人気の手ぬぐいブランド「にじゆら」
が『モネ 連作の情景』とコラボ、商
品誕生の原点は「モネが中之島で絵を
描いていたら」のユニークな発想

工場(こうば)へ案内してもらうと、独特の磯の香りが漂ってくる。「川」と呼ばれる大きな洗い場の水っけもあってか、冬の冷たい空気がより引き締まって感じる。
大阪市内、京都、神戸、東京に専門店を構える手ぬぐいのブランド、注染手ぬぐいにじゆら。大阪・堺市内にあるこの工場では、各店舗で販売する商品の企画・開発から制作まですべての工程を担っている。案内をしてくれたのは、結婚を機に義父が経営していたナカニへ入社し、その後、代表取締役社長に就任した中尾弘基社長だ。
「2024年で創業58年を迎え、私は3代目。先代で現会長が15年前に、にじゆらというブランドを立ち上げました。それ以外は下請けの工場として動かしています」
にじゆらの手ぬぐいは、注染(ちゅうせん)という手法で作られている。防染糊(ぼうせんのり)という特殊な糊を作り、染め台の上に置かれた生地の絵柄の線に沿って防染糊を絞って乗せていく。見方によってはケーキの土台をクリームで装飾しているようでもある。工場に広がる磯の香りは、この防染糊の原料の一つに海藻が含まれているからだ。
そうやって防染糊で囲いを作る「土手」の作業のあと、囲いのなかに染料を注入。さらに職人は足元にあるペダルを踏み、染め台に仕込まれているポンプを作動させて染料を吸い取る。そうやって生地に色を染み込ませていく。表、裏で2度染色し、水洗いなどをおこなって脱水、干すまでが注染の工程となっている。
にじゆらの手ぬぐいの人気の秘訣「らしからぬデザイン」
中尾弘基社長
注染で仕上げたにじゆらの手ぬぐいは、幅広い世代に人気だ。2009年4月、大阪・中崎町に1号店(現在は空堀へ移転)を出した際にテレビ番組で紹介されると、店の外まで商品を求める長い列ができあがった。
手ぬぐい業界の中でも早いタイミングでSNS展開に取り組み、コロナ中は特にInstagramに力を入れたことにより認知度を広げた。現在では、Instagram Liveなどの配信もおこない、さらなるブランド認知や商品PRにつなげていっている。
にじゆらの手ぬぐいの人気の秘訣は、「手ぬぐいらしからぬデザイン」だという。中尾社長は「手ぬぐいの従来のイメージは、青海波、豆絞り、小紋柄などの和柄。色はくすんでいて、紺色、緑色など一色系が多い。ただうちはカラフルでモダン。あと、これはにじゆらのブランド名にも由来している特徴ですが、にじみ、ゆらぎを出しています。染めものや浴衣は本来、にじみはNGとされていました。「にじんでいます」というとそれは失敗だと言われ続けていたんです。でも注染の良さはそのにじみ。それをふんだんにデザインに取り入れようということで、ブランド名もにじゆらにしました」
『モネ 連作の情景』とのコラボ手ぬぐいを企画「モネのパーソナルなところも調べました」
そんなにじゆらと、2024年2月10日(土)から5月6日(月・休)まで大阪中之島美術館にて開催される『モネ 連作の情景』のコラボレーションが実現した。
「ジヴェルニーの積みわら」(1884年)、「唾蓮」(1897年-1898年頃)などで知られる画家、クロード・モネの作品が来日する同展覧会の数量限定チケットに、モネをイメージして作られたにじゆらの手ぬぐいが2枚セットでついてくる。『モネ 連作の情景』とのコラボ手ぬぐいの企画を担当したのは、同社のブランドマネージャーをつとめる久間文美さん。モネの絵をそのまま手ぬぐいに描くことはできないため、久間マネージャーが絵柄などをイチから考えたという。
久間文美ブランドマネージャー
「私自身、一般的なモネの知識しか持っていなかったので、まず「積みわら」の作品を一通り見ました。さらにオリジナル性のあるデザインを考えるためにモネのパーソナルなところを調べました。そうしたら、モネが日本贔屓なところ、奥様に着物を着せたり扇子を持たせたりして、そういう絵画も残していていることなどを知りました。また晩年、モネは庭いじりをしていたそうで、池にかかっている橋も日本の太鼓橋を参考にしているんです。そういったところからインスピレーションを受けました」
「このコラボ手ぬぐいはかなり難しい企画、デザイン」
さらに久間さんは、「コラボ手ぬぐいは2枚セット。1枚はモネが好きな人たちに喜んでいただけるもの、そしてもう1枚は大阪にちなんだものを作ろう、と。モネの晩年は、大阪では(大阪中之島美術館の近隣にある)大阪市中央公会堂などができた大大阪時代と重なるんです。その点に興味を持ち、「じゃあ、モネが中之島のあたりで絵を描いていたらどんな光景になるだろう」と想像して、企画を固めていきました。あと、モネは同じ場所を何度も描いているんです。同じ場所だけど、光の当たり方、季節などによって風景が変わって見えることを伝えています。だから「睡蓮」もシリーズとして作品がたくさんあるんです。そういったモネの考え方は、注染特有のぼかしから生まれる絵柄とうまく組み合わさる気がしたんです」と説明した。
ただ、中尾社長は「このコラボ手ぬぐいはかなり難しい企画、デザインでした」と苦笑いする。というのも、使われる色の数も10色以上とふんだんで、さらに絵柄も複雑になっており、なおかつ情報量も多いからだ。「もしデザイン会社からこういう案があがってきたら、染める工場としては「これは難しいです」とお断りすると思います」と難易度の高さを口にする。
それでも「うちは企画、デザイン、制作まですべてを社内で完結でき、職人ともちゃんと話し合いながらやっていけます。デザイナーも注染専門。今回のコラボ手ぬぐいもそうですが、そういったチームでやっているので注染の良さの限界まで引き出しながら手ぬぐいを作ることができます。今回のコラボ手拭いは難しい柄なのでB品(売りものにならない品)が多く出る可能性もあります。でも、それだけすごくこだわって作っています」と完成度に自信を見せた。
生地を干す工程は壮観の一言!
インタビューの後、中尾社長、久間さんの後を追って再び工場へ。ちょうど職人が「土手」を作って、型に染料を注入しているところだった。久間さんが「どんな感じですか?」と尋ねると、「難しいけど、これまでで一番大変というわけではないので大丈夫かな」と頼もしい返事が返ってきた。
カラフルに色づいた生地は「川」へ運ばれ、ざぶん、ざぶんと音を立てながら「土手」などが落とされていく。「川」から引き上げられた生地は脱水にかけられ、乾燥室へ。2階建ての家屋ほどの大きさがある乾燥室は吹き抜けになっている。職人は、天井付近の梁まで登る。長い、長い生地をその高さまで吊し上げていき、職人は上でそれを受け取って生地を広げて干す。久間さんは「うん、きれいに染まっています」と嬉しそうな表情を浮かべた。
中尾社長は「この手ぬぐいで、大阪のエリアのこと、そしてモネのことを理解してもらえると思います。唯一無二のものです」と、コラボ手ぬぐいがいろんな人の手元に届く日を心待ちにしていた。
取材・文=田辺ユウキ 撮影=田浦ボン

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