L→R かめがいあやこ(Key&Vo)、かわむら(Dr)

L→R かめがいあやこ(Key&Vo)、かわむら(Dr)

【ポップしなないで インタビュー】
自分たちと音楽の関係性における
根源的なものを噓なく伝えられる一枚

躍動感を湛えた華やかなサウンドとイマジネーション豊かな歌詞で、独自の世界を構築するポップしなないで。最新アルバム『DOKI』はより音楽性の幅を広げるとともに深化を遂げていて、同作を機にさらなるスケールアップを果たすことを予感させる。かめがいあやこ(Key&Vo)とかわむら(Dr)を招いて、そんな『DOKI』のプロダクトや独自のアプローチなどについて語ってもらった。

前向きにせよ、後ろ向きにせよ、
胸を掴まれる音楽が好きだと気づいた

新しいアルバムの制作に入る前は、どんなことを考えていましたか?

かわむら
自分たちはアルバムを作るとなった時に、“こういうアルバムを作ろう”と考えたりせずに制作を始めていくんですけど、今回は作っていく中でひとつ見つかったものがありました。音楽を演奏したり聴いたりした時に胸が高鳴ることが、自分たちに共通している音楽の一番好きな要素だと思ったんです。ひとつ前の『戦略的存在』(2023年2月発表)は“メジャー1stアルバム”という言葉のせいかもしれませんが、“ちょっと腹を括って音楽をやろう”という意識のもとに作ったアルバムだったんですね。それが発売されたあと、“そもそも自分たちが音楽をやっていく上で大切にしないといけないことって何だろう?”だったり、“自分たちはなぜ音楽が好きなのかな?”と考えた時に、前向きにせよ、後ろ向きにせよ、胸を掴まれる音楽が好きだと気づいたんです。それで、今回の『DOKI』はサウンドの刺激だったり、言葉の選び方だったりを大事にして作りました。自分たちと音楽の関係性における根源的なものを噓なく伝えられるようなアルバムができたんじゃないかと思っています。
かめがい
『DOKI』のコンセプトに関しては、かわむらくんが言ってくれたとおりです。自分たちが聴いた時に何かを感じたり、聴いてくれた方に何かを感じてもらったりというところが音楽でできるコミュニケーションだと思うので、今回は改めてそこに立ち返れましたね。新しい曲たちを見た時に、それを大切にして作った曲たちだなと感じました。

実際『DOKI』は心が動く瞬間が散りばめられていますし、幅広い楽曲やイマジネーション豊かな言葉でさまざまな感情を突いてくることも魅力です。では、それぞれ今作の中で特に印象の強い楽曲を挙げるとしたら?

かめがい
『DOKI』の曲は全部好きですけど、強いて言うと「そらをとばない」になりますね。今までのポップしなないでにはあまり多くなかった曲調で、とても大切な曲になったと思っています。この曲は何かを抱きしめて歌うようなイメージを持ちながら最初から最後まで歌いました。それは誰か人かもしれないし、自分の大切なものかもしれないけど、自分に大切なものがあって初めて歌える歌だというのが私の中でとても強かったんです。なので、歌っていると自分が持っている大切なものとか、自分にとって大切な人とかを存分に思わせてくれる曲なので、聴いてくれるみなさんにもそれを感じてもらえるといいなと思いながら歌いました。
かわむら
サウンド面の話をすると、この曲はダブとか日本の音頭的なドンチャカ・ドンチャカという感じのリズムを活かしました。いわゆる近代的なダンスではなくて、踊るのに慣れていない人たちが火を囲んでグルグル回っているみたいな。そういったものはすごく大事な感覚だと思っていて、ちょっと話が逸れてしまいますが、自分たちは“踊る”“踊ってもらう”“踊らせる”といったことを大事にしていて。踊るというのはすごくポジティブなことだけど、ちゃんと“自分たちはライヴや音源で、果たしてみんなを均等に湧かせて、踊らせたいのか?”ということに考えを巡らせていないといけないと思っていたんです。“踊れ!”と言って踊らせるよりは、もっと心から身体を動かせないといけないだろうし、身体が動いていなくても心が動いてほしいなと。そういったところで、ポップしなないではサウンド的に踊れる曲はいっぱいありますが、この「そらをとばない」という曲は“湧き上がる踊り”みたいなものを想起させられるといいなと思って作りました。

レゲェテイストを活かした前半からシャッフルビートに変わるアレンジの妙も含めて、ライヴでいい雰囲気で盛り上がると思います。歌詞は故郷に残してきた恋人のことやふたりの思い出などが描かれていますね。

かわむら
人間いろんな人がいれども、全ての人が旅の途中みたいな表現があるじゃないですか。ミュージシャンというのは自分たちのことをヒロイックに表現しがちというか、夢の途中だとか言いますが、僕はもっと大きなところで人間全員が旅をして、得られるか得られないか分からないもののために進んでいる気がするんです。そして、その旅というのは必ずしも有意義じゃなくてもいいんじゃないかと感じていて。旅をしていることそのものを肯定できれば自分の人生を楽しめるし、他の人の人生もリスペクトできるようになると思って作ったのが「そらをとばない」です。

では、かわむらさんの中で印象の強い曲は?

かわむら
僕は1曲目の「魔王様」です。今回のアルバムが出るタイミングとか自分たちの活動、“DOKI”というタイトルといったいろいろなことを関連づけた時に、この曲ができたのは必然というか。この曲ができたことによって、この曲を1曲目にすることに納得ができたイメージが強くて。この曲はすごく大切なことを考えていながら、言い方は良くないけど、“どうでもいい”という気持ちがとても大きいんです。大切に大切につけたモチーフというよりは、どこか投げやりにつけた“魔王様”というタイトルと曲の中の言葉遣いだったりが、自分の大事なものをうまく投げ出してくれているような気がして、すごく好きな曲です。
かめがい
「魔王様」は“よく分からないけど、君と一緒にいたいんだ”みたいな曲かなと思っていまして。結局はそれが詰まっている曲だと思うんですね。聴くと楽しい気持ちになるとか、聴き応えがあるとか、サウンドがどうとかいろいろあると思いますけど、私は人間らしい部分がすごくあると感じながら歌いました。人間らしいということが自分たちの音楽のすごく大事な部分だと思うし、私が好きな部分だったりもするので、そういう意味でもすごくポップしなないでらしい曲だと思います。もちろんサウンド的にも面白いものにできたと思っていますし、かわむらくんが言ってくれたとおり、1曲目にとても相応しい曲になったと感じています。

確かに、「魔王様」は今のポップしなないでを象徴するような楽曲だと思います。ファンタジーと現実がない交ぜになっているような歌詞もそうですし、ポップしなないでならではのこだわりを感じさせるリズムアレンジも活かされていますし。

かわむら
リズムに関しては自分たちは“しっかりポップな曲を!”とは思っていますが、自分のベースとなる音楽がいわゆるオルタナとハウスミュージックというところで、ライヴの出囃子にBeastie Boysとかを使うことが多いし、自分の好きなバンドがPixiesだったりするんです。そういうところで、リズムがオルタナティブであるべきだとは思っていて、それが音像的に相応しくなかったりしても、どこか自分の中のリズムに対するアプローチがポップスになりきるというよりはオルタナティブというか、そのままスッと胸に入ってくるようなものではないリズムにするということは意識しています。

リズムアプローチの素晴らしさは、『DOKI』の聴きどころのひとつになっています。それに、「魔王様」はかめがいさんならではの早口で言葉が詰まったヴォーカルも聴き逃せないです。

かめがい
「魔王様」のAメロとかはずっとシャッフルのリズムみたいな歌が続いていって、その中で3連が出てきたり、普通に戻ったりしているんです。だから、確かにややこしいとは思いますけど、ポップしなないでは早口の曲が多いから違和感はなくて、むしろやり甲斐があるというか。普通に慣れたら歌えると思います(笑)。

いえいえ、誰しもがかめがいさんのように歌えるということはないです。早口で歌えるということと、それを心地良く聴かせられるというのは別物ですよ。

かめがい
そう言われると、そうですけど。でも、いっぱい練習したら、きっとみんな歌えるようになると思います。きっと私は鍛えられたんだと思います(笑)。

鍛えられたということは、歌メロや歌の符割りなどはかわむらさんの指定なのでしょうか?

かめがい
そうです。基本的に、かわむらくんが考えてくれています。でも、私が昔、自分で作っていた曲とかも言葉は詰まっていることが多かったですね。先に歌詞を全部書いていたので、入りきらなかったらギュッと詰めてしゃべればいいみたいな曲の作り方をしていたんです(笑)。私は歌はしゃべりの延長だと思っているので、歌の途中でしゃべったりするのも抵抗なくやれるようになっていきました。

言葉が詰まっていながら刺々しかったり、ビシビシしていなくて柔らかみのあるかめがいさんのヴォーカルやラップは、本当に魅力的です。

かめがい
かわむらくんがドラムを叩いてくれているので、とにかくそれを信頼して私はあまり縦を意識しすぎず、横を意識して歌うようにしています。流れとかのほうが大事だと思うので。
かわむら
確かに韻を踏みたくて踏んでいるところはありますが、我々は基本的に節を大事にしているんです。なので、縦でバッツン・バッツンというリズムの気持ち良さというよりは、文章とリズムというところで気持ち良くなるように頑張っています。
L→R かめがいあやこ(Key&Vo)、かわむら(Dr)
アルバム『DOKI』

OKMusic編集部

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