ベネチア カンヌ ベルリン国際映画祭
9作品に2017年をみた

グッドバイ、混沌の2017年。

「映画は社会を映す鏡である」とよく言われます。その言葉が本当だとすれば、世界的に権威のある映画祭で受賞するような作品は、まさしく僕らの代弁者ということになるでしょう。そこで、今回は2017年の三大映画祭(ベルリン国際映画祭、カンヌ国際映画祭、ベネチア国際映画祭)の主要作品を肴に、僕らが生きる世界を切り取ってみようと思います。時系列順に参りましょう。まずは2017年の2月9~19日(現地時間)に開催された、ベルリン国際映画祭から。

他二つの映画祭に比べ、異質な答えを出
したベルリン国際映画祭

『希望のかなた』、金熊賞を逃す。

金熊賞(最高賞)の大本命と言われていた、フィンランドの映画監督アキ・カウリスマキによる『希望のかなた』。しかし今回は惜しくも同賞受賞を逃し、監督賞にとどまることに。世相を反映するのが映画の役割だとすれば、やはりこの作品が一番金熊賞に近かったと思います。
映画『希望のかなた』予告編

以下、公式サイトよりあらすじを引用。

内戦が激化する故郷シリアを逃れた青年カーリドは、生き別れた妹を探して、偶然にも北欧フィンランドの首都ヘルシンキに流れつく。空爆で全てを失くした今、彼の唯一の望みは妹を見つけだすこと。ヨーロッパを悩ます難民危機のあおりか、この街でも差別や暴力にさらされるカーリドだったが、レストランオーナーのヴィクストロムは彼に救いの手をさしのべ、自身のレストランへカーリドを雇い入れる。そんなヴィクストロムもまた、行きづまった過去を捨て、人生をやり直そうとしていた。それぞれの未来を探す2人はやがて“家族”となり、彼らの人生には希望の光がさし始めるが…。

ちなみに本作『希望のかなた』は、前作の『ル・アーヴルの靴みがき』に続く「難民三部作」の第二作目にあたります。「難民」というセンシティブなテーマを、カウリスマキはいつものシニカルかつ素朴なタッチで描きました。知っての通り、紛れもなく現代的なテーマです。ところが、本作より上の評価を受けた映画が2本もあった。

審査員グランプリを受賞した、『わたし
は、幸福(フェリシテ)』

ミーティアでも取り上げた『わたしは、幸福(フェリシテ)』がベルリン国際映画祭にて審査員グランプリを受賞。今まで描かれなかったアフリカの姿を表現し、その革新性も買われたことも同賞受賞の一因かと思います。アフリカの身体的・表層的な部分と、静謐な精神世界の両面を描いた作品です。詳しくはコチラの記事に書いておりますので、よかったらご一読を。
映画『わたしは、幸福(フェリシテ)』予告

公式サイトより、あらすじのご紹介を。

コンゴ民主共和国の首都キンシャサ。この街は優しいだけじゃ生きていけない。バーで歌いながら、女手ひとつで息子を育てている歌手フェリシテ。その名前はフランス語で“幸福”の意味。人生は彼女に優しくないけれど、歌うときだけ彼女は輝く。そんな彼女に気があるのは、バーの常連のタブーだ。ある日、フェリシテが目を覚ますと直したばかりの冷蔵庫が壊れていた。同じ日、一人息子サモが交通事故で重傷を負う。連絡を受け病院に急ぐが、医者は彼女に告げる。「前払いでないと手術はできない」。手術代を集めるため、フェリシテは、親族や別れた夫、以前お金を貸した男女、最後には見ず知らずの金持ちのボスを訪ねるのだった。誇り高く、自分を折ることができない彼女の中で何かが壊れていく。絶望から歌さえ歌えなくなるフェリシテ。夜の森を彷徨うフェリシテが見つける幸福とは . . . 。

『ホテル・ルワンダ』や『ツォツィ』とはまた別の角度からアフリカへ切り込んだという点では、本作『わたしは、幸福(フェリシテ)』は前衛的であると言えるでしょう。その意味で、この映画もまた「今」の作品でありました。

金熊賞受賞作『心と体と』の衝撃とは果
たして・・・

『希望のかなた』、『わたしは、幸福(フェリシテ)』を差し置いて金熊賞を勝ち取ったのは、ハンガリーの鬼才イルディコー・エニェディ監督による『心と体と』でした。
映画『心と体と』予告 (英語字幕)

社会派が多い昨今の映画界において、本作は少し毛色が違います。同じハンガリー映画にして第68回(2015年)カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した『サウルの息子』とは全く異なります。

以下、公式サイトよりあらすじを引用。

ハンガリー、ブダペスト郊外の食肉処理場。代理職員として働くマーリアはコミュニケーションが苦手で職場になじめない。片手が不自由な上司のエンドレは彼女を気に掛けるが、うまく噛み合わず…。そんな不器用な二人が急接近するきっかけは「同じ夢を見た」ことだった。恋からはほど遠い孤独な男女の少し不思議で刺激的なラブストーリー。

上のトレイラーで説明されているように、二人は夢の中でお互い「鹿の姿」で出会うようですね。アンビエントな音楽も相まって、耽美的な世界観であることが窺えます。「社会」を描いた諸作よりも、ファンタジックで内省的に「個人」を描いた『心と体と』が最高賞を受賞したというのは、それだけで何か意味があるように思います。そんな本作、日本では2018年4月14日より全国順次公開予定。

ベネチア カンヌ ベルリン国際映画祭9作品に2017年をみたはミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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