ヒトリエとパスピエのエポックメイキ
ングな夜@リキッドルーム

ヒトリエが主催するツーマン企画『nexUs vol.3』が9月11日、東京・恵比寿リキッドルームにて開催された。本企画は、ヒトリエのメンバー各々が縁のあるアーティストを迎えながらイベントの発案・企画までを担うライブイベントで、過去にはベッド・イン(キュレーター:シノダ)やぼくのりりっくのぼうよみ(キュレーター:イガラシ)を迎えて話題を呼んでいた。今回はドラムのゆーまおがキュレーターとなり、迎えたのは10月18日にミニアルバム『OTONARIさん』をリリースすることが発表されているパスピエ。なんでも、ゆーまおとパスピエは10年来の付き合いとのこと。本記事では、そんなパスピエとの熱いツーマンライブの様子をお届けします。

Text_Sotaro Yamada


ヒトリエ主催『nexUs vol.3』with パス
ピエ

この日の恵比寿リキッドルームは超満員。ほとんど隙間がないほどの大入りで、周囲の人との距離が近い。開演前からすでに熱気に満ちていて、ヒトリエの人気の高さを伺わせる。

ヒトリエの楽曲には、どこか少し非現実感のようなものが漂っている。それは短いフレーズに詰め込まれた圧倒的な音数や上下しまくる音域、wowaka(vo. & Gt.)の浮遊感ある歌声など様々な要因のせいだろうが、ライブではそれらの要因が絡み合った上で「超」がつくほどエモーショナルに楽曲が演奏されるため、音源を聴いた時とは少しだけ印象が異なる。フロアではモッシュが起き、メンバーは激しく動きまわり、全員で汗まみれになって感情を爆発させ合うような熱いライブになるのだ。

前置きが長くなったが、今回の『nexUs』でヒトリエが迎えたのはパスピエ。
ニューウェイブとオリエンタリズムを独自の解釈でポップロックに落とし込んだサウンドと、大胡田なつき(Vo.)の、これまたどこか非現実感のある歌声が特徴的なバンド。ヒトリエとは違った音楽性ではあるが、両バンドには近しさがある気がする。大胡田なつき、成田ハネダ(Key.)、三澤勝洸(Gt.)、露﨑義邦(Ba.)、そしてサポートメンバーの佐藤謙介(Dr.)が登場すると、一斉に歓声があがった。その歓声の大きさは、やはり両バンドの相性の良さを象徴しているのではないか。
パスピエは、ちょうど一年前まで自分たちの顔を公開していなかった。だから、多くのファンがパスピエを知る時、そこには優れた楽曲と大胡田によるアートワーク、そして印象的なMVがあり、フィジカルがなかった。ある意味では二次元的な認知の仕方をされていたわけだ。
しかし全面的に顔出しを解禁することで、リスナー側からしてみれば、二次元と三次元を行き来するような、ある種のねじれた感覚を抱かされることになる。こうしたねじれの面白さが現在のパスピエの大きな魅力となっている。

二次元と三次元を行き来するねじれのような感覚、それがパスピエとヒトリエというバンドのひとつの共通点であり、異なる音楽性を帯びながらも近しさを感じさせるゆえんなのかもしれない。

パスピエが導く、並行世界のネオ・トー
キョー

ライブは『チャイナタウン』からスタート。オーディエンスはいきなり手をあげて縦ノリに乗る。『ハイパーリアリスト』ではレトロフューチャー的な8ビットを響かせ、非現実感と現実感がないまぜになったような不思議な空気がリキッドルームを満たす。少女性を帯びた歌声で歌いながら体を動かす大胡田はどこか舞踊の動きを連想させ、情熱的に鍵盤を叩く成田の演奏と絶妙なコントラストを生み出していた。

ミニアルバム『OTONARIさん』に収録される新曲の『あかつき』も披露。これまでのパスピエの楽曲群と比べてもさらに開けた第1級のポップソングという感じで、大胡田の歌声の魅力が最大化されたような曲。大人気曲『シネマ』ではオーディエンスほぼ全員が手を振り、おそらく今回のライブにおける最初のハイライトになっただろう。

普段はあまり汗をかかないという大胡田、この日はかなり汗をかいていたらしく、「私ゆーまおのために結構頑張ってるな」と、キュレーターのゆーまおに、友情を感じさせるジャブを一発。ゆーまおとパスピエの付き合いは長く、ゆーまおが「ゆーまお」と名乗る前からよく対バンしていた間柄なのだと言う。必然的にMCも和やかで両者の信頼を感じさせる雰囲気になる。
そういえばこの『nexUs』という企画には、「対バン」ではなく「ツーマン」、「vs」ではなく「with」という言葉が使われている。2つのバンドが火花を散らすのではなく、「一緒に何かを作り上げる」というような意志を感じるライブだ。

そして大胡田が「ヒトリエのファンはみんな良い人で、全員パスピエのファンみたいな反応してくれる」と続けると、すかさず成田から「それは思い込み」とツッコミが入り、笑いが起きる。しかしそれはあながち冗談でもないように思う。おそらくこの日ライブに来ていたヒトリエファンの多くはパスピエのファンになっただろうし、後述するが、その逆もまた然りだ。
『トキノワ』を経て最後は『MATATABISTEP』。オーディエンスは手を上げてジャンプし、多幸感に溢れるパフォーマンスでヒトリエにバトンをタッチした。
レトロフューチャー、オリエンタリズム、ニューウェイヴなどの言葉で形容されることの多いパスピエだが、「SF」という言葉も彼らには似合う気がする。パスピエのライブを見ていると、自分が20XX年の平行世界におけるネオ・トーキョーに入り込んでしまったかのような錯覚に陥る。それでいて、レトロフューチャー、オリエンタリズム、ニューウェイヴ、SF、これらのどの言葉にも収まりきらない洗練されたオリジナリティがある。

「俺ら意外とロックバンドだよね」と成田が言ったが、意外どころか、この日のパスピエは思いっきりロックバンドだった。まだまだパスピエの引き出しは多そうだ。
セットリスト(パスピエ)

1. チャイナタウン
2. ハイパーリアリスト
3. メーデー
4. とおりゃんせ
5. つくり囃子
6. マイ・フィクション
7. あかつき
8. シネマ
9. トキノワ
10. MATATABISTEP

次のページは、「ヒトリエが引き起こす熱狂の渦」「『アンノウン・マザーグース』ヒトリエver.」

ヒトリエとパスピエのエポックメイキングな夜@リキッドルームはミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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