45分の大熱演! 声楽アンサンブルユ
ニット「文代fu-mi-yo」によるオペラ
『フィガロの結婚』

“サンデー・ブランチ・クラシック” 2018.1.14ライブレポート
日曜のお昼時、ゆったりとクラシック音楽に耳を傾けながら過ごす『サンデー・ブランチ・クラシック』。1月14日に登場したのは声楽ユニット「文代fu-mi-yo」だ。
中須美喜(ソプラノ)、萩野久美子(ソプラノ)、大平倍大(テノール)、石井基幾(バリトン)の4人が、モーツァルトの名作オペラ『フィガロの結婚』を初上演。本来なら上演時間約3時間の主要な登場人物だけでも10人はいるというオペラをわかりやすく、しっかりストーリーの本筋にものっとって45分で熱演した。
歌と共に熱演を繰り広げるメンバーのパフォーマンスに、時には笑いも起こった楽しいひと時をレポートしよう。
ナビゲーターはバジリオ。フィガロと伯爵は2役
“舞台”が始まり、最初に登場するのはバジリオ役の大平。
「このお話に登場するのはフィガロとその婚約者スザンナ、ちょっとエッチな伯爵と、そのしおらしい夫人……」と登場人物を紹介する。バジリオは伯爵家の音楽教師で、いわゆる脇役だが、この文代fu-mi-yo版ではナビゲーター役だ。
そして登場するフィガロ役の石井とスザンナ役の萩野。結婚を前にした2人が、部屋にベッドが入るかどうかを確認しながらの二重唱が歌われる。陽気なフィガロと元気なスザンナの、結婚を前にしたウキウキした気持ちが伝わってきてかわいらしい。一方で萩野スザンナは、伯爵が色目を使い逢引を持ちかけてきた話も打ち明ける。
続いて恋する少年ケルビーノが登場するが、彼は指人形。伯爵夫人に恋する思いをスザンナに打ち明けているところに、当の伯爵が彼女を口説きにやってくる。伯爵は石井の2役。ここで歌われるのは伯爵とバジリオ、スザンナの三重唱だ。歌はもちろんのこと、演技も熱が入っており、オペラ歌手は同時に役者であるなぁと、改めて思わせられる。
しっとりとした伯爵夫人。スザンナは元気いっぱい
ピアノの「ポロロン」という音とともに場面が転換し、伯爵夫人役の中須が登場。この夫人の登場でドタバタとした雰囲気が一転してしっとりと、アンニュイな空気に変わる。
夫である伯爵の冷たさに嘆く伯爵夫人のアリアが歌われ、夫人を心配する萩野スザンナは「伯爵をこらしめましょう!」と提案をもちかける。つまりスザンナが伯爵と逢引を仕掛け、伯爵夫人がスザンナの服を着てその現場に行くという算段だ。
「女性を怒らせたらコワイですね」と大平バジリオが、随所で客席とのコミュニケーションを取り、場を温める。客席と舞台も場が進むにつれてどんどん馴染んでいく。
「ポロロン」ののち、スザンナは伯爵と逢引の約束。2人の二重唱とともにお話は伏線の回収に入っていく。石井伯爵のやに下がりっぷりが絶妙で、会場からはクスクス笑いが起こる。
続いて伯爵夫人のアリア「楽しい思い出はどこへ」。『フィガロの結婚』のなかでも有名なアリアの一つだ。さらにスザンナと伯爵夫人が伯爵をおびき出すための手紙を書く二重唱へと続き、お話はいよいよクライマックスへ。
伯爵と夫人の和解とフィナーレ。あっという間の45分
いよいよお話も終盤へ。その前に、バジリオのアリア「元気に溢れ血気にはやる」が歌われる。しばしばカットされることの多いこの曲だが、今回は大平が熱唱する。

そして物語はクライマックス。スザンナはフィガロへの思いを乗せてアリア「恋人よ、早くここへ」を歌う。そこへ罠にかかった伯爵が逢引の場所へ現れ、そこには「あなた……!」と奥様が。伯爵は反省し、夫妻の二重唱から全員が登場しての終曲が歌われ、華々しく幕が下りる。
会場からは大きな拍手。3時間のオペラの大筋はがっつりと押さえ、しかし45分で駆け抜けた、愉快な文代fu-mi-yo版フィガロ。有名なオペラのあらすじもすっと入ってくる、楽しい舞台であった。
それぞれが役柄を演じる工夫を
上演後、文代fu-mi-yoの皆さんにお話を伺った。
――熱演ありがとうございました。前回の『愛の妙薬』に続き2回目の出演となりましたが、お客様の反応はいかがでしたか?
大平:楽しかったです。最初は空気が硬いかなと思ったんですが、喜劇ですし、笑わせなきゃと思いました。
――『フィガロの結婚』を45分にまとめるのは大変だったのでは? 脚本や演出は皆さんで考えられたのですか。
大平:そうです、ファミレスにこもって(笑)。構成を考えるだけで3、4回集まりました。
中須:台詞もちゃんと台本を書いてやりました。
――石井さんはフィガロと伯爵の2役でしたね。
石井:前回の『愛の妙薬』も2役だったんです。『フィガロの結婚』は、主人公はフィガロですが、ストーリーは伯爵と夫人の心情が中心。だから今回はそれぞれの心をしっかり歌おうと思いました。大平君がナビゲーターとしてお客様とのコミュニケーションに付きっきりになってくれたので、集中できました。
――伯爵夫人の中須さんはいかがでしたか。
中須​:私は普段明るい性格なんですが、今回はがんばってしおらしい夫人になろうと思いました(笑)。いつもと違うカラーでできたかなと。
――萩野さんはスザンナでしたね。
萩野:今回は5人のキャラを際立たせたかったんです。ナビゲーターのバジリオ、しおらしい伯爵夫人。ではスザンナは?と思った時、いろいろと考えたのですが、最終的には“やんちゃ”で。ですから髪の毛もちょっと外はねにして、元気いっぱいのスザンナとして演じました。
――大平さんには、滅多に歌われないバジリオのアリアを一曲ご披露していただきました。カットされることが多いと聞きましたが。
大平:最近は少しずつ歌われるようになってきているようですが、10~20年前はほぼカットされていました。結構難しいんです、あのアリア。
――ナビゲーターをバジリオとしたのは何故でしょう。
大平:一般的にテノールは主演や王子の役が多いんですが、『フィガロの結婚』の主要な登場人物――伯爵やフィガロはバリトンなんです。テノールはキャラクターテノールとしてバジリオがいる。なので、キャラクターとして出すならバジリオだし、じゃあナビゲーターもと。本当のオペラではそれほど大事な役じゃないのですが、今回は大事な役なので、とにかく噛まないようにしようと思いました(笑)。
――今回45分のオペラを上演した意図は。
萩野:わかりやすくとっつきやすく、オペラ自体を楽しんでもらうためです。
大平:一般の方にとってはオペラを見に行くというのは着飾って行かなきゃいけないとか、高額というイメージがある。でも決してそうではなく、安く買えるチケットもある。そうしたなかで、まずはきっかけ作りが大事だなと。
でもいきなり『フィガロの結婚』を3時間も見たら絶対寝ちゃうじゃないですか。でもこういう形で音楽も聴きつつ、お話も短くして笑いも入れると、ちょっとだけでも興味を持ってもらえるのではないかと。こういう公演が何かのきっかけになってくれたらいいなと思います。
――ユニット結成のきっかけはなんだったのでしょう。
大平:全員大学の同級生で、偶然ご飯を食べに行ったんです。
石井:お寿司の食べ放題に。そしたら待ち時間が長かった。
大平:そこで話が盛り上がって、4人で演奏会をやってみようかという話になりました。
石井:ちょうど声種も別れていたし。ソプラノ、テノール、バリトンと。
――今後はどういった形で活動されていこうとお考えですか。
萩野:一緒にグループを組んでコンサートをやるというのは、向かいたい方向や、どういう公演にしたいか、どんなお客さんに、どんな気持ちで聴いてほしいかなど、ある程度同じ方向を向いていないと難しいんです。この4人は全くじゃないですけど、大体同じ方向を向いてやれる。そこで様々な要望に応えながら、できることをどんどんやっていこうと思います。
大平:この4人のいいところは、意外と曲のジャンルを問わないところです。宗教曲、オペラ、ちょっとポップス寄りの曲と、いろいろできるのが魅力だと思います。
萩野:今回CDを作った際も、いろいろな文代fu-mi-yoをみせるためにオペラの曲、美空ひばりさん「川の流れのように」、宗教曲などを集めました。
――様々なジャンルを歌いながら、また次へと活躍の場を広げていく感じですね。ありがとうございました。
文代fu-mi-yo

取材・文=西原朋未 撮影=中田智章
文代fu-mi-yo公演情報

森トラスト・ランチタイムコンサート
日時:2月22日(木) 12:10~13:00
会場:丸の内トラストタワーN館・1階エントランスホール
https://www.mori-trust.co.jp/concert/schedule/marunouchi.html

山手の丘メロディーガーデン4
日時:4月7日(土) 13:00~
会場:横浜市イギリス館
https://tiget.net/events/19556

サンデー・ブランチ・クラシック情報
2月25日(日)
滝千春/ヴァイオリン
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
3月4日(日)
藤井香織/フルート&藤井裕子/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
3月11日(日)
あいのね/フルート、ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
3月18日(日)
但馬有紀美/ヴァイオリン
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
3月25日(日)
太田糸音/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
4月8日(日)
寺下真理子/ヴァイオリン&SUGURU​/(from TSUKEMEN)ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
■会場:eplus LIVING ROOM CAFE & DINING
東京都渋谷区道玄坂2-29-5 渋谷プライム5F
■お問い合わせ:03-6452-5424
■営業時間 11:30~24:00(LO 23:00)、日祝日 11:30~22:00(LO 21:00)
※祝前日は通常営業
■公式サイト:http://eplus.jp/sys/web/s/sbc/index.html?

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