REPORT | 2023 World Music Festiv
al @ Taiwan日本からは一青窈も出演
。台湾の大型イベント『WMF@T』を通
して見えてきたもの 日本からは一青
窈も出演。台湾の大型イベント『WMF
@T』を通して見えてきたもの
Photo by Official
10月12日(木)から10月15日(日)にかけて、台湾で最大の野外ワールド・ミュージック・イベント『2023世界音樂節@臺灣(2023 World Music Festival @ Taiwan)』(以下、WMF@T)が台北で開催された。『WMF@T』は台湾の文化部で映画、ラジオ、テレビ、ポピュラー・ミュージックの発展に寄与する「影視及流行音樂產業局」が後援し、台湾の音楽レーベル〈Wind Music(風潮音樂)〉によってオーガナイズされている。
その作品はこれまでに“台湾のグラミー賞”とも言われる『金曲奨(Golden Melody Awards)』で58回の受賞を獲得。音楽、とりわけ民族音楽や伝統音楽の分野においては一家言を持つ〈Wind Music〉によってキュレーションされている『WMF@』は今年で7年目を迎えた。
しかし、今回は自身のソロ・パフォーマンスではなく、コラボレーション・ライブだ。しかも、相手はJ-POP歌手の一青窈。原住民音楽とJ-POPという組み合わせは興味をそそる一方で、難しさも想定される。音楽スタイルはもちろん、台湾と日本では言語や価値観、さらには業界の慣習も異なるし、それはプロジェクトの進行にも影響してくる。このような斬新な企画にはリスクも伴うし、とりわけ桑布伊のような伝統色の強いアーティストだと慎重になってもおかしくはない。それでも「やろう」と思った理由を尋ねると、「どんな挑戦も受け入れよ、というが私の部族のしきたりだからです。失敗しても構わない。大切なのはそこで得る経験なんです」と答えた。桑布伊にとって、伝統を守ることと修正することは矛盾しないのだという。なので、ロックやポップス、エレクトロニック・ミュージックなど、さまざまな音楽要素を取り入れることにも前向きで、音楽的に進化していくことを望んでいる。
桑布伊は実生活でもR&Bやレゲエなども好んで聴いているようだ。「雨には水、そして鳥には空が必要なように、人には音楽が必要です。観客と演者は平等ですし、みんなと感情を共有したいんです」と語る桑布伊に、ジャンルの話はそもそも野暮なのかもしれない。原住民は古来より歌唱をコミュニケーション手段のひとつとして捉え、“個人の技能”というよりは、“共有の文化遺産”として位置付けてきた。一青窈に対しても、“J-POP歌手の”といった先入観は持たず、純粋に“歌い手”としてリスペクトし、コラボレーションを楽しんでいるのがひしひしと伝わってきた。
台湾ジャズの“今”を体現した畫像五重奏(The Portrait Quintet)
台湾のジャズ・シーンは他のジャンルと比較するとまだ規模は小さいものの、活発なコミュニティーがある。台北のみならず、高雄や台南など南部の都市にもジャズを専門とするライブハウスができたり、ヒップホップやエレクトロニック・ミュージックのシーンともクロスオーバーしたりと、盛り上がりを見せているのは肌身で感じる。そんな台湾ジャズ・シーンから今年の演者として選ばれたのが畫像五重奏(The Portrait Quintet)だ。ジャズ・ヴァイブラフォン奏者の莊彥宇(Yen-Yu Chuang/チュアン・イェンユー)を中心に結成されたクインテット(5人編成)で、メンバー全員が欧州・アメリカで音楽を学んだ経験を持つ。今や台湾ジャズ・シーンの顔役とも言えるサックス奏者、謝明諺(Minyen Hsieh/シェ・ミンイェン/テリー)を筆頭に、気鋭のジャズ・ミュージシャンたちを擁する本ユニットは、明確なリーダーを置かず、オリジナル楽曲は莊彥宇と謝明諺、ピアニストの郭俊育(Kuo Chun-Yu/グオ・ジュンユー)の3人が作曲を担当。ジャズのスタンダードも織り交ぜたレパートリーで活動しており、体制としては“とても民主的”なのだと莊彥宇は言う。
伝統音楽・民族音楽の色が強いアーティストたちに囲まれての出演で、いくぶん浮いた存在の彼らだったが、メンバーたちに気負いはない。違和感はあるかと聞くと、莊彥宇は「ここからがワールド・ミュージックで、ここからがジャズです、といった明確な境界線はないと思います。音楽は音楽だし、美しいものは美しい」と答えた。そしてテリー(謝明諺)が「ワールド・ミュージックという言葉自体、“西洋以外の音楽”という意味が込められてますからね」と続け、「ジャズは元々フュージョン音楽であり、さまざまな音楽要素を吸収して成り立っています。我々の楽曲からもヨーロッパやアジア、アフリカ、南米などさまざまな地域の音楽性を垣間見ることができるはずです」と語った。今回演奏した楽曲の多くは郭俊育(ピアノ)による作曲で、ベルギーの民謡をアレンジした楽曲も含まれているとのことで、伝統音楽・民族音楽とも無縁というわけではない。
『WMF@T』総括 | 多民族国家・台湾で開催される意義
一連のインタビューを通して見えてきたのは、多くのアーティストたちがただ単に音楽を楽しんでいるのではなく、伝えたい想いや経験、価値観があり、音楽をその媒介とみなしている点だ。音楽の才能はもちろん、それを多くのリスナーにシェアする機会にも恵まれた彼らは、その影響力と伴う責任についても意識的である。“ワールド・ミュージック”を冠した本フェスだからこそ、自身の音楽の地域性や文化的アイデンティティについて意識的なアーティストが自ずと集まるし、台湾という多民族が共生し、複雑な歴史を持つ場所で行われることにも大きな意義があると感じた。
【イベント情報】
『2023 世界音樂節@臺灣 (2023 World Music Festival @ Taiwan)』
会場:台北流行音楽中心(Taipei Music Center)
出演:
一青窈 X 桑布伊 X 洪子龍(日本・台湾)
Ohelen X 葉穎(韓国・台湾)
ADG7(韓国)
Balaklava Blues(ウクライナ・カナダ)
Ida Elina(フィンランド)
Pipo Romero(スペイン)
Ohelen(韓国)
王若琳
王宏恩
探戈派對-Musa明馬丁
香氛派對-Cicada
無聲派對-泊人
漂流出口
朱頭皮的新臺語歌運動
葉穎的奇幻世界
油水藝術 X 陳崇青
三個人
謝皓成
Nani(ポルトガル)
Higher Rootz(アフリカ・アメリカ・イギリス・台湾)
裝咖人
畫像五重奏
菩花樂集181(台湾・日本)
震樂堂
戴曉君
打幫你樂團
跑跑機器人
A_Root同根生
自由擊
身聲擊樂團
紅鼻子馬戲團
重擊現實打擊樂團
踢踏電台
巴奇先生
南部鬧事團
春雨
23喜劇
■ 『世界音樂節@臺灣』 オフィシャル・サイト(http://wmftaiwan.com/2021/)
Text by Toshiyuki Seki(https://twitter.com/tsekimusic)
Photo by Official
10月12日(木)から10月15日(日)にかけて、台湾で最大の野外ワールド・ミュージック・イベント『2023世界音樂節@臺灣(2023 World Music Festival @ Taiwan)』(以下、WMF@T)が台北で開催された。『WMF@T』は台湾の文化部で映画、ラジオ、テレビ、ポピュラー・ミュージックの発展に寄与する「影視及流行音樂產業局」が後援し、台湾の音楽レーベル〈Wind Music(風潮音樂)〉によってオーガナイズされている。
その作品はこれまでに“台湾のグラミー賞”とも言われる『金曲奨(Golden Melody Awards)』で58回の受賞を獲得。音楽、とりわけ民族音楽や伝統音楽の分野においては一家言を持つ〈Wind Music〉によってキュレーションされている『WMF@』は今年で7年目を迎えた。
しかし、今回は自身のソロ・パフォーマンスではなく、コラボレーション・ライブだ。しかも、相手はJ-POP歌手の一青窈。原住民音楽とJ-POPという組み合わせは興味をそそる一方で、難しさも想定される。音楽スタイルはもちろん、台湾と日本では言語や価値観、さらには業界の慣習も異なるし、それはプロジェクトの進行にも影響してくる。このような斬新な企画にはリスクも伴うし、とりわけ桑布伊のような伝統色の強いアーティストだと慎重になってもおかしくはない。それでも「やろう」と思った理由を尋ねると、「どんな挑戦も受け入れよ、というが私の部族のしきたりだからです。失敗しても構わない。大切なのはそこで得る経験なんです」と答えた。桑布伊にとって、伝統を守ることと修正することは矛盾しないのだという。なので、ロックやポップス、エレクトロニック・ミュージックなど、さまざまな音楽要素を取り入れることにも前向きで、音楽的に進化していくことを望んでいる。
桑布伊は実生活でもR&Bやレゲエなども好んで聴いているようだ。「雨には水、そして鳥には空が必要なように、人には音楽が必要です。観客と演者は平等ですし、みんなと感情を共有したいんです」と語る桑布伊に、ジャンルの話はそもそも野暮なのかもしれない。原住民は古来より歌唱をコミュニケーション手段のひとつとして捉え、“個人の技能”というよりは、“共有の文化遺産”として位置付けてきた。一青窈に対しても、“J-POP歌手の”といった先入観は持たず、純粋に“歌い手”としてリスペクトし、コラボレーションを楽しんでいるのがひしひしと伝わってきた。
台湾ジャズの“今”を体現した畫像五重奏(The Portrait Quintet)
台湾のジャズ・シーンは他のジャンルと比較するとまだ規模は小さいものの、活発なコミュニティーがある。台北のみならず、高雄や台南など南部の都市にもジャズを専門とするライブハウスができたり、ヒップホップやエレクトロニック・ミュージックのシーンともクロスオーバーしたりと、盛り上がりを見せているのは肌身で感じる。そんな台湾ジャズ・シーンから今年の演者として選ばれたのが畫像五重奏(The Portrait Quintet)だ。ジャズ・ヴァイブラフォン奏者の莊彥宇(Yen-Yu Chuang/チュアン・イェンユー)を中心に結成されたクインテット(5人編成)で、メンバー全員が欧州・アメリカで音楽を学んだ経験を持つ。今や台湾ジャズ・シーンの顔役とも言えるサックス奏者、謝明諺(Minyen Hsieh/シェ・ミンイェン/テリー)を筆頭に、気鋭のジャズ・ミュージシャンたちを擁する本ユニットは、明確なリーダーを置かず、オリジナル楽曲は莊彥宇と謝明諺、ピアニストの郭俊育(Kuo Chun-Yu/グオ・ジュンユー)の3人が作曲を担当。ジャズのスタンダードも織り交ぜたレパートリーで活動しており、体制としては“とても民主的”なのだと莊彥宇は言う。
伝統音楽・民族音楽の色が強いアーティストたちに囲まれての出演で、いくぶん浮いた存在の彼らだったが、メンバーたちに気負いはない。違和感はあるかと聞くと、莊彥宇は「ここからがワールド・ミュージックで、ここからがジャズです、といった明確な境界線はないと思います。音楽は音楽だし、美しいものは美しい」と答えた。そしてテリー(謝明諺)が「ワールド・ミュージックという言葉自体、“西洋以外の音楽”という意味が込められてますからね」と続け、「ジャズは元々フュージョン音楽であり、さまざまな音楽要素を吸収して成り立っています。我々の楽曲からもヨーロッパやアジア、アフリカ、南米などさまざまな地域の音楽性を垣間見ることができるはずです」と語った。今回演奏した楽曲の多くは郭俊育(ピアノ)による作曲で、ベルギーの民謡をアレンジした楽曲も含まれているとのことで、伝統音楽・民族音楽とも無縁というわけではない。
『WMF@T』総括 | 多民族国家・台湾で開催される意義
一連のインタビューを通して見えてきたのは、多くのアーティストたちがただ単に音楽を楽しんでいるのではなく、伝えたい想いや経験、価値観があり、音楽をその媒介とみなしている点だ。音楽の才能はもちろん、それを多くのリスナーにシェアする機会にも恵まれた彼らは、その影響力と伴う責任についても意識的である。“ワールド・ミュージック”を冠した本フェスだからこそ、自身の音楽の地域性や文化的アイデンティティについて意識的なアーティストが自ずと集まるし、台湾という多民族が共生し、複雑な歴史を持つ場所で行われることにも大きな意義があると感じた。
【イベント情報】
『2023 世界音樂節@臺灣 (2023 World Music Festival @ Taiwan)』
会場:台北流行音楽中心(Taipei Music Center)
出演:
一青窈 X 桑布伊 X 洪子龍(日本・台湾)
Ohelen X 葉穎(韓国・台湾)
ADG7(韓国)
Balaklava Blues(ウクライナ・カナダ)
Ida Elina(フィンランド)
Pipo Romero(スペイン)
Ohelen(韓国)
王若琳
王宏恩
探戈派對-Musa明馬丁
香氛派對-Cicada
無聲派對-泊人
漂流出口
朱頭皮的新臺語歌運動
葉穎的奇幻世界
油水藝術 X 陳崇青
三個人
謝皓成
Nani(ポルトガル)
Higher Rootz(アフリカ・アメリカ・イギリス・台湾)
裝咖人
畫像五重奏
菩花樂集181(台湾・日本)
震樂堂
戴曉君
打幫你樂團
跑跑機器人
A_Root同根生
自由擊
身聲擊樂團
紅鼻子馬戲團
重擊現實打擊樂團
踢踏電台
巴奇先生
南部鬧事團
春雨
23喜劇
■ 『世界音樂節@臺灣』 オフィシャル・サイト(http://wmftaiwan.com/2021/)
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