もっとオリンピックに夢もってもいい
んじゃない?と思った午後 『また明
日も観てくれるかな?〜So see you
again tomorrow, too?〜 』レポート
 【東京の片隅で、普通に、楽しく生
きていく#3】





最近よくある、「これから壊すビルをおしゃれなアートで飾りました!」というような雰囲気は微塵も感じられず、どこか緊張感が拭えないのは、主催が芸術集団Chim↑Pomだからだろうか。エントランスにて「解体されるビルなので、中で怪我をしても自己責任です」という内容の同意書にサインをしたあと、エレベータで4階へ。順路はビルの4階から始まり、作品を楽しみながら1階まで降りる流れだ。ではさっそく作品のいくつかをご紹介しよう。


眼前に立ち現れた"青写真"歌舞伎町商店街振興組合の事務所跡を丸ごとを青写真にしたインスタレーション。そのまんま、空間が青い。壁には感謝状や記念写真なども残されている。「青写真(=未来の構想)をかく」という慣用句のごとく、壁に残されたその痕跡たちは過去への懐古ではなく、これからの未来のために存在しているようだ。この建物の、この地の次の一頁がこの部屋から始まっていることを示すような清々しさを感じる。

青写真を描く version2

部屋の真ん中には1階まで突き抜けたきれいな正方形の穴があり、3階、2階、1階の様子が垣間見える。興味をそそられながら3階へと歩みを進める。



都市に生きる動物たち ネズミとカラス3階には、かつて雀荘であった空間が広がる。



まず部屋に入ると、そこには生きたねずみの"インスタレーション"が。



続く『SUPER RAT -Diorama Shinjuku-』は、新宿で捕獲したネズミを剥製(ピカチュウになっている)にしたアート作品だ。都市(新宿)で人間たちから受ける迫害にもめげず、その数を増やしながら街を我が物にしていくラットの様子は、どこかChim↑Pomの活動そのものようにも思える。

SUPER RAT -Diorama Shinjuku- 新宿の街のジオラマには歌舞伎町振興組合ビルもあった。

会場には、映像によるアート作品も展示されている。ネズミ同様、都市の中で進化を遂げてきたカラス。ネズミと異なるのは仲間意識の強さだろうか。本作品は、その仲間意識を利用したゲリラアクションとなっている。

Black Of Death


性欲電気変換装置エロキテル5号機

『性欲電気変換装置エロキテル5号』は、石油やガスではなく、エロを所望する不特定多数の成人男性からの着信電波によって電気が作られる装置。人の意思は波動となって物質化されたり、エネルギーとなることが実証されている昨今、この変換機には実用性が十分あるように思える。


IoTのこれからに思いを馳せる下町のパラドックス

こちらはお掃除ロボットが、ペイントと掃除を繰り返すという逆説と無限の行為をテーマにした作品。充電中のロボもいる。IoTが進んだら、充電中に「おい、オレだるいからお前さきやっとけよ」みたいな交信がロボット間でなされるのだろうか。思わず、そんな想像まで掻き立てられてしまう。


Scrap and Buildを表す『ビルバーガー』ビルバーガー



4階、3階、2階のフロアを切り取った天井や床のコンクリート(≒バンズ)、家具などの残置物(≒具)がそのまま1階でハンバーガーになった作品『ビルバーガー』。壊す事で作られる、「Scrap and Build」を表現しているそう。また、ファストフードのような大量生産・大量消費を、街や都市に重ねて想起させてくれる作品でもある。


今回の訪問に際し、Chim↑Pom卯城竜太氏がいくつかのインタビューに答えてくれた。

――このビルと出会ったきっかけを教えて下さい。

ビルの1階に「TOCAKOCAN」という歌舞伎町の文化や社会的なトーク番組を発信するスタジオがあるんですけど、それをやっていたのが、手塚マキ(※)さんという歌舞伎町の元有名ホストの方なんです。その彼がChim↑Pomメンバーのエリイのご主人だったっていうのが出会ったきっかけですね。

※歌舞伎町で4店舗のホストクラブを経営するグループの創業者。歌舞伎町を中心としたボランティア活動や社会活動家でもある。ビルの解体が決まった際、建て壊しまでの1年間限定で歌舞伎町のためになる事をやってくれないかと組合から依頼を受ける。建て壊し直前も、ホスト、キャバクラ、ゴールデン街、新宿縁のアーティスト、著名人等を集め、トーク番組を配信した。




――このビルの好きなところは?

このビルが完成したのが1964年の東京オリンピックの5ヶ月前なんですけど、それとこのビルだけじゃなく東京のあちこちで新たに「2020年のオリンピックまでに」ってスローガンのもとScrap and Buildされているっていう、時代背景と建物の歴史がループするところが面白いと思いました。それと、交番も雀荘も、トイレもセクシャルなバーも振興組合も、みんなこの同じ建物に入っていたんです。このビル自体が歌舞伎町を象徴しているような点に興味をそそられましたね。あとは、歌舞伎町商店街振興組合です。歌舞伎町っていろんな商売や人がいて、でも組合はそれを善悪で判断をしない。物事を善悪だけで捉えない立場の組合自体の存在もいいなと思いました。

――今回の展覧会で伝えたいことはなんでしょうか。

このビルが建った1964年頃って戦後からの復興で、グラウンド0の状態からインフラを整えていい街を作って行こうとか、オリンピックやって人を呼ぼう、景気を良くしてこう、とか前向きな雰囲気がちゃんとみんなの中にあったと思うんですよね。一方、2020年のオリンピックって、20世紀の夢の再生産のような面もある。当時の人たちがゼロから描きだした夢をもう一度見ようっていう。けど、僕たちは全員21世紀の住人ですよね。20世紀の夢しか見れないんだとしたら、「21世紀のアイデンティティって一体何なんだろう?」とは思います。​



今回の作品は会期終了後にも撤去されず、ほぼ「全壊する展覧会」 としてビルの建て壊しに伴って破壊されるという。その後、それらの残骸に、同じく建て壊し物件である渋谷PARCOのネオンサインなどが加わって再構築される予定だ。その再構築作業の結果うまれる作品は「プロジェクト第2弾」として、来年初頭に個展でお披露目されるとのこと。『明日も観てくれるかな?〜So see you again tomorrow, too?〜』は、今後も終わることなくScrap and Buildされていくのである。

イベント情報明日も観てくれるかな?〜So see you againtomorrow, too?〜

日時:2016年10月15日〜2016年10月31日
会場:歌舞伎町振興組合ビル 東京都新宿区歌舞伎町1-19-3
主催:Chim↑Pom
イベント公式サイト:http://chimpomparty.com/

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