日本を代表するレジェンドギタリスト
高中正義、生誕70年古希を祝うツアー
に何を想う

1971年にプロミュージシャンとしてのキャリアをスタート。1972年にサディスティック・ミカ・バンドにギタリストとして参加し、1976年にはソロ名義でデビューした高中正義。誰もが認める日本を代表するギタリストの1人であり、名盤『虹伝説』などを通じてギターインストの魅力を幅広い層に伝えた存在でもある彼が、今年も全国ツアー『高中正義 TAKANAKA SUPER LIVE 2023 ULTRASEVEN-T』で各地を巡る。生誕70年、古希を祝したツアーでもあるので、特別な内容の公演となること間違いなしだろう。今回のツアーに懸ける想いを本人に語ってもらった。
――今回の全国ツアーのテーマなどはあるんでしょうか?
70歳ですので今までの集大成というか。後半は激しい曲が多いんです。もうねえ、指が痛い! 指がへっこんでるの。肩も痛いし手も痛い(笑)。
――セットリストは、どのようになるんですか?
昔は自分で決めていたんだけど、ファンの意見を聞くと文句が目立つから(笑)。最近はスタッフにほとんど任せています。「ILLUSION」という曲があるんですけど、それを去年やったら、「迂闊にも「ILLUSION」で泣いてしまった」というファンの声がありました。それを読んだから「ILLUSION」は、今回もやろうと思っています。昔、「一緒にコンサートに来た人が「黒船」で泣いてた」っていうのもあって、おそらく学生の頃とかの思い出とかがあって泣いたんでしょうね。「黒船」は今回ももちろんやります。昔はカセットテープに好きな曲を入れて彼女を誘って湘南にドライブに行くとかあったんだろうけど、その彼女も聴かされている内にファンになったりしたのかもしれない。聴いてくれるありがたいファンのみなさんも学生時代があっただろうし、年齢を重ねて子供を連れてくる人もいますけど、また何かしらの曲が子供たちの懐かしい青春の1曲になるのかもしれない。
高中正義 (c)GEKKO
――ライブならではの楽しさは、どのようなところに感じていますか?
最初の頃は、ライブは嫌いだったのね。上手く行かないし。レコーディングはずるいというか、10回弾いて1個当たればそれをコピーすればいいわけで。まぐれで当たったやつを出せるんです。20代の僕が背伸びをしてやっとレコーディングできた曲をライブで同じように弾くには、すごい練習が必要なんですよね。なるべく昔と同じ感じで弾くようにしています。昔ヒットした曲をライブで崩して歌う人とかよくいるんですけど、僕はそうではなくて。もう何十年も経っているから細胞も全部変わって違う人になっているのかもしれないけど、なるべく思い出して同じようにやろうとは思っています。でも、「BLUE LAGOON」の最初のメロが始まった時のチューニングはちょっと合っていないのにレコードで出しちゃったもんだから……それは真似しないですけど(笑)。
――(笑)。高中さんのライブにはサーフボードをくりぬいてギターと合体させた通称「サーフギター」や、鉄道模型のジオラマを仕込んだギターなどが登場することがありますが、今回のツアーに関しては、何か考えていらっしゃることはありますか?
サーフボードのあれ、かっこいいの?
――1周回ってかっこいいような気もしなくもないです(笑)。
もう亡くなってしまいましたけど、加藤和彦さんにあのギターを見せたら、最初はびっくりしていたんですが、後半になった辺りから「それ、やめてくれる?」みたいなことをおっしゃって(笑)。加藤さんはすごくおしゃれな人で、車も洋服もお料理も全部そうでしたからね。電車が走るやつもあるんですけどね。でも、それをステージで弾いてもお客さんからは電車は見えない(笑)。
――(笑)。そういう特殊ギターも含めて、今回のツアーでお客さんに期待していただきたいことは何かありますか?
久しぶりに「伊豆甘夏納豆売り」というタイトルの曲をやろうと思っているんです。それはとても“日本の夏”という感じの曲なんですけど、日本の夏と言えば縁側、豚の蚊取り線香、風鈴、蝉、花火ですから、そういう日本的な雰囲気の曲も面白いと思うんですよね。20歳くらいから使っているストラトキャスターで弾きますけど。三味線とか弾いて欲しいですか?
――ギターでお願いします(笑)。愛用していらっしゃるエレキギターのフェンダー・ストラトキャスターは、20歳くらいからのメイン楽器なんですね。
はい。ネックは駄目になって交換して、残っているのは汚いボディだけなんです。
高中正義 (c)GEKKO
――高中さんの数々の名演を生んできたギターの雄姿を今もライブで観られるのは、とても嬉しいことです。高中さんのギターも、ファンにとって憧れの存在ですから。
“蟹伝説”というのがありまして。それはアルバムの『虹伝説』から来ているんですけど。僕がよくバハマに行っている頃に友達のワトソンさんが、「日本からファンの方がいらっしゃっていて、高中さんにお会いしたいそうです」っておっしゃったんです。「今忙しいから」って言ったら「手紙だけ置いていきます」と。その方は福井の水産業者さんで、「高中様に皇室献上用の越前ガニをプレゼントします」と手紙に書いてありました。その後、日本に帰ったら、当時住んでいた広尾のマンションに発泡スチロールの箱が5個くらい届きました。だからその時に使っていたギターのヤマハのSGをお礼として送っちゃったの。その方は喜んでいろんな人に見せているらしくて、ファンの中でそれは“蟹伝説”と呼ばれているそうです(笑)。
――(笑)。今回のツアーでも、各地で素敵な音が鳴り響くことになりますね。
ギターアンプは昔から使っているメサ・ブギーのレクティファイヤーがヘッドで、スピーカーはアルテックで、丸い音がするんです。それも今回使うんだけど、新しい機材も使います。最近の技術の進歩はすごいんですよ。とても小さいアンプなのに何十種類もの音が出て、そういうのも好きなんです。だから「この曲のこの部分はこっちを使う」という感じの半々になります。「ここだけは鋭いエディ・ヴァン・ヘイレンが使っていたような音」というようなことを聴き分けられたら面白いのかもしれないですね。まあ鋭い音が出たら新しい機材。丸い音が出たら古い機材ということだと思います。エレキギターって卑怯な楽器で、いろんなところにお金をかける人もいるんです(笑)。結局弾くのは人間の心なんだけど、機械の力を借りることもできるんですよね。
――ツアーは9⽉18⽇の群⾺・太⽥市新⽥⽂化会館から始まりますが、追加公演の12⽉29⽇・東京・Zepp Hanedaも発表されましたね。
20年前は東京と大阪でしかできなかったんです。素晴らしいスタッフさんと素晴らしいバンドメンバーに支えられて、なんか人気が出てきたみたいで(笑)。いろんな場所でコンサートができるのは嬉しいことです。
――9⽉30⽇は、東京・⽇⽐⾕野外⼤⾳楽堂ですね。
野音は100周年なんだってね。僕が高2か高3の時の頃にアマチュアバンドとかが出る野音の『10円コンサート』があって、フラワー・トラベリン・バンドが演奏しているところにヘルメットを被った人が乱入してきたことがありました(笑)。ジョー山中は元ボクサーだから「強えなあー!」ってなったのを覚えています。
――野音のような歴史のある会場から、新しいZepp Hanedaまでを回るツアーですね。
Zepp Hanedaは、今回が初めてなんです。
――ツアーに向けて、何か心がけることとかはあるんですか?
お酒を控えます。放っておくとすごく飲んじゃう人なので(笑)。お酒を飲むと指も口も動かなくなっちゃうから、しばらくやめないといけないんですよね。コンサートは3回、4回とやっていくと慣れちゃうから、そうしたら飲んでもいいんだけど。
高中正義 (c)GEKKO
――お客さんに声を出していただくことができるツアーにもなりますね。
お客さんの野次でよく覚えているのは「竹中!」っていうので、2000人くらいがどっと笑ったんです。俺は高中なのに意味がわからない(笑)。高中って珍しい名前だから銀行とかでも「竹中様」とか言われることがあるんですよ。そういう間違いとして笑いが起こったのか? あるいは竹中尚人、Charをもじってわざとそう言ったのか? どっちなんだろうね。とにかく、ファンの人が大きな声を出してくれるのは面白いっていうか。なんか言いたいんでしょうね。演奏を聴くだけじゃなくて、参加したいということなのかもしれない。
――70歳の節目のツアーとなりますが、81歳のポール・マッカートニーもまだまだ元気に活動していますよね。高中さんは70代、80代の活動に関してどのようなことをイメージされていますか?
20代、30代の頃は「B.B.キングみたいにおっさんになってもギターを弾いてたいなあ」って言っていましたけど、そんな僕がもうおっさんどころかじじいになっているわけだから、どうなんでしょう? 20歳になった時は年齢についてすごい考えたけど、そういうのはだんだんどうでもよくなってきていて。好きな音楽でご飯を食べていけるのは本当に幸せだし、好きな音を出してそれを喜んでくれるファンの方々がいてっていうのは、ずっとやりたいですよね。
――我々も高中さんのプレイをこれからもずっと聴いていたいです。自由に歌うようなあのギターの音は、本当に痺れますから。
なんか飲む?
――お酒を飲みながらお話をしたいところですが(笑)。
僕の知り合いに「ミュージシャンはどぶにはまって死ね」っていうやつがいるんです。そいつは怖い軍人の孫かなにかで。吉田拓郎が「健康に気を使って」とかいう話をしたら、「冗談じゃねえ! ミュージシャンはどぶにはまって死ね!」って(笑)。でも、身体が資本だから僕も運動をして、歩いて、自転車に乗って、筋トレをして、ストレッチをして……っていうのをやっているんです。だからどぶにははまらないと思うんだけど。ポール・マッカートニー、すごいよね。ポールは菜食主義なのに、六本木のステーキハウスに行くらしくて、赤ワインを飲んで顔がマッカートニー(笑)。

取材・文=田中大

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