日行われ、22人の俳優たちが、本番さながらの迫力ある熱演を披露してくれた。
【STORY】
ある屋敷の家政婦が殺された。凶器は屋敷にあったマリア像の彫刻だと判明。一見ただの強盗殺人かに思われたが、別の場所では政府関係者が自宅で殺される事件が起き、凶器こそ不明なものの、自宅にあったマリア像の彫刻が盗まれていた事実が浮上する。二つの事件にまたがる「マリア像」に疑いを持った佐々木刑事(栗田学武)は、部下の伊藤刑事(村川翔一)と共に、大正の名探偵東堂解(山本芳樹)の知恵を借りに、東堂探偵事務所を訪れる。時を同じくして、政府機関の黄島(松本慎也)と黒川(天野眞隆)も、事件の手掛かりを得るため、東堂探偵事務所を訪れてくる。次々ともたらされる情報から、連鎖して明かされる「マリア像」をめぐる奇妙な事件は、やがて六つのマリア像の存在によって繋がっていく。東堂は助手の南澤譲(木津つばさ)、北早翔太(横田龍儀)、そして彼らを手助けする少年探偵団(佐藤友咲、竹中凌平、宮崎湧、夏目雄大、高橋文哉)と共に、複雑に絡み合った事件の糸を解いていく。だが、見えざる犯人は「捕まりませんよ東堂探偵、貴方にはがっかりだ」という不敵な言葉を投げかけてきて……。
『大正浪漫探偵譚─六つのマリア像─』
『大正浪漫探偵譚─六つのマリア像─』
舞台は、この大正の時代に世を騒がせている様々な事件を報せる新聞記事を読む、山本芳樹の早替わりからスタートする。佐藤友咲、竹中凌平、宮崎湧、夏目雄大、高橋文哉が、山本の周りを取り巻いてスピーディに動きながら、広げた新聞紙を楯にして、山本が衣装の引き抜き、早着替えを続けながら、性別も超えて新聞を読み続ける様が、オールメール劇団で女性役の経験も豊富な山本ならでは。その視覚効果の面白さと、テンポの良さで、舞台への興味が掻き立てられる絶妙な幕開けだ。
『大正浪漫探偵譚─六つのマリア像─』
『大正浪漫探偵譚─六つのマリア像─』
そこから、場面は東堂探偵事務所となり、新聞記事の出来の良さを羨んで悔しがる南澤と、笑顔で訴えを聞いてやる北早という展開になり、やがて東堂探偵、更に、事件をもたらす刑事たち、役人たち、と流れるように登場人物たちが集まってくることで、物語が転がっていく。更に「マリア像」をめぐる捜査がはじまると、事件の関係者たち、教会、雑貨商、と場所を変えながら、少年探偵団たちの「東堂先生のような立派な探偵になる為の特訓」と称する、楽しいクイズや、ゲーム感覚のシーンを差し挟みつつ、怒涛の展開を示していて、目が離せない。
『大正浪漫探偵譚─六つのマリア像─』
『大正浪漫探偵譚─六つのマリア像─』
特に感心したのは、冒頭の新聞記事にはじまって、一見お遊びのような、本筋とは関係がないと見えていたエピソードの数々が、実は周到に用意された伏線で、何一つ無駄がなく、しかも推理もののタブーである後付け設定を冒すこともなく、すべてがきちんと提示されていつつ、「六つのマリア像」をめぐる本筋の事件に収斂されていく脚本の見事さだった。それでいて、南澤&北早の助手コンビが「ここまでの事件を整理してみましょう」と確認しあう、という設定で、スクリーンを使い、文字として、起きている事件の経緯と経過を頻繁に提示してくれるので、うっかり台詞を聞き逃したとか、お目当ての役者の芝居に気を取られていた、等の要因で、ドラマに置いていかれる心配もない。これは、探偵ものをエンターテイメントの舞台に仕上げる術を熟知した、脚本・演出の鈴木茉美ならではの優れた手腕で、大正浪漫探偵譚が、熱い支持を得ている秘訣を観る想いがした。
『大正浪漫探偵譚─六つのマリア像─』
『大正浪漫探偵譚─六つのマリア像─』
そんな作品で、名探偵東堂解に扮した山本芳樹の自在な演技力が、舞台をぐいぐいと牽引していく様には、やはり群を抜くものがある。常に飄々とした態度で才気を包み隠していつつ、人並み外れた洞察力を見せる時の視線の鋭さ、一転して名推理を「カンです」と煙に巻くおかしみと、様々に見せる表情がいずれも魅力的。膨大な台詞も流れるようにこなし、古今の名探偵の特徴を良い意味で踏襲しながら、個性が光る東堂解の造形に成功している。是非、山本・東堂解で次の新作も検討して欲しいと思える存在感だった。
『大正浪漫探偵譚─六つのマリア像─』
『大正浪漫探偵譚─六つのマリア像─』
南澤譲の木津つばさは、舞台の半ば過ぎまでは、大車輪の熱演ぶりで圧倒していたからこそ、後半の特殊能力の発揮に、新鮮な快さを感じさせる。どんなに振りきった芝居をしても、暑苦しくならないのは木津のチャーミングな持ち味あってこそ。一方の北早翔太の横田龍儀が、優しく温かいおおらかな演技で探偵事務所にいることが、横田の爽やかさも手伝って、まさに一服の清涼剤。あくまでも物語の中で、さりげなく重要な説明役もこなし、非常に効果的だった。
『大正浪漫探偵譚─六つのマリア像─』
『大正浪漫探偵譚─六つのマリア像─』
また、一瞬女性が混じっている?と錯覚するほど、キュートな愛らしさも放つ少年探偵団の面々の存在は、舞台に緩急を与えるし、出てくる登場人物それぞれに、強烈な個性があり、また大きな役割があるのも舞台の見応えを高めている。推理ものという物語の性質上、各々に触れることが難しいのだが、どの人物も実に魅力的で、用心しながら、ほんの一端に触れると、前作から引き続いて登場のエリート警部・田中三郎の栗原功平の、抜群の台詞回しとスマートに作りこんだ立ち居振る舞いからは目が離せないし、画家・西条克幸の舘形比呂一の、舘形ここに有り!の吸引力は圧倒的で、舞台全体の重石ともなっていた。
『大正浪漫探偵譚─六つのマリア像─』
中でも秀逸だったのは、出てくる人物が、それぞれに複雑な顔を持っていて、一見悪人と見えた人物の中にも純粋な心根がある、といった人の多面性が描かれていること。推理ものでありながらも、ステロタイプな悪役が存在しないのは、鈴木の人間に対する温かな目線を感じさせ、観劇後の印象がしみじみと胸にしみた。22人の俳優たちの、優れた演技と、脚本の見事さが相まって、結末を知った後も、十分にリピートに耐える完成度の高い舞台となっている。
『大正浪漫探偵譚─六つのマリア像─』
取材・文=橘涼香  写真撮影=山本れお

アーティスト

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着