声優がおくるドタバタ劇×朗読劇で歌
舞伎の台詞を堪能 『こえかぶ 朗読
で楽しむ歌舞伎 ~雪の夜道篇~』観
劇レポート

2023年10月7日(土)~10月9日(月祝)草月ホールにて『こえかぶ 朗読で楽しむ歌舞伎 ~雪の夜道篇~』が開催された。
古典歌舞伎の物語を人気声優陣が朗読劇で届ける公演として2022年10月に第一弾が開催され、今回が第二弾となる。12名の声優陣が日替わりで4名ずつ出演し、筆者が鑑賞した9日は立花慎之介、朴 璐美、平田広明吉野裕行が出演した。

1952年10月、人気番組「声で楽しむ歌舞伎 こえかぶ」の生放送が迫るラジオスタジオでは、台風の影響で出演者が誰も来ないという事態が発生していた。番組ディレクターの鈴木昌治(立花)は、俳優の黛寛太(吉野)と風吹蘭(朴)、アナウンサーの京本竹夫(平田)を無理やり連れてきて、この状況を乗り切ろうとするが……。
朗読劇を劇中劇とすることで、歌舞伎の演目だけでなく4名の声優が演じるドタバタ劇も楽しめる構図が、今作にさらなる広がりと面白さを加えている。生放送の裏を描いたいわゆるバックステージ物なので、朗読劇の最中にも様々なトラブルが発生して、それに対処する登場人物たちの必死さが大いに笑いを誘う。声優として活躍する面々が舞台上に立って芝居をするという貴重な姿を見られるのも嬉しい。
朴 璐美
立花は飄々とした佇まいで芝居全体に良いテンポを生み、朴は歌舞伎に複雑な思いを抱いているという役どころを深みのある芝居で見せ、吉野は豪快さの中にも繊細さを持ち合わせる柔軟な芝居で作品に華やかさを与え、平田はマイペースなキャラクターをコミカルに見せながら安定感のある演技で全体を支える。
(左から)吉野裕行、平田広明
朗読劇では2本の演目が上演された。1本は『雪暮夜入谷畦道(ゆきのゆうべいりやのあぜみち)』。今年没後130年を迎える狂言作者・河竹黙阿弥の代表作のひとつで、主人公が片岡直次郎であることから「直侍」という通称でも呼ばれる演目だ。追われる身となった小悪党の直次郎が、病に臥せっている恋人の三千歳に人目を忍んで会いにいくのだが……というお話で、入谷の蕎麦屋と三千歳が療養する寮を舞台に、2人の恋心とそれを取り巻く人間模様が描かれている。それを彩るのが、黙阿弥の特徴でもある七五調の美しい台詞の数々だ。まさに「声で楽しむ」にはうってつけの演目を、声優たちがさすがの力量で魅力たっぷりに聞かせる。直次郎を演じる黛(吉野)と、三千歳を演じる風吹(朴)の緊迫感あふれる掛け合いは圧巻だ。

(左から)吉野裕行、朴 璐美
もう1本は『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』。江戸時代に実際に起きた、赤穂浪士の吉良邸討ち入り事件を題材にした作品で、人形浄瑠璃を歌舞伎化した「三大丸本歌舞伎」のひとつに数えられる、全十一段に及ぶ壮大な名作だ。今回披露されたのは七段目「祇園一力茶屋の場」で、仇討ちの思いを隠して放蕩に明け暮れる大星由良之助、夫・勘平のために遊女に身を落としたおかる、おかるの兄で仇討ちに加わりたい平右衛門といった人々の思惑が交錯する一幕となっている。かつて「忠臣蔵」の映画に出演したことのある黛(吉野)が、七段目にいたるまでのあらすじをわかりやすく手短にまくしたてると、客席からも思わず拍手が沸き起こった。風吹(朴)は歌舞伎俳優である父との確執から父の当たり役であるおかる役を固辞して、配役が難航するも急にやる気を見せたアナウンサーの京本(平田)が由良之助、ディレクターの鈴木(立花)がおかるを演じることで落着するという脚本の流れがうまい。軽やかさを併せ持ちながらも圧倒的な存在感で由良之助を演じる平田と、女形へとスッと声を切り替える立花のテクニックが見事だ。
朴 璐美
吉野裕行
平田広明
立花慎之介

ラジオ局で起きた一夜のドタバタコメディを見ながら、同時に歌舞伎の物語も楽しめるという、一石二鳥ともいうべき作品だ。歌舞伎入門としてはもちろん、歌舞伎をよく見るという人にとっても、台詞に集中して楽しむことができる良い機会になるだろう。また、声を武器に様々な役柄を演じ分け、その情景までもが目に浮かぶような声優の巧みな表現力をじっくり味わえるのも贅沢だし、生の舞台で声優が何役も巧みに演じ分ける姿を見られるのも、裏側を覗いているような感覚で面白い。今回が第二弾ということで、今後もさらに発展した形でぜひ続いて行ってほしい企画公演である。
取材・文=久田絢子

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