プライマル・スクリームに人生を変え
られたライターが来日公演で"Come T
ogether"してきたレポ



わりと日本に来てくれるバンドでもあり、今年の3月には新作『Chaosmosis』のリリースがあったため、フジロックあたりに来ないかな?と密かに期待していたものの敢えなくお預けをくらい、このタイミングで東阪ツアーという形で実現した3年ぶりの来日。やはり僕と同じように首を長くして彼らの来日を心待ちにしていたファンは多かったようで、ライブハウス規模の公演ということもあり会場はギッシリ埋まっている。

オープニングアクトを務めたのは、にせんねんもんだいだ。プライマルの露払いに相応しく、尖りまくった彼女たち。強いてジャンルでいえばノイズミュージックに分類されるインストなのだが、解りやすい起承転結はほぼなく延々とループするサウンドで、フロアをディープな領域へと引きずり込んでいった。持ち時間30分で演奏したのはたった2曲。13分と15分、MC無し。ひたすら16分で刻み続けるドラムとベース、ほとんどリフやフレーズを弾かないギターという構成は、初見のオーディエンスには驚きを持って迎えられたに違いない。それと同時に、なんとも説明のつかない高揚感を味わってしまった人も相当数いたのではないだろうか。

プライマル・スクリーム 撮影=Mitch Ikeda



さて、お待ちかねのプライマル・スクリームの登場だ。暗転するや湧き上がった歓声のボリュームが、会場にたちこめる期待と興奮の度合いを如実に示している。いつものように体幹の存在をあまり感じさせないユラユラとした振る舞いで歩み出てきたボビーは前列のファンと握手、ハイタッチ。今日は上下赤のスーツでまとめており、近くの女性ファンがしきりに「赤いよ!」「赤だよ!」と興奮している。わざわざ口に出すまでもなく誰がどう見ても赤なんだけれど、それを思わず口にしてしまう気持ちはよくわかる。超似合うのだ。上下赤いだけでなくエリが妙に大きいし、ボトムスもベルボトムのような形状だったりするこれを着こなせる彼はちょっとおかしい。常人なら手品師か漫才師のテイストになって終了だ。

そんなボビーに見入っているうちに鳴らされたオープニングナンバーは「Movin’ On Up」! コーラス部では客席にマイクを向けたりと冒頭から一体感をもってライブは進んでいく。wikipediaに表が作られてしまうほどメンバーの出入りが多いプライマル・スクリームだが、今回の来日メンバーはボビー、アンドリュー・イネス(G)、マーティン・ダフィ(Key)という初期からの面々に、ダリン・ムーニー(Dr)、紅一点のシモーヌ・バトラー(B)という5人。ここ最近は海外でもこの編成だったようなのだが、ギターが1本に減ったことによる音の物足りなさはあまり感じなかった。アンドリューは「俺が2人分弾いてやろう」的なアプローチをするというよりむしろ、「うまいことツボを押さえて弾いておこう」くらいの感じに見えるのだが、そこはやはり他メンバーも含めた円熟の業なのか、盛り上がる箇所ではちゃんと音の厚みが保持されている。ボビーは「アリガトウ」「Come on Tokyo!」など頻繁にフロアに声をかけていて、なかなか上機嫌なご様子。

この日のセットリストに関しては、思ったよりも最新作『Chaosmosis』からの楽曲が控えめで、そのぶん代表曲を網羅した構成だ。過去作品も一枚ごとに大きく雰囲気が異なっているプライマルだが、最新作からの楽曲も含めいずれもこの日集まったオーディエンスにはしっかり浸透している。作品ごとでいうと『Screamadelica』(’91)から4曲、『Give out But Don't Give Up』(’94)から3曲、『XTRMNTR』(’00)から3曲、『Riot City Blues』(’06)から1曲、そして『Chaosmosis』(’16)からは4曲だから、実に半数近くが20年以上前の曲なのだけれど、長いキャリアをもつバンドとしては理想的な「これが聴きたい」がちゃんと入った構成になっていたし、実際どの曲のイントロでも喜びの声があがっていた。近年、『Screamadelica』の再現ライブを行ったり、『More Light』以降のアルバムが原点回帰した雰囲気であることからみても、最近の彼らはバンドとして過去の作品と自分たちを肯定するモードに入っているようだし、音楽シーン全体が80〜90’sリヴァイバルムードの流れにある2016年に観るプライマル・スクリームのセットリストとしては、非常に納得がいくものであった。

プライマル・スクリーム 撮影=Mitch Ikeda



それに最新作からの楽曲、例えば「(Feeling Like a) Demon Again」でのドリーミーなシンセサウンドが生み出す浮遊感とそれをぶった切る鋭いギターサウンドであったり、プライマルの常として原曲よりアグレッシヴなライブ仕様と化した「Tripp'in On Your Love」、勇ましいドラムが牽引する「100% Or Nothing」でチョイスされる各パートの音色やアレンジなどは、充分に“今”を感じさせるものであった。とはいっても(これまでもそうだったが)流行りものをそのまま借りてくるのではなく、「これ良いんじゃね?」というポイントをあくまでも彼らなりに消化・吸収した上で良い塩梅にアプローチしてくれるから、いずれの曲も彼ら特有の気だるさや危なさといった空気をちゃんとまとっていて、観る者に違和感も感じさせないのだ。良い意味でミーハーであり、きっとこの拝借センスの良さが、プライマル・スクリームを稀代の「カメレオン・バンド」たらしめてきたものだろう。ちなみに最新アルバムからのもう1曲、「Where the Light Gets in」は原曲がスカイ・フェレイラとのデュエットなのでどう再現されるのかな?と思っていたら、この日は基本的にボビーが一人で歌い、掛け合いの箇所はシモーヌが歌っていた。つまり現有戦力でなんとかした格好なのだが、6人編成+コーラス隊+ゲストみたいなことも少なくないプライマルのステージにおいては、かえってシンプルなバンド感が出ていてちょっと新鮮だ。

その一方、ザ・ロックンロールといった佇まいの「Jailbird」からの硬質なデジタルパンクロック「Accelerator」への流れや、アンドリューがギターを銃のように構えてフロアを撃ち抜きボビーがエコーのかかった「S.S.K.L」のシャウトでトリップ感を誘発した「Shoot Speed/Kill Light」、「We love you, Tokyo」という甘い囁きからあたたかなギターとピアノが紡いだバラード「(I'm Gonna) Cry Myself Blind」など、長く演奏されてきたレパートリーの浸透力も、やっぱりたまらない。いつものごとくライブ仕様な感じでフワフワと歌っていたボビーだったが、「(I'm Gonna) Cry Myself Blind」ではかなり正確にしっとりと歌いあげてくれて、高音部も伸びやか。それで調子が出たのか、後半に向かうに連れてどんどん歌の力が増していった印象もあった。

彼らのサイケデリックな面を象徴したのは「Higher Than The Sun」。この曲のサビに相当する部分は間奏だと思っているのだが、そこで一気に開けることで味わうカタルシスは自然と身体を揺さぶってくる。逆に攻撃的な一面をみせつけたのは「Swastika Eyes」。赤色灯とサイレンが場内をめぐる中を16ビートのサウンドが疾走し、オーディエンスも一斉に飛び跳ねて応えていた。そして満を持して投下された「Loaded」は、この日最大級の歓声で迎えられた。淡々とループするドラムに弾むピアノ、有機的に動くベースライン、ロック成分を担う歪んだギターが一体となって生み出す音の波は、ゆったりと、しかし確実に、会場全体を快楽で包んで支配していく。本編ラストは、畳み掛けるように「Country Girl」と「Rocks」を並べ、ステージ前のあたりはほぼモッシュ状態というフィジカルなフィニッシュ。筆者含め、結構ファンの平均年齢高め(30代以上?)なはずなのだが……まぁ、ステージ上の50代がこれだけ魅力的なのだから、無理もない。

プライマル・スクリーム 撮影=Mitch Ikeda



アンコールは1曲のみだったが、長尺の「Come Together」をじっくりたっぷり演奏してくれた。この日何度もしていたように、最前列まで進み出てかがみながら握手をしたり、投げキッスをしたりといちいちサマになるボビー。歌詞とは別のタイミングにも「Come Together」と何度も口にしていたが、言葉通り大きな一体感でフロアを満たし、出てきた時と同じくユラユラと去っていった。

15曲、1時間半ほど。時間的なボリュームとしては腹八分だけれど、セットリスト的にも、内容の面、パフォーマンスの面もしっかり満足のいく来日公演であった。強いて言えば、「Medication」あたりが聴けたらより最高だったくらい。個人的には。で、最後に。観終わってからずっと考えていたことが一つある。それは、「これ、若いロックファンや初見の人が観たらどうなるんだろう?」ということだ。僕もデビューからリアルタイムで追えていた世代ではないものの『XTRMNTR』期から入って、今より数倍危険で尖ったプライマルを観てきている。マニ(ストーン・ローゼス)やケヴィン・シールズ(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)が参加していた頃も知っている。その頃のイメージと憧れが混じってしまってはいないか? 今のプライマル・スクリームを正確に語れるのか?

……検討の結果は、それでも「観てほしい」だ。新作が出るたびに全く違う方向性に向かっていた頃のアブなさこそ薄れたが、時代性や批評性を内包したサウンドの魅力は健在。見た目も含むカリスマ性も同様だ。それに、この日もそうであったように過去の名曲と新曲たちが違和感なく並び、どちらも歓迎される現状って、とても良い時期を迎えているといえるのではないだろうか。ボブ・ディランやストーンズが来日したら観に行く!という人はたくさんいると思うが、それはレジェンド枠であって新作への期待ではないと思う。それに比べて今のプライマルは、成熟した状態で過去の名曲たちを鳴らしながら新曲でも沸かせ、さらに「次作はどんな内容だろう?」と期待をかけるに足る、それに応えてくれる時期であり、存在であると思うのだ。

UK系のロックが好き、その中でもオルタナ寄りのものが好き、エレクトロと融合したものが好き……そんな人の中にまだプライマル・スクリームというバンドをスルーしている人がいたとしたらやっぱり知ってほしいなと、この日のライブを観た上でやっぱり思う。いますごいことになっている[Alexandros]とかにも多大な影響を与えている存在だし。注意点としては、アルバム1枚だけで判断しないこと(作品ごとにカラーが違いすぎます)。幸い、動画サイトとかストリーミングの発達した時代なので、まずは色々と聴いてみてほしい。このレポをここまで読んでいるということは、きっとハマる素質はあるので。

取材・文=風間大洋 撮影=Mitch Ikeda

プライマル・スクリーム 撮影=Mitch Ikeda



セットリストJAPAN TOUR 2016 2016.10.20 新木場STUDIO COAST1. Movin on up
2. Where the Light Gets in
3. Jailbird
4. Accelerator
5. (Feeling Like a) Demon Again
6. Shoot Speed/Kill Light
7. (I'm Gonna) Cry Myself Blind
8. Higher Than The Sun
9. Tripp'in On Your Love
10. 100% Or Nothing
11. Swastika Eyes
12. Loaded
13. Country Girl
14. Rocks
[ENCORE]
15. Come Together
作品情報アルバム『CHAOSMOSIS』/ カオスモシス『カオスモシス』

発売中品番:SICX39
価格:¥2,400+税
仕様:初回紙ジャケット仕様 / 日本盤ボーナス・トラック1曲収録 / 歌詞・対訳・解説付
発売日:2016年3月16日(水)日本先行発売
収録曲:
1. Trippin’ On Your Love / トリッピン・オン・ユア・ラヴ
2. (Feeling Like A) Demon Again /(フィーリング・ライク・ア)ディーモン・アゲイン
3. I Can Change / アイ・キャン・チェンジ
4. 100% Or Nothing / ワン・ハンドレッド・パーセント・オア・ナッシング
5. Private Wars / プライヴェート・ウォーズ
6. Where The Light Gets In / ホエア・ザ・ライト・ゲッツ・イン
7. When The Blackout Meets The Fallout / ホエン・ザ・ブラックアウト・ミーツ・ザ・フォールアウト
8. Canival OF Fools / カーニヴァル・オブ・フールズ
9. Golden Rope / ゴールデン・ロープ
10. Autumn In Paradise / オータム・イン・パラダイス
11. Where The Light Gets In (U-Bahn zum Hansaplatz Remix)* / ホエア・ザ・ライト・ゲッツ・イン(U-Bahn zum Hansaplatz Remix)
*日本盤CDのみのボーナス・トラック収録

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