星野源が『恋』で「一人を超えてゆけ
」と歌うのは何か

この曲の歌いだしです。「カラスと人々の群れ」というフレーズが登場。「カラスが鳴くから帰ろう」という言葉があるように、ここでの「カラス」は夕方、家へ帰る象徴。人々が家に帰る様子を「風たちは運ぶわ」と表現しています。

「いとなみの」「いみなんか」で音をそろえ、「暮れたら」「暮らしが」も絶妙にそろえているところが良いですね。「暮らし」は、もともと「日が暮れるまで色々やること」の意味。音も意味も揃えて、リズムを作っています。この曲のリズムの良さは、こういうちょっとしたところにも表れています。



2番では、このように歌詞が変化します。「みにくい」と「白鳥」は、童話『みにくいあひるの子』にかけていることが分かりますね。『みにくいあひるの子』は、醜いと思われていたあひるの子供が、実は美しい白鳥だったという物語。この童話のように、自身を醜いと思っている人も、白鳥のような美しさを秘めているという歌詞。ここで、1番で登場した「カラス」も「みにくいあひるの子」と同様に、疎まれる者の象徴の意味も持っていたことが分かります。この曲は底抜けに明るいにも関わらず、実はこうした暗い弱者にも向けられているのです。



ここで「虚構」という言葉が登場。恋をする対象は似た顔同士でも虚構でもいいと歌っているのです。さらに、直後に「愛」という単語が登場します。『恋』という曲の中で、何度も「恋」のフレーズが出てきますが、「愛」が出てくるのはこの箇所だけ。何かを愛でる、愛情というのは「一人」の人間が持っているものなのだと言っています。「二人から」というフレーズをわざわざ「一人から」と言い換えている構成。



この曲の象徴的なフレーズ「夫婦を超えてゆけ」。サビのラストで出てくるこのフレーズは、夫婦というあり方すらも超えてゆけ、それが「恋」だという意味が込められています。ドラマ『逃げ恥』で描かれるのは「契約結婚」。いわゆる恋愛結婚やお見合い結婚とも異なる、仕事としての結婚が描かれます。一般的にイメージされる夫婦関係とは異なる関係。「夫婦を超えてゆけ」という歌詞は、こうしたドラマの内容に沿っているフレーズ。

そして、この曲は終盤で「二人を超えてゆけ」が入り、最終的に「一人を超えてゆけ」として終わります。実は「一人」という概念を強調している曲。恋する対象はなんでもいい。夫婦でなくても男女でなくても虚構でもいい。恋の本質とは「一人を超える力」である。そういうことを歌っているのです。

この曲が多くの人に好かれるのは、ダンスが可愛いから、アレンジが明るいからだけではありません。「一人」という孤独感、「みにくい」という劣等感を持ちつつも、それを超える力を一人の人間が持っていると歌っているからです。不登校を経験した青春時代に、音楽に「恋」した星野源だからこそ、生まれた曲なんですね。



TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)

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