ヴァイオリニスト松田理奈にインタビ
ュー「シンプルに音符と向き合って」
 7月11日にリサイタル

ヴァイオリニストの松田理奈が7月11日に東京文化会館小ホールでリサイタルをひらく。公演を控えた彼女に話をきいた。
「実は今回演奏する小品を6月末と7月12日にピアニストの江口玲さんとレコーディングすることになっています。というのも、昨年の春から私は、今使っているストラディヴァリウスを、ある楽器のオーナーさんからお借りしていて、この楽器が1717年製で今年がちょうど300歳なのです。そこでタカギクラヴィアの高木(裕)社長とご相談して、オーナーさんにお礼の気持ちをこめて、この300歳のヴァイオリンの音にふさわしい、楽器の喜ぶ曲を選んで、CDを作ることにしました」
松田理奈
そこで選ばれたのが、クライスラーの「前奏曲とアレグロ」と「テンポ・ディ・メヌエット」、エルガーの「愛の言葉」、フィンジの「エレジー」、ペルトの「フラトレス」、ヴィターリの「シャコンヌ」などである。そして、この小品たちが7月11日のリサイタルでも演奏される。
「江口玲さんのニューヨーク・スタイルのタッチやリズムが大好きなので、江口さんのピアノと共演するのであればアメリカ的なもの、ということで、最初にガーシュウィンの『3つのプレリュード』を弾きます。
ペルトの『フラトレス』はミニマル・ミュージック的な繰り返しの音楽。一定のフレーズを繰り返していくことで、覚醒されていきます。私は嫌なことがあると、ヴァイオリンに没頭して、発散させるのですが、それにはこういう繰り返しの音楽がいいのです。ヴィターリの『シャコンヌ』もそうですね。ペルトの音楽は、色的にいうと寒色系なのですが、楽器の音を聴くと体の芯から温かくなります。
クライスラーの『前奏曲とアレグロ』は、小学校のときから弾いている、私に欠かせない曲です。子供の頃はエチュードみたいで嫌な曲だなと思いましたが、7年前にドイツで弾いてみたとき、『何これ、ロックな曲!』と思ったのです。ヴァイオリンは鳴るし、こんなカッコいい曲だったことに気付きました。クライスラーのヴァイオリンへの愛を感じます。『テンポ・ディ・メヌエット』も、クライスラーがヴァイオリンのことが大好きと言っているような曲。移弦が多く、雑に弾くと音が割れてしまいます。丁寧さが必要です。
エルガーの『愛の言葉』は、『愛のあいさつ』のような有名な曲ではないのですが、とても魅力的な小品です。私は、ナクソス・ミュージック・ライブラリー(注:有料の音楽配信サービス)に入っていて、“ナクソス・サーフィン”をするのが趣味なのです(笑)。この『愛の言葉』も車でナクソスを流しているときに出会いました。
フィンジの『エレジー』もナクソスで聴いて、楽譜を取り寄せました。ダニエル・ホープのアルバムに入っています。『エレジー』は、悲歌といいながら、悲しさだけでなく、求めているもの、思いや希望に心を震わされます。温かい曲です。
ヴィターリの『シャコンヌ』は、一点の光を最初から最後まで見据えて弾くだけです。中間部で長調になるのですが、また夢から現実に戻されます。嘆けるので、すっきりさせてもらえる曲です。
気持ちや魂が込められている曲を集めているので、それを一曲ずつちゃんと歌い上げたいと思っています」
松田理奈
リサイタルでは、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第3番も演奏される。ブラームスのソナタもまた、CD化の予定がある。まず、今年の年末にブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番とフランクのヴァイオリン・ソナタを録音し、その後、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第2番と第3番もレコーディングするという計画である。
「ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番は来年春の演奏会でも弾く予定があるのですが、第3番を弾くのは4年後になりそうなので、そのときの第3番と比べる意味で今回の第3番を個人的にも楽しみたいと思っています。
私は、2年前まで(ブラームスがヴァイオリン協奏曲を献呈した)ヨーゼフ・ヨアヒムが弾いていたガダニーニ“EX.ヨアヒム”を使っていたのですが、それで弾くとブラームスの書いた楽譜が違って見えました。ヴァイオリン協奏曲のファクシミリ譜(自筆譜のコピー)を見たら、赤と青の鉛筆で指示が書き加えられているのですが、それにはヨアヒムの楽器の癖が反映されているのですね。普段ヘンレ版の校訂楽譜を使っていますが、必ずしもそれを鵜呑みにしなくてもいいということに気付きました。今は、シンプルに音符と向き合って弾いてみたいと思っています。
第2楽章はアンコールでも弾く名曲です。流れやメロディを優先して演奏したいと思います。今の楽器は、私が思っていることを表現してくれる、艶のある音のするヴァイオリンなので楽しみです」
松田理奈
扱いにくいといわれるストラディヴァリウスにもすっかり馴染んだ。
「去年に春にお借りして、半年から1年くらいで鳴るようになりました。自分でもわかるくらい変化しています。これまでもいくつかのヴァイオリンを借りてきた私は、それぞれの楽器の良いところを引き出すのが“趣味”になっています(笑)。ヴァイオリンが『本当はもっとここが鳴りたいのに、辛い』と言っていると感じたところを解放してあげました」
バロックのヴィターリから、ロマン派のブラームス、そして近現代のフィンジやペルトまで、多彩なプログラムが本当に楽しみである。
松田理奈
取材・文=山田治生  写真撮影=福岡諒祠
公演情報

松田理奈リサイタル

■日程:2017年7月11日(火)19:00開演
■会場:東京文化会館小ホール (東京都)
■出演:松田理奈(ヴァイオリン) 江口玲(ピアノ)
■公式サイト:http://linamatsuda.com/

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