モネ、ルノワール、ゴッホの作品と向
き合って生まれた新作を発表 『流
麻二果 ―色を追う/Tracing the Co
lors』レポート

公益財団法人ポーラ美術振興財団の助成を受けたアーティストの活動を紹介する「HIRAKU PROJECT」。その発表の場として昨年10月に神奈川・箱根のポーラ美術館内にオープンしたのが、現代美術の展示スペース「アトリウムギャラリー」だ。今回で第3弾となる展示は、流 麻二果(ながれ・まにか)による『色を追う/Tracing the Colors』(2018年3月17日〜5月13日)。長年油絵に携わり、色の表現を追求してきた流が新たな色彩表現に挑戦した新作6点が公開されている。
先人たちの作品との対話を通して
今年で自身初の展覧会を開催してから20年を迎えるという流。ここ数年は、西洋の油絵具を用いながらも、薄い色を重ね続けることで深みを出し、陰影を味方につけるような日本的な色の表現に取り組んできた。そんな流がポーラ美術館での個展にあたり、真っ先に頭に浮かんだのが印象派のコレクションだったという。
流麻二果
「印象派の作家たちは、追うべき先達でもあり、絵画の限界に対する呪縛でもあります。この個展を機に、彼らの作品と改めて向き合ってみようというのが今回の展示の大きなテーマのひとつです」と流は話す。
美術館の協力もあり、ポーラ美術館の収蔵作品を間近で観察する機会を得た流は、ルノワール《水のなかの裸婦》、ゴッホ《草むら》、モネ《睡蓮の池》を穴があくほど見つめた。
すると、どんな色を、どんな順で、どういう間隔でキャンバスの上に置いていったのかが伝わってきたという。
彼らの作品から受け取ったメッセージを自分なりに解析し、それぞれの作品に使われた色を一色ずつ色の層として重ねていったのが、新作シリーズ「色の跡」だ。
それぞれの作家の絵画制作を追体験
ルノワール、ゴッホ、モネの作品に流が見出した色を再構築して制作した、シリーズ「色の跡」。その制作過程で、各作家の個性を感じたと流は語る。
「モネは『色の作家』と言われるだけに手ごわかったです。ルノワールには、対象物に対する表現の巧みさを感じました。ゴッホは素直。きっといい人だったんだろうなと思いましたね」
《色の跡:フィンセント・ファン・ゴッホ「草むら」》(2018年) 撮影:加藤 健
《色の跡:クロード・モネ「睡蓮の池」》(2018年) 撮影:加藤 健
《色の跡:ピエール・オーギュスト・ルノワール「水のなかの裸婦」》(2018年) 撮影:加藤 健
「色を追う」、その先の挑戦
「色」を通して先人たちの作品を追いかけ、彼らが作品を描いていた時の感覚を追体験しながら取り組んだのが「色の跡」シリーズだとすれば、流はさらにそこから一歩踏み込んだ挑戦もしている。
たとえば、ゴッホの《草むら》を解釈しなおした《照降なし》。ゴッホが草むらを上から見て描くチャレンジをしたように、流も天地の概念から自分を解放し、さまざまな角度から描いてみることに挑んだ。
《照降なし》(2017年) 撮影:加藤 健
本展では、現代の印刷技術を駆使し、壁や床、天井にまで作品を広げてインスタレーションとしても展開しているのが面白い。天地がないからこそ、作品が重力から解き放たれ、空間を縦横無尽に漂っているかのようだ。そして、私たち鑑賞者に絵画の一部に入り込む感覚を与えてくれる。
『流 麻二果 ―色を追う/Tracing the Colors』展示風景。エスカレーターを下るところから既に展示は始まっている。
『流 麻二果 ―色を追う/Tracing the Colors』展示風景 撮影:加藤 健
また、注目してもらいたいのが、《色の跡:クロード・モネ「睡蓮の池」》だ。普段は額装をあまりしないという流だが、本作には歴代の傑作が収められてきたような立派な額がある。
《色の跡:クロード・モネ「睡蓮の池」》(2018年) 撮影:加藤 健
これは、なんとモネの《睡蓮の池》が同館に収蔵された際に使われていた額縁なのだそうだ。はじめこそ嬉しい気持ちが勝っていたというが、次第にこの偉大な額に作品を収めることが恐れ多いと感じはじめた流。これも流にとってはひとつのチャレンジだった。ある意味プレッシャーでもあったが、そこは先輩の胸を借りるつもりで、額を借りようと心を決めたと話す。
「何百年もの歴史があるモネの額と、現代の自分の作品が組み合わさることで、どんな化学反応が起きているのかを見てほしい。まさにここでしか見られないものになっています」
さらに流は言葉を続ける。「現在開催中のガレ展やコレクション展などで、長い歴史の中で築かれてきた美術作品を見つつ、そのつながりとして現代の作家の作品も見てほしいです」
『流 麻二果 ―色を追う/Tracing the Colors』展示風景 撮影:加藤 健
ポーラ美術館の名作を楽しんだ後には、ぜひ本展にも立ち寄ってほしい。現代アートは決して過去の美術から分断されたものではなく、その延長線上にあることを再確認できる。
印象派の画家たちの色づかい、ガレの色ガラスの煌めき、そして流の鮮やかな色彩表現……。時代や場所こそ違えど、「色」を通じたアート体験がひとつにつながるはずだ。

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