【清貴】究極的に言うと、音楽で人と
人をつなげたい

アメリカから帰国した清貴が日本語の作品としては7年振りとなる4thアルバム『あなたがいてくれたから』をリリース! 異国に身を置くことで日本人魂に火が付いた彼は、今作では全編日本語で直球勝負している。清貴の温かい人柄が伝わる素晴らしい作品だ。
取材:荒金良介

今作はやさしさや温かみ、何より愛の詰まった作品ですね。とてもエネルギーに満ちあふれた楽曲が多いですけど、清貴さんはもとからそういう性格なのですか?

やりたいと思ったことは昔からとことんやるタイプではありますね。アメリカに拠点を移した2日後にゴスペルのチャーチを訪れたんです。そこで感動したことをミュージックディレクターに伝えたら“何か歌って”と言われて、その場で「アメイジング・グレイス」を歌ったら、教会の方から“日曜日の礼拝で歌わないか”と言われて。さらに全米最大のゴスペル大会で優勝したり、そこから縁がどんどんつながっていきました。昔からここぞという時には前に行くタイプかもしれないです。

そもそもアメリカに行きたいと思った理由は?

日本で音楽活動をしている時に常にアメリカコンプレックスがあったんですよ。スティーヴィー・ワンダー、ホイットニー・ヒューストン、マライア・キャリーなどのアーティストに憧れて音楽を始めたので。彼らのような音楽、歌い方は、どうやったらできるんだろうと思って。日本で彼らを追いかけているだけではなくて、実際に同じような環境に身を置きたいと思い2010年に渡米しました。

なるほど。

もっと自分を海外で試してみたい、本当の自分を見つけたいという想いもありました。実は去年、自分のセクシャリティーを初めて公にカミングアウトしました(※LGBTのひとりであることを告白)。小学生の時から僕はなんかみんなと違っている…。仲間外れにされるのが怖くて、どこかで本音を言えない自分がいたんですけど、それを忘れるように没頭できるのが音楽だったんです。それからゴスペルを聴いた時にすごく衝撃を受けて。人種差別が根強く残るアメリカだと黒人の方は抑圧された中にいて、そこから救いを求めて生まれた音楽という部分が自分にも響いたんだんだと思います。実は僕は小学生、中学生の頃に2回ほど大きな手術しているんですけど、先が見えない不安の中、病室で音楽だけが僕の救いだったこともあって。

全部がリンクしてますね。では、今作のテーマは?

一貫したテーマは“感謝”ですね。自分がここまで音楽を続けられたのは、聴いてくれる人や周りに助けてくれる人がいたからだなと思ったんです。その感謝の気持ちをちゃんと日本語で伝えたくて。アメリカに行ったからこそ、日本語の良さを身に染みて感じるんです。アメリカ人のようになりたいと思って同じことをやっても評価されないんですよ。それで、ある時に和太鼓の演奏をアメリカで観て、これがジャパニーズソウルだなとハッとして。

アメリカでサムライ魂に火が付いたと?

ええ。それからアメリカで和太鼓を習いに行ったり、極真空手をしたりしてました。

また極端ですね(笑)。

自分のライヴでも和楽器をフィーチャーしたら、アメリカのお客さんがワーッと盛り上がって。アメリカではいつも自分のアイデンティティーを突き付けられるんです。“お前はどこから来た”“どんな人間なんだ”って。それで、もっと自分自身を見つめる中で、そのままの自分を受け入れられるようになっていきました。だから、自分がゲイであることも隠さなくてもいいんじゃないかって…。バラク・オバマ大統領が大統領演説で初めてセクシャルマイノリティーについて触れたり、サム・スミス、エルトン・ジョン、リッキー・マーティンもLGBTであることをオープンにして音楽活動をしていたことにも勇気付けられました。そして、日本に帰ってきて、自分も悩んでる人たちの力になりたいと思いました。それから思春期の頃が一番悩んだりするから、そういう子たちにも僕のように表に出ている人が“自分らしくいていいんだよ”って示してあげたいなって。

若い人にも今作が届けばいいですね。

そう願っています。僕は仙台の出身で、アメリカにいる時に家族が東日本大震災で被災しました。その時、みんなで手を取り合って一致団結する姿に心から感動して。離れてみて日本の素晴らしさをより感じました。だから、今回は日本語で大切な人たちに向けて想いを伝えたかった。前作『Reborn』(2013年8月発表)はアメリカのサウンドを極めたものだったから、その反動もあるのかなと思います。

日本の音楽で影響を受けた人はいますか?

僕、ユーミン(松任谷由実)が大好きなんです。情景や四季を、匂いや湿度とともに五感で感じられるものが多いですから。それはこのアルバムでも意識しました。日本の音楽は純文学に近い作品が好きですね。

今作はフジテレビ系列パラスポーツ応援ソングに抜擢された「無限大∞」のスケールの大きな曲調で幕を開けますが。

パラリンピアンを見ていると、本当に環境や年齢などに言い訳にしていた自分が恥ずかしくなるくらい、今の自分を受け入れながら夢に向かって走っているんですよね。だから、この曲では “好きな夢を追い続ける情熱があれば、可能性は誰にでも、どこにでも広がっているんだよ”ということを伝えたかったんです。

曲名もそうですが、特に歌詞に関してはズドン!と響くようなど真ん中の言葉使いが多いですよね。

海外生活の中でストレートに自分の気持ちを言うことで生きやすくなり、いろいろなことをより素直に感じれるようになりました。それから、普段なかなか言えないことだから音楽で言いたいみたいなところもありますね。

《世界で一番好きだよ》《そばにいるよ》という言葉も、これを言われて嫌な気持ちになる人はいないはずで。

もちろんその言葉に辿り着くまでの過程があればこそですけど、今は自分が一番伝えたいことは印象的なところで、照れずにストレートに言いたいと思っています。

「WE ARE ONE」も壮大なメッセージ曲ですよね。

アメリカに行った時に多種多様な人々に出会い、その中で生きていくには、お互いの違いを認め合わなくてはいけないんだなと感じました。急速なグローバル化の中で、“みんな違うけど、ひとつなんだ”という感覚が大事になってくるんじゃないかと。自分のカミングアウトを含め、他にもいろいろな人が、それぞれの弱さやコンプレックスを抱えながら生きていると思うので、この曲でみんながより生きやすい世の中になるための手助けになればいいなと思います。

今作はピースフルな気持ちになれる作品に仕上がっていると思います。

嬉しいですね。究極的に言うと、音楽で人と人をつなげたいんですよ。“みんな一緒に生きてるじゃん”って。もちろん、孤独を感じることもあるだろうけど、見渡してみて、あなたはひとりじゃないよって伝えたい。あなたがいてくれたから、今、僕がいる。このアルバムを聴くことで“お世話になった人に感謝の気持ちを伝えよう”“最近会ってないあの人に手紙を書いてみよう”と、誰かとのつながりを感じるきっかけになったら幸せです。
『あなたがいてくれたから』
    • 『あなたがいてくれたから』
    • WAOR-0001
    • 2016.11.13
    • 3240円

OKMusic編集部

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