『HANABI』に見る、いきものがかりと
アニメ主題歌の親和性

実際、オリコン初登場5位という彼らにとって初めてのチャートTOP10入りを果たしたのが1年目にリリースした2ndシングル『HANABI』。テレビアニメ「BLEACH」7期EDテーマであり、いきものがかりにとって初めてのアニメタイアップとなった曲である。

2006年当時平日の19時台というゴールデンタイムに放送されていたアニメBLEACHの主題歌は、その多くがチャート上位に入ることが多く、このタイアップをきっかけにブレイクしたアーティストも少なくなかった。いきものがかりも例外ではないだろう。
しかし勿論、アニメ主題歌でのヒットとは作品との親和性があってのこと。『HANABI』そしていきものがかりは、しっかりとそこに響きあっていたのである。



「BLEACH」は週刊少年ジャンプに連載されている少年漫画だが、ヒロインを含め多くの魅力的な女性キャラクターも登場する。アニメのEDでは比較的ヒロインなどが描かれることが少なくなかったが、『HANABI』と共に流れていたEDアニメーションにはそれまでと比べて最も多く女性のメインキャラクターが描かれた。

『HANABI』という曲名どおり、アニメーション上でも花火が打ち上がって花ひらく様子と共に主要なキャラクター達が順番に描かれるのだが、そのうち男性が六名なのに対し、女性はなんと十三名も登場。そして、曲の最後“此の花 燃えゆく”という部分ではその十三名が野原で円形に並び寝転んでいるシーンで終わっている。

打ち上がる花火になぞらえたような円形に並ぶ十三名の女性キャラクター達はまさに“華”といえるだろう。『HANABI』は少年漫画作品のタイアップでありながら、女性をメインに描いたEDだったのだ。しかもメインヒロインだけではなく、十三名もの主要女性キャラを使って。

それが何故なのかというのは、そのアニメーションと歌詞に表されている。




当然ながらアニメ版では短縮されるためすべての歌詞が放送上使用されているわけではないが、一番から描かれているのは“ふたひら”や“あなたも”という「ふたり」を示す言葉だ。これを遠距離恋愛の詞のように喩えるのは容易だが、アニメーションを見ればこの「ふたり」が必ずしも「男女」のペアとは限らないということが想像できる。




終盤のサビ部分でも、“双片”ふたひらと書いて“ふたり”と読むフレーズがある。そしてその手前には“君我”(きみわたし)。花火自体は二つで一組となるようなモチーフではないが、この曲の登場人物は“きみ”と“わたし”という「ふたり」なのが分かる。それは例えば戦友・親友であったり、上司と部下であったり、師弟であったり、勿論恋人でもあったりするだろう。“愛しき”という表現は恋愛だけに適用される言葉ではなく、それが同性や異性間での信頼関係でも成り立つものである。

「BLEACH」は人間が暮らす現世と、人の魂を導く死神という存在が住む異なる世界との交流を描いている。“彼方に旅立つ”“離れても”“いつの日か めぐり逢えて”などの一見遠距離恋愛を想起させるフレーズも、人間の主人公と出逢った死神の女性が、彼女の世界で共に戦った彼に対し戦友としての想いを抱き、再び現世へと戻った主人公を友として遠い世界から想う様子へとリンクするのだ。“煌いて 揺らめいて”空へ舞い上がってゆく“蒼き夢”という花火の様子も、作品と重ね合わせてゆくと、まるで霊魂が煌めきながら天へ昇ってゆく情景に感じられる。



花火としての様子を描きながらもあえて意図的にここや曲名に『HANABI』と書き表しているのは、それが単純に火薬が弾ける光の花というだけではなく、夜空に昇ってゆく本来なら形さえ持たない儚い魂を重ねるためなのかもしれない。



いつかは尽きるという刹那的な魂の煌めきを表すとともに、作品を彩る戦う強き女性たちを華として、その生き様を輝き燃えるという花火に喩えている。
これらは、アニメーションと共に見なければ感じることができない世界観であり、そうしたリンクを感じられることは何より主題歌というタイアップとしての成功ともいえるのだ。

花火というモチーフの持つ儚さや光の強い輝きを使い、アップテンポにも関わらずどこか儚げな曲調そして歌詞で女性の強さと弱さを表現しつつ、何より曲の根幹を支えるボーカル吉岡聖恵の力強い芯の通った歌声は、放つ言葉に説得力と感情の色を豊かに乗せる力を持っている。アニメ主題歌のように真っ直ぐだけれど深いメッセージ性をしっかりと伝えられるということこそが、いきものがかりが多くの人に愛されてきた理由だろう。これからもその生命力溢れる歌で、沢山の人に様々な感情を届けてほしい。


TEXT:祈焔( https://twitter.com/kien_inori )

アーティスト

UtaTen

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