渋谷飛鳥、石井ふく子演出舞台『君は
どこにいるの』に出演 「役柄へのア
プローチは以前より濃くなったと思い
ます」

--石井ふく子さんとは出会いからもう長いお付き合いですね。
「『渡・鬼』で最初にお会いしたのが高校2年生で、もう10年ちょいになります」
--舞台『君はどこにいるの』はどんな内容になりますか?
「戦後20年くらいのお話なんですけど、一組の親娘を中心とした物語です。一路真輝さん演じる娘と、西郷輝彦さん演じる父親がずっと二人で暮らしてきた。一路さんの役柄は、戦時中だった10代の時に学徒動員に参加してその時の栄養失調がたたって腎臓摘出の手術を受けています。そのせいで脚を引きずっている。爆弾に当たったというのではないけど、ある意味戦争被害者で、その女性がどうやって生きてきたのか、これからどう生きていくのかを描いた物語で、それを支える周りの人々がいます」
--そんな中で渋谷さんの演じる役柄は?
「この親子を取材するカメラマン役です。石井先生にはぴょんぴょん跳ねるように演じてと言われました。対比というか、一路さんが叶えられなかった未来の姿、時代が少しずれてたら、自分もこういう姿でいる可能性もあったんじゃないかなという象徴のような役なんです。でも誰のせいにもできない。『仕方ないよ』と明るく生きる女性なんですけど、そのどこか陰の部分があって…」
--話のトーンはちょっと暗い感じになる?
「いえ、一路さん演じるみこさんは本当に明るい人なんですよ。そういう背景があるんですけど、とにかく明るく強く生きていく女性です。お父さんと娘の掛け合いのシーンが主で二人は言いたいことをポンポンと言い合う。見ていてコミカルだったり、楽しく観れるんですけど、どこかちょっと陰があるという感じで物語が進んでいきます。そこにはメッセージ性もあります」
--そこは石井さんらしい?
「そうですね。少しのせつなさと、でも強く生きる女性、娘は父を思い、父は娘を思い、その互いに思いやっているところがすごく素敵な物語になっています」
--共演は実績豊富なベテランの役者さんばかりですよね。
「はい、稽古の前の本読みでも気持ちよく掛け合いをさせてくださるんです。私が言いやすいように、間とか計算してくださって。もう引っ張られるようにすっと連れていってくださる感じですね。ただ、それだけだと私もダメだなと思うので、自分でも攻めていけるようにしたいですね」
--石井さんなりの独特の演出方法ってありますか?
「舞台なのにカメラアングルを決めていくんですよ。頭の中にカメラがあってカット割りができているんです。『この人に今スポットを当てている』『ここは全体で見せる』という感じで。『ここは一路さんをクローズアップしている場面なので他の人が動いたら邪魔だな』とか、そういう先生の狙いは察知できるようになりました。そんな先生の作品ってすごく観やすいんです。難しいテーマだったり、大人の話だったりするんですけど、私が母と観に行くと、私の世代から観ても母の世代から観ても、泣けるところがあったり笑えるところがあったり、でもそれは同じだったり、違ったりするんですけど、いろんな世代の方に観ていただけると思います」
--よく坂上忍さんがバラエティ番組で石井さんについて「昔は怖くて仕方なかった。今でも会うとビビってしまう」などと話されていますが…。
「今はやさしいですよ(笑)。厳しさはありつつも、周りの人に聞くと昔ほどではなくなったようです」
--じゃあ知り合った時からやさしくて。
「本当にお母さんみたいな感覚で、いつもおにぎりを作ってくださったりやさしくしていただいています。私が先生のお芝居に出してもらい始めた頃って、まだ何一つわかってなくて、舞台の上をちゃんと歩けなかったくらいで、そういうレベルの人に何を言ってもダメというのはあったと思うんですけど」
--今は成長して一人の役者として接してもらえている?
「多分、10代の頃よりは多少成長した姿を見せたいなと思っています。怒られたくないというよりは、失望させたくないという気持ちのほうが大きいので、とにかくくらいついて、という感じです。今回の作品ではベテランの方々との共演で、きっとまだまだ力量不足が浮き出ると思うので、その差をわからないようにしたいなと思っています」
--一方で配信中の『ウルトラマンオーブ THE ORIGIN SAGA』では、主役の石黒英雄さんをはじめ共演者はかなり若いキャストですね。
「本当に真逆(笑)。テレビ版よりも意外と大人を対象にしている内容で、演じるにあたって、大人のお芝居をするのか、ちょっとアニメ寄りにわかりやすいお芝居をするのか、共演者同士で話し合いました。みんなお芝居を本気で極めようとしていこうという人たちだったのですごく刺激を受けました」
--ウルトラマンから石井さん演出の舞台まで幅広いですが、本当にいろんな作品を経験してきましたね。お芝居を始めてからは…
「もう13年ですね。昔は芝居のことを何もわからずに、監督の指示に従ったり、怒られないようにするという思いで臨んでいたのですが、10年を超えたあたりから自分なりに研究をするようになり、そこからは濃くなりましたね」
--その「濃い」というのは?
「役柄に対するアプローチで、昔は台本を読んで『こういう子だな』『このストーリーの中ではこういう役割だな、じゃあ自分の中にあるこういうところを引っ張ってやってみよう』という作業が10個くらいしかなくて、それがどんどん増えていきました。役柄の価値観とか、今まで自分の中のものを出していくことが多かったんですけど、それを変えてみようと思い始めたのが、ここ最近ですね」
--変えてみようというのは、自分の引き出しになかったものを?
「なかったものをあえて作ってみようと。それまで役作りをしていたようで、それは自分の引き出しにあるものの中から出すこと、私として台本を読んでいた部分が多かったんですけど、そうじゃないなって思い立って。まだそれが上手くいってなくて、昔のやり方に頼ってしまうときもあるんですけど今は研究中です」
--それは役柄にもよるのでは? 「渋谷飛鳥」が持つキャラクターを期待してキャスティングされる場合もあります。
「そこがまだちょっと難しいんですけど、たとえば今回の舞台では直接石井先生からお電話をいただいて『やって』と言われたので、私が持つキャラクターを求めてらっしゃるのかなというのは何となく思っているんですけど、それは稽古の中で探っていきたいと思います」
--芝居に対する「濃さ」って自分が視聴者として客観的に観ていてもわかるもの?
「自分の作品を観るのがすごく嫌で、本当に辛いんでいよね。『あの時ああすればよかった』というのが一番に浮かぶんです。芝居を試す場は舞台だったりするので、日々演じていく中で、今日はちょっとわからない程度に変えてみようとか。テレビでは安全なところを狙っちゃうというか、絶対OKを出してもらえそうなところを狙ってるのは自分でもわかるので、それもまた悔しいんですけど、もうちょっと攻めていける役者になりたいです」
--役柄とより深く向き合うようになるのに、ターニングポイントになった作品や出会いってありましたか?
「芝居を『どうしていいかわからない』と迷う時期があったんです。どこの現場に行ってもある程度OKはもらえるようになったけど、自分で『これじゃダメだな』と思うことが多くて、やっぱり勉強しに行かなくてはと思っていたんですね。その時期に東京セレソンデラックスの舞台(2011年『わらいのまち』)に出たことも大きくて。主宰の宅間孝行さんには『こんなに怖い演出家がいるんだ』と思わされました。まず自我を全部消してそこから役の価値観を入れていくという作業をするんですけど、私という自我を捨てさせる手法の中で、本当にもう、罵声というか厳しい言い方をされて、みんな精神崩壊状態で、その状態からのスタートだったんです。演出を受けながらちょっとドMなところが出ちゃってました(笑)」
--ちょっと“自己啓発セミナー”的な(笑)。
「それを経験して、さらに上を目指したいと思い始めたんです。またその時期にTRASHMASTERSという劇団の芝居を観た時に、度肝を抜かれたんです。下北沢の駅前劇場という狭い劇場で、パイプ椅子で3時間の芝居を観るというほとんど苦行のような舞台だったんですけど(笑)、それなのにずっと観れちゃったんですね」
--それは何に惹きつけられたんでしょう?
「淡々と会話劇が進行していくんですが、人と人との微妙な感情、『ちょっとムカついた』とか『ちょっと気になるけど言わないでおこう』とか、そういう心情の変化が客席から感じられるんです。微妙な感情のやりとりだけが3時間行き来してて、それはすごいな、どうやって作ってるんだろうと、演出家の中都留章仁さんに話を聞いて勉強させてもらったんです。その経験も大きかったんですよ」
--特にどういうところが?
「そこには理論があったんですよ。ずっと抱えていた、お芝居の中の違和感というのがすごくあって。セリフがあって、相手役の役者さんと掛け合いをする時に“嘘”の部分っていうのがありますが、でもこれはお芝居だから、そもそも嘘だからと納得させてきたんですけど、それが実は理論で解決できるところもあって…。セリフを発語するまでの過程を考えてみると、セリフってただ読めばいいんだって思っていたのですが、実際に発語するまでにはいろんな場面が浮かんで息を飲んで、ポンと出すという、コンマ何秒かのプロセスが絶対にあるわけじゃないですか。そのコンマ何秒はどんなことを考えて言っているのか、相手からどういうものをもらって、どういう過程があって、それで私が発語するのか、細かいことをやっているチームで、針の穴に糸を通すような作業ではあるんですけど」
--それは話で聞いていて理屈はわかるんですけど、実践するのは難しそう。
「すっごい大変なんですよ。大変だし、普段やってるお芝居とは全然別の作業になるので難しいんですけど、実は本当は商業演劇でもこういう技術を体得できたらいいなって思います。ベテランの役者さんたちって、きっとそういうことをやってらっしゃると思うんですよ。だからすごいんだって。私は器用なほうじゃないから、そんなに年月をかけてもできないかもしれないって思うんですけど、少しでもその年月を縮められたらと」
--その理論が実践できれば、セリフを言っている、嘘っぽさがなくなるかもしれないのかも。
「それはなくなるかもしれませんね。自分がそれをどこまで体得できるセンスがあるのか」
--自分自身もあるし、演出家の人の主観にもよるだろうし。でも自分のなかの違和感から始まったものが、今はその正体が見えつつあり…。
「なんだろう、なんだろうってずっと思って、あ、そういうことかも、今『かも』の段階なんですけどね、私が下手なのはこういうことなのかも」
--でもそこを意識するあまりに、動きに違和感が出るかもしれない?
「そうなんですよ、変になっちゃうんですよ。だから、まだ実践では使えないんですよ。考えるだけで。けど100通り考えて一個出せればいいなと。でもこれがアイデアの候補が3つしかなかったら1/3しか出せないけど、100個考えたうちならかなり精度は高くなるかなと思うんです。体得できてないので、本当変な間になっちゃうんですよね。まだやらないですけど」
--意識があるということだけでも違いますからね。
「頑張ります!」
舞台『君はどこにいるの』
2月11日(土・祝)~20日(月)東京・三越劇場、2月23日(木)~25日(土)大阪・新歌舞伎座で上演。
昭和39年、鎌倉。初老の作家・藤沢省二郎と一人娘のみこ。妻に先立たれた父と、学徒動員で身体壊し、腎臓摘出の手術を受けた娘。父親と悪口雑言を言い合いながら、胸のうちではお互いを思いやっている。そんな二人と、周りで支える人々の姿を描く。
〈プロフィール〉
渋谷飛鳥(しぶや・あすか)
生年月日:1988年7月13日
出身地:新潟県
2002年、「第8回全日本国民的美少女コンテスト』にてグランプリ、マルチメディア賞をW受賞したことをきっかけにデビュー。ドラマ『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)、『ハンチョウ~神南署安積班~』(TBS系)、映画『DEVILMAN デビルマン』『仮面ライダーダブル』、舞台『忠臣蔵-いのち燃ゆるとき-』、『菊次郎とさき』などに出演。
渋谷さんをはじめ、米倉涼子さん、上戸彩さん、武井咲さんらを輩出した『全日本国民的美少女コンテスト』が現在応募を受け付け中。詳しくは第15回全日本国民的美少女コンテスト
へ。

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