桜庭和志インタビュー 打撃禁止の組
み技限定イベント「QUINTET」を始動
した目的 そしてUFC殿堂入りと木村
政彦を語る

4月11日、両国国技館大会より始動する、桜庭和志プロデュースの新格闘技イベント『QUINTET』(クインテット)。打撃を禁止した組み技限定のグラップリングルールで争われ、4月の大会では4チーム参加の1DAYトーナメントが開催される。大会方式は5vs5の勝ち抜き戦で、1チームの総体重は420kg以内。桜庭率いる「HALEO Dream Team」には元UFC王者のジョシュ・バーネットや所英男らが所属し、他チームからは柔道金メダリストの石井慧や宇野薫、ユン・ドンシクも参戦する。同イベントの始動を目前に控え、今回はプロデューサー兼選手を務める桜庭和志にインタビューを敢行した。……が、貴重な機会だ。イベントについてだけでなく、昨年のUFC殿堂入り、UWF、昨年のフランク・シャムロック戦、はたまた最近の趣味についてなど聞きたいことを根こそぎ掘り起こしてみた。脱線しまくり、1万字超えのロングインタビューである。
桜庭和志
――「QUINTET(クインテット)」というグラップリングのみのイベントを立ち上げたきっかけを教えてください。
2014年にアメリカの「Metamoris(メタモリス)」という柔術の大会でヘンゾ(・グレイシー)と闘ったんですけど、盛り上がりが凄かったんです。ちょっと前は寝技になると伝わらなかったのが、今はみんな少しずつ分かり始めているというか。ちょっと横のポジション取ると「オーッ!」って盛り上がったりしたんで「これは、そろそろグラップリングだけの大会できるかな?」と思って。
――UFCがお客さんを育てた部分もあるんでしょうか?
そうですね。でも、金網とか“壁” (金網やロープなど)があるとテイクダウンするのって難しいんですよ。レスリングとか柔道は“壁”がないじゃないですか。“壁”があると足2本だけじゃなく背中でもバランスが取れるから、壁際でタックルが入ってもなかなか倒れないんです。でも、Metamorisは柔道とかレスリングみたいに壁無しでやってて。
――QUINTETは、どういうシチュエーションで闘うことになるんでしょうか?
QUINTETも壁無しです。「”壁”が存在するとテイクダウンが違う技術になっちゃう」と思ってて、実際に”壁”が無いMetamorisを経験したら「やっぱりそうだよな」と思ったので。
――今、思い出しました。壁のある試合といえば、「桜庭和志vsレネ・ローゼ」というのが過去にありましたね(笑)。
あぁ~、もう! あれはひどかったっすね。倒しても倒しても、相手は2メートルもあるから寝たら手がロープに届いて。「これ、どうしたらいいんだろう!」と思って(苦笑)。
桜庭和志
――そういった歴史もありつつ、そろそろ日本の格闘技も変革期に来ている感があります。あと、QUINTETは日本だけじゃなく世界も視野に入れていると伺いました。
そうですね。元々、最初はアメリカでやろうと思ってたんですけど。
――旗揚げ戦からですか?
そうですね。アメリカのUFCも協力してくれる感じで。
――協力というのは選手の派遣とか?
はい。あと、会場の抑えとかも。そういうのがあって、まずはアメリカの寝技を分かっている人たちの前でやろうということも考えていました。あと、イギリスにはポラリスという柔術の大会があって柔術の競技者人口が多いので、向こうでもやろうと考えています。
――ちなみに、「QUINTET」ってどういう意味なんですか?
5人組とか、そういう意味です。
――1チーム5人の対抗戦ということでゲーム性があってすごくワクワクするんですけども、このシステムは桜庭さんが考案されたんですか?
いっ、一応……(笑)。
桜庭和志
――そんな、恐縮しないでも(笑)。
ワンマッチって、普通にどこでもあるじゃないですか。僕はレスリングで団体戦もやってたんですけど、団体戦と個人競技には違う意味があって。団体で勝った方が嬉しさも全然違いますし、負けた悔しさも全然違うんで。
――団体戦の方が喜びも悔しさも大きいですか?
はい、全然違いますね。高校時代、秋田商業でインターハイの団体戦決勝に行って、僕が負けてウチのチームの敗退が決定しました。その時はボロ泣きですよ(笑)。
――そんなことがありましたか。
僕一人の負けじゃなくて、チームの負けなんですよ。あの時は7階級制で、4人負けちゃったらダメで。僕が出るまで、ウチが2人勝って3人負けてたんです。僕が勝てば3対3になって面白くなるはずだったんですけど、負けちゃって。
――おいしいところで、みたいな(苦笑)。そこで負けてしまい、悔いは残りましたか?
まあね(笑)。
桜庭和志
――ちなみに、団体戦とワンマッチでは闘い方が変わってきますか?
QUINTETのシステムだとちょっとだけ変わってきますね。今回は先鋒とか次鋒とかを決めて、勝ったらそのまま試合し続ける“勝ち抜き戦”になるので。
――QUINTETのルールは1チームの合計が420kg以内と定められています。ということは極端な話、70kgの選手と110kgの選手が戦う可能性も出てくるという。
体重制限を設けない無差別にしちゃうと大きい選手ばかりになっちゃうんで、そうなると所(英男)くんみたいな面白い試合する子でも軽いとチームから外されちゃうじゃないですか。だから、総体重決めちゃった方がいいかなと思って。
――そうすると、組み合わせの妙も出てきますよね。
例えば100kgの奴が2人いてもいいけど、残りは60~70kgの選手になるから「お前ら、アホか」って感じで(笑)。
――100kg頼みのチーム、あり得ますね(笑)。昨年のUFC殿堂入りスピーチで「プロレスで育った僕にとって体重差は当たり前で、大きい選手と小さい選手が闘うのはお客さんを楽しませるギミックとしか考えていませんでした」と桜庭さんは仰っていましたが、その考えもQUINTETのルールに影響していますか?
それもありますね。レスリング時代は階級制をやってたんですけど、その後にプロレスラーになって。プロレスは、ヘビーとジュニアしかないじゃないですか。僕は全然重い方じゃないですけど「重い奴とやるのなんか当たり前だ」という気持ちでやってたんで、そういう考えも入れ込みました。
――プロレスラーならではの感覚ですよね。Uインター時代は、練習でも体重差を気にせずスパーリングされていたんですか?
Uインターは体重差関係ないです。あと、軽い階級とやったら動きが速いんで技がかからなかったり。片足タックル取って軸足を足払いするんですけど、2個下くらいの階級だと“ピョン!”ってかわすんですよ。「ムカつくなあ~」って(笑)。
――あのタックルをかわすなんて想像できないです! そう考えると、体重の軽い所選手も持ち味を発揮できる目がありますね。
もしも、所くんが100kgの相手とやったらキツいだろうけども。彼には「2回勝てばいいよ、2回!」って言ってあります。
――所選手が舞の海みたいに思えてきましたよ(笑)。
格闘技は「小さい奴が大きい奴を倒す」というのが面白いと思うし、関節技って元々は小っちゃい日本人が大っきい外国人を倒すためにできたものだと思うんですよ。柔道とかもそうですし。そういう意味で、わざと体重差を作っちゃった方が。
――なるほど、わざとミスマッチを作るためのシステムなんですね。
そうですね。僕が85kgくらいあるんで、それを基本にして5人分で総体重420kgにしたんですよ。
――標準的な体重が桜庭さんのサイズで。
そう、僕が勝手に(笑)。「俺がやるから俺を平均に」って。
――「小さい者が大きい者を倒すのが格闘技の醍醐味だ」と桜庭さんは一貫して仰られていますけど、かつて、桜庭さんに「ヒョードルとやってくれ」というオファーが来たと伺いました(笑)。
あぁ~、あります!
――ムチャクチャな話ですよね(笑)。
さすがに、打撃ありだとキツいっすね~。打撃ありだとセーム・シュルトに勝てねえよって思うし(笑)。あんな懐深い奴に、どうやって入っていくんだよ!? って話ですよね。打撃をポンポンポンって出して前蹴りをチョンチョンチョンって出して、離れてれば。身長も2m10cmくらいあるんですよね? そんな手の長い奴に入り込めるわけないじゃないですか。でも、グラップリングだったらまだ可能性はあるから。
桜庭和志
――打撃ありのMMAで技術を見せられなかった選手がQUINTETだと本領を発揮できる……という場面も期待しています。
はい。柔道とかレスリングでオリンピックに出てる選手の中でも、総合に来るのはごく一部じゃないですか。選手人口はもっといますんで、そういう人たちがこっちの試合に出たら底辺の層が濃くなってレベルも上がると思いますし。
――アマチュアがQUINTETを目指すという流れもできますよね。
あと、みんな、打撃があるという点で一歩引くところがあるんですよね。
――レスリングの選手でも打撃に免疫がない分、びびってしまうこともあるでしょうし。ところで、桜庭さんが「この人はQUINTETのルールに打ってつけじゃないか?」と考える選手っていらっしゃいますか?
……(熟考)、あんまり分かんないなあ。選手の名前も分からないし……。
――勝手な僕の思いなんですけど、引退していなかったら安生洋二選手なんか面白かったのになあと思いました。
ああ、はい! 僕、1年くらい前に安生さんに「ゴールデン・カップス、復活しましょうよ」って言って「もう、やらねえよ」って言われました(笑)。
――もう、引退されてますしね(笑)。安生選手って変な箇所を極めにいくし、そういう技術をQUINTETだったら見せられたのになぁと、妄想してしまいました。ちなみに、桜庭選手が所属する「HALEO Dream Team」には所選手、ジョシュ・バーネット選手、中村大介選手、マルコス・ソウザ選手がいますが、この4人は桜庭さんが声を掛けたんですか?
そうです、一応(笑)。
――この人選は、適正を見て?
あのねえ、なんとなく色的にUWFを出したんですよ。
桜庭和志
――確かに!
HALEOがスポンサーのチームだから、マルコスだけはHALEOで柔術を教えている流れから入ったんですけど、それ以外の4人は意識してます。
――マルコス以外の4選手にはUの匂いがしますね! 桜庭さんのチームは、毎回このメンバーになるんですか?
いや、その都度で違うメンバーになるかもしれないし、チームのスポンサーによって変わってくるかもしれません。要は、F-1みたいな感じ。
――スポンサーからの要望を聞きつつ。
で、プロストとセナが揉めるっていうね。あんな感じで、僕とジョシュが揉めて(笑)。
――「プロストとセナ」が、イコール「桜庭とジョシュ」(笑)。
はい(笑)。揉めて、どちらかが他のチームに行って嫌がらせする!
――ライバルになっちゃって(笑)。ジョシュ・バーネットって、桜庭さんより結構年下ですよね?
そうですね。8個かな? 所くんと同い年だって言ってました。(桜庭が1969年生まれでジョシュと所は1977年生まれ)
――桜庭さんとジョシュの2人がリーダー格のツートップという感じでしょうか。
あと、マルコスは使いっ走りなんで。こいつ、一番若いから(笑)。(マルコスは1984年生まれ) 「マルコス、ちょっと喉乾いたからスポーツドリンク買ってきて~」「肩こったから揉んで~」って(笑)。
●最年長・桜庭和志のスタミナ問題
――QUINTETは勝ち抜き戦なので1人で2~3試合やるケースもあり得ますよね。あの、唐突な質問なんですが、桜庭さんは今もタバコを吸っていらっしゃいますか(笑)?
吸ってますよ!
桜庭和志
――スタミナには全く影響はないですか?
全くではないですけど、陸上とか水泳みたいにずっと動いてるわけじゃないじゃないですか。何気に、寝技って休んでるんですよね。
――特に、桜庭さんは休みどころを分かっていらっしゃるでしょうしね。ということは、勝ち抜いたとしてもスタミナには不安はない?
いやぁ、勝ち抜いてもせいぜい2人じゃないですか。 でも、そんなに抜けないだろうという気もします。高校生くらいのレベルだったらダーッて抜くこともあり得ますけど、なんだかんだ言ってどっこいどっこいのチームばかりなので。
――もしも、連続の勝ち抜きが実現したら、会場は沸くでしょうね!
2人抜いたくらいで、もう大盛り上がりじゃないですか(笑)?
――かつて、桜庭さんはホイスと90分やったわけですから「あのスタミナがあれば大丈夫じゃないか?」という幻想が我々にはあります。歳を重ね、スタミナに関してはいかがでしょうか?
歳とともに落ちてはいます。
――我々は、桜庭さんの勝ち抜きを勝手に期待しています。
僕はもう、一番年上なんで無理ですよ~。他の選手には「俺にケガさすなよ」って言います(笑)。そういう意味で、ヒールホールドは禁止にしているんで。あれは簡単な力で膝をぶっ壊しちゃうんで。練習だとゆっくりやるけど、試合になるとどうしても興奮して“ガツン!”ってやるんで壊れるし。トーナメントだから、勝ってもケガ人が出ちゃったら「次は1人減らすの?」って話じゃないですか。壊し合いじゃなく、「関節技って面白いものだよ」って見せるためにやるので、そこは気を付けてくださいって言おうと思ってるんですけど。
――安全性に留意してということですよね。ただ、何が起こるかわからないので、勝ったチームにケガ人が出てしまったら、次は5人 vs 4人ということになるんですか?
そうです、そうです。補欠がいるわけでもないし。
●QUINTETに往年のグレイシーが参戦する可能性は……?
――グラップリングのルールなので、QUINTETは年長の選手も出やすいイベントだと思います。2月1日の記者会見で、ポラリスのマット・ベイヨン代表は「桜庭と戦うならグレイシーは絶対だ」とグレコー・グレイシーの出場を発表しましたが、ファンの勝手な期待で往年のグレイシー、要するにホイスやヘンゾが上がったら面白いなぁと思っています。可能性はいかがでしょうか?
言えば出るんじゃないですか。試合数は減ってますけど、まだ現役ですしね。たぶん、やるんじゃないですかね?
――それ、観たいですよねぇ。昨年のRIZINでも、フランク・シャムロックとのグラップリングマッチがありましたが……
あれ、ひどかったですねえ……(苦笑)。だから、壁ありだとああいう風になるんですよ! 押しても押しても来ないんすよ、適当にかわして! 柔道とかレスリングだと、消極的過ぎてあんなの失格負けですよ!? そういう問題も、壁ありにはあるんですよ。壁が無いと、向こうは枠から押し出されてるだけで何も攻撃してないんで失格負けになるんです。
――「桜庭vsフランク」は、僕もメチャクチャ楽しみにしていました。
ひっどいですよ。経験者からは「わかるよ。あんな感じで来られたらどうしようもないよね」と言われました。
――どうでしょう、QUINTETでフランクとの決着戦は……
(遮って)いや、もういいですよ。もう、絡みたくない! そういう奴とは絡みたくないんで。
桜庭和志
――このカードは長年の夢だったんですけど、残念ですね……。
昔やったら良かったんじゃないですか。パンクラスの頃とかに。もう、いいんです。夢は夢でしたって感じです(苦笑)。相手にやる気が無いんだもん。QUINTETでは、サークリングやる奴には速攻で注意を与えます。
――確かに、あの試合を観ると「フランク、そう来るか……」という感じでした。QUINTETではホイス戦やヘンゾ戦など、かつて桜庭さんと名試合を繰り広げた選手と数年後に再び相まみえるという展開にも期待大なんですが、極端な話、田村潔司選手の参戦もあり得るのでは? と、妄想してしまいます。
まあ、別にいいですけど、どのチームに入るんですかね。
――「孤高の天才」ですし、デリケートな問題ですね(笑)。そうか、仲間がいないと難しいのか……。
●桜庭和志と木村政彦とビル・ロビンソン
――桜庭さんのグラップリング技術についてお伺いしたいと思います。レスリングをやって、Uインターに入って……と様々な変遷がありますが、ご自身で何がベースだと思いますか?
ベースはレスリングだと思います。レスリングからプロレスに入って、プロレスになるとレスリングじゃやっちゃいけない技もやってよくなって。だから、結局はレスリングに繋がるんですよね。
――極めを覚えても、そこに行くまでの過程はレスリングの技術で。
そうですね。だから、僕はできれば下にはなりたくないですし。練習では下のポジションにもなりますけど、レスリングの考えだとやっぱり上になりたいですし。
――引き込んでる桜庭さんって見たことないですもんね。桜庭さんはUインターの若手時代から「極めっこなら負けねえ」という思いがあったとのことなんですが、その思いは今も持ち続けているわけですか?
いや、もう歳だし、負けるかもしんないです。
――いや、いや(苦笑)。ただ、日々練習していて「進化しているな」という実感はあるわけですよね?
それはあります。「あっ、こんな形でもできるんだ」というのもありますし。
――桜庭さんの中で「俺はUインターで技術を覚えた」という思いはありますか?
基本、アームロックとかはレスリングから繋がってのUインターで覚えたものなんですけど……。う~ん、どうだろう。シュートボクセ行ったりもしましたんで、特になんか……。
桜庭和志
――色々なものを吸収して……という感じでしょうか?
そうですね。色んなものをやって今があるみたいな感じなんで。
――例えば、エンセン井上さんとの交流とか。
そうです、そうです。エンセンさんとやって、いきなり下になって寝たりするから。下になっても、別に不利じゃないわけですよね。柔術の練習に行くと「こうやって足を使うんだ」という発見もあったんで。UWFではシューズとレガースを着けているんで、あんまりそういうのはないんですよ。だけど、足関節はUWF系で覚えたこともありますし。船木(誠勝)さんと練習したら、足技は凄かったですし。
――へぇー! それは、Uインターの道場には無い技術でしたか?
どっちかって言うと、船木さんの方が強いです。船木さんに足を持たれたら引っこ抜かれそうになりますし。アキレス腱固めとか、足ごと持って行かれそうな感じですね。
――パワーなんですか?
パワーじゃなくて、コツっていうか。
――へぇーっ! じゃあ、一つの道場に思い入れがあるんじゃなくて、レスリングというベースがあり、その他に色々なものを吸収して出来上がったという感じでしょうか。
そうですね。
――桜庭さんとチームメイトのジョシュ・バーネットは自分の技術を「キャッチ・レスリング」とアピールしています。ビル・ロビンソンさんも桜庭さんのことを「キャッチだ」と仰っていましたが、桜庭さんはご自分のことをキャッチだと思いますか?
僕はキャッチではないですよね。シューズ履かないですし。でも、どこかで観たんですけど、昔のビル・ロビンソンさんの試合映像で僕と同じ動きしてたんですよ。「これ、同じ取り方だ!」と思って。何の技か忘れちゃったんですけど。それは、別に教わったわけじゃないんですよ。
――行き着くところは一緒だったということなんでしょうか。桜庭さんのサクラバロックとキムラロックが、まさにそうですよね。
はい。昔の昭和初期くらいの映像がYouTubeにあるんですけど、それ観たら、木村(政彦)さんにアームロックの取り方を教わったわけでもないのに、同じ取り方してたんですよ。
(ここでマネージャーさんが、乱入)
YouTubeの動画を観て「全部、俺のマネしてる!」って言ってるんですよ。いや、映像も白黒だし、向こうが先だから(笑)!
ワハハハハッ、いや、俺のマネしてた(笑)!
桜庭和志
――「木村政彦が俺のマネしてる!」って(笑)。木村さんやロビンソンさんの取り方の些細な部分が桜庭さんに似ているということだと思うんですけども……
(遮って)ロビンソンさんは僕のマネしてたんですよ(笑)!
――違いますよ(笑)!
なんだよ~、セミナー代取るぞって(笑)。要は、マネって言うよりかは考えることはみんな一緒だと思うんですよね。
――桜庭さんや木村さんやロビンソンさんと同じ取り方をする現役選手はいないんですか?
やっぱり、人それぞれ違いますよね。木村さんと同じ取り方をしていたのはアームロックだってすごい覚えてるんですけど、ロビンソンさんと同じだったのは何だったけなあ……? アームロックについては、こうですよ。(以下、アームロックの取り方の秘密を説明してくれる桜庭選手だが、門外不出のため割愛)
――おわ~っ、さすがはIQレスラー! この取り方を、桜庭と木村がやっていたという。
他の人はやらないですもん。マネされてましたよ……。
――マネじゃないですから(笑)。ちなみに桜庭さんは、ロビンソンさんから指導を受けたことはないんですか?
ロビンソンさんがいた頃は僕は入ったばっかりで、どっちかって言うと実験役です。ロビンソンさんが教えたものを他の人たちが試す時の実験役。アームロックの時とか「勘弁してよ……」って感じでした。「余計なこと教えないでくれ!」って感じ。Uインターでロビンソンさんから指導を受けたのは、田村さんとか垣原さんまでじゃないですかね。金原さんがギリギリかな? 高山さんと僕は実験台のやられ役で。
――今、お名前が出ましたが、現在、高山さんがケガと闘っていらっしゃいます。桜庭さんもお見舞いには行かれましたか?
行きました。昔のプロレスの話とかして。「今、ニンジャチョークって流行ってるんすよ」って話をしたら、高山さんが「俺、それ、ロビンソンさんに教わって昔やってたよ!」って。
――高山さん、使ってたんですか! やっぱり、そこでもロビンソンさんが関わってくるんですね。ロビンソンさんがパクったのではなく(笑)。
僕はニンジャチョークっていうのは分からないんで、パクられてはいないです。
――ハハハハハハ!
●人喰いシャチとブアカーオとBOØWYにハマる桜庭和志
――YouTubeと言えば、以前、桜庭さんがラジオに出演された際に「シャチが人を食べてる動画にハマってる」と仰ってましたよね(笑)。
そうそう。ひっどいすよ、あの動画。もう、どうしようもないですからね。パトカーとか救急車って話じゃないじゃないですか?
――海辺歩いてる人が急に襲われちゃうっていう(笑)。それ、本物の映像なんですか?
わかんないんですよ。観てみてください、「えっ!?」って感じですから。「シャチ 人 襲う」で検索すれば、たぶん出てきますよ。……あーっ、あった、あった! これだ、これだ!!(と、スマホで再生してもらう)
桜庭和志
「ハーイ!」って挨拶してたら、いきなり“ガブッ”って。これ、ニセモノなわけないですよね!? シャチってこういう襲い方するじゃないですか? アザラシとか襲う時、バーって隠れて行って、アザラシの足を“ガバッ”ってすくっていって。
――そうなんですか(笑)。
これは、K-1の動画かサーフィンの動画を観てたら関連動画に出てきたんですよね。「なんだ、これ!?」と思って。
――桜庭さん、サーフィンやられるんでしたっけ?
いや、やらないです。ラッシュガードを着るっていうから、いいのないかなあと思って。飲みながらYouTubeで昔のK-1とかを観てて、最近のどハマりはマーク・ハントvs西島洋介でしたね。
――あれ、いい試合でしたね!
も~う、あれは! 西島はかわしながらパンパンパンパンって打つけど、体重差あるから効かなくて、最後に“ドッカ~ン!”じゃないですか!
――マーク・ハントも男気を見せて。
はいはいはいはい! あ~れは面白くて、何度も何度も観ましたね。あと、K-1の昔の試合は倒し合いが多いので、好きで観てます。あと、ブアカーオの試合もよく観てます。ブアカーオは天才ですよ。
――今、気付きましたか(笑)。
みんなより10年くらい遅れて気付くっていう(笑)。
――桜庭さんって、急に数年前のトピックにハマることがありますよね。昔、急にBOØWYにハマってましたし(笑)。
ああ、そうですね! 高校とか大学の頃は練習で疲れてて、時間があると寝たかったんですよ。今みたいにiPhoneで曲を買ったりできなかったし、レコードやカセットテープを聴く機械も持ってなかったし。でも、30歳過ぎくらいになって「LAST GIGS」のDVDでいきなりBOØWYにハマって、ブラジルでずーっと観てました。
――僕もBOØWY好きなんですよ。いいっすよねえ。
いいっすよねえ。いくつですか、歳?
桜庭和志
――僕は今年で40歳です。
じゃあ、リアルタイムの時は小学生とかですよね。
――解散したくらいの時に知りました。
あぁ~。でも、お店に入ったりすると、何か知らないけど耳に入ってるんですよね。
――はい、「Marionette」は発売当時から知ってました。あと桜庭さん、Dead or Aliveにもハマっていらっしゃいましたよね?
あーっ、Dead or Aliveは大学の頃から大好きでした! Dead or AliveのDVD持ってましたもん。あと、今は五木ひろし。「倖せさがして」っていう曲が。
――すみません、知らないです(笑)。
マジ? 最近は阿久悠のベストを買って、阿久悠系の曲を聴いてます。
●出不精の桜庭がUFC殿堂入りでアメリカまで出向く
――UFC殿堂入りについてお伺いしたいと思います。出不精で遠いところへ行くのを嫌がるイメージが桜庭さんにはあるんですが、昨年はアメリカまで行かれました。日本とは違ったリアクションの中で受賞されたわけですが、ご感想を教えてください。
感想なあ……。とてもありがたいことです(笑)。
――(笑)。実際、UFCの金網の中では1回しか試合をしていないわけですけども。
そうですね。UFCと言っても「UFCジャパン」という日本国内のイベントだったんで。でも、UFCの人たち曰く「ガッチリと総合のルールが決まってない時に盛り上げてくれたから、殿堂入りお願いします」という感じで来たんです。
――それは、唐突に来たんですか?
始めは「イベントに出てくれ」って言われたんで「やだよ、そんなの。遠いから」って断ってたんです。「なんで今さらUFC行かなきゃいけないの? アメリカなんか遠くてイヤだ」って。そしたら「いや、実は殿堂入りなんです」って。
――もちろん日本でもレジェンドですが、アメリカでの桜庭さんの存在はまた違った意味合いがある印象です。その辺、肌で感じるものはありましたか?
表彰式のスピーチでボケたりしようと思ったんですけど「この人たち、どこで笑うんだろう……?」って。
桜庭和志
――スピーチで!? あんな泣けるスピーチをしていた裏で!
えっ、ちょっとボケも入ってなかったですか(笑)? 最初に考えていたボケの部分は、みんなに「これ、日本人だから通用するんであって外国人には通用しないよ」ってカットされて。言いたかったのに……。あと、右手と右足が同時に動く緊張した人の歩き方をやったんですけど、後で「あれ、サクマシンの踊りなのか?」って。違う、違う、手足を同時に出して緊張しているって意味でやったんだよ(笑)!
――ハハハ! でも、あれって歴史に残るくらいの名スピーチだと思いますよ。もちろん、全部桜庭さんが考えたんですよね。
なんとなくイメージを言って、それをまとめてもらいました。みんな、こんなこと(大きく拍手する動作)やってましたね。「えーっ、ここで反応するの!?」みたいなところもありながら。
――アジア人初の殿堂入りだと伺いました。やっぱり桜庭さん、凄いです!
●日本で開催されるQUINTETは今年1回だけ!?
――QUINTETは打撃がないので、アマチュアの選手にとっても恐怖心なく出られると思います。そういう意味で、QUINTETに対応できるように桜庭さんがアマチュアの選手を指導するなんてことはありますか?
いや、特にはやる予定はないですけど、アマチュアの試合もできればやろうかなと思っています。あと、血とかも出ないので子どももできると思います。
――そういう展開もあるわけですか!
はい。柔道をやってもなかなか合わない、強くならないっていう子がいたら、こっちに来てやったり。
――キッズQUINTET、いいですね! アマチュアの裾野が広がります。で、4月11日に両国国技館で開催される「QUINTET.1」。この日は、4チームによるトーナメントが行われます。
今回は4チームですけど、いつかは6チームくらいに増えればいいだろうし。ただ、なかなか難しいので田村さんは1人のチームで。
桜庭和志
――それは、観たいです(笑)。どうでしょう、他の選手から「俺もQUINTETに上がりたい」という声は寄せられていますか?
ああ、そういうのはありますね。打撃がないですし。Facebookもあるので、海外の柔道代表みたいな人からの売り込みが結構来てます。
――気が早いですが、4月の大会以降の予定も教えてください。
今年中にもう1回、アメリカかイギリスでもQUINTETをできればと思ってます。タイミングが合えばですけど。
――ということは、日本国内での開催はもしかしたら4月の一度のみかもしれない?
もしかしたら、はい。
――そうですか! それは、観に行かなきゃダメですね。
QUINTETではグラップリングのイメージを変えようと思ってます。“やる側”だけじゃない。グラップリングを“観る側”にも楽しんでもらえるようなものにしたいんです。
桜庭和志

取材・文・撮影=寺西ジャジューカ

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