【インタビュー】フルカワユタカ、3
rdアルバム完成「“わかられてたまる
か”と思ってましたから、その真逆で
す」

フルカワユタカが2018年1月10日、3rdフルアルバム『Yesterday Today Tomorrow』をリリースした。先ごろ公開したフルカワ×TGMX対談でも語られたとおり、同アルバムはプロデューサーにTGMX(FRONTIER BACKYARD)を迎えて制作が行われたもの。卓越した旋律とボイシングセンスはそのままに、よりポップで彩り鮮やかなアレンジは、TGMXプロデュースによるDOPING PANDA初期の作品を彷彿とさせる部分も少なくない。
また、収録全10曲のうち4曲に豪華ゲストボーカルがコーラス参加。荒井岳史(the band apart)、米田貴紀(夜の本気ダンス)、LOW IQ 01、UCARY & THE VALENTINEといった面々が楽曲に深みをもたらし、「DAMN DAMN」では髭の須藤寿が作詞を担当して、これまでにない一面をのぞかせるなどコラボも充実。シングル「days goes by」インタビューで「誰かとものを作るっていう、でっかいテーマがあります」と自身が明かしたとおりの、新たな可能性や音楽的成長が詰まりまくったアルバムの完成だ。『Yesterday Today Tomorrow』についてじっくり語ってもらった1万字越えのロングインタビューをお届けしたい。
   ◆   ◆   ◆
■自分が作りたいものと

■世の中に一番近いもの
──TGMXさんがプロデュースという形で関わるのはDOPING PANDAのインディーズ作品以来ですが、ソロ3作目のプロデュースをお願いしたのは何が大きかったんですか。
フルカワ:BARKSさんにはこれまでも経緯を話しているので、今回はさらに深く話しますね(笑)。まずプロデュースをお願いして、一緒に曲を作ることになったのは13年ぶりです。遡ると、ドーパン初期の『PINK PaNK』(2002年発表)、『WE IN MUSIC』(2004年発表)、あとは『DIVE INTO DISNEY』(2002年発表)というディスニーのコンピレーション。このコンピには人気アーティストに混ざって、無名の僕らとthe band apartが入ったんですけど、「俺たちのためだったね、あのコンピ企画は」っていうくらい、一番得した感があったんですよ(笑)。実際、認知度がぐんと上がりましたから。というのがTGMXさんとやっていた流れです。
──当時のTGMXさんとはどのような関係性が?
フルカワ:そもそもは遊び仲間だったSCAFULL KINGのTGMXさんと飲みながら音楽の話をしている延長で。「パンクじゃないことやりたいよね」「人がやっていないことをやりたいね」っていうなかで、TGMXさんもスキャフルではできないことを、僕らを使って試したかった時期だったと思うんです。だから、「DOPING PANDAのプロデュースをやってみたいんだよね」っていう話に、「ぜひ僕らもやってほしいです」みたいな始まり。そういうなかでインディーズなりに、順風満帆に集客を増やして、ドーパンの3人とTGMXさんを含めてメンバー4人みたいな感じでやっていたんですね。ところが、クアトロが即完したり大型フェスにも呼ばれたりするなかで、自我が芽生えてくるというか……プレッシャーというか軽い恐怖心というか。そういう最後でしたね。
──恐怖心?
フルカワ:TGMXさんは「もっと一緒にやりたい」と言ってくれていたし、僕らとTGMXさんならもっと違うものも作れたと思うんです。でも、4人の関係性で音楽をずっとやっていくのかな?っていう。作るもの以上に自分の人生のなかで、妙な行き詰まり感があったんですね。そういうモチベーションになっていたとき、ドーパンにSONYのディレクターから声がかかるんです。そこに運命的なものを感じたというか。実は『PINK PaNK』を聴いて声をかけてくれていたので、『WE IN MUSIC』リリース前に一度話があったんですよ。でも、その誘いは一度断っているんです。
──ところが、ですよね。
フルカワ:その後のクアトロワンマンくらいには、完全に“ここを出よう”っていう気持ちになって。そこでまた同じSONYの人に誘われるんです。その際、当然TGMXさんに「メジャーでチャレンジしたい」「TGMXさんも一緒に行きましょう」っていう話もしたんですね。でも「行くのは今じゃない」「俺は一緒にはいけない」という話になって。振り返って、今、自分がいけなかったなと思うのは、「何かわからないけど、ここは自分には窮屈なんです」っていうことを逃げずにちゃんと伝えて話し合うべきだったなと。そこを隠してしまったので、TGMXさんに大きな誤解と混乱を与えたし、そこを解決しないままインディーズを飛び出したので、やっぱりそれは不義理でした。でもそれでも飛び出さなきゃいけなかったんです、きっと。そういう、一言二言では表せないようなことがあって、飛び出した後は結局、TGMXさんと疎遠になったんですよね。
──そしてDOPING PANDAがメジャーへと進出していくわけですね。
フルカワ:そのときに僕のなかで決めていたのは、“プロデューサーは立てない”ということで。TGMXさんに対する恩もあったし、プロデューサー抜きで売れたいというのもあったんですよ、当時の風潮に反して。本当に戦いでしたね、『PINK PaNK』『WE IN MUSIC』に負けたくないという情念みたいなものがありましたから。結果、メジャー1stミニアルバム『High Fidelity』がインディーズ時代の何倍も売れたり、SHIBUYA AXとか大バコを埋めたりして、成功したんです。でも僕は、『PINK PaNK』に勝ったと思ってはいなかったんです、その後の作品もずっとそう。初期衝動的なものは、どうしても薄れていくので平等なジャッジは絶対に無理なんですけど。やっぱり『PINK PaNK』が完成したときはTGMXさんも俺たちも、「すげえのできた」「何かが変わる」って、本当に楽しみながらぶち破った気がしたので。だから、メジャー後はたしかにステージが大きくなって、認知度も上がったんですけど、勝ててないなっていうのはあったんですよ。後ろめたさではなくてね。
──それくらい大きな作品だったんですね。
フルカワ:以降、『Yesterday Today Tomorrow』まで、とにかく戦っていた12年間でしたね。メジャーに行ってもどん詰まったというか、自分たちだけになっていったというか。最後はエンジニアも外しましたからね。“人とやらない”ということを極めていくというのが、DOPING PANDAというか僕のすべてだったので。とにかくどんどん暗くなっていくんです(笑)。
──最も尖っていた時代ですね。
フルカワ:今振り返ると、人に頼らずやらなきゃっていう気持ちがこじれてしまって。それが純化していくと、最後はスタジオを作って、レコーディングとミックスまで自分でやる……というところがゴール……だったのかな。最近ですけど、それがわかりましたね。それが尖っていた理由なのかな。
──たしかに隙は見せられなかっただろうな、というのはわかります。
フルカワ:ソロになって、すぐに物分かりのいい人間に切り替われるほど、世の中うまくできてないじゃないですか。むしろソロになったほうが完全にひとりになりきれるんですから、その極みですよね。プロデューサーを外して、エンジニアを外して、メンバーもいないほうが俺は上手く転がっていくんじゃないかっていう変なうぬぼれがね。自分の好きなメンバーをサポートに迎えて、アルバムを作って、ツアーを廻るんだから、これはイケるんじゃないかと思っていたんですけど、いかないんですね(苦笑)。これは何回も話してますけど、実際問題、ドーパン解散よりもソロ1stアルバム『emotion』(2013年発表)を出してツアーから帰ってきたときのほうが辛くて。“あれ?俺、辞めるのかな?”っていうところまでいきましたからね。
──最近といえば最近の話ですよね。
フルカワ:まだ3年前ですからね(苦笑)、どん底はそこで。もともとネガティヴ思考だから、“バンド解散して終わったヤツだ”って思われてるんだろうなっていうか。今の事務所(SONY MUSIC ARTIST)に戻ってからもしばらくは、スタジオと家の往復だけという期間が1年も続きましたし。DOPING PANDAの曲を解禁したライブ<無限大ダンスタイム>をやっても、“これからずっとドーパンドーパンって言いながら生きいくのかな”って。その矢先に、ベボベ(Base Ball Bear)のギターサポートの話がくるんです。
──やはり、それが大きな転機ですか。
フルカワ:はじまりでしたね。ベボベのメンバーと一緒にツアーを廻ったことで、初めてバンドを客観的に見られたし、僕自身とてもリフレッシュ出来たんですよ。いろんな街に行って大勢の人前で演奏をするのもドーパン以来だったから、気持ちが前向きになった。それに、すごくタイミングが良かったんです。そのときには今のマネジャーがついていて、BARKSで連載コラムをスタートしたのもその数ヶ月前ですよね。「この流れを止めずにアルバム制作を、それに伴ったツアーを」ってマネージャーと話をしたところから今まで、ずっとポジティブな状態が続いている感じがしますね。
──そこで今回、プロデューサーとして名前が上がったのが、最初に作品づくりを共に行なったTGMXさんだったという。
フルカワ:“きっと音源も人と作ったほうがいいんだ”って思ったんです。ドーパン時代の最後にミックスまで自分でやって、結果、何ができたかというと、自分が作りたいものの一番近いところ。そこまで行ったんですけど、世の中の人に届けるものとしては一番遠かった。今回はその逆のような気がしています。
──世の中の人に一番近い?
フルカワ:TGMXさんのアレンジですから、自分の理解の上をいってるところも多少ならずあるんですよ。でも、その手触りでいいのかなって。全部理解出来てるものは自分にしか向いてないわけで。そういった意味で今回はみんなの耳に一番近いところに置けているんじゃないかなと思うんです。一番最初の質問に戻りますけど、それが今回プロデューサーを立てた理由というか、結論でしたね。
■TGMXさんとの13年ぶりの1曲目が

■いじらず残ったというのは今回を象徴している
──一聴して思うのは、きっとTGMXさんの手法がそうなんでしょうけど、プロデュースされる人の陽の部分というかポップな部分がちゃんと照らされているんですよね。それが形としてすごく出ている作品で。だからこそ、ドーパン初期の音源とも感触が近いと思うし。シングル「days goes by」ミュージックビデオが公開されたオフィシャルYouTubeチャンネルのコメント欄を見ると、“帰ってきた!”というのもあって。ファンはそう思うんだろうなっていう。
フルカワ:コード進行自体は明るくないんだけど、楽曲の根底が明るいんです。最初のデモを送った段階でTGMXさんにメールしたんですよ、「もうTGMXさんをプロデューサーに迎えた意味があるんです」って。TGMXさんからは当然、「俺はまだ何もしてないよ」って返事がくるわけですけど、「いや、僕の作る曲が明るいんです」って(笑)。まずTGMXさんに聴かせようと思ってデモを作るじゃないですか。TGMXさんの嫌いな感じも知ってるし、TGMXさんにいいって言われたいから、「いい影響がもうすでに出てます」っていう(笑)。
──ははは(笑)。いい制作ですね、モチベーションがちゃんとある。どのあたりの曲を最初に作ったんですか?
フルカワ:今回、すべて書き下ろしたんですけど、一番最初は「バスストップ」ですね。
──それは意外でした。アルバムのなかでも、最もシンプルなアコースティックチューンですね。
フルカワ:ほかの曲は全部、デモにドラムを打ち込んだんですけど、これはアコギと歌だけだったんです。決意表明というか、「これがアルバムを表す曲かわからないけど、すごくいい曲があるんです」ってTGMXさんに送って。TGMXさんも「すげえいい曲」って言ったまま、ドラムもベースもつかず完成に至ったという。構成とかは多少TGMXさんと決めましたけど、一番手を加えられてない曲。むしろ最初に関わる曲はもっと手心を加えて、“13年ぶりのプロデュース曲がこれだ”っていう話のほうがドラマになるんだろうけど(笑)。TGMXさんは、いいと思っているといじらないんですよ。TGMXさんとの13年ぶりの1曲目が、ほとんどいじらずに残ったというのは、今回を象徴していると思います。
──それと、今作では様々なゲストボーカルを迎えていることも話題ですよね。「バスストップ」にはthe band apartの荒井岳史さんが参加していますが、一緒にやるのはどの段階で決めたんですか。
フルカワ:コーラスをいろんな人に頼もうというのは、レコーディングの最後のほうでしたね。TGMXさんの持論に、“いろんな人の声が入ったほうが、音に奥行きが出る”というのがあって。これはドーパン初期もそうで、知り合いの女の子に歌ってもらったり、とにかくいろんな声が入っているんです。人選は僕とTGMXさんですけど、誰にどの曲のコーラスをやってもらうかを決めたのは僕ですね。
──荒井さんとは弾き語りライブも一緒にやっているから、よりしっくりハマりますね。
フルカワ:そこは大きかったですね。僕自身も荒井自身もソロでアコースティックをやっているから、お互いの空気感が上手く混ざり合ったと思います。
──夜の本気ダンスの米田さんをゲストボーカルに迎えた「nothin’ without you」も、かなり面白いですよね。この曲を一緒にやるか?っていうか、まずこの曲はなんなんだ?っていうくらい曲調も展開も独創的。
フルカワ:TGMX節ですね。この曲って、2番というか途中から8ビートになりますよね。最初のデモはその構成だけで組み立ててたんです。そうしたら、「ソウルをやりたいなら、もっとテンポを落としてハネさせて。スティーヴィー・ワンダーっぽい感じを試してみよう」って言ったかと思えば、「でもこの8ビートもいいな」って足しちゃうんですよ。僕もやっていくうちにどんどん面白くなって、「この後どうします?また元に戻ります?」って聞いたら、TGMXさんがいきなりベースを弾きはじめて、「ファンカデリックとかでこういうのあるじゃん?」って言うから、「こういうのですか?」って応戦したら、「それそれ!それつけちゃおう」って、出来た曲ですね(笑)。SCAFULL KINGもFRONTIER BACKYARDもそうだけど、TGMXさんってプログレなんだけど、曲としてまとまったときにすげえポップに聴こえるんですよ。
──確かにそうですね。
フルカワ:奇をてらってないんです。よくあるプログレって、ノリを寸止めさせる感じもあるけど、TGMX節はそうじゃないんですよね。頭の中で楽しみながら走って、組み立てるから。
──実験的だけど心地よく聞こえる曲ですよね。
フルカワ:他の曲もそうですよ。作ってるときは、“Aメロの歌い出しで、変なイントロがついたな”とかも思うんですよ。でもそれを繰り返してやっていくと、台無しどころか、“なるほど”と思うし、それがないと曲が成立しなくなる。結果、がっつりAメロがなくなった曲もありますからね。
──その曲って?
フルカワ:「no boy no cry」は今イントロになっているところが、Aメロだったんです。けどTGMXさんは「このコード進行に歌を乗せるのイヤだな」って。全然先に進まなくて、変な空気になったんです(笑)。そのとき、「じゃあAメロは外します」ってぶっきらぼうに言ったんですけど、メロディーを外したらそれが曲にハマって。そういう魔法みたいなことがずっとありました。
──2人のコンビネーションも13年の時をすぐに超えたわけですね。
フルカワ:最初、誤差はありましたけど、少しやると昔の感じに戻るんですね。やっぱり、音楽表現の言葉が一緒なんですよ。たとえば、激しい曲といえばそのイメージが一緒だったり、テンポの早さとか擬音のとらえ方とか。その感覚が戻ったときは気持ちよかったですね。
■「自分の欠点をファンの前で歌えばいいんだよ

■それを僕は見たいんだ」って(笑)
──意外で、でも、それがすごくよかった曲が「デイジー」です。'60年代ポップスのようなハーモニーとか、管楽器とか鍵盤楽器の陽性な音色が入ってくるような、こんな感じも持っていたんだなと。
フルカワ:この曲は「明るい」とよく言われますね。ただ、シャッフル調のロカビリーとパンクが合体したリズムは、インディーズ時代に幾つか作っているんですよ。この曲は音のイメージもそうですけど、歌詞がかなり前向きなので一層明るく感じさせるのかもしれないですね。そういう自覚はあります。
──歌詞に関してTGMXさんは?
フルカワ:TGMXさんが普段プロデュースをするとき、歌詞には何も言わないんですって。KEYTALKをプロデュースしたときもそうだったみたいで。「歌詞は人のものだし、自分は英語詞だからわからない。ただ、ひとつお前には注文がある」と。
──その注文とは?
フルカワ:「俺は音楽的なことしかしないプロデューサーだけど、お前の日本語詞はいつも、ちょっとスケベだ」と。「小エロい」と言ってましたかね(笑)。僕的には、人生のいろんなことを男女関係にたとえて、セクシャルに表現することで、音楽にグロさとか深みを出すというか、そういう解釈でやってるんですけどね。それがTGMXさんの好きな音楽にはないみたいで、「なんでわざわざそういう表現をしないと伝えられないのかわからない。特にお前は最近、市川くん(LOW IQ 01)と一緒にやっているわけで、パンクキッズも相手にしているんだから、こういう歌詞では伝わらないし、拳を上げられないから。普段は歌詞のことは言わないし、こういうことは言いたくないが、そういう表現はやめてほしい」と。
──随分とはっきりと言われたんですね。
フルカワ:ホントに。最初は“これが自分の表現だから”ってムッとはしましたけど(笑)。でも今回はTGMXさんと一緒にやると決めていたので、自分に縛りをつけてチャレンジしてみたら、僕の歌詞って、思ったより小エロいんですね(笑)。書けないんですよ、小エロくしないと(笑)。たとえば好きな本も、グロいもの、怖いもの、ヒューマンサスペンスなものだから、その暗さみたいのが滲み出すぎていたんだなというのは勉強になりましたね。その縛りを念頭に置きながら書いたら、やっぱり世の中の人に一番近い歌詞になったのかなと。
──違和感ないですし、それが今回は歌の良さとして伝わってきますね。
フルカワ:今までの僕にはふたつしかなかったんです。小エロと怒り。その怒りも、なんでうまくいかないんだ、みんなが悪いんだっていうようなもので。DOPING PANDAの「Crazy」の歌詞が大好きだって言ってくれるファンも多いんですけど、あれ、世の中に対する悪口ですからね。“こんなに素晴らしい俺なのに、うまくいかなくてごめんね”みたいな。不思議なことに、今歌うと真逆の意味、自分の弱さを歌ってるように聞こえるんです。
──ははは(笑)。確かに。
フルカワ:なので僕の歌詞は、怒りとエロっていう中二病みたいなやつです(笑)。で、そういう歌詞って、人に聞かせるためのものではないんですよ。それに、BARKSでコラムを執筆している流れもあるんですけど、前アルバムくらいから活字に対する欲求というか、楽しみがあって。だから、いいタイミングで“縛り”をもらったなと。今回の歌詞は全体的に好きなんですよね、自分で。「シューティングゲーム」はちょっと小エロいですけどね。
──そういう歌詞の変化が発声にも影響してますよね。柔らかな曲はより柔らかくというか。先行シングルから想像すると、ロックで都会的な方向のアルバムなのかなと思いきやドラマがあって。エモーショナルで繊細だと感じました。
フルカワ:歌い方も変わりましたしね。キーも下げたし、昔に比べたら自然なんです、いろんなことが。一生懸命高い声を出して歌うのも、それは美しさなんだけど、今の自分に合った、歌詞に合った、曲に合ったキーでの歌い方。それもあまり意識してないというのがミソです。収まるところに収まろうとしている。
──「DAMN DAMN」は髭の須藤さんが作詞で参加していますが、これはどんな経緯だったんですが。
フルカワ:僕は須藤くんの声が大好きだから、歌で参加してもらうカタチでも全然よかったんですけど、不思議とそれは今じゃないなと思ったんです。あと、GATARI(須藤のソロプロジェクト)に僕は楽曲提供しているし、彼にも僕の作品に関わってほしいと思っていたなかで、パッと浮かんだのが歌詞。僕は彼の歌詞も歌と同じくらいリスペクトしていますから。
──独特の感覚を持ってますよね、須藤さん。
フルカワ:このアルバムのインタビューはこれまで何本かしているんですけど、「最初から須藤さんに歌詞を書いてもらうつもりで曲を書いたんですか?」って言われるんです。
──髭の曲っぽいですもんね。
フルカワ:たしかに、デモの段階から“須藤くんが歌詞を書いたら面白い”と思ってた曲だったんで、ぴったりでしたね。でもね、ひどい話があるんですよ。まず、LINEで長ーい歌詞が送られてきたんです。頭のなかでメロディを流しながらその歌詞を読んで、「すげえ、いい!」って返信したんですよ。で、そのあとすぐに気づいたのが、“あれ、これ歌うの俺だよな?”ってことで。
──ですよね、須藤さんが思うフルカワさんについて書いた歌詞だと読み取れます。“その眼鏡もとても似合うよ”とか。
フルカワ:しかもちょっと揶揄した感じですよね(笑)。須藤くんが歌うなら、愛あるコミックソングとしていいなと思うんですけど、“僕自身が歌うってどういうこと?”って。「この歌詞を僕が歌うっていうのは、どういうふうにとらえて、どう演じればいいんですか?」って須藤くんに聞いたら、「自分の口から、自分の欠点を、ファンの前で歌えばいいんだよ。それを僕は見たいんだ」って。
──仕掛けてきましたね(笑)。
フルカワ:「サイテーだな」って言いましたけど、とても愛と友情が感じられる(笑)。ただ、実際にアコースティックライブで初披露したら、会場がクスクスクスクス笑ったんですよ。歌い終わったら、スタンディングオベーションが起こるんじゃないかっていうくらい拍手でワーッ!となるという。須藤くんも作詞は「楽しかった」って言ってましたね。まあ楽しいでしょうね、この歌詞は(笑)。
──曲としての完成度も高いですから。
フルカワ:音楽的なことを言えば、須藤くんはリズムに対する言葉の当て方が上手なんです。しっかり歌詞が聞こえながらも洋楽のリズムになる。そもそもこの曲のデモは、スペシャルズみたいなイメージだったんですよ。アメリカンポップっぽいスカやレゲエのコード進行ですね。そうしたらTGMXさんが、「たしかに、レゲエはカッコいいけど、お前がレゲエをする意味がわからない。これ、なんでレゲエアレンジなの?」って事あるごとに。で、「一回、ウィーザーっていうかベン・フォールズ・ファイヴっていうか、大ノリのドラムにパワーコードでディストーションみたいのやってみない?」って言われてやったみたら、全然こっちだなと自分でも思って。それがたまたま髭っぽかったんですよね、不思議な巡り合わせです。
■みんながわしゃわしゃ曲を可愛がってくれる

■その感覚がとっても気持ちよかった
──いろんなピースが上手くハマったアルバムということですね。
フルカワ:それが今回のミソなんです。全部自然だし、狙ってない。あらかじめ、須藤くんに書いたとか市川さんに書いた、みたいな曲はひとつもない。
──では、市川さんがゲストの「revelation」は?
フルカワ:アルバムの1曲目だし、パンキッシュで洋楽っぽいし、“これは市川さんだろうな”という一択でしたね。レコーディングもすごかったですよ。「やるぞ!やるぞ!やるぞ!」って地下スタジオの階段を降りきて。「やるぞ!やるぞ!やるぞ!」ってブースで何テイクか録って、「はい、終わり!終わり!」って(笑)。嵐のような感じでした。時間が余ったので、予定にはなかったパートも歌ってもらったという。
──1曲目がロックでパンクですが、2曲目の「シューティングゲーム」はモダンで都会的。
フルカワ:これは逆に狙いにいったというかね。僕の音楽が好きだけどちょっと離れていた人が、“ああこれこれ”って思うような曲を。TGMXさんとも「そういう曲がないといけない。フルカワユタカから連想する曲を書こう」って出来た感じですね。だから、必要なピースです。僕なんかはこういうダンスロックは昔の感覚で書けちゃう。自分らしいものを作る快感というか、引き出しの部品をかき集めてやっと出してるくらいですけど、その作業も楽しかったりするんですよ。結果、最後までリード曲候補でしたからね。
──リード曲は「僕はこう語った」になったんですね。
フルカワ:意外というかね。いい曲だし、独りよがりじゃなくて、“人に聴いてもらう”歌詞としていいところまでいけたって満足しているんです。でも、人に聴かせようと作り過ぎているのが、自分では引っかかったというか。それが怖くて、一抹の不安があるというか。
──そうだったんですか。
フルカワ:周りのスタッフは結構早い段階から「僕はこう語った」がリード曲だって言ってたんですよ。ただ僕は昔、周りを論破するくらいの勢いでリード曲を決めていたので。たとえば、「これが1年後に必ず流行るから」って言ったりね。その名残か、マスタリングか何かのとき、スタッフと小競り合いがあって。「いい曲って言ってくれるのは嬉しいけど、地味だよ?」って。ギターソロもあるし、フルカワユタカの曲だとわかりやすいから、「シューティングゲーム」がリード曲になりかけてたんです。
──それがどうして?
フルカワ:レコード会社のスタッフとか、マネージメントとかの「僕はこう語った」人気が急に上がって。そうしたら、荒井がLINEで「「僕はこう語った」がすごくいい」って言うし、須藤くんも「すごくいい曲だね、一番好きだよ」って。もしかして、楽曲ってこうやって育つのかなと思ったんです。作品が自分の手を離れていくという感覚かな。それって、今まで味わったことがなかったんですよ、“離さない”“わかられてたまるか”と思ってましたから。その真逆ですよね。みんながわしゃわしゃ曲を可愛がってくれる。その感覚がとっても気持ちよかったし。アルバム全体にそういう感じがあるんじゃないかなって、心強いんですよね。
──ところで、今回はプロデューサーを立てたり、ゲストボーカリストを迎えたりしたことで、フルカワさん自身の負担が減ったからか、ギタープレイがテクニカル過ぎやしませんか?
フルカワ:あー、それは楽器誌系の方によく言われますね(笑)。
──いろんな聴き方ができるアルバムの完成となりましたが、タイトルの『Yesterday Today Tomorrow』とは?
フルカワ:僕はいつもアルバムタイトルは最後に決めるんです。最初に決めてしまうのと、そこに引っ張られちゃうから。その意味は、このインタビューのままですよね。“過去が見えると現状がわかって、現状がわかってるから未来の話ができる”みたいな。ベボベのサポート以降、ポジティヴになった自分は確実にあるし、昔は接点を持とうとしなかったミュージシャンとも今は楽しめている。そうすると、当時なんで尖っていたのか、自分で説明できるようになるんですよね。そういう時の流れをタイトルにしたかった。あまり小難しくなく、パッと聞いて伝わるようなタイトルということで、これは一択でしたね。
取材・文◎吉羽さおり
■アルバム『Yesterday Today Tomorrow』


2018年1月10日(水)発売

NIW137 3,000円(+税)

01. revelation

02. シューティングゲーム

03. busted

04. 僕はこう語った

05. days goes by

06. デイジー

07. DAMN DAMN

08. nothin' without you

09. バスストップ

10. no boy no cry

プロデュース:TGMX(FRONTIER BACKYARD)

▼ゲストヴォーカル

M1:LOW IQ 01

M5:UCARY & THE VALENTINE

M8:米田貴紀(夜の本気ダンス)

M9:荒井岳史(the band apart)

▼作詞

M7:須藤寿 (髭)
■<フルカワユタカ presents「5×20」>


2018年1月28日(日) 東京・新木場STUDIO COAST

開場13:15 開演14:00

▼出演 フルカワユタカ and many bands & musicians

ACIDMAN / ART-SCHOOL / Keishi Tanaka / the band apart / FRONTIER BACKYARD / Base Ball Bear / ホリエアツシ (ストレイテナー, net) / 夜の本気ダンス / LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS (※50音順・敬称略)

▼チケット

スタンディング 4,800円(税込)

※「スタンディング」「整理番号付」「ドリンク代別途徴収」

※3歳以上要チケット

一般発売:2017年11月25日(土)

(問)DISK GARAGE 050-5533-0888 (weekday12:00~19:00) http://www.diskgarage.com/

【プレイガイド】

・e+ http://eplus.jp/furukawayutaka18/

・ローソンチケット http://l-tike.com/ 0570-084-003 Lコード:72823

・チケットぴあ http://pia.jp/t/ 0570-02-9999 Pコード:346-255

■全国ツアー<フルカワユタカ presents 『yesterday today tomorrow TOUR』>


2018年1月13日(土) 愛知県 伏見JAMMIN'

2018年1月14日(日) 大阪府 Shangri-La

2018年2月11日(日・祝) 静岡県 Shizuoka UMBER

2018年3月17日(土) 岡山県 岡山ペパーランド

2018年3月18日(日) 福岡県 INSA

2018年3月21日(水・祝) 宮城県 enn 3rd

■<yesterday today tomorrow TOUR extra>


2018年2月12日(祝) 鹿児島県 Live HEAVEN

2018年2月18日(日) 福島県 Player’s Cafe

2018年2月25日(日) 北海道 musica hall cafe

2018年3月10日(土) 京都府 SOLE CAFE

2018年3月11日(日) 石川県 もっきりや

w/荒井岳史 (the band apart)

▼チケット

3,300円 (+1ドリンク代別)

全自由/整理番号付

一般発売:1月13日(土)

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